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「学校看護」-医療的ケア児の受け入れ増に伴う、看護の場の拡大

「学校看護」-医療的ケア児の受け入れ増に伴う、看護の場の拡大

2023.09.15齊藤 理砂子(淑徳大学総合福祉学部教育福祉学科 教授)

 急激な社会の変化により、子どもの健康課題が多様化・複雑化する現代。そんな中、健康問題を抱える子どもたちを含め、全ての子どもたちが学びや発達の権利を享受し、安全・安心の学校生活を送ることができるために、どのような支援や仕組みが必要なのでしょうか。
 そこで今回、養護教諭の養成や多職種との連携・協働についての研究などに取り組み、昨年、養護教諭および保健師養成のための書籍『学校看護論 ~子どもの健康を守り育てる保健活動~』(現代図書,2022)を著した齊藤理砂子先生(淑徳大学総合福祉学部)にご寄稿いただきました。(NurSHARE編集部)

健康課題を抱える児童生徒の増加――今、学校では?

 近年、少子高齢化、都市化、情報化、グローバル化などの社会の変化や科学技術の進歩などにより、生活習慣の乱れ、メンタルヘルスの不調、アレルギー疾患、性に関する問題や薬物乱用といった現代的な健康問題を抱える子どもが増えている。また医療技術の向上により、長期にわたって日常的に医療的ケアを受ける子ども、いわゆる医療的ケア児が増加しており、ケアを受ける場所も、病院から在宅、在宅から学校へと移行しつつある。
 実際に近年、幼稚園・小中高等学校では医療的ケア児の増加が著しく(表1)、文部科学省は「看護師等を十分確保し、継続して安定的に勤務できる体制を整備するとともに、各学校に医療的ケア児の状態に応じた看護師等の適切な配置を行うこと。また、各学校においては、看護師等を中心に教職員等が連携協力して医療的ケアに当たること」という方針1)を定めている。これにともない、学校における看護師の需要も増加しており(表2)、学校に勤務する看護師への期待は、今後ますます高まると予測される。

表1 特別支援学校および幼稚園・小中高等学校に在籍する医療的ケア児の推移(人)
  H27 H30   H27⇒H30
増加率
R1 R4 R1⇒R4
増加率
国公私立の特別支援学校※1 8,143 8,567  5% 8,392 8,361 -0.4%
・国公私立の幼稚園
(幼稚園型認定こども園を含む)
・小学校
・中学校
・高等学校(専攻科を除く)
・義務教育学校
・中等教育学校 の合計値
※2
839 974 16% 1,453 2,130 47%
[文部科学省:令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査結果、〔https://www.mext.go.jp/content/20200317-mxt_tokubetu01-000005538-03.pdf〕(最終確認:2023年8月18日)および文部科学省:令和4年度学校における医療的ケアに関する実態調査結果(概要)令和5年3月、〔https://www.mext.go.jp/content/20230324-mxt_tokubetu02-000028303_4.pdf〕(最終確認:2023年8月18日)を参考に作成]
※1 平成27, 30年は公立の特別支援学校のみ。
※2 平成27, 30年は公立の小・中学校のみ。
表2 特別支援学校および幼稚園・小中高等学校で医療的ケアを行う看護職員の推移(人)
  H27 H30 H27⇒H30
増加率
R1 R4 R1⇒R4
増加率
国公私立の特別支援学校※1 1,566 2,042 30% 2,430 2,913 20%
・国公私立の幼稚園
(幼稚園型認定こども園を含む)
・小学校
・中学校
・高等学校(専攻科を除く)
・義務教育学校
・中等教育学校 の合計値
※2
350 730 109% 1,122 1,799 60%
[文部科学省:令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査結果、〔https://www.mext.go.jp/content/20200317-mxt_tokubetu01-000005538-03.pdf〕(最終確認:2023年8月18日)および文部科学省:令和4年度学校における医療的ケアに関する実態調査結果(概要)令和5年3月,〔https://www.mext.go.jp/content/20230324-mxt_tokubetu02-000028303_4.pdf〕(最終確認:2023年8月18日)を参考に作成]
※1 平成27, 30年は公立の特別支援学校のみ。
※2 平成27, 30年は公立の小・中学校のみ。

