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はじめに:教員と実習指導者がともに学ぶ「協働学習会」

はじめに:教員と実習指導者がともに学ぶ「協働学習会」

2024.01.10奥野 信行(京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護教育研修センター センター長)

 「臨地実習を看護学生にとっていかに学びのあるものにするか」は、看護基礎教育に携わる先生がたにとって永遠のテーマではないでしょうか。京都橘大学では、教員と実習指導者が連携して臨地実習における教育の質を高めるための取り組みとして、教員と指導者が交流し学び合う「協働学習会」を実施しているそうです。その内容は現象の教材化や実習指導者による学生指導シミュレーションなどさまざま。本企画では、協働学習会を企画し立ち上げた同学の奥野信行先生に、協働学習会の進め方や学びの内容を全7回にわたってご発信いただきます。
 あわせて協働学習会の各回で使用するスライドやシミュレーションに関する資料などを「教材シェア」にて奥野先生にご共有いただきますので、ぜひご覧ください。(NurSHARE編集部)

 

協働学習会とは

  実習環境や看護学生の特徴が変化する中で、臨地での教育の質を高めるには、看護教員と実習指導者(以下、教員/指導者とします)双方の指導能力の向上と連携が重要です1)。私は、この2点を推進するための取り組みについて、本学の実習施設である京都市立病院の看護部長、教育担当の副看護部長と協議する機会をいただきました。その際、教員と指導者が交流し、学び合える学習会の構想をご提案したところ、お二人からは「やってみましょう」という嬉しいお返事をいただきました。このようにして、2017年に「協働学習会:より良い看護学実習について共に考える会」を京都市立病院の「実習指導者会」との共同企画・運営で立ち上げることになり、現在も継続的に開催しています。

 協働学習会は、良質な臨地実習での学習経験を看護学生にもたらす教育実践について、「語り(話し)合い」「学び合い」を通して教員と指導者が協働的に探求することをねらいとした学習会です。「学習会」と呼ぶのには理由があります。研修会やセミナーのようにガチッと系統立てたプログラムに基づいて、有識者が知識を学習者に教えるというスタイルではなく、誰かが調べた知識を気軽にみんなで共有しつつ、どうすればよりよい臨地実習や学生指導につなげられるのかについての「語り(話し)合い」と「学び合い」を継続することに価値をおきたかったからです。
 この度、「NurSHARE」という学習コミュニティにて、協働学習会の進め方や内容、教材を連載でご紹介させていただくことになりました。ぜひとも皆様の施設でも気軽に「協働学習会」を試み、参加者同士で実習指導について語り合い、学び合うことはもちろん、その良さや喜び、悩みや葛藤を分かち合っていただければ幸いです。

協働学習会のコンセプトとなる学習理論

 私たちは、教育理論家のユーリア・エンゲストローム博士の提唱する「活動理論」2,3) と「探究的学習理論」4)が協働学習会のコンセプトに合致していると考え、構想や運営において参考にしています。これらの理論では、異なる活動システム(組織)に属する者が、同じ目標を共有し、集い、協働することを通して、知識や技能、意識や人格を発達させていくことに注目しています。
 またエンゲストローム博士の理論における「学習」とは、学び手の能動的で構成的な意味生成のプロセスを指します。そして、質の高い知識は行為の中に存在し、人々の間のやりとり、相互行為、談話を通して社会的に共有され発展すると考えます。そのため、コミュニケーションと協働は、学習という活動において決定的に重要な側面であるとされています4)。協働学習会では、参加者間のコミュニケーション(話し合い・語り合い)と協働を促進するための手立てとして、学生指導に関するケーススタディやシミュレーションを導入しています。

協働学習会のメンバー構成と進め方

 協働学習会では、京都市立病院の実習指導者会運営メンバーと私を中心とした実習担当教員で講義内容の決定や進め方の構想づくり、当日の準備、進行を行っています。協働学習会当日の参加者は、すべての病棟の指導者約16名と、実習を担当している本学の教員5~10名です。教員は、学生指導を担当する基礎・成人・母性・小児領域が参加してくれています。進め方としては、各回の実習指導に関するテーマの講義を全員で聴講し、グループワーク(主にケーススタディ)を行っています。1グループあたりのメンバー構成は指導者3~4名と教員1~2名の合計4~6名です。各回の講義内容については、今後の連載の中でご紹介します。

協働学習会で指導者と教員がグループワークを行う様子

 学習会の開催日程と時間については、実習指導者会運営メンバーと協議し、一月に一回開催される病院内の実習指導者会に合わせて年間計5~6回、1回90~120分程度(学習指導シミュレーションのみ約半日)開催することで合意しました。

