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第8回:ネガティブ・ケイパビリティ 「わからない」を認める大切さ

第8回:ネガティブ・ケイパビリティ 「わからない」を認める大切さ

2026.04.30山中 真弓(活水女子大学看護学部 学部長)

 連載第1回で「解らないと言うこと、解りたいと伝えること」を書かせていただきました。私は、おかげさまで職位が上がってもSOSが出しやすい環境にいるので、わからないことは周囲に聞き、いろいろな人に助けていただきながら責務を果たしている日々です。自分が「わからない」のだと認めることは、自分の無力さや自信のなさを認めることであり、わからない自分を他者がどう評価するのかが気になります。しかし、自分の弱さをさらけ出したり、自分自身を認められるようになると、周囲の評価があまり気にならなくなります。この原稿を書いていることも、自分自身をさらけ出していることの一つです。しかし、それを周囲に強要することはできません。日々の業務の中で、「あの人、SOSを出したらいいのに」とか、「わかっていなさそうに見えるけど、できますと言っちゃうんだ」とか、心配する日々です。

他者が「わからない」に気づき、認めるための声掛けとは

 「わかっていなさそうに見える人」が職場にいたら、どのように働きかければよいでしょうか? 対処法は、自分と相手の立場によっても変わるかもしれません。
 たとえば、私より職位が上の人から、私へ「この課題に取り組まないといけないから、この枠組みで対策をまとめて」という指示が出されたとします。そして、私は「その考え方ではこの課題の解決には至らないんだけどなあ」と考えたとします。そういうときは、まず「この課題は、こういう考え方や整理の仕方のほうがまとまりやすいと思いますが、そのようにしてもいいでしょうか?」などと伝え、了解を得るようにします。これで了解が得られれば、部下の考えを受け入れられる人だと捉えられます。しかし、拒否され、「とにかくこれでやってください」と言われた場合は、指示通りに動き、成果が出ない、もしくは失敗するという結果を得て、「次はこのようにしませんか」と提案する必要があります。当然時間がかかりますし、強いストレスを感じます。このような人が管理者である場合、残念ながら組織は崩壊していきます。

 では、部下の場合はどうでしょう。このケースでは、上司から「自分は何がわかっていないのか」を知ってもらうために働きかけ、それをうまく表現することを促していくことがいいのではないかと思います。「今度この教育方法を取り入れるから、この研修に行ってみたら」とか、「一緒に研修に行こうか」とか、「この本読んでみたら」など、部下が「わからないこと」に気づくきっかけを与えるような促しです。そのあと、どのように思ったかを振り返ってもらうと、自分は何がわからなかったのか表現してくれることが多いです。

モヤモヤした状況に耐える「ネガティブ・ケイパビリティ」

 自分が「わからないこと」には、明確な答えや結論があるとは限りません。その場合は、「わからない」を認めると、もやもやと不快な感覚を持つことになります。自分の「わからない」を認めることは勇気が必要なことなのかもしれません。そして、「わからない」を認めることで、ここでいう不快な感覚、すなわち不確実性に耐える力(ネガティブ・ケイパビリティ)が必要になってきます。
 ネガティブ・ケイパビリティとは、答えの出ない事態や曖昧な状況に対し、拙速に解決を急がず、そのもやもやした状態に留まれる能力のことです。19世紀の詩人ジョン・キーツが提唱した概念ですが、予測不能な現代において、不安を抱えながらも冷静さを保ち、新たな視点や創造性を引き出すために重要な心理的スキルと言われています。医療や教育の現場では、答えの出ない患者や子どもたちの深い悩みに共感的に向き合い、焦って解決策を提示しない姿勢が大事です。

 私は元来せっかちのため、このもやもやとした不快な感覚が苦手でした。過去の私は、この感覚をなんとかしたいと思い、学生の気になる行動をみるとすぐ面談していました。また、周囲の教職員の気になる行動をみたら追及していました。しかし反応はいまいちで、もやもやの解決には導けず、彼らにも嫌がられていたように思います。今考えると、これは自分の不快感をなんとかしたいという自己中心的な行為だったと思います。現在でもときどきこの傾向が顔を出すので、そのたびに自分に待ったをかけています。どのように待ったをかけるかというと「不確実性に耐える力(ネガティブ・ケイパビリティ)がなくなっているよ」とか「もやもやの不快感に耐えよう」と自分に言い聞かせて、自分に待ったをかけています。ネガティブ・ケイパビリティは、まさしくせっかちな私に必要な能力です。

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 新年度が始まり、新入生の様子を見ていると、高校でパソコンを使った授業を受けていると思っていたのですが、シャットダウンができず驚きました。指導している職員が「わからないの!?」と怒っていましたが、冷静に考えてみると、学生は高校ではタブレットを使っており、個人のスマートフォンを持っています。タブレットやスマホとパソコンではシャットダウンの仕方が違います。世代の違いにより、それぞれの環境にどのようなものがあるか、それをどのように使っているかが違ってきていると感じます。そのような現代ですから、とくに自分自身と同年代の方々には、共感的な対応を可能にする「前向きな力」をともに身につけましょうとお伝えしたいです。また、何かコツがあったら私にもぜひ教えていただきたいとも思います。

山中 真弓

活水女子大学看護学部 学部長

やまなか・まゆみ/国立療養所再春荘病院附属看護学校卒業。国立病院再春荘病院に勤務後、教員となり、その傍ら熊本学園大学社会福祉学部を卒業。厚生労働省幹部看護教員養成講習会を修了し、国立病院機構附属看護学校の教育主事や副学校長。その傍ら福岡大学大学院人文科学研究科教育・臨床心理専攻修了(教育学修士)。厚生労働省九州厚生局でも勤務。2025年4月より現職。休日の楽しみは娘とのショッピングやアニメ鑑賞。

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