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第6回協働学習会:臨地実習における学生指導シミュレーション

第6回協働学習会:臨地実習における学生指導シミュレーション

2024.07.03奥野 信行(京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護教育研修センター センター長)

★NurSHAREよりお知らせとお願い★

本企画記事でご紹介しております「協働学習会」をテーマとした無料オンラインセミナーを開催いたします。当日のセミナー内容の参考とさせていただきたく、「協働学習会」について知りたいこと、聞いてみたいことなどをこちらからぜひお聞かせください。(※アンケートは無記名です)

 

協働学習会プログラム(全6回)

  • 第1回協働学習会:「臨地実習と臨地実習に参加する学生の特徴」
  • 第2回協働学習会:「臨地実習における看護現象の教材化」
  • 第3回協働学習会:「臨地実習における効果的な教え方とかかわり方」
  • 第4回協働学習会:「臨地実習において学生が良質な学びを経験する学習環境」
  • 第5回協働学習会:「学生指導シミュレーションに向けた準備学習」
  • 第6回協働学習会:「臨地実習における学生指導シミュレーション」

第6回のねらい

 第6回協働学習会「学生指導シミュレーション」のねらいは、「看護学生の良質な学習経験をもたらす教育実践について考え、教授活動を展開するために必要な基本的知識・スキルの実践的理解を深めること」です。その他、学習目標とグループ構成などの概要は、前回の記事をご参照ください。

学生指導シミュレーションの実際

 今回ご紹介する学生指導シミュレーションでは、京都市立病院の病棟を使用させていただいています。図1に学生指導シミュレーション実施時の配置イメージ図を示します。

図1 第6回協働学習会「学生指導シミュレーション」の実施場所の配置図
※この図はイメージで実際の病棟の構造と異なります。

 学生指導シミュレーションの進め方の概要は、図2のとおりです。ブリーフィングからデブリーフィングまでの活動を2回行います。なお、進行役は、各グループのファシリテーターが担っています。ファシリテーターは、京都市立病院の実習指導者会を運営しているコアメンバーと本学の教員です。各グループに1名配置しています。

図2 第6回協働学習会「学生指導シミュレーション」の進め方の説明資料

1.オリエンテーション

 今回の学生指導シミュレーションでは、看護学生が「実習学生役」として協力してくれます。そのため、自己紹介とアイスブレイクで和んだ雰囲気作りを行います。心的負荷の軽減も踏まえて、学生は各グループに2名ずつ配置しています。
 雰囲気が和んだ所で、オリエンテーションを実施します。前回、学生指導シミュレーションの準備学習時にオリエンテーションを行っていますが、1ヵ月のブランクがあることと、参加者のレディネスを高めることをねらいとして、オリエンテーションの要綱をまとめた用紙(図3)に沿って改めて「目的」「目標」「シミュレーション・テーマ(課題)」「各メンバーの役割」「タイムスケジュール」などについて説明します。また、この時にシミュレーション①のベッドサイド場面、シミュレーション②の学生との振り返りの場面における、教え手役をそれぞれ決めておきます。

図3 臨地実習における学生指導シミュレーションのオリエンテーション用紙

 次に図4の進行表にもとづき、参加者に対して改めて「テーマ」「シミュレーション課題」「学生の状況」「受け持ち患者の状況」などを説明します。また、実際にシミュレーションを行う場(空間)を紹介し、必要な物品などに触れてもらいます。その後、前回まとめたブリーフィングシートを読み返しながら、既習事項を想起し、シミュレーションへのレディネスを高めてもらいます。

図4 学生指導シミュレーション進行表の一例

2.ブリーフィング

 教え手役は、学生が作成した行動計画表を受け取り、各グループで作成したブリーフィングシートとその記載内容をふまえて、指導内容や進め方を改めて構想し、準備してもらいます。行動計画表の様式は、臨地実習で学生が実際に使用している記録用紙(図5)を用いています。シミュレーション前日までに筆者が実習学生役の学生から受け取り、当日に印刷して参加者に配布しています。観察者役は自己の役割事項を確認し、患者役はベッドに臥床するなど、患者の状況に合わせた実演の準備を行います。学生は、援助計画に基づいて、看護ケアや観察に必要な物品の準備などを行います。

図5 学生が援助計画を記述するための行動計画表

 なお、学生に対しては、事前に学生指導シミュレーションに関するオリエンテーションを行っています。その際、このシミュレーションは学生の看護の知識やスキルを評価するものではなく、教える側である教員と指導者の学生指導に関する知識・スキルの獲得・向上を目指したものであるため、「先生たちの勉強に協力してあげるんだ」という気持ちで気軽に参加・協力してほしいということを伝えています。また、事前に援助計画を立案してくることについては、「事例と登場する学生の設定を読んで『自分だったらどうするかな』と考えながら、記述してくれたらいいよ」と伝えています。

