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第15回:専門職連携と多職種連携~辺境警備隊の夏至祭

第15回:専門職連携と多職種連携~辺境警備隊の夏至祭

2023.06.23酒井 郁子(千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター センター長・教授)

 梅雨に入りじめじめとした天気が続きまして、カピバラの剛毛もぼわっと爆発気味でしたが、今は毛づくろいをして、爪も磨いたりしてこざっぱりとしたでござる。さて、6月といえば夏至ですね。北欧など緯度の高い地域は、この夏至の季節を待ちわびて祝祭をします。これが夏至祭といわれるものです。カピバラも先日、4年ぶりの現地開催となった日本老年看護学会第28回学術集会で、喜びに満ちた時空間を参加者の皆さんと共有しました。まさに辺境警備隊の祝祭でござった。ということで、今回は専門職連携と多職種連携の話をしたいと思います。

職業の名前を正確に呼ぶことの難しさと大切さ

 みなさんの周りに、「かんごふさん」とついつい言ってしまう医療従事者(年配に多い)や、「いしゃ(否定的な文脈で使われる)」「おいしゃさん(肯定的な文脈で使われる)」と医師を医師と言わないで話を進める医療従事者がいたりしませんか?
 ちなみに、大学1年生くらいだと医療系の学生でも正式な呼称を使うということが難しいらしく、「いしゃ」「なーす」と言ったり、理学療法士、作業療法士までは何とか言えても、言語聴覚士、視能訓練士になるとぐるぐるしてきたりとか、診療放射線技師、臨床工学技士にいたっては、途中で口をつぐむ様子も散見されます。
 個人が従事する仕事の名称である職業名を正確に言うことは、難しいものです。自職種の名称をちゃんと言えるのは当然かもしれませんが、他の職種の名称は、なんかうろ覚えになってしまいますね。この「うろ覚え」の状態って実は他の職種への敬意の不足ととらえられる可能性があります。同僚の職業名を正確に呼称すること、これが他の職種への関心の第一歩といえるのかなといつも思っています。だって、職業名は時代とともに変更され続けているし、いろんな意味を背負って名前が付けられているわけですから。同僚への関心がなければ自分のあいまいな記憶を確認することなしに、「いしゃ」と言ったり「かんごふさん」と言ったり、「りはびりのせんせい」と言ったりしちゃうことになる。

職業の名称と分類

 国際標準職業分類(International Standard Classification of Occupations:ISCO)というものがあって、これは国際労働機関(International Labor Organization:ILO)が定めた労働と職業に関する分類です。現在は2008年公表の第4版(ISCO-08)が最新版となっています。この分類の2が「Professionals」で、「専門職」と訳されています(これをもとにつくられている日本標準職業分類では「専門的・技術的職業従事者」となっています)。この専門職の中には21「科学・工学分野」、22「保健」、23「教育」、24「経営管理」、25「情報通信技術」、26「法務・社会・文化」の6つの下位分類があり、看護・助産は22「保健」内に分類されています。
 さてこの分類表を見ていると、分類ごとに「その他」が設定されているんですね。分類表を作成した時点で、名称が固まっていないけど確かにその仕事は存在しておりその仕事に従事する人がいる、人数は少ないけど、といった事情で「その他」に組み込まれる職業があり、社会の要請に応じて新たに出現し続けているのが、現代の職業の様相ということになると思います。

