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第3回協働学習会:臨地実習における効果的な教え方とかかわり方

第3回協働学習会:臨地実習における効果的な教え方とかかわり方

2024.04.03奥野 信行(京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護教育研修センター センター長)

協働学習会プログラム(全6回)

  • 第1回協働学習会:「臨地実習と臨地実習に参加する学生の特徴」
  • 第2回協働学習会:「臨地実習における看護現象の教材化」
  • 第3回協働学習会:「臨地実習における効果的な教え方とかかわり方」
  • 第4回協働学習会:「臨地実習において学生が良質な学びを経験する学習環境」
  • 第5回協働学習会:「学生指導シミュレーションに向けた準備学習」
  • 第6回協働学習会:「臨地実習における学生指導シミュレーション」

第3回のねらい

 今回は、「臨地実習における効果的な教え方とかかわり方」をテーマとした第3回協働学習会についてご紹介させていただきます。ねらいは「発問などの教育技術について学び、看護学生が臨地実習でより良く学ぶための効果的な教え方やかかわり方についての理解を深める」ことです。看護学生が経験する教材との出会いを学びにつなげるためには、看護の教え手(指導者・教員)の教材化に加えて、効果的な教え方とかかわり方に関するチカラの発揮も重要となります。第3回の内容は、次のとおりです。

【講義】
1.    経験学習モデルから考える臨地実習における効果的な教え方とかかわり方
2.    効果的な臨地実習(授業)の展開を導く教授行為としての「指導言」
  1)    説明    2)発問    
3.臨地実習において学生の成長を導くかかわりとしてのフィードバック
【グループワーク】
事例における効果的な教え方とかかわり方の検討

第3回の実際

講義:経験学習モデルから考える臨地実習における効果的な教え方とかかわり方 

図1 経験学習を支える教え手の教授行為と自己効力感・肯定感の形成支援の関係
[Kolb DA:Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development,FT Press, 1984を参考に作成]

 臨地実習とは、看護職者が行う実践の中に看護学生(以下、学生)が身を置き、看護職者の立場でケアを行うことであり、その経験を通して看護についてのさまざまを学んでいきます。Kolbの経験学習モデル1)(図1)に合わせて考えると学生は、臨床における自己の看護にかかわる経験をふり返り、意味づけることによって紡ぎ出した知識や教訓を新しい状況に積極的に活用していく、という繰り返しによって看護について自分なりの理解を深めていくと考えることができます。
 そのような知的活動を遂行するには、思考を刺激する教え手による説明、助言、発問、フィードバックといった教授行為が欠かせません。また学生にとって、臨地は未知あるいは未知の部分が大半を占める場所です。そのような場で過度に尻込みすることなく、学生が主体性を発揮した学習活動を展開するには、「自分にできそうだ」という自己効力感、「自分はできるようになっている」という自己肯定感を育むことも大切です。私は、これらが土台となることで良質な経験学習が可能になると考えます。

講義:効果的な臨地実習(授業)の展開を導く教授行為としての「指導言」

 実習における学生の学びの過程をリードしたり、組み立てたりする上で重要な役割を担っているのが、教え手(指導者・教員)の「指導言」2)です。
 図2のような指導言を通して、教え手は学生に語りかけ、学生のことばを受けとめることを通して、応答的な関係を形成します。そのような関係性は、教え手-学生間の対話を生み出し、学生の深い思考の触発とよりよい学びの実現をもたらします。そこから生まれる充実感や達成感は、学生の自己効力感や自己肯定感を育みます。

図2 教え手の指導言の種類(例)

 このような効果的な臨地実習(授業)の展開を導く教授行為としての「指導言」には、指示、説明、助言、発問があります。 図3は、教え手の各指導言の内容、長所、短所を示したものです。それぞれの特徴を理解しておくことで、効果的な学生指導につながります。協働学習会では、主に「説明」と「発問」について紹介しています。グループワークも含めた120分の中ですべての指導言についてお話しするのは難しいので、指示と助言は表の中で紹介するにとどめ、詳細に関しては割愛しています。

図3 教え手の指導言(説明・指示・助言・発問)の特徴
[石井英真:授業づくりの深め方.「よい授業」をデザインするための5つのツボ,ミネルヴァ書房,2020/西野毅朗:発問を活かした授業づくり,看護教育59(5);420-426,2018/日本教育方法学会(編):現代教育方法事典,図書文化社,2004を参考に作成] 
指導言①「説明」

