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青森県立保健大学看護学科「地域定着枠(キャリア形成支援枠)」の取り組み

青森県立保健大学看護学科「地域定着枠(キャリア形成支援枠)」の取り組み

2023.12.20藤本 幸男(公立大学法人青森県立保健大学看護学科 特任教授/学長特別補佐(地域定着推進担当))

 看護師国家試験に合格し、卒業した学生たちに、どうやったらそのまま地域で就職し定着してもらえるのか。多くの看護学校・大学にとって共通の課題ではないでしょうか。以前より、医師の偏在の課題に対しては、入試において、地域特別枠などの地域枠を設け、特定の県で一定期間就業すること等を条件とした修学資金の貸与・返済免除の仕組みを実施してきた医学部医学科が多くあります。
 青森県立保健大学看護学科における「地域定着枠(キャリア形成支援枠)」も、医学科の地域枠と同じような仕組みかと思ったところ、どうやら医学科でよくある地域枠とは少々異なる枠組みのようです。では、どうやって地域に定着してもらうのでしょうか。そこで本制度の導入に奔走してきた同学の藤本幸男先生に、本制度についてご寄稿いただきました。(NurSHARE編集部)

 

1.地域定着枠(キャリア形成支援枠)の概要

 公立大学法人青森県立保健大学(以下「本学」という)では、2021年度入学試験から、看護学科の学校推薦型選抜入試に「地域定着枠(キャリア形成支援枠)」(募集人員:青森県内者5名)(以下「地域定着枠」という)を設置しています。
 地域定着枠は、青森県の高齢化の一層の進展による地域医療の課題を見すえ、本学と地域の病院が連携・協力・支援して、これからの地域に求められる、地域包括ケアを推進する看護職を育成することを目的としています。
 具体的には、地域定着枠で入学した学生を対象に、各地域の中核病院等が、連携する病院等とともに作成したキャリアサポートプログラム(各地域の特徴・課題を踏まえ、その地域に求められる看護職を育成するプログラム)に基づき、急性期の病院(中核病院・その他の急性期の病院)を拠点として、回復期の中小病院、慢性期・在宅医療の診療所等を、5年から9年間ローテート勤務します。これにより、それぞれの病院等の機能がわかり、地域の関係機関等との連携に強く、地域全体の医療を理解できる、総合力・実践力を有する看護職を育成するものです(図1、2)。

図1 看護学科「地域定着枠(キャリア形成支援枠)」の概要

 

図2 キャリアサポートプログラムに基づくローテート勤務
 
 

2.取り組みの背景

 本学は、1999年に開学、2008年に公立大学法人化し、健康科学部に4学科(看護学科、理学療法学科、社会福祉学科および栄養学科)、大学院健康科学研究科に博士前期課程・博士後期課程を有し、学生数978名(学部912名、大学院66名)、教職員150名(教員93名、職員57名)です(2023年5月1日現在)。本学の理念は、「青森県の保健、医療及び福祉に係る諸課題の解決に向けて、「いのち」を育んできた創造性と四季豊かな自然に恵まれた地域特性を活かした教育研究活動を進め、ヒューマンケアを実践できる人間性豊かな人材を育成する」こととし、「保健、医療及び福祉の連携・協調に向けて能力を発揮し、中核的な役割を果たせる人材を育成」することなどを使命としています。
 一方で、本学看護学科における2017年度の県内就職率は30%を切り、大きな課題となりました。その要因を調べると、看護学科学生の約半数を占める県内出身者の県内就職率が50%以下と低迷していることにありました。
 県内出身者が県外に就職する理由については、2016年度末に行ったアンケート調査の結果1)によると、「給料が高い」ことよりも「キャリアアップ支援体制が充実している」ことを重要視していることがわかりました。このことから、県内で活躍し、定着するには、県内でキャリアが得られるよう、しっかりと支援する体制を構築していくことが必要と考えられました。
 また、本学が所在する青森県は、人口減少・少子高齢化が全国よりも速いスピードで進行しています。そのような中でも、住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、地域全体で地域の方々を支える地域包括ケアの推進が求められており、また、それに対応できる看護職の育成が必要となっています。
 これらのことから、本学看護学科の学生が、青森県内において、これからの地域に求められる、地域包括ケアを推進する看護職になれるよう、本学と地域の病院が、在学中から就業後も、連携・協力して学生のキャリアを支援することとしました。それが「地域定着枠」です。