3.シミュレーション

 ファシリテーターの「それでは、準備はいいですか? 始めて下さい」という合図をもとに学生指導シミュレーションを開始します。教え手役は、自らの構想を手がかりに学生の反応を観ながら学生指導を進めていきます。
 多くの場合、まず、最初に教え手役は、臨地実習のように「今回の援助の計画や留意点について教えてくれる?」と援助計画の発表を学生に求め、その過程において指導や助言を行います(図6)。教え手によっては、この時に学生の緊張を解き、円滑な看護ケアの実施と効果的な学習を意図した声かけやかかわりをします。
 その後、ベッドサイドにて、学生とともに受け持ち対象者とかかわります。図7の写真は、人工呼吸器装着中の術後患者に対する足浴ケアを指導する場面のシミュレーションの様子です。

図6   学生指導シミュレーションにおいて、学生の援助計画を聴き、アドバイスをしている様子
(中央手前が学生、右奥の白衣の男性が教え手役、その周りにいるのが観察者役)
図7 ベッドサイドにおける学生指導シミュレーションの様子
(左手前が教え手役,その右奥が学生)

  シミュレーションにおける参加者のおおよその動きは、次のとおりです。

シミュレーション①(ベッドサイド場面・図8) 

[教え手役①]
 1)学生の援助計画の発表を聴き、学生に対して指導や教育的なかかわりを行う。
 2)学生と一緒にベッドサイドに行き、学生指導を行う。
[教え手役②(観察者役)]
 シミュレーション②の「学生との振り返り場面の指導」に備え、教え手役①の指導場面を観察し、教材化できる現象やその方法について考える。
[学生役] 
 自ら立案した援助計画を参考に患者および教え手とかかわる。教え手の指導や教示、助言に応じた行動を取ったり、看護活動を展開したりする。
[観察者役]
 教え手の行動を観察し、メモを取る(教え手の教材化、教育方法、指導スキルなどで「良い、参考にしたいと思った所」「こうするともっと良くなると思った所」、これらに付随する学生の行動・反応など)。
[患者役]
 シナリオに示された患者の状況設定に合わせた実演を行う。

図8 産後3日目の褥婦の観察に関する学生指導シミュレーションの様子
(左手前が教え手役,その右奥が学生) 
シミュレーション②(学生との振り返り場面・図9)

[教え手役②]
 学生と行った看護やケアについての振り返りを行う。
[教え手役①] 
 観察者役となり、学生との振り返り場面における教え手役②の指導や教育的かかわりを観察し、「良い、参考にしたいと思った所」「こうするともっと良くなると思った所」をメモする。
[学生役]
 教え手役②とかかわりながら、シミュレーション①において展開した自己の看護活動についての振り返りを行う。
[観察者役]
 シミュレーション①と同様に学生との振り返りにおける教え手の行動を観察し、メモを取る。
[患者役]
 可能であれば、[観察者役]と同様に教え手役②の学生との振り返り場面の指導やかかわりを観察し、「良い、参考にしたいと思った所」「こうするともっと良くなると思った所」をメモする。

図9 学生との振り返り場面の学生指導シミュレーションの様子
(左手前が学生,その右奥が教え手役) 

4.ショートリフレクション

 ショートリフレクションでは、展開された学生指導に関する振り返り(リフレクション)をメンバー各自で行います。教育におけるリフレクションとは、自己の教育実践の想起・振り返りを行い、自己の行為や考え方を吟味し、その意図・意味に自覚的になることであり、端的に言うと学生に対する自己の教育実践における経験を客観的に振り返ることを指します。その際、次の記録用紙(図10)を使用しています。

図10 ショートリフレクションで使用している記録用紙 

 教え手役は、今回の自己の学生指導において印象的な、あるいは重要なエピソードや現象、場面を2つ挙げ、振り返りを行っていきます。
 その際、以下の6つのリフレクションプロセスの事項について自由に記述します。

①その場面においてキーとなった自己の行為は?
②その行為の意図や考えは?
③その行為の結果は?
④その時の感情は?
⑤その行為の自己評価は?
⑥同じような場面でどうするか?

