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第3回:地域特性を活かした「地域・在宅看護論」の取り組み

第3回:地域特性を活かした「地域・在宅看護論」の取り組み

2022.01.12松本 啓子(香川大学医学部看護学科 教授)

指定規則の改正を受けた新カリキュラムが2022年4月にスタートを迎える。各看護系大学においては、どのような看護人材の育成が必要とされているのか、自学の特色は何かを考え、悩まれたことと思う。そこで本企画では、各校がどのような意図で、どのようにカリキュラムを編成したのか、執筆の先生の専門領域の特性も交えながらご紹介いただいた。既に新カリキュラムは実施を待つ段階であると思うが、今後の実践・評価・改善に本企画が参考になれば幸いである。

企画:野崎 真奈美(順天堂大学)

看護基礎教育において在宅看護論が必要とされる背景

 在宅看護論は、第3次指定規則改正(1996年)で看護基礎教育に位置付けられた比較的新しい科目である。在宅看護は、疾病や障害、加齢に伴う変化などを有するすべての人が自宅やそれに準じた環境で生活できるように看護実践を行うことである。患者や療養者を「人々」と捉え直し、さらに病院か施設か、自宅かそれ以外かと分けて捉えるのではなく、本当の意味での患者中心の看護を目指す目的がここにはある。
 高齢化の進展を受けて2000年に介護保険制度が創設され、支援が必要としながらも地域で暮らす人が増加することから、国は地域包括ケアシステムの考えを打ち出した。地域包括ケアシステムの構築へ向けて、地域医療を充実させる必要があることから、在宅看護の役割は大きくなった。また、病院等の施設から在宅療養への在宅療養移行支援の重要性も問われるようになり、場所を選ばないケアの質保証に向けて学びを深めることが求められるようになった。
 さらには、地域で暮らす療養者を広く捉え、従来の第1次予防の視点から、第2次予防、第3次予防の視点を追加して、公衆衛生学的視点と臨床看護学的視点とが連携した学問として地域・在宅看護論の重要性が問われているところである。

改正指定規則における「地域・在宅看護論」の改正点

 第1回でも述べたように、統合分野にあった「在宅看護論」は、「地域・在宅看護論」へと名称が変わり、「基礎看護学」の次に位置付けられた。また、対象者および対象者の療養の場の拡大を踏まえ、3年課程では、現行の4単位から2単位増の6単位となった。
 「地域・在宅看護論」が基礎看護学の次に位置付けられたことからわかるように、人々が暮らしている日常を知ることから学び始め、そのうえでの疾患、入院、そして暮らしを見つめてほしいという意図があると考えられる。そして、国が推し進める地域包括ケアシステムの構築を目指すうえで、地域で活躍する在宅看護論をより強化させていくというメッセージとして、「地域・在宅看護論」に名称を変えた意味は大きい。
 われわれ領域担当者は、「地域・在宅看護論」として、現行の「在宅看護論」より増えた2単位を、様々な人々の発達課題や暮らしと重ね合わせ、制度や地域特性を活かした看護実践を行える看護師の養成につなげなければならない。

本学における「地域・在宅看護論」のカリキュラム

 ここで、本学での「地域・在宅看護論」における新たな取り組みを提示しておきたい。地域・在宅看護論の設定において、従来の地域看護学講座(保健師養成課程)と在宅看護学講座が共同して新たな地域・在宅看護論の構想を練った。そして、新科目「さぬきの暮らしと健康実習」と「さぬき地域包括ケア論」を設定した。

(1)さぬきの暮らしと健康実習

 「さぬきの暮らしと健康実習」(実習展開:地域看護学講座(芳我ちより)、在宅看護学講座(松本啓子)が中心となり作成した。文末の資料参照)は1年次前期の1単位科目(9月実施)として配置し、後述の4年次の科目「さぬき地域包括ケア論」につながる実習科目とした。実習目的は、自分たちの暮らしを取り巻く環境を観察し、生活文化に触れ、人々とのコミュニケーションを通して、暮らしと健康を結び付けて考える視点を学ぶことである。なお、フィールドワークとして特定地域の気候・風土・地理的条件・交通・人口・産業など、地域の生活環境について、自身の生活環境と比較しながら実地に調べることを実習内容に含んでいる。
 具体的には、実習での経験をもとに、教員および学生間討議を通して地域の特性理解を深め、そこで暮らす人々の健康への影響を考える。また、介護予防事業である「通いの場」に出向き、そこで出会う人々の自身の健康への取り組みや認識を見聞し、人を対象にケアを行う看護職としての基本となる態度を育成するとともに、健康の維持・増進に向けた地域包括ケアやそのシステムの実際や今後の課題を考察することを計画している。
 


(2)さぬき地域包括ケア論

 「さぬき地域包括ケア論」(講義展開:地域看護学講座(芳我ちより)が中心に構想を練り、在宅看護学講座(松本啓子)等とともに実施する予定である。)は4年次前期の1単位科目として配置しており、4年間の学びの集大成として地域・在宅看護論を包括的に学び、経験と知識を統合させる科目とした。最期までその人らしい生活を支えるために健康寿命の延伸を目指した施策の概要および支援の実際について,老年期にある人たちの居場所づくり,生きがいづくりを題材として学ぶ。
 具体的な講義展開は、病院完結型から地域継続支援型へと変わりつつある中、地域包括ケアシステムが求められる背景を踏まえ、地域包括ケアシステムの基本理念、意義、目的、基本的な構成要素について理解する。関係機関や関係多職種が連携・協働することによって医療・介護・予防(保健)・福祉が一体的に提供できる仕組みがあること並びにその仕組みがあることで住み慣れた地域で自分らしく生活ができることについて理解を深める。また、香川におけるシステムの実際から、多角的な地域包括ケアシステムのあり様を学習する。授業形態は、講義・グループワークである。

「地域・在宅看護論」の実施に向けて

 「地域・在宅看護論」の新たな取り組みである新設定科目「さぬきの暮らしと健康実習」と「さぬき地域包括ケア論」では、従来の地域看護学講座(保健師養成課程)と在宅看護学講座が共に連携しながら、講義・演習・実習に取り組む予定である。1年次に「さぬきの暮らしと健康実習」を通して、地域で暮らす人々の生活への理解を深め、人々の暮らしをから健康について考えることを学ぶ。2年次・3年次では医療・看護の基盤となる専門的な学問を講義・演習・実習を通して修得する。
 そして、4年次に「さぬき地域包括ケア論」として、それまでの学びを統合させ、地域で暮らす人々をあらためて健康の視点を含めて捉える学びを行う。これら一連の流れの中で地域の人々の日常から学び始めて、地域の人々の暮らしをヘルスケアの視点から捉えられる学習を可能とする。学生にとってよりストーリー性の高い学びの展開は、学習効果を効率よく高めると考える。

松本 啓子

香川大学医学部看護学科 教授

まつもと・けいこ/岡山県立大学大学院保健福祉学研究科保健福祉科学専攻看護学領域博士後期課程を修了(博士・保健学)。岡山県立短期大学看護科非常勤講師、川崎医療短期大学第一看護科講師、広島文化学園大学大学院看護学研究科老人CNS課程非常勤講師、川崎医療福祉大学医療福祉学部保健看護学科/川崎医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健看護学専攻 教授を経て、2019年より現職。著書は『NiCE老年看護学概論 改訂第3版』(2020、南江堂)、『NiCE家族看護学 改訂第3版』(2022年予定、同)、『根拠がわかる疾患別看護過程 改訂第2版』(2021、同)[以上分担執筆]など多数。趣味は茶道(裏千家)で、茶名は宗啓。

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