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第2回:泉佐野泉南医師会看護専門学校の実践 ―地域の実際や展望、誇りを学ぶ「泉州地域学」

第2回:泉佐野泉南医師会看護専門学校の実践 ―地域の実際や展望、誇りを学ぶ「泉州地域学」

2024.04.30後藤 智子(泉佐野泉南医師会看護専門学校 実習調整者)

はじめに

 本校は、一般社団法人泉佐野泉南医師会を設置主体とする、1学年40名、3年課程の看護専門学校です。「地域医療への貢献と優しく愛のある看護師の育成を使命とする」ことを教育理念として、主に大阪府の南部(図1)に位置する、3市3町(泉佐野市・泉南市・阪南市・熊取町・田尻町・岬町)で活躍する看護師を養成しています(本校ホームページ「教育理念」参照 )。卒業生が活躍する3市3町は、面積約210㎢、人口約28万人、高齢化率23%~40%(2020年国勢調査)であり、例にもれず少子高齢化が進展する地域です。地域医療構想の実現や地域包括ケアシステム構築の推進、地域共生社会の実現に向けて、地域の人々の未来の健康を視野に入れた教育が求められます。看護基礎教育においては、従来の医療機関に対応できる看護師の育成にとどまらず、多様な場において、地域や対象の多様性・複雑性に応じた看護を創造する能力をもつ看護師の育成が求められます。

図1 地域のシンボルのひとつである関西国際空港

 このような背景の中、本校は保健師助産師看護師学校養成所指定規則第5次カリキュラム改正を機に、令和4年から地域密着に特化したカリキュラムに変更しました。また、全面的にコンセプトに基づく学修(CBL:Concept Base Learning)を導入しています(本校ホームページ「教育課程」参照 )。1年次4月に、泉州地域の伝統、産業、文化を支えるプロフェッショナルの方々に泉州地域における取り組みの実際や展望について語っていただくことを通じて地域の誇りを学ぶ、「泉州地域学」を開講しました。本稿では、「泉州地域学」の実践について紹介します。

地域住民と連携した教育実践の紹介

「泉州地域学」の概要

 「泉州地域学」は全8回の授業です。教員による初回の全体オリエンテーション以降は、地元の「NPO法人みんなのまちづくり隊」代表理事兼まちづくり隊長でもある建築士、泉佐野警察署の警察官、泉州地域名産品の水なす漬物店経営者や「泉州タオル」を扱う会社の代表者、泉州弁の語り部でもある郷土史家、関西空港少年団の団長、だんぢり愛好家の福祉サービス提供会社代表からの講義で構成しました。学生は授業ごとに学習内容をレポートにまとめ、講師からコメントをいただき、教員から評価を受けました。また、講義だけではなく、泉州タオル工場の見学や、グループ対抗で泉州タオルデザインのコンペを行い、人気投票1位のグループはデザインから発注までタオル工場の担当者と話し合い本校オリジナルタオル(図2)を作成するという、産学連携プロジェクト学習を実施しました。完成したタオルはオープンキャンパス来校者などにお渡ししています(詳細は冊子参照 )。

図2 コンペで選ばれた学生グループのデザインが採用されたオリジナルタオル

地域連携授業の企画から評価まで

 このような企画が実現できた要因としては、従来から地域の専門職を外部講師にお招きしたり、年間6時間のボランティア単位を学生に課しているなど、地域の専門職の方々との交流があったことが挙げられます。プロジェクトを企画する際に、誰かに相談すると別の誰かにつながるといった、つながりがつながりを生む循環は、本校の教育理念の実現の一環であり、地域特性でもあるかもしれません。本科目もグループホーム経営者で看護師である外部講師に相談したことから、地域活性化を目指したNPO活動に携わる建築士(まちづくり隊長)をご紹介いただき、地域住民と共に作り上げました。科目としての品質を保つための工夫点として、本校の教育理念や方針、科目の意図とまちづくり隊長の地域に対する思い(熱意)について摺り合わせる話し合いのプロセスを重視しました。その結果、NPO活動でつながりがあり、地域で活躍する6名のプロフェッショナルをご紹介いただき、「泉州地域学」の講師陣が決定しました。まちづくり隊長は、全講義に参加し、ウェブアプリを利用して各授業内容の講師間での共有や本校との連絡調整、学生レポート対応など、本連携教育のコーディネート全般を担ってくださいました。教員は一緒に授業に入り、講師と学生をつなぐファシリテーターとしての役割を果たしました。

1)授業のコンセプトと実施内容

 泉州地域学で扱うコンセプトは「文化と多様性」です。第1回は事前課題として、電子教科書を使用して「文化とは何か」「看護師は、なぜ患者の文化を理解する必要があるのか?」「日本全体からみて、泉州地域にはどのような特徴があるのか?」についての調べ学習を行いました。第2回以降は事後課題として「講義で得た知識」「その内容について調べたこと(情報源を明確にして、読み手がその情報に到達できるよう記載する)」「得た知識を看護にどのように活用できるか」「泉州地域にないものは何か?」「新しく泉州地域の6次産業*を考え出すとしたら、どんな6次産業の可能性があるか?」などのテーマについてのレポートに取り組みました。

*6次産業:農業や水産業など、1次産業に該当する企業が加工(2次産業)や流通販売(3次産業)にも業務展開している経営形態を表す。1次、2次、3次を併せて”6次”とされている。
2)授業評価