3.取り組みの経緯

 地域定着枠に取り組むに当たっては、地域の病院のご理解とご協力が必要です。そこで、2017年に、各地域の中核病院の看護管理者に地域定着枠の構想の概要を説明し、意見を伺ったところ、「良いアイデアである」「地域にとって歓迎されるシステムだと思う」「ローテート勤務の年数は各地域に任せるなど融通を持たせた方が良い」などの意見をいただきました。また、2018年には、青森県医師会、青森県看護協会および青森県健康福祉部に説明し、意見を伺いました。いずれからも、青森県で看護職を育成・確保する良い取り組みであるとの評価を受けました。
 そこで本取り組みをさらに進め、2020年には、地域定着枠の意義を全県的に共有することなどを目的として、看護管理者等を対象に、「患者と地域をつなぐ看護師育成研修会」を開催し、地域ごとのグループワークにおいて、これからの地域に必要な看護師像について話し合い、その育成プログラムを作成しました。この育成プログラムが、各地域のモデルとなるキャリアサポートプログラム(以下「モデルプログラム」という)の基礎となっています。

4.取り組みの現状

(1)地域定着枠学生の選抜 

 地域定着枠の学生の選抜に当たっては、通常の学校推薦型選抜入試の選抜方法(小論文、作文、面接等)に加え、「あなたが居住している市町村はどんなところか」をテーマに、5分間のプレゼンテーションと質疑応答を行い、地元愛とやる気のある学生を選抜しています。現在、1期生から3期生まで16名が在籍し、1期生は3年生となっています。

(2)地域との連携

 地域定着枠の取り組みに連携・協力していただけるよう、各地域の中核病院等と協議を重ねてきたところ、現在までに、青森県全域をカバーする5中核病院および5医療法人等と、「地域定着枠(キャリア形成支援枠)の取組に関する連携協力協定書」を締結し、地域定着枠の学生が活躍する場を広げています。

(3)地域定着枠学生の支援

 地域定着枠の特色として、本学と地域の病院等が、地域定着枠で入学した学生を、在学中から就業後まで、連携・協力して支援することが挙げられます。 
 主な支援内容は次のとおりです(図3、図4)。

  1. 地域定着枠を含む学校推薦型選抜入試の合格者を対象として、入学前に、「これからの地域社会を考える」をテーマに自己学習し、発表・意見交換等を行う研修会を開催し、地域についての理解・関心を深め、入学後の学びにつなげています。
  2. 入学後には、学生のキャリア形成支援等を所掌するキャリア開発センターに配置した専属のキャリアサポートコーディネーター(以下「コーディネーター」という)が中心となって、進路や学生生活などについての個人面談や、地域定着枠学生の全学年が一堂に会して情報交換するミーティングを行っています。
  3. 1年次から、中核病院等が作成したモデルプログラムの中から自分が目指す看護職像に適したプログラムを検討することができます。
  4. 地域定着枠学生を対象とした中核病院等の看護管理者と意見交換する交流会を開催し、各病院の地域における役割や特色、モデルプログラムの内容等について理解を深めているほか、相互に顔の見える関係を築いています。
  5. 1年次および2年次には、関心のある病院を見学し、3年次には、将来の勤務を見すえて希望する病院でインターンシップを行い、志向する看護職像に適したモデルプログラムを選択できるよう支援しています。
  6. 3年次の後半には、インターンシップ等を踏まえ、希望する病院のモデルプログラムを選択し、コーディネーターに伝えます。コーディネーターは、当該学生の勤務に関する希望や意向を病院に伝え、キャリアサポートプログラムについて協議・調整します。
  7. 病院は、必要に応じ学生と面談し、意向等を確認の上、コーディネーターと協議・調整し、当該学生個別のキャリアサポートプログラムを作成することとしています。
  8. 4年次には、コーディネーターや看護学科のチューター(学生支援を担当)の教員から、就職試験に向けた支援を受けることができます。
  9. 卒業後は、キャリアサポートプログラムに基づいてローテート勤務しますが、安心して勤務できるよう、本学と地域の病院がキャリアサポートプログラムを適切に運用し、進捗管理します。また、コーディネーターは、定期的に、卒業生と面談し、情報交換をするほか、卒業生同士の現状報告会や、卒業生と在学生との情報交換会などの交流を行い、地域定着枠のチームワークを継続して構築することとしています。なお、ローテート勤務中の給与や休暇等の勤務条件については、本人に勤務上の不利益が生じないよう、あらかじめ病院間で協定を締結しています。