チーム医療教育へのアンチテーゼとしての IPE

 名前はそのもの・ことの性質を表しています。だから IPE(Interprofessional Education)を日本語で表現するとき、表現者の価値や背景が現れるのです。
 現在ではさまざまな医療系の資格取得前教育でモデル・コア・カリキュラムを作成・導入しています。その中で「IPE的」な学習がどのように呼称されているのかを対比させて見てみると大変に興味深い。医学部、歯学部では「チーム医療」という用語を使用しています。薬学部、看護系大学は「多職種連携」という用語を使用しています。こんな事情から、本学の亥鼻 IPE 科目の単位認定をする際には、学部ごとに科目名が違うという状態が生じています。だけど学内外では「亥鼻 IPE」で統一して表現しています。そして IPE を「専門職連携教育」と呼称しています。その理由は後述します。
 チーム医療という用語は日本独特のもので(だって英語に訳せないし)、1970年代から使われ始めました。私見ですが、1970年代は、日本社会が医療の高度化と高齢化のスタートラインに立った時です。それまでの「医師主導」の、医師が医療従事者のヒエラルキーの頂点として存在し、他の医療従事者は医師の手足として存在するという医療提供のありようでは、対応が難しくなると考えたどこかの人、っていうか厚生省(当時)が「チーム医療」という用語をつくりました。医師以外の専門職と「チーム」として働こうよ、でもチームリーダーは医師ね、という話です。ですから、「チーム医療」という言葉の奥には、いまだに「医師と医師以外の医療従事者の仕事の分担もしくは委譲」という概念が潜んでいます。モデル・コア・カリキュラムで医学部と歯学部が「チーム医療」という用語を使っていることは、そのような意味で大変に興味深いです。
 IPE にはこのような「チーム医療」教育へのアンチテーゼが込められています。共に学ぶことから生まれる自職種と他の職種の役割への気づき、ステレオタイプの意識化、他の職種への敬意、相互の知識や技術を活用し信頼しあうという意味での相互依存性、二重のアイデンティティの形成が学習到達目標として掲げられ1)、ヒエラルキーをできる限り崩していくことで、診療ケアの質を向上させ、患者・利用者・家族・地域の健康アウトカムを向上させることが IPE の目的となっています。チーム医療教育と IPE のこのような思想的な違いを説明できるようになると、IPE 担当者として経験値60くらい、攻撃でも守備でも強力な魔法を覚えた段階、って感じがします。

同僚を「パラメディカル」「コメディカル」と呼ぶのは、ちょっとどうなのかな?

 2000年代初頭から日本で使用されていた「パラメディカル」という造語は、国際標準職業分類では224「Paramedical Practitioner」をおおざっぱに指していたと思われる造語のようです。paraには側面とか補強という意味がありますから、医師を側面から補強する実践者、という意味になります。また「コメディカル(co-medical)」という用語の「co」は「共に」という意味を持つ接頭語であり、「医師と共に医療に携わる」という意味になります。どっちにしろ、医師と医師以外の専門職との二分であり、多数ある専門職のどの職業のことを示すのか不明な通用語です。さすがに昨今はパラメディカル(医師を補助する)と言う人は少ないようですね。それと「パラメディック Paramedic ― 救急救命士」という職業が生まれましたから混乱しますしね。
 つまり、パラメディカルやコメディカルという用語は、「チーム医療」の文脈で医師以外の専門職をひとくくりにして表現する時に便利に使われてきた言葉なんです。

 ところで、2010年のWHOの報告書2)では、IPCP(Interprofessional Collaborative Practice)能力の獲得を目指した学習目標を6つ出しています。〈チームワーク〉〈役割と責任〉〈コミュニケーション〉〈学習とリフレクション〉〈ニーズの把握を伴う患者との関係〉〈倫理的実践〉です。〈役割と責任〉を学習する際の要点として、自職種の役割と責任、専門知識の理解とともに、他の違うタイプの職種の役割と責任、専門知識を理解することが明示されています。これはすべての健康関連専門職にかかわります。他の専門職と共に働く(IPCP)時、その職業の教育背景、資格、法律で定められた業務、職業の限界と規制、職業特有の倫理と社会的役割という基本的な事柄を理解するとともに、同僚の職業人としての個人の理解、すなわちこれまでのその人の Journey、保有する専門知識と実践能力、その人の価値観と信念、これからの職業的な志望・希望を理解することが求められます。またここで重要なことは自分で勝手に同僚の職業を理解するのではなく、自分の理解を同僚に確認し、常に理解を更新することです。
 もう一つ、〈倫理的実践〉という学習目標もポイントです。この倫理は同僚への倫理を意味しており、その内容は、自分の職種および他の職種に対してのステレオタイプに気づくことと、同僚の意見と見解は等しく有効で重要であることを認めることとされています。つまり、患者のそばにいる時間の長短、基礎教育年限の長短、社会的地位の高低などにかかわらず、すべての専門職は患者・利用者・家族・地域に必要だから存在しており、専門職によって意見や見解に重い/軽いはないよ、と言っているのですね。IPEはこの理解と実践が基盤となります。

