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第11回:選択する自分と自己調整力

第11回:選択する自分と自己調整力

2022.06.28安保 寛明(山形県立保健医療大学 教授)

 これまでの連載では、人の心身の発達と成長を軸にした知性と社会性の発展を紹介してきました。第10回に紹介した通り、25歳くらいまで脳の前頭前皮質(前頭前野)の機能は発達していきます。一方で、人間の学習機能はすべてにおいて有益に機能するとは限りません。
 自分がもっている記憶にかえって苦しい気持ちになったり、大人になっても対応できない事柄に希望を見失ってしまったりすることも多くあります。大人は自ら意思決定もできるし,自分の欲求にしたがって行動できているように見えるのですが,実際には過去の記憶や,周囲の人々の考え・助言に振り回されることが多くなる時期でもあるのです。
 第11回からは、身体面でも法制度の面でも成人として存在する大人の知的成熟とメンタルヘルスについて記述していきます。

 

脳の多彩な役割

 脳の役割は、全身から情報を集めて、何をするか指令を出すことです。目で見たもの、耳で聞いたこと、皮膚などで感じたことなどの情報を脳に送って、その情報を脳で解釈して対応を決めていきます。筋肉を使って体を動かしたい時には運動神経を経由して体に運動のための指令を出しますし、暑さや寒さを感じた時には体の代謝速度を変えて発汗させたり体を温めたりします。伝え方もいくつかあって、交感神経や副交感神経を使って全身の臓器に一斉メールのような指令を出したり、ホルモンを使ったメッセージを送ったりします。

 いろいろ書きましたが、つまり脳は、全身に指令を出し続ける役割がありますし、その役割は意識して行われるもの(随意、任意のもの)と意識しないまま行われるもの(不随意、無意識的なもの)があります。さらに、先ほど書いた通り、脳は視覚や聴覚、体性感覚などの感覚器で得た情報を集約する機能もありますから、実に多彩な役割を持っていることになります。

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安保 寛明

山形県立保健医療大学 教授

あんぼ・ひろあき/東京大学医学部健康科学・看護学科卒業、同医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。岩手県立大学助手、東北福祉大学講師、岩手晴和病院(現・未来の風せいわ病院)社会復帰支援室長、これからの暮らし支援部副部長を経て2015年より現所属、2019年より現職。日本精神保健看護学会理事長、日本精神障害者リハビリテーション学会理事。著書は『コンコーダンス―患者の気持ちに寄り添うためのスキル21』(2010、医学書院)[共著]、『看護診断のためのよくわかる中範囲理論 第3版』(2021、学研メディカル秀潤社)[分担執筆]など。趣味は家族団らん。

企画連載

人間の知的発達と精神保健

長年にわたり精神保健に携わってきた筆者が、人の精神の発達過程や、身体と脳の関係、脳と精神の関係、今日的な精神保健の課題である「依存症」や「自傷他害」、職場における心理学、「問題行動」や「迷惑行為」といった社会問題となる行為など、多様なテーマについてわかりやすくひも解いていきます。

