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第7回:自ら学び続ける「教育のプロフェッショナル」であること

第7回:自ら学び続ける「教育のプロフェッショナル」であること

2023.02.17山本 智子(学校法人巨樹の会 副理事長)

 12年の臨床経験を経て看護教育に20年近く携わり、現在は学校法人本部で専門学校および大学の運営を行っている。実際には、3年課程の教育に始まり、2年課程(夜間定時制、通信制)の教育、助産師課程の管理・運営、また大学では看護学部の設置と運営に携わってきた。これまでの歩みは、「伝統は与えられるものではなく創るもの」という法人創始者の言葉のとおり、まさしくinnovation(変革)を実践してきた日々であったように思う。
 今、教員として自分が何を経験し、何を考えて教育を継続してきたのかを明らかにすることで、これから先を担う教員の皆様の参考になれば幸いである。

学生に対する教員のまなざしを大切にする

 看護教員としての経験を一から振り返ると、学生を理解しているつもりでいたが、実は学生のことを全くわかっていなかった頃の苦々しいエピソードを思い出す。
 それは教員5年目の出来事で、私は基礎看護学の担当で先輩教員から質的研究の指導を受けていた時期だった。

 1年生のコミュニケーションの授業の課題レポートに、学生の日常の体験を踏まえて学びが表現されていたことがあった。そこで、学生が知識とともに何を学んでいるのかを明らかにしたいと考え、実習前のコミュニケーション演習で質的研究のインタビューを行った。そこでは、授業で教えた以上に、学生それぞれの体験に裏づけられた学びが豊かに表現されていた。インタビューから抽出されたカテゴリー1)としては、「患者の思いを知りたいという気持ちの芽生え」「沈黙の肯定」「過去の体験の想起」「自分にできることへの探索」等があった。授業で習ったことだけでなく、自分の過去の体験、たとえば亡くなった難聴の祖父との会話の内容や高校の担任教諭との面談での沈黙時の状況などに思いを巡らせながら演習に臨んでおり、コミュニケーションスキルの学びを自らの体験と重ねて価値づけていたことがわかった。同時に、インタビューで語られた内容を聞きながら、学生に対してどこかで知識がないと決めつけていた自分に気づかされた。「今まで何を学生に教えてきたのだろう、学生の何を見てきたのだろうか」と情けない思いがした。
 学生にも、それまでの生きてきた歴史があり、学びのプロセスがある。教員になって5年という時期に、全く学生を尊重した授業をしていなかったと、とても申し訳ない思いになった。

 この経験を通して、成績だけでこの学生はできない、知識がないと決めつけてはいけないということを学んだ。学生一人ひとりに学びの契機があり、そこを見極めて学びを支援する役割が教員にあることを心に刻んだ。看護師として患者の健康問題を分析して解決する看護実践のプロセスと同じで、教員は学生の学びを保障するために、学生を教育の視点で分析する必要がある。学生にその知識があるのかないのか、ない場合はなぜ知識がないのか、学習方法がわからないのか、学習習慣が身についていないのか、意欲の問題なのかなどを明らかにする。そして教員として学生の成長を願う思いを前提に、その学生に合った方法で教授し、絶えず自らの教育方法を見直し改善していくことが重要である。
 このように教員としての経験を積むごとに、教育の中核にあるものは、看護のケアと同じように、ケアリングに基づく“人を育てる”という温かい教員のまなざしだという実感が増していった。

学生のレディネスに合った授業を行うことの大切さ

 私はその後、2年課程・夜間定時制の学生を教えることになった。それまで3年課程の教育経験しかなかった私に、夜間で学ぶ学生たちは、今でも忘れない大切な学びを授けてくれた。

 当時、夜間で学ぶ学生には准看護師としてのキャリアをもつ学生が多かったので、自分なりに授業方法を工夫して臨んだつもりでいた。しかし、仕事を終え疲れ果てて授業中に寝てしまう学生を目の当たりにし、この授業ではダメだとすぐに悟った。
 そこでまずは授業方法を大幅に変更した。共同学習の形式に変え、学生参加型の授業に組み替えた。学生それぞれがもつ臨床経験をもとに、事前課題として提示した内容について日常の臨床で生じている課題を踏まえて整理してきてもらい、授業ではグループワークでさらに考えを深めるようにした。高校を卒業したばかりの3年課程の学生とは全く異なる意見や討論の内容を聞きながら、学生のレディネスを把握して授業をすることの重要性を痛感した。また、体験的理解を促すためにも、毎回の授業の学びや感想を提出してもらい、何かしらのコメントを付けて返すようにした。様々な意見の中には、講義の改善につながるものも多く、この学生とのやり取りが授業評価となって、教員としての自分を成長させてくれた。