 観察者役のメンバーは、観察を通して捉えた教え手役の指導方法やかかわりについて「良い、参考にしたいと思った所」「こうするともっと良くなると思った所」を挙げ、その理由と合わせて記述します。学生役の看護学生は、自己の学びのキーとなった場面を2つ挙げ、その理由と合わせて記述します。

5.デブリーフィング

 デブリーフィングでは、シミュレーションで展開された学生指導について、メンバー間で振り返りを行います。さらに、そこから生み出された教訓をもとに、臨地実習における学生指導に関する「自分たちのセオリー」をつくります。その際、これまでの学習会で学んだこと(教材化や発問などの教育技法、学習環境作りなど)についても想起を促し、行為や考えの意味づけを行います。
 各グループのファシリテーターは、デブリーフィングにおいてメンバー間のディスカッションが効果的に進むようにサポートします。また、メンバーの思考活動が促され、リフレクションが深まるように、時には、「もし、○○だったらどうしていましたか?」「学生はスムーズにできていたのでしっかり褒めた、ということでしたが、もし、そうでなかったらどう学生とかかわっていましたか?」と刺激となる発問をメンバー全体にすることもあります。

 基本的なデブリーフィングの流れは、次のとおりです。なお、デブリーフィングに際しては、グループワークの決め事として毎回、伝えている①否定しないでよく聴く②全員参加・必ず話す③楽しく・笑う④遠慮しない、言うべきことを言う⑤他者のアイデアに乗っかる⑥プラス思考でいくということを大切にしてほしいことを改めて伝えます。

1.参加者間での振り返り

1)教え手役のリフレクションの発表
教え手役の教員や指導者に、記述した記録用紙を活用して、自己の学生指導シミュレーションにおいて印象的な、あるいは重要なエピソードや現象、場面などを2つ挙げ、行為の意図、手応え、自己評価などを発表してもらいます。それに対して観察者役は、自分の印象や考えなどについてフィードバックします。学生からも、考えや思いをフィードバックします。また、教え手役の教員・指導者の教育実践や、それに対する意図や考え、思いなどを教材として、参加者間で、よりよい学生指導についてディスカッションします。
具体例として、人工呼吸器装着中の術後患者に対する足浴の指導場面をテーマとしたシミュレーションにおいて、私が教え手役になった時のエピソードについてご紹介します。図11をご覧ください。

図11 人工呼吸器装着中の術後患者に足浴をする場面における
学生指導シミュレーションのエピソード

 このエピソードについて私は、デブリーフィングにおいて図12右上の(1)教え手役(教員a)の①~④のとおりに話しました。しかし、その後の観察者役とのディスカッションや学生からのフィードバックから、看護ケア中の学生指導において、私は患者の安全よりも学生の教育や援助の達成に重点を置き過ぎる傾向があることに改めて気づくことができました。さらに、そのような自己の傾向を自覚し、患者の安全を第一に考えた実習指導を強く意識するようになりました。

図12 デブリーフィングにおけるディスカッションの様子
(発言者の前の()囲み数字は話した順番)

2)観察者役からの発表
 観察者役の教員・指導者から、教え手役の指導方法やかかわりについて「良い、参考にしたいと思った所」「こうするともっと良くなると思った所」を伝えてもらいます。
3)実習学生役からの発表
 教え手役からの指導を受けた学生に、自己の学びのキーとなった指導やかかわりの場面について、その理由も含めて語ってもらいます。語られた内容を教材として、効果的な学生指導についてメンバー間でディスカッションします。たとえば、学生からのフィードバックに対して、教え手役になった指導者Aさんは、図13①②のように述べていました。

図13 デブリーフィングにおける学生からのフィードバックの様子
(発言者の前の()囲み数字は話した順番)

 臨地実習において、毎日当たり前のように学生が発表する援助計画には、学生なりの患者に対する思いや考え、大切にしたい看護が自分の言葉として表現されており、それを頭ごなしに「違う」と教え手から退けられることは、患者に対する自分の気持ちや看護観を否定される体験になると言えるのではないかと指導者は意味づけていました。また、このグループの指導者と教員は、日々の援助計画の発表において学生の言葉一つ一つに耳を傾け、まずは受けとめることの大切さに気づきました。

2.参加者間で教訓を引き出し、自分たちのセオリーをつくる

 以上のようなデブリーフィングにおける振り返りとディスカッションを踏まえて、ホワイトボードに教訓となることをまとめ(図14)、次からの学生指導をどうするべきか考えていきます。こうした教訓や学びを2回目のシミュレーション実施時、あるいは自己の実習指導において活かすことになります。
 このグループでは、「学生の援助計画の発表時は、学生の発する言葉の一つ一つに耳を傾け、考えを受けとめた上で必要な助言をする」ということを教訓から引き出した「自分たちのセオリー」としました。
 このような教員と指導者による臨地実習における学生指導についての「自分たちのセオリーづくり」は、教員と指導者各自が、これまでの実習指導を客観的に振り返り、見直すことであったり、新たな気づきや理解につながります。