子どもたちの教育の充実を目指して

 看護職員などの体制整備により、医療的ケア児が自宅から離れた特別支援学校ではなく、地元の学校へ通学できるようになれば、教育機会が充実し、保護者の送迎負担も軽減され、医療的ケア児の生活リズムの改善や、ひいてはメリハリある生活にもつながる。また、同じ教室で非医療的ケア児と医療的ケア児がともにふれあい、学び合うことを通して、達成感や豊かな情動ももたらされる。その結果として、一人ひとりの個性を尊重し、互いに支え合いながら生きていくことを基本理念とするインクルーシブ教育の発展にも貢献すると考えられる。

 これらの実現には、医療的ケア児など医療ニーズが高い子どもたち、そして彼らを取り巻く周囲の子どもたちおよび教職員たちが、安心して安全に学校生活を送れるよう保障されることが前提であるが、課題が山積している。現に、通常の学級に医療ニーズが高い子どもたちが通うことに対し「教員の負担が大きい」「看護職と教員との連携が円滑にいかない」といった声が学校現場から聞こえてくる。ただこれらの課題は、医療的ニーズが高い子どもたちの教育機会が改善したからこそ初めて見えてきたものであり、子どもたち、保護者、看護職・教育職が共有し、取り組んでいくことで解決できると考える。

看護職、教育職それぞれの専門性が発揮できる学校への転換

 冒頭で述べたように、現在、学校にはさまざまな健康課題や医療ニーズを抱えながら通学する子どもたちがいる。このことは、教育者だけで彼らを支援するのには限界があり、医療従事者との協働が不可欠であることを示唆している。2021年に国や自治体、学校の設置者などに医療的ケア児の支援が義務づけられた(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の施行)が、これを機に協働の拡充と深化が期待されている。
 協働を深化させるには、互いの専門性を重視した役割分担、価値観の相違の理解、互いに尊重し合う職場の環境づくりが求められる。また、学校関係者は、子どもの支援は教員だけでなく、様々な職種の協働のもとになされると認識を改める必要もある。さらに言えば、学校は活動的な子どもたちだけではなく、医療ニーズが高い子どもたちも同等に在籍する学び舎であり、すべての子どもたちに対し、教育の機会の確保と充実を図らなければいけない、という考え方へと転換していくことが大切である。

学校で働く看護師の魅力・やりがい

 個人的な意見ではあるが、学校で働くことの一番の魅力は、子どもたちの成長発達にかかわれることである。病院(小児看護)や在宅(訪問看護)においても、子どもたちの成長に寄り添い、できなかったことができるようになった時の感動や喜びを、ともに体感できる魅力がある。しかし、成長発達の場である学校においては、よりその魅力は強いと言えるだろう。
 さらに、学校における看護は、集団生活における人間関係や社会性の成熟、学習といった、学校ならではの目的を考慮する必要があるという意味において、病院や在宅とは異なる面がある。たとえば、医療的ケア児に支援を行う際には、他の子どもたちや教職員との関係性を踏まえることが大切である。また、医療的ケアを行う際には、本人およびその周囲の子どもたちが学習に集中できる環境づくりや、授業での学習内容などに配慮することが求められる。

 その結果として、また病院や在宅とは違った魅力が「学校看護」にはある。北村らの研究結果2)によると、医療的ケア児を支える学校看護師のやりがいには、「子どもが医療的ケアを自ら行えるようになるために子どもの成長を支えている」「子どもが学校で安全に過ごすために必要な存在である」「子どもが教育を受けることを支えている」「医療的ケア以外にも子どもと関係づくりができる」などがあり、子どもの成長にかかわることだけでなく、子どもの安全・教育を支える存在であることを自負することや、子どもと関係性をもつことにも、やりがいを感じていることが窺える。

「学校看護」の発展に向けて、看護職に期待すること

 最後に、私が考える学校看護の位置づけを図1に示す。「学校看護」を、小児看護や訪問看護と同じように公衆衛生看護の一部と捉えるものであるが、両者と重なる部分もある。これら3つの看護は、いずれも切れ目がなく、ひとりの子どもの成長発達と自立を考えながら行う看護という意味では共通している。