 学生の理解につながる効果的な説明のポイントとして、教育学者の清水氏は「時系列」「比較」「因果関係」「繰り返し」「経験の活用」(図4)を挙げています3)

図4 効果的な説明のポイント
[清水栄子:第4章 わかりやすく説明する.授業方法の基礎.看護教育実践シリーズ3(中井俊樹編),10-51,2017,医学書院を参考に作成]

 各ポイントにはそれぞれ効果的な場面があります。たとえば「因果関係」なら、根拠に基づいた論理的なつながりを理解してもらうときに適すると言われます。例を挙げると、「脳梗塞は、脳に分布する血管が詰まってしまい、血液が流れなくなることによって 脳細胞が死んでしまう病気ですね」と原因について話した後、「脳→神経→筋肉という指令順で動いていますので、脳に障害が出れば筋肉は動かなくなります。それを麻痺と言います」と結果を伝えると効果的です。

 

図5 看護の専門家でもある教え手の語り伝え(ナラティブ)としての「説明」
[ベナー P:早坂真佐子.達人の技を言葉にすることの意味. ナーシングトゥディ17(12):8-12,2002を参考に作成]

 臨地実習では看護の教え手が、学生に患者に対する看護実践の模範を提示(モデリング)したり、手取り足取り指導(コーチング)したりする際、行為の意図やコツを言語化し、学生に伝えるでしょう。また看護実践の後で、その行為の目的や意味、留意点などが語り伝えられる場合もあるでしょう。この時、教え手や語り伝える内容を学習者が十分に理解にする上で、指導言としての「説明」のスキルが大切になります。
 尊敬できる熟練者の身体技法(わざ)が成功しているところを目の当たりにした学習者が、その身体技法のよさに魅せられ、自らも身につけるべく意識的に模倣する状態を「威光模倣」5)と呼びます。かつて、私の担当した看護学生が、ベテラン看護師による片麻痺患者の体位変換を見学した後、「身体の動かし方が絶妙で声のかけ方もすごいと思った。自分もできるようになることを目指したい」と話してくれたことがありました。このように、模範の提示と語り伝えは、学生の学習意欲を刺激し、学びの能動性の発揮にもつながります。

指導言②:「発問」
図6 発問の定義と発問の機能
[石井英真:深い思考を促す発問の工夫.よくわかる授業論(田中耕治編),p.96-97,2012,ミネルヴァ書房/中井俊樹:第5章 発問を取り入れる.授業方法の基礎.看護教育実践シリーズ3(中井俊樹編),p.52-63,2017,医学書院を参考に作成]

 指導言の2つ目は「発問」です。発問の機能は、看護師が患者をアセスメントするときと同様に、学び手の既有の知識を把握したり想起を促したりする機能と、目標の達成に向けて学生の思考活動を促し、教え手が学んでほしいことの発見を導く機能に集約されます。
 教育学者の石井によると、発問はわかっている人(教え手)がわかっていない人(学び手)に問う点に特徴があります6)。その作為性ゆえに発問を行う際には何のために問うのかを、教え手が明確に自覚しておく必要があります。たとえば、その発問を通してどのような思考を促そうとしているのか、何について学んで欲しいのかという教え手の意図です。それによって効果的な発問-応答が生まれ、学生の学びがよりよいものとなります。

発問スキルの4つの様式

 図7は発問スキルの4つの様式と促される思考活動を示したものです。教育学者の中井は、発問によって促される思考活動として拡張、深化、ゆさぶり、焦点化を挙げています7)。これらの発問スキルを効果的に使いつつ、「もう少し詳しく教えてくれる?」と軽く質問したり、「●●ということだね!」と代弁したりして、思考をつなげることで対話的で深い学びへと学生をいざなうことが可能になります。 

図7 発問スキルの4つの様式(モード)
[中井俊樹:第5章 発問を取り入れる.授業方法の基礎.看護教育実践シリーズ3(中井俊樹編),p.52-63,2017,医学書院/石井英真:深い思考を促す発問の工夫.よくわかる授業論(田中耕治編),ミネルヴァ書房,p.96-97,2012/石井英真:授業づくりの深め方―「よい授業」をデザインするための5つのツボ,2020,ミネルヴァ書房/西野毅朗:発問を活かした授業づくり.看護教育59(5):420-426,2018を参考に作成]
深い学びにつなげる発問サイクル

 Kolbの経験学習モデル(図1参照)のプロセス②「振り返る」③「教訓を引き出す」において学生が経験した出来事を教材化し、発問を通して深い学びにつなげるのが「発問サイクル」(図8)です。

