これまでの連載では、人の心身の発達と成長を軸にした知性と社会性の発展を紹介してきました。第10回に紹介した通り、25歳くらいまで脳の前頭前皮質(前頭前野)の機能は発達していきます。一方で、人間の学習機能はすべてにおいて有益に機能するとは限りません。
自分がもっている記憶にかえって苦しい気持ちになったり、大人になっても対応できない事柄に希望を見失ってしまったりすることも多くあります。大人は自ら意思決定もできるし,自分の欲求にしたがって行動できているように見えるのですが,実際には過去の記憶や,周囲の人々の考え・助言に振り回されることが多くなる時期でもあるのです。
第11回からは、身体面でも法制度の面でも成人として存在する大人の知的成熟とメンタルヘルスについて記述していきます。
脳の多彩な役割
脳の役割は、全身から情報を集めて、何をするか指令を出すことです。目で見たもの、耳で聞いたこと、皮膚などで感じたことなどの情報を脳に送って、その情報を脳で解釈して対応を決めていきます。筋肉を使って体を動かしたい時には運動神経を経由して体に運動のための指令を出しますし、暑さや寒さを感じた時には体の代謝速度を変えて発汗させたり体を温めたりします。伝え方もいくつかあって、交感神経や副交感神経を使って全身の臓器に一斉メールのような指令を出したり、ホルモンを使ったメッセージを送ったりします。
いろいろ書きましたが、つまり脳は、全身に指令を出し続ける役割がありますし、その役割は意識して行われるもの(随意、任意のもの)と意識しないまま行われるもの(不随意、無意識的なもの)があります。さらに、先ほど書いた通り、脳は視覚や聴覚、体性感覚などの感覚器で得た情報を集約する機能もありますから、実に多彩な役割を持っていることになります。