図14 デブリーフィングにおけるホワイトボードへの書き込み

まとめ

 今回は、「臨地実習における学生指導シミュレーション」をテーマとした第6回協働学習会の実際ついて、ご紹介しました。2023年の実施では、自施設にて学生指導シミュレーションを取り入れた研修を検討している病院から見学にお越し下さった方もいらっしゃいました。また、協働学習会の参加者と学生からは以下のような感想がありました。

参加者(教員・指導者)の感想
  • シミュレーションを通して自分の思考や行動の振り返りができて、何気なくしていたこともデブリーフィングで意味を見いだしてもらえたので、学びになりました。
  • 普段の学生さんへの指導方法を実際に振り返って意見交換することで、自身の行動を見直すことができた。またどうすれば指導力が向上するのかを考える場になり、楽しい時間でした。
  • 病棟指導者、学生、教員の考えや指導観が共有できて、お互いに何を求めているのかも知れて、今後の指導に活かせる有益な時間でした。
  • 学生、教員、指導者の考えを同時に聞き、よりよい実習にしていくためにどうしていけばよいかを具体的に考える機会になり、今までの自分の指導で困っていたことの解決につながりました。 
  • シミュレーションは臨場感があり、他の指導者や教員の学生とのかかわりを観ることが出来た。自分に取り入れられそうなことも見つかり、自分が足りてない部分やいろんな指導方法を学ぶことができ、自分のレベルアップのためにも良い機会になりました。
学生の感想
  • 実習の時には言えない思いを伝えることができ、それをふまえて指導者さんや先生が一緒に考えてくださったのはすごく嬉しかった。臨床の場で学ぶ意味を再確認することができた。
  • 学生と患者の信頼関係づくりなど、指導者さんや教員がたくさんのことに留意しながら学生とかかわってくださっていることや、よりよい実習になるように発問の仕方や指導方法などを考えてくださっているのを実感し、ありがたいと感じました。
  • 今回のシミュレーションを通して、先生や、指導者さんがどのように考えて自分たち学生と関わるようにしているか、思いを聞くことができ、誤解に気づいたり、新たな気づきがありました。自分のためにもなるシミュレーションに参加できてとてもよかったです。
  • シミュレーションを通して、今後のかかわりについてもっとこうしていこう!といった考えができたので、参加できてよかった。

 これまでNurSHAREにおいて、7回にわたって指導者と教員がよりよい看護学実習の実現に向けて語り合い、学び合うことをねがいとした「協働学習会」についてご紹介しました。この記事が、臨地実習において看護の教育者として学生指導を行う際の手がかりになれば幸いです。また、協働学習会を「自分たちの施設でもやってみよう」と思っていただけるようなことがあればとてもうれしいです。
 次回は最終回として、実際に協働学習会に参加した臨床指導者に、臨床側から見た協働学習会への評価や感想について、記事を寄せていただきます。ぜひご覧ください。

協働学習会についてのご質問・ご依頼(参加や見学、進め方、使用している事例教材の提供など)がございましたら、遠慮無く、以下のURLからご連絡ください。個別にメールにてご回答させて頂きます。(奥野)

https://forms.gle/fZE7SoLbSVnCj2oB9

奥野 信行

京都橘大学看護学部・大学院看護学研究科 教授/看護教育研修センター センター長

おくの・のぶゆき/国立循環器病センターでの勤務を経て、兵庫県立看護大学大学院修士課程看護教育学専攻修了(看護学修士)、2003年に兵庫県立看護大学助手、ワシントン大学看護学部Visiting Scholar。2006年に園田学園女子大学講師を経て、京都橘大学看護学部准教授、2019年に神戸市看護大学大学院博士後期課程修了(看護学博士)。2020年より同大学および大学院の教授・2022年看護教育研修センター長を併任。研究テーマは、ICU看護師の看護実践能力とその発達に向けた教育プログラムの開発、実習指導者と看護教員の協働的な学び、臨床看護師の「看護師らしさ」の形成。著書に『看護実践のための根拠がわかる基礎看護技術』(共著、メヂカルフレンド社、2018)、『成人看護II 慢性期・回復期 第2版 (パーフェクト臨床実習ガイド)』(共著、照林社、2018)など。趣味はバイクいじりとツーリング。

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