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第16回『スーパーサイズ・ミー』

第16回『スーパーサイズ・ミー』

2025.09.02NurSHARE編集部

 本コラムは、みなさまの休日のおともにおすすめしたい映画作品をご紹介するミニ連載。笑って、泣けて、考えさせられて……医療に通ずるテーマや描写を含む作品を中心に、往年の名作から最新作まで、NurSHARE編集部の映画好き部員がお届けします。
※本文中で作品の重要な部分に触れている場合があります。

第16回『スーパーサイズ・ミー』(モーガン・スパーロック監督/同主演,アメリカ合作,2004)

[映画.com:スーパーサイズ・ミー.作品情報,〔https://eiga.com/movie/1185/〕(最終確認:2025年8月20日)より引用]

作品のあらすじ

 肥満が国民病とされた2000年代のアメリカを舞台としたドキュメンタリー。始まりは、10代の少女2人が自らの肥満の原因はファストフードチェーン「マクドナルド」にあるとして訴訟を起こしたことでした。同社が肥満の直接的な原因であることは立証できないとして訴えは退けられたものの、マクドナルドの商品を毎食食べ続けると健康に著しい危険をもたらすことを原告側が証明できれば、再提訴は可能とされました。
 それを知った映像ディレクターのモーガンは「1日3食、マクドナルドのものだけを1ヵ月食べ続けたらどうなるのか」という実験に挑戦します。実験前のメディカルチェックでは健康的と診断された彼は、「水を含めた全ての食品をマクドナルドで摂取する」「3食欠かさず食べる」「全ての商品を一通り1回は食べる」「スーパーサイズ(特大メニュー)を店員から勧められたら断らない」「1日の歩数は国民平均である5,000歩以下にする」というルールまで課して、徹底的に取り組むのでした。

「3食マクドナルド生活」で何が起こる?

 実験初日こそ「子どもの頃の夢が叶った」と喜んだモーガンですが、2日目に挑戦したスーパーサイズのセットを食べきれず嘔吐してしまいます。「スーパーサイズ」とは、2000年代当時存在した、わずかな追加料金でセットのポテトとドリンクを通常の約3倍に増量できるオプション。モーガンの体はこのとんでもない量に耐えきれなかったのです。しかし慣れとは恐ろしく、彼はやがてスーパーサイズも平らげるようになり、周囲の制止を振り切って食べ続けます。5日目のメディカルチェックでは、1日に5,000キロカロリー以上を摂取していることが明らかになりました。
 半月が過ぎる頃にはモーガンから快活さが消え、集中力や思考能力が著しく低下します。イライラしたときに手に取るのは、マクドナルドのバーガー。食べるとなぜか気分が楽になるのです。その中毒性を、彼は身をもって示しました。
 実験終了直後、モーガンの体重は14キロ、体脂肪率は11%も増加していました。頭痛や無気力、目の奥の痛みといった自覚症状が現れ、肝臓は肥大、コレステロール値も急上昇し、心不全のリスクが高まっています。わずか1ヵ月で「スーパーサイズ」と化したモーガンは、医師やパートナーの協力も得て体を元に戻すのに1年以上を費やしたのでした。

アメリカの子どもたちの食生活と資本

 実験と並行して取材を進めるモーガンは、ファストフードが子どもたちの生活に深く入り込んでいることを知ります。キャッチーな看板、店舗の遊具、おもちゃ付きのセットやキャラクターが子どもを惹きつけます。衝撃的なのは、小学1年生の子どもたちに顔写真や人の絵を何枚か見せ、それが誰か答えてもらう場面です。彼らは大統領やキリストはわからなくても、ウェンディーズやマクドナルドのキャラクターは正答します。一部のファストフード店は子どもたちにとって強い惹起力をもつゆえに、食生活に強い影響を及ぼしかねないのです。
 「肥満を減らすには、子どもたちの食生活を変えなければならない」と気づいたモーガンは、学校給食を調査します。ポテトチップスやチョコレートバーなど不健康な食事が日常化している学校がある一方、健康食を取り入れたことで生徒の非行が減り集中力が増したという学校もありました。しかし、学校にファストフードを卸す企業が莫大な利益を得ているため、後者の取り組みは企業からの反発を受け、なかなか普及しなかったようです。

* * *

 2004年制作とやや古い映画ではありますが、モーガンの調査や、自身を実験台にした挑戦は、ファストフードのリスクの可能性だけではなく、その隆盛を支える巨大資本や社会構造を浮き彫りにしました。「何を食べるか」は一見、個人の意思で決められているように見えますが、はたして本当にそうなのでしょうか。

NurSHARE編集部

とあるNurSHARE編集部員。看護学生向けテキストの編集業務もしています。業務に奮闘する毎日、自らの不出来さに枕を涙で濡らす夜もあるけれど、映画鑑賞とJリーグ観戦で即復活して明日へのエネルギーを充電できるお手軽(?)仕様。人生のベストワン作品は『レイジング・ブル』(マーティン・スコセッシ監督/ロバート・デ・ニーロ主演、アメリカ、1980)。

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