 

図3 地域定着枠学生への主な支援の流れ

 

図4 主なスケジュール
※第1期生を対象としたスケジュールです


 以上のように、地域定着枠の学生は、在学中から就業後まで、多様な支援や経験を積み重ね、地域に根差した、地域に強い総合力・実践力のある看護職になることができます。
 また、就業後も大学とのつながりが強く、大学院での学びや専門資格取得など、さらなるキャリアアップも形成しやすくなります。

5.取り組みにより期待される成果

 地域定着枠の取り組みにより、次のような成果が期待されます。
① 地域で安心して暮らせる地域包括ケアが推進されます。
② 青森県内で活躍し、定着する看護職が着実に増加します(図5)。
③ 地域の看護連携が推進され、看護の質が向上します。
④ これからの地域に求められる、地域包括ケアを推進する看護職の育成と配置が可能となり、青森県地域医療構想の具体化・進展化が図られるなど、青森県の地域医療に貢献します。

図5 地域定着枠学生数、卒業・勤務者数の推移見込み 
注:「地域定着枠学生数」は募集人員5名で算定している。人数は累計である。
 

6.今後の課題・展望

(1)地域定着枠志願者の安定的確保 

 地域定着枠の学生については、毎年度、定員5名を充足することができていますが、今後も志願者を安定的に確保できるよう、高校への出張講義、本学ホームページやインスタグラム等の広報により、高校生、進路指導教員等が正しく理解できるよう一層周知していくこととしています。

(2)地域定着枠学生支援体制の強化

 2年後の2025年には1期生6名が卒業し、ローテート勤務が始まります。その後、就業者数が大幅に増加していくことが見込まれます。在学中から就業後まで、しっかりと支援する体制を強化していきます。

(3)地域の病院等との連携・協力関係の強化

 地域定着枠学生を受け入れる地域の病院等との連携・協力関係を強化するとともに、連携・協力病院を拡充し、地域定着枠学生が活躍する場をさらに広げます。

(4)相互交流等の推進 

 今後は、各地域において、地域定着枠の仕組を活用して、連携する病院等の間で看護職の相互交流・人事交流を推進することにより、お互いの役割や機能等を良く知ることで、地域包括ケアが一層推進することが期待されます。

 高齢化の一層の進展、地域を支える現役世代人口の大幅な減少、限られた医療資源等、青森県を取り巻く状況は厳しさを増しています。
 そのような中でも、地域の方々が安心して医療を受け、生活できるよう、地域包括ケアを推進する人材を地域全体で育成することが一層求められていると考えます。
 今後も、地域の皆様と連携し、地域定着枠に取り組んでいきます。
 

引用文献
1)鄭 佳紅, 小林昭子, 小山内豊彦ほか:地方の医療福祉関連大学で学ぶ学生のキャリア・生活指向と就職先選択の関係―青森県調査―.日本ヒューマンケア科学会誌 11(1):28-36,2018

藤本 幸男

公立大学法人青森県立保健大学看護学科 特任教授/学長特別補佐(地域定着推進担当)

ふじもと・ゆきお/北海道大学法学部卒業後、青森県庁に入職。地域医療政策を長く担当し、県医療薬務課長、県健康福祉部次長を歴任後、公立大学法人青森県立保健大学理事・事務局長に就任。同大学理学療法学科特任教授、キャリア開発センター地域定着推進科長を経て、2023年4月から、同大学看護学科特任教授、学長特別補佐(地域定着推進担当)。地域医療を守り育てる住民活動全国シンポジウム世話人(公益財団法人地域社会振興財団)、青森県良医育成支援特別推進員なども務める。

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