学び続ける姿勢をもち、教える人としてのプロになる

 教員としてキャリアを積んでからは、教員になる人たちを指導する立場として県が主催する看護教員養成に携わってきた。看護教育方法、看護教育方法演習、教育実習等を担当するうえで、それまでの教育実践の経験知だけでは対応できず、教育学の知識が必要だと教育理論、教育方法の研修に参加し、教育学を学びながら授業を構築した。
 毎年、研修生の学びの集録を確認し、これが自身の授業の評価だと一喜一憂する日々を過ごしていたように思う。もっとこのように教えたら良かったのではないか、授業方法を変えるべきではないかなどと、様々な思いが巡った。私の教育の考え方、教育方法は果たして妥当だったのか、本当に教育学の根拠に基づく授業ができていたのかと、考えさせられた。
 この経験を振り返ると、佐藤学の「教師は職人性と専門職性を備えた専門家として教育されなければならない」2)という言葉を思い出す。専門家としての教員が、専門職性と職業性の双方を兼ね備えることが重要であることは明白だろう。しかし、いざ看護を教えるとなると、自分を含めそのどちらかに偏り、バランスが取れていない教員が多いのも事実である。教員の職業的能力には、「技術」や「技能」を超えて、先輩教員をモデルとした実践から学ぶ文化の中で得られるものも多い。一方で専門職性は、専門的知識と理論を基盤とする「省察(reflection)」と「判断(judgment)」の能力として成立している3)ため、教育に関する専門的知識を絶えず学び続けながら、授業実践を通して自らが理論と実践の統合を図っていくことが重要である。

 このように私は、自らが教育について学ぶことが、教員のサポートになるのではないかと考えて大学院で教育学を学び始めた。当時57歳という年齢で、看護ではなく教育学の領域で学ぶことに不安な気持ちもあったが、学生という立場になったことで、教員としての自分の役割を改めて振り返ることができた。
 そこで学んだことは、「教師が成長する“学びの共同体”」4)として文化をつくりあげていく重要性だった。大学院で、様々な背景の学生が課題に対して討議しながら学びを深化させていくプロセスを経験しながら、学校においても教員の学びは同じだと実感した。教員が一人で学ぶのではなく、モデルとなる先輩から学び、同僚の教員と学び合い、後輩とも互いに支援することで成長していく。この文化をつくることの大切さを実感した。
 これを実現するために、関連グループ4校の看護専門学校の研修を計画し、教育講演や各校の教育実践の報告会で学びを共有し、また専門学校で働く教員のキャリアアップの一つとなる大学院進学の支援体制も整えた。

 その後、当法人で医療系大学を設置することになったが、大学準備室の担当になった時も、学生として学び直した経験がとても役に立った。大学設置において、養成する人材像の形成から、カリキュラムやキャンパス設計にわたり、様々に考えることができた。学ぶ場や形を問わず、学びたいことに向かって自らが生涯学び続ける存在であることが専門家としての教員にとって重要なことだと実感している。

* * *

 専門学校での教育・管理、大学の設置・運営を経験した今、教員に求められるのは「教育のプロフェッショナル」になることだと考えている。そして何より教育のプロフェッショナルであり続けるために、教員自らの学びを止めずにいてほしいと願う。

 

引用文献
1)山本智子ほか:基礎看護学の演習における看護学生のコミュニケーションスキルの学びの構造.日本看護学教育学会学術集会講演集(11回), p.171,2001
2)佐藤学:専門家として教師を育てる;教師教育改革のグランドデザイン,第4版,p.57,岩波書店,2015 
3)前掲2),p.61 
4)前掲2),p.120-121

山本 智子

学校法人巨樹の会 副理事長

やまもと・ともこ/東京医科大学看護専門学校(現、東京医科大学医学部看護学科)卒業後、東京医科大学病院に就職。その後、旧国立療養所南福岡病院等で12年の臨床経験を経て、旧国立療養所福岡東病院附属看護学校に専任教員として着任する。以降、国立病院機構附属の看護専門学校への転勤を経て、2008年4月より学校法人巨樹の会 福岡看護専門学校(3年課程、2年課程、通信制)に副学校長として着任。同法人 福岡水巻看護助産学校を経て、法人本部の看護部門統括を務める。同法人 令和健康科学大学の開設準備に携わり、2022年10月に法人副理事長に就任。実習指導者講習会(特定分野含)、福岡県の看護教員養成講習会等の講師も長年勤める。趣味は温泉や窯巡り。

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