 学生の授業評価は、「自身の授業への取り組み」「教員の授業の進め方」「授業の内容」全項目において9割以上が高評価でした。講師の先生方からは「人のためになりたいと思う貴重な人材で、学生が一生懸命行うプロジェクトは涙が出るほど感動する」「まちづくりに関するNPO活動への学生の認知度を上げることができた」など、本校の教育に共鳴したコメントをいただきました。

3)地域連携授業によって得られた、学生の成長や教員の学び

 入学直後に開始する本科目は、学生間の親睦を図りながら地場産業に親しむことがねらいです。多くの学生がこのプロジェクト学習を楽しみ、昼休みや放課後も集まって企画の話し合いや作業を進めていました。入学直後のプロジェクト学習は仲間づくりにも役立っています。受講後の学生の声として、「内容を看護につなげて行く事が難しいと感じた」「自分が住んでいる地域なのに知らない事がたくさんあった」「タオルデザインができたのが楽しかった」「チームワークの大切さに気づきました」「タオル作成もチームメイトとの絆が深まりとてもいい経験になりました」などが挙がり、地域の理解と学生間の関係構築を促す機会になりました。

 教員からは、地域でプロとして活躍されている講師の熱い思いに触れ「看護師だけが患者中心に考えようとしているのではない。看護や医療は患者の健康回復のために活動しているが、それぞれのプロフェッショナルがそれぞれの立場で人々の健康や幸福に貢献しようとしている。同じ方向性を見ている仲間としての意識が生まれた。別の道のプロの方々が患者として私たちの前に現れるということについて、看護師は、十分患者をリスペクトできているだろうか?と自問する機会を得た」などの声が聞かれ、地域で暮らす人々のプロフェッショナリズムへの敬意が地域共生社会につながるという示唆を得ました。

「泉州地域学」を振り返って

課題点・改善点

 調整に要する時間と科目のスケジュールに追われ、学生への対応マニュアルの用意などは行わずに実践しましたが、本校では、まちづくり隊長に講義の趣旨などを深く理解していただき、講師を選択していただいたので、幸いトラブルなどはありませんでした。
 しかし課題点として、学生は看護や医療について学ぼうとして入学しており、泉州地域について学ぶというモチベーションは低い状態でスタートしていました。文化的背景について学習することが、なぜ看護とつながるのかを伝えることは難しい点ですが、後々国際看護の科目などで異文化を学ぶ時に効果が出てくるのではないかと考えます。
 また改善点として、講義回数を減らしてグループワークなどで情報を整理する時間を確保することも考えています。

地域・文化の学びの継続

 地域連携授業は本科目だけでなく、1年次5月に開講する「家族・泉州文化と多様性」の科目では「家族」をコンセプトに扱い、泉州地域で暮らす家族と健康についてのフィールドワークに続きます。これらの体験や知識を基に7月に「暮らしを知る実習」として訪問看護ステーション、地域包括支援センターの実習に臨みます。また、2月には海外研修を行い、多文化と触れる機会を通して文化と看護について学ぶ機会を作っています。加えて2年次には「泉州地域健康論」として、地域で暮らす人々のウェルビーイングについて学ぶプロジェクト学習を行います。健康を支える対象者は、たとえ出会いは病院であっても、地域で暮らす人々であると位置づけることにより、地域包括ケアシステムや地域共生社会の中に私たちが存在することを理解できるよう意図してカリキュラムを構成しています。

有名なだんぢり祭りの他にも、地域ではさまざまな祭りが行われる

おわりに

 本校では、教育理念からカリキュラムの全体像を俯瞰し、地域と連携する科目立てを考えました。そして、各科目の計画では地域の方々と「目指す地域像」についての細やかな思いの共有を大切にしています。
 おそらくみなさまにも何らかのちょっとした地域の人たちとのつながりがあるのではないでしょうか。地域連携教育を実施するにあたって大切なのは、まずは誰かに何かを発信してみることだと思います。また、地域の皆さんが望んでおられるのは、継続性です。計画にあたっては、最初から継続可能な取り組み方法について検討を重ねることが重要だと思います。

参考文献
1)厚生労働省:地域医療構想,〔https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.html〕(最終確認:2024年3月8日)
2)厚生労働省:地域包括ケアシステム,〔mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/〕(最終確認:2024年3月8日)
3)厚生労働省:地域共生社会のポータルサイト,〔https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/〕(最終確認:2024年3月8日)
4)大阪府:大阪府医療構想.2023年10月23日,〔https://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/keikaku/〕(最終確認:2024年3月8日)
5)西田好江、上野雅子、後藤智子:コンセプトにもとづくカリキュラム構築への歩み.看護教育63(2):172-180,2022

後藤 智子

泉佐野泉南医師会看護専門学校 実習調整者

ごとう・ともこ/近畿大学附属看護専門学校を卒業後、近畿大学病院中央手術部、脳神経外科病棟で急性期の命を支える看護実践に取り組み、チーム医療が回復を促進することを学ぶ。急性期を脱した患者のその後を支える在宅ケアに関心を持ち、介護老人保健施設にてケアプランセンターを立ち上げ、在宅ケアに出会う。また、訪問看護の経験から退院支援や意思決定支援の重要性を痛感し、近畿大学奈良病院では多様な混合病棟に勤務。2016年大阪府立大学大学院看護学研究科修了、復職後は患者支援センターに勤務。18年に在宅看護専門看護師の認定を受ける。30年の臨床経験を経て、泉佐野泉南医師会看護専門学校に専任教員として着任、22年4月より現職。趣味は旅行。

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