図8 学生の経験を教材化し、深い学びにつなげる発問サイクル
[Kolb DA:Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development,FT Press, 1984およびGibbs G: Learning by Doing:A Guide to Teaching and Learning Methods. Further Education Unit. Oxford Polytechnic,1988を参考に作成]

  教え手は、①描写②分析・評価③改善と発問サイクルを進めて行く中で、学生からの応答に傾聴と共感を示しながら、学生の経験と学びの言語化、概念化を励ましていきます。発問サイクルを意識した発問とその応答例は、図9のとおりです。

図9 発問サイクルを意識した発問と応答の例
効果的な発問のポイント

 効果的な発問は、深い学びを誘いますが、そのポイントは次(図10)に整理できます。ここでは、発問の「お・か・い・どき(お買い時)の法則」と名付けてみました。
 いずれも重要な要素ですが、とくに大事にしたいのは「どき」です。
 残念な教え手の発問後の受けとめは、たとえば質問に対して自分の考えを懸命に言語化しようとしている学生の発言を待つことができず、「分かる人は他にいるかな?」と他の学生に応答を求めることや、教え手の期待する応答でない場合に「何を言っているのかわからない」「答えて欲しいのはそれじゃない」と否定することなどです。
 このような教え手の反応を経験した学生は、自分の考えを他者に伝えることに怖じ気づいてしまうかもしれません。だからこそ、発問を受けて思考活動が十分に行えるようにする、また考えたことが間違いであってもそこから学べると感じられる教え手の雰囲気づくりと言葉かけが大切になります。看護教育学者の安酸は、これを「学習的雰囲気(learning climate)」8)と名付けています。

講義:臨地実習において学生の成長を導くかかわりとしての「フィードバック」

 フィードバック(図11)とは、効果的な行動を実現するために、自分の行動がもたらした結果をデータとして取り込み(フィードし)、次のより適切な行動のために活用するシステム」9)を指します。医学教育分野では、フィードバックは「ゴールや目的に到達するためにパフォーマンスの結果を伝える手段」10)と定義されています。
 学び手の学習意欲を高めるには、「目標との関連でどの程度進歩したかに関する情報提供が不可欠」11)とされ、情報提供として行われる教え手からの働きかけが「フィードバック」となります。

図10 効果的な発問のポイント
図11 フィードバックのポイントと検討すべき要素
[遠藤貴広:フィードバック.よくわかる教育評価(田中耕治編),p.58-59,2012,ミネルヴァ書房/小林忠資:第6章 フィードバックを与える.授業方法の基礎.看護教育実践シリーズ3(中井俊樹編),p.99-114,2017,医学書院を参考に作成]

 フィードバックの重要なポイントは、図11の①~④にお示しするとおりです。また、効果的なフィードバックを行うためには、図中で挙げた「要素」についても十分に検討しましょう。
 たとえば、患者に対する看護ケアの実施中に「ここはもっとこうすると良いよ」などと学生にフィードバックすることがありますが、その行為が看護ケアのスムーズな進行を妨げることも少なくありません。また受け持ち患者の目の前での訂正フィードバックを受けると患者からの信頼を失うのではないかと不安を感じる学生もいるでしょう。学生の学習面はもちろん、心理的側面からもこれらの要素を検討することは、効果的なフィードバックにつながります。

 教育活動としてのフィードバックは、2つのタイプがあります(図12)。それは、肯定的(ポジティブ)フィードバックと訂正(ネガティブ)フィードバックです。

図12 肯定的(ポジティブ)フィードバックと訂正(ネガティブ)フィードバック
 [古田 梨乃:学習者のモチベーションを上げる, または下げない教師のフィードバック.国際教養大学専門職大学院グローバル・コミュニケーション実践研究科日本語教育実践領域実習報告論文集7 :117-141,2016を参考に作成]

 肯定的フィードバックは、学び手のパフォーマンスに対して肯定的に反応することで、「肯定・是認(affirmation)」と「ほめ」の2つに分類されます。さらに、学び手の学習意欲としてのモチベーションが向上する「ほめ」として、吉田12)は、図12の吹き出し内のように6つを挙げています。
 訂正フィードバックは、学び手のパフォーマンスにおいて、十分に出来ていない点を伝えるもので、間違った考えや動作・行動を修正するために行います。このような性質上、肯定的フィードバックに比べて、学び手の学習意欲の低下に気をつける必要があります。学び手の学習意欲を下げない訂正フィードバックのポイントは図13のとおりです。また、伝え方の工夫として、以下の肯定的フィードバックと訂正フィードバックの組み合わせ「フィードバック・サンドイッチ(図13)」13)があります。