協働学習会における学習テーマ

 エンゲストローム博士の学習理論では、よい学習、よい教授とはどのようなものかを問い、その答えとなるようなよい学習(教授)のための方法を探求することが大切であるとされています5)。臨地実習に当てはめて考えた場合、よい実習とは何か、そこでのよい教授(指導)とは何かを問うことが重要となります。協働学習会における学習テーマと内容を検討するため、準備段階で実習指導者会運営メンバー・参加者とともに「学生にとって、よい実習だったと思えた時の実習は、どのような実習だったか」「そのような実習を実現するために教え手に求められる力は何か」について話し合いました。このような話し合いを通して、自分たちが実現したい臨地実習についてのイメージを共有し、学び合い、実際の学生指導において力を合わせることができると考えたからです。

 これらの結果を踏まえて、よりよい臨地実習の実現において、次のような教え手の力が、カギ(key)となるのではないかと共有しました。それは、①学生の実習での学びを支援する力②学生の患者との関わりを支援する力③学生の学習環境を調整する力④指導者と教員が連携し協力し合う力⑤学生の学びを適切に評価・フィードバックする力です。これらを元に協働学習会での学習テーマ・内容・進め方などを検討しました。協働学習会のテーマは次のとおりで、2022年からは学生指導シミュレーションを組み込みました。

第1回:臨地実習と臨地実習に参加する学生の特徴
第2回:臨地実習における看護現象の教材化
第3回:臨地実習における効果的な教え方とかかわり方
第4回:臨地において学生が良質な学びを経験するための学習環境デザイン
第5回:臨地実習における学生指導シミュレーションに向けた机上グループワーク
第6回:臨地実習における学生指導シミュレーション

 

協働学習会のインストラクショナル・デザイン

 学生指導シミュレーションを含む協働学習会のインストラクショナル・デザインは、「探究的学習理論」4)と、この理論に依拠した学習サイクル「CIERモデル」6, 7)の考えを参考に構想しました。CIERモデルにおける人の学習サイクルでは、学習者の中で生じたジレンマや葛藤といった「コンフリクト」が、学習の動機づけであり、出発点となります。続いて学習者はそのコンフリクトを解決するための手がかりとなる知識・スキルを習得します。これを「内化」と呼びます。次に、習得した知識・スキルを活用して実践・問題解決に取り組みますが、これを「外化」と呼びます。最終的には、「内省」を通して、活用した知識やスキルのよさと限界、自己の成長と課題に気づき、そこから生じた新たな「コンフリクト」を動機づけとし、次なる学習プロセスに参与するというものです。学習者は、この繰り返しを通して、「わかったつもり」から「わかった」へ、さらに「わかった」から「わかり直し」へといった深い学びを体験するとしています7)

 協働学習会が、この学習サイクルのもとにデザインされることは、参加者のより深い学びを紡ぎ出す可能性を示唆します。たとえば、次のとおりです。まず、最初は、「もっとよい指導がしたいが難しい」「どのように学生を指導すればよいのかがわからない」などの「コンフリクト」を学習の動機づけとして協働学習会に参加します。そして、講義を通して実習指導に関する知識・スキルを学習したり、他の参加者との教育実践の話し(語り)合いを通して解決の手がかりとなる知識・スキルを学んで「内化」します。
 次の「外化」では、学んだ知識・スキルを実際に活用し、学生指導シミュレーションに取り組みます。その経験を「内省」し、活用した知識・スキルのよさ・限界、教員あるいは指導者としての自己の成長・課題に気づき、「ここがまだできていないな」「もっとこうなりたい」と新たなジレンマ・葛藤を認識します。その「コンフリクト」を次の学習の動機づけとし、新たな学習活動を方向づけます。

 この繰り返しを進めることで、参加者がよりよい学生指導を展開するための知識・スキルの「わかったつもり→わかった」、「わかった→わかり直し」という「深い学び」を経験し、他者から知り得た、他者から教わり学んだ知識・スキルを我がものとし、自己の教育実践に柔軟に活用できるようになると考えました。この状態は、「専有」もしくは「アプロプリエーション(appropriation)」と呼ばれます8)。 

協働学習会に期待できる成果

 ここからは、実際に協働学習会を行ってみて得られた成果や手ごたえについてお話しします。

看護教員と実習指導者との関係づくり

 協働学習会の成果の1つ目が、教員と指導の関係づくりの場になったという点です。協働学習会では、教員と指導者が、年間を通じて数回にわたって共に学び、ケーススタディなどにおいて互いの思いや考えの語り合いを重ねることが可能になります。ある指導者からは「まじめな内容だけじゃなくって、ときには笑いも交えながらディスカッションをしていく中で、その先生(教員)の人となりを知れる」「心的な距離が近くなるというか、先生と一緒に学生さんを観ていくんだという気持ちが強くなった」という感想をいただきました。実際、協働学習会での語り合いや学び合いは、教員-指導者間の相互理解を深め、親和的な関係性を醸成し、実習中のコミュニケーションの円滑化につながっていました。

