看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

第8回『薬の神じゃない!』

第8回『薬の神じゃない!』

2024.01.31NurSHARE編集部

 本コラムは、みなさまの休日のおともにおすすめしたい映画作品をご紹介するミニ連載。笑って、泣けて、考えさせられて……医療に通ずるテーマや描写を含む作品を中心に、往年の名作から最新作まで、NurSHARE編集部の映画好き部員がお届けします。
※本文中で作品の重要な部分に触れている場合があります。

『薬の神じゃない!』(ウェン・ムーイエ監督/シュー・ジェン主演,中国,2018)

[映画.com:薬の神じゃない!.作品情報,〔https://eiga.com/movie/92582/〕(最終確認:2024年1月18日)より引用]

作品のあらすじ

 上海の下町でインド製の滋養強壮剤を売るチョン・ヨンは、家賃も払えず別れた妻とは裁判沙汰の真っ最中。悲惨な日々を過ごしていたある時、知人からリュ・ショウイーという人物を紹介されます。慢性骨髄性白血病を患うリュは、国内で認可が下りている薬が高価すぎるためにまともな治療を受けられず、同一成分ではるかに安価な非認可医薬品をインドから密輸してほしいと頼みに来たのでした。
 薬の密輸は重い罪に問われるため、チョンは当初密輸を断ります。しかし、滞納が続く家賃に加えて父親の医療費も必要になり、お金に目がくらんだ彼は非認可医薬品の密輸販売をすることに。リュと同じように困っている当事者や支援者も密輸に協力し、たくさんの患者が薬を安価に買えるようになった一方、チョンたちは莫大な利益を得ます。しかし、彼らは次第に警察から目をつけられるようになり、さらにはチョンたちを陥れて効果のない薬を患者に売りつけようとする詐欺師も現れます。彼らの密輸ビジネスは、いったいどうなっていくのでしょうか……

高価すぎる治療薬に手が出せない患者たち    

 実際に起きた事件をモチーフとし、コメディタッチでくすっと笑えるシーンを盛り込みながらも中国国内の医療問題に深く切り込んだ作品です。実際、中国におけるがんの治療費は高額であり、金銭面から治療が難しい患者は少なくなかったといいます。
 逮捕のリスクを恐れたチョンは、一度は詐欺師に言いくるめられて薬の販路を譲ってしまい、それに幻滅した協力者たちは彼の元を去っていきます。普通のビジネスを始めたことで生活には平穏が訪れたものの、次第に白血病患者を見捨てたという良心の呵責に苛まれるようになっていくチョン。さらに、かつての仲間であるリュが亡くなります。詐欺師の密輸は失敗に終わり、再び高価な認可薬に頼らざるを得なくなったリュは、将来を悲観して家族をこれ以上巻き込みたくないと自ら命を絶ったのでした。

 貧しい白血病患者は死ぬしかない、という現状に触れ、チョンの気持ちには変化が現れていました。リュの死をきっかけに、貧しい患者たちの状況を改めて認識したことで、チョンは儲けを度外視して密売を再開します。捜査の手が迫る中、チョンはますます精力的に非認可医薬品を安価で売るようになり、最終的には逮捕、起訴されます。懲役5年の判決を受けて裁判所を後にするチョンは、彼に感謝の気持ちを伝えようと集まったたくさんの白血病患者たちに見送られながら、護送車に乗って刑務所へと向かうのでした。

天秤にかかる”命”と”お金”

 チョンたちの行いは間違いなく中国の法に触れることです。しかし、高価な認可薬への支払いによって家を失い、家族を巻き込んで苦しい生活を続けなければならなかった患者たちが、彼らの密輸によって命を救われているのもまた事実です。
 「巷に出回る偽薬を取り締まるように」との命で捜査にあたっていた警察官もまた、「国が認めていないだけで効果がある医薬品は“偽薬”なのか」と疑問を抱いたり、認可薬が買えず苦しむ患者を目の当たりにして「本当の正義とは何か」と深く悩み、次第に捜査から身を引こうと考えるようになっていきます。必要な医療の受けられることの大切さ、人が人らしくあるためにはそれが当たり前であらねばならないことを、ストーリーを通して痛感しました。

 物語の最後、本作のモチーフとなった事件を通して実際の中国における医療制度が改善されていく過程や、白血病の生存率が大きく向上したことが紹介されます。その中でようやく、本作において “偽薬”ではなく“ジェネリック医薬品”という言葉が登場します。チョンたちのような者の行動をきっかけにジェネリック医薬品が認められたかのようなエンディングの演出に、なんだか粋なはからいを感じました。

NurSHARE編集部

とあるNurSHARE編集部員。看護学生向けテキストの編集業務もしています。業務に奮闘する毎日、自らの不出来さに枕を涙で濡らす夜もあるけれど、映画鑑賞とJリーグ観戦で即復活して明日へのエネルギーを充電できるお手軽(?)仕様。人生のベストワン作品は『レイジング・ブル』(マーティン・スコセッシ監督/ロバート・デ・ニーロ主演、アメリカ、1980)。

企画連載

スクラブとポップコーンとキネマ

みなさまの休日のおともにおすすめしたい映画作品をご紹介するミニ連載。笑って、泣けて、考えさせられて……医療に通ずるテーマや描写を含む作品を中心に、往年の名作から最新作まで、NurSHARE編集部の映画好き部員がお届けします。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。