図13 学習意欲を下げない訂正フィードバックのポイントと伝え方
[Irons A: Enhancing Learning Through Formative Assessment and Feedback Abingdon: Routledge,2008/古田梨乃:学習者のモチベーションを上げる, または下げない教師のフィードバック.国際教養大学専門職大学院グローバル・コミュニケーション実践研究科日本語教育実践領域実習報告論文集7 :117-141,2016を参考に作成]

ケーススタディ:グループワーク「臨地実習における効果的な教え方とかかわり方」

 講義とショートケーススタディを通して発問やフィードバックについて知識を得たら、それを活用するケーススタディを行います。今回は、次のような事例をもとにグループワークを行いました。

まとめ

 今回は、第3回協働学習会のテーマ「臨地実習における効果的な教え方とかかわり方」についてご紹介させていただきました。学習会後の指導者の感想としては「発問、助言の方法に悩むことがあったが具体的なアプローチを学べた」「学生に発問やフィードバックを行うときに、今回の学びを念頭に置こうと思います」といった内容がありました。
 次回は、「臨地実習において学生が良質な学びを経験する学習環境」をテーマとした第4回協働学習会についてご紹介します。どうぞよろしくお願いいたします。
 なお、使用している講義用PPTをNurSHAREの「教材シェア」コーナーに保存しておりますので、皆様の施設で「協働学習会」やグループワークを実施する際、ご参考ください。

協働学習会についてのご質問・ご依頼(参加や見学、進め方、使用している事例教材の提供など)がございましたら、遠慮無く、以下のURLからご連絡ください。個別にメールにてご回答させて頂きます。(奥野)

https://forms.gle/fZE7SoLbSVnCj2oB9

 

1)    Kolb D:Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development,FT Press, 1984
2)    石井英真:教師の指導言.よくわかる授業論(田中耕治編),p.94-93,ミネルヴァ書房,2012.
3)    清水栄子:第4章 わかりやすく説明する.授業方法の基礎.看護教育実践シリーズ3(中井俊樹編),p.10-51,医学書院,2017.
4)    ベナー P:達人の技を言葉にすることの意味(早坂真佐子訳).ナーシングトゥディ 17(12):8-12,2002
5)    モース M:社会学と人類学II,弘文堂,1976
6)    石井英真:深い思考を促す発問の工夫.よくわかる授業論(田中耕治編), p.96-97,ミネルヴァ書房,2012.
7)    中井俊樹:第5章 発問を取り入れる.授業方法の基礎.看護教育実践シリーズ3(中井俊樹編),p.52-63,医学書院,2017
8)    安酸史子:ケアリングを取り入れた看護教育.日本保健医療行動科学会雑誌 31⑵:10-13,2016
9)    遠藤貴広:フィードバック.よくわかる授業論(田中耕治編),p.58-59,ミネルヴァ書房,2012
10)    Ende J : Feedback in Clinical Medical Education, JAMA 250:777-781, 1983
11)    鹿毛雅治:学習意欲の理論 -動機づけの教育心理学-,金子書房, 2013
12)    古田梨乃:学習者のモチベーションを上げる, または下げない教師のフィードバック,国際教養大学専門職大学院グローバル・コミュニケーション実践研究科日本語教育実践領域実習報告論文集 7:117-141, 2016
13)    Irons A: Enhancing Learning Through Formative Assessment and Feedback Abingdon: Routledge, 2008

奥野 信行

京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護教育研修センター センター長

おくの・のぶゆき/国立循環器病センターでの勤務を経て、兵庫県立看護大学大学院修士課程看護教育学専攻修了(看護学修士)、2003年に兵庫県立看護大学助手、ワシントン大学看護学部Visiting Scholar。2006年に園田学園女子大学講師を経て、京都橘大学看護学部准教授、2019年に神戸市看護大学大学院博士後期課程修了(看護学博士)。2020年より同大学および大学院の教授・2022年看護教育研修センター長を併任。研究テーマは、ICU看護師の看護実践能力とその発達に向けた教育プログラムの開発、実習指導者と看護教員の協働的な学び、臨床看護師の「看護師らしさ」の形成。著書に『看護実践のための根拠がわかる基礎看護技術』(共著、メヂカルフレンド社、2018)、『成人看護II 慢性期・回復期 第2版 (パーフェクト臨床実習ガイド)』(共著、照林社、2018)など。趣味はバイクいじりとツーリング。

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