多声的で共同的なリフレクションによる学びの場

 協働学習会の成果の2つ目が、多声的で共同的なリフレクションによる学びの場になるという点です。学生指導に関するケーススタディでは、教え手の関わりについて、事例を媒介とした参加者間での意見交換が行われます。ある指導者からは「教員や他の病棟の指導者の考えや指導観を聞くことで学びが深まった」「学生さんへの対応についての視点が拡がった。自分もそんな感じで対応したら上手くいくのかもしれないと思った」という反応がありました。また学生指導シミュレーションでは、その場で自己の指導や教育的な関わりについてリフレクションします。さらに参加メンバーからのフィードバックを通して自己の指導の良さと課題に気づくができていました(学生指導シミュレーションでは、教員と指導者に加えて看護学生が実習学生役として参加し協力してくれています)。

 このように、協働学習会においてケーススタディや学生指導シミュレーションに参加し、他者との対話を進める中で他者から知り得た知識・スキルを「こう使えばよいのではないか、こう使えるのではないか」と価値づけ、自己の教育実践に持ち込み、具現化することで、学生指導に関する知識・スキルの実践的理解を深めていくことができるのではないかと考えます。また「こういう見方で学生にかかわっていないな」「こういう考えで指導すると結果が違うかも」など、学生指導に関わる自己のフレームの吟味・見直し、つまり「リフレーミング」9,10)の契機となる可能性があります。

まとめ

 連載第1回では協働学習会の概要についてご説明させていただきました。次回からは、先ほどご紹介した協働学習会の具体的な内容と進め方などについてご説明します。

引用・参考文献
1)厚生労働省:看護教育の内容と方法に関する検討会報告書 (2011 年 2 月 23 日),p.8-9,[https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013l6y-att/2r98520000013lbh.pdf](最終確認:2023年12月1日)
2)山住勝広:拡張的学習とノットワークする主体の形成-活動理論の新しい挑戦-. 組織科学48(2): 50-60, 2014
3)ユーリア・エンゲストローム:ノットワークする活動理論-チームから結び目へ-(山住勝広,山住勝利, 蓮見二郎訳). 新曜社, 2013
4)ユーリア・エンゲストローム:変革を生む研修のデザイン-仕事を教える人への活動理論-(松下佳代, 三輪建二訳),鳳書房, 2010
5)松下佳代:解説,変革を生む研修のデザイン-仕事を教える人への活動理論-(エンゲストローム著, 松下佳代ほか訳),鳳書房, 187-202頁,2010
6)佐藤佐敏:国語科の学びを深めるアクティブ・リーディング <読みの方略>の獲得と<物語の法則>の発見Ⅱ, 明治図書出版, 2017
7)松下佳代:資質・能力とアクティブ・ラーニングを捉えなおす なぜ、「深さ」を求めるのか.深い学びを紡ぎだす─教科と子どもの視点から(グループ・ディダクティカ編), 3-25, 勁草書房, 2019
8)ジェームス・ワーチ:行為としての心(佐藤公治・田島信元他訳),北大路書房,2002
9)ドナルド・ショーン:省察的実践とは何か プロフェッショナルの行為と思考(柳沢昌一,三輪建二監訳),鳳書房, 2007
10)藤原顕:自己探究に基づく教師のリフレクションの在り方.福山市立大学教育学部研究紀要9:31-45, 2021

奥野 信行

京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護教育研修センター センター長

おくの・のぶゆき/国立循環器病センターでの勤務を経て、兵庫県立看護大学大学院修士課程看護教育学専攻修了(看護学修士)、2003年に兵庫県立看護大学助手、ワシントン大学看護学部Visiting Scholar。2006年に園田学園女子大学講師を経て、京都橘大学看護学部准教授、2019年に神戸市看護大学大学院博士後期課程修了(看護学博士)。2020年より同大学および大学院の教授・2022年看護教育研修センター長を併任。研究テーマは、ICU看護師の看護実践能力とその発達に向けた教育プログラムの開発、実習指導者と看護教員の協働的な学び、臨床看護師の「看護師らしさ」の形成。著書に『看護実践のための根拠がわかる基礎看護技術』(共著、メヂカルフレンド社、2018)、『成人看護II 慢性期・回復期 第2版 (パーフェクト臨床実習ガイド)』(共著、照林社、2018)など。趣味はバイクいじりとツーリング。

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