図1 学校看護の位置づけ

「学校看護」のあり方とは

 では小児看護や訪問看護と学校看護は何が違うかと言うと、「学校看護」とは、病気や障害のあるなしに関わらず、その子どもなりの身体的、精神的、社会的な調和をはかり、安心して安全に学校生活が送れることを目指す3)ものと考える。その主な内容としては、教育機会の保障、成長発達の促進、健康増進、疾病に対する自己管理、症状の緩和、心理的安定への寄与、治療の効果・QOLの向上などがあげられる。
 さらに、医療ニーズが高い子ども(医療的ケア児を含む)の看護だけでなく、学校に通うすべての子どもと教職員を対象とした一次、二次、三次予防の視点からも、学校看護を拡充すべきと考える。

一次予防とは、疾病や障害が顕在化する前の段階における予防、二次予防は、疾病の早期発見と早期治療や疾病および障害の重症化の段階における予防、三次予防は、機能回復や学校復帰を図り、再発の予防を努めるリハビリテーションの段階における予防を指す。

 たとえば、一次予防には、学校と地域が協働した健康なまちづくり活動や、専門家による健康教育(思春期教室、がん教育、薬物乱用や喫煙の防止教育など)などが当てはまる。また二次予防としては、定期健康診断や学校医・学校歯科医などによる健康相談だけでなく、精神疾患などの早期発見に有効なことから、被虐待児への対応やひきこもり・不登校児への家庭訪問も重要である。三次予防としては、子どもが治療やリハビリテーションを受けながら、安心して通学できるように生活環境を整備することも重要である。また、これらの活動を充実させるために、文化祭や体育祭、宿泊活動などの学校行事や校外学習への学校看護師の参画も期待したい。

法的根拠による「学校看護師」配置にも期待

 現在、学校保健安全法により、学校には学校三師(学校医、学校歯科医、学校薬剤師)を配置することとなっているが、今後は「学校看護師」の配置も期待したい。慢性疾患などの健康課題を抱えて通学する子どもたちへの対応には、治療という視点だけではなく、看護・ケアという視点からの助言も必要と考えるからである。そして、看護職の方々には、慢性疾患や障害を抱える子どもたちへの支援だけではなく、予防の観点からも学校現場に積極的に入り、教員たちへの助言や、子どもたちへの健康教育にも取り組んでいただきたいと思っている。

 障害のあるなしに関わらず、すべての子どもたちが明るい笑顔で学校生活を送れるように、看護職と教育職が協力し合い子どもを育てていく、そんな学校づくりを可能とする「学校看護」の発展を願う次第である。そのためには、実践から得た課題を共有し、その解決に向けた検討と実践を積み重ね、理論へと昇華させていくことが不可欠である。学校における看護は医療的ケア児を対象にすでに始まっているが、そのさらなる発展のために、本稿が学校看護のあり方を考えていくきっかけとなれば幸いである。

引用文献
1)文部科学省:学校における医療的ケアの今後の対応について,平成31年3月,〔https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2019/03/22/1414596_001_1.pdf〕(最終確認:2023年8月25日)
2)北村千章,室亜衣ほか:医療的ケア児の教育を支える学校看護師のやりがい.Seisen Jogakuin College Journal of Nursing 3(1)p:1-7,2023
3)齊藤理砂子:第3章 学校看護.学校看護論~子どもの健康を守り育てる保健活動~,p16-19,現代図書,2022

齊藤 理砂子

淑徳大学総合福祉学部教育福祉学科 教授

さいとう・りさこ/千葉大学医学部附属病院の看護師、千葉市内小中学校の養護教諭を経て、2017年4月より現職。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科学校教育学専攻博士課程修了(教育学博士)。杏林大学、東邦大学等でも学校保健に関する授業を担当している。専門は学校看護論、ヘルスプロモーションなど。日本公衆衛生看護学会編集委員会査読委員、日本健康相談活動学会編集委員、千葉県学校保健会評議員。趣味はギター、ウクレレ、アクアリウム、犬と遊ぶこと。

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