“多職種”連携なのか、“専門職”連携なのか

 “専門職”連携なのか、“多職種”連携なのか、という呼称の問題は、Professional を専門職と訳すのか、職業と訳すのか、という単純な問題でもあるのですが、けっこう奥が深い話題です。カピバラのところでは、「専門職連携」と訳して使用しています。すべての職業には資格があろうとなかろうと、実践するうえでの専門的な知識とスキルとそれを支える価値があるだろう、という前提で使っているからです。一方「多職種連携」という用語を使う時には、資格を保有する専門職とそうではない職種とが協働する時に、すべての職業を専門職とは言えないから、多職種連携とする、という意味があるように思います。専門職をより厳密にとらえているわけですね。どちらでもよいように思いますが、なぜこの用語を使うのかを IPE にかかわる人たちが合意して意味をもって使うことが肝要なことだと思います。
 そして今、世界の流れは、多職種連携にしろ、専門職連携にしろ、この用語には患者・利用者・家族・地域といった当事者が入っていないじゃないか、というのが課題となっています。今も用語は動き続けており、カナダの IPE 拠点であるトロント大学の IPE センターは昨年、名称を「Centre for Advancing Collaborative Health Care & Education(CACHE)」と変更しました。IPEの理念はそのままにさらに概念が拡大したことを実感させられる出来事でした。

辺境警備隊としての専門職連携ファシリテーター

 専門職連携を推進する人(ファシリテーター)は「辺境警備隊」です。辺境すなわち自職種の中央から遠く離れてそのボーダーを見回り、起きているいろんな出来事の意味をよく考え、記録し、ボーダーを挟んで対立する種族の調整を行い、連携協働という世界を一つにしていくための地道な活動をするみたいな感じです。辺境警備に必要なのは、自分の職種縛りから解放され徹底的に中立であること、組織・地域の利益を越えること、他の文化(他職種の保有する価値や慣習)に積極的にかかわる外交能力、目の前の専門職の個人的な Journey に関心を寄せること、目の前の住民(患者・利用者・家族など)の健康アウトカムの向上のために力を尽くすこと、連携と協働の状態をメタ認知することなどではないかと思います。その意味で、よく「チーム医療推進」のために言われる「チーム医療のかなめは看護師」という言説はちょっとどうなのかなとカピバラは思います。特定の職種が連携と協働を推進しましょうというのは、他の職種は“主体的にかかわらなくていいよ”という裏メッセージを伴うからです。
 すべての専門職はどの職種であっても、患者・利用者・家族・地域のため自分の仕事を完遂しようとする時には、必要となる連携と協働をすべきであり、そのファシリテーターとしての辺境警備隊は中立的でなければいけないと思います。専門職としての自職種の価値に基づいての行動と辺境警備隊としての行動とを、状況に合わせてスイッチできるようになると、経験値90くらいの、ラスボスと戦える二重のアイデンティティが統合された勇者となるのではないかしら。

 
引用文献
1)山本武志:IPEの歴史と発展.これからのIPE(専門職連携教育)ガイドブック(酒井郁子,井出成美,朝比奈真由美 編),p.188,南江堂,2023
2)Publications of the World Health Organization:Health Professions Networks;Nursing & Midwifery Human Resources for Health.Framework for Action on Interprofessional Education & Collaborative Practice,p.26,2010
 
書誌情報はこちらから→https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524234677/

 

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酒井 郁子

千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター センター長・教授

さかい・いくこ/千葉大学看護学部卒業後、千葉県千葉リハビリテーションセンター看護師、千葉県立衛生短期大学助手を経て、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。川崎市立看護短期大学助教授から、2000年に千葉大学大学院看護学研究科助教授、2007年同独立専攻看護システム管理学教授、2015年専門職連携教育研究センター センター長、2021年より高度実践看護学・特定看護学プログラムの担当となる。日本看護系学会協議会理事、看保連理事、日本保健医療福祉連携教育学会副理事長などを兼務。著書は『看護学テキストNiCEリハビリテーション看護』[編集]など多数。趣味は、読書、韓流、ジェフ千葉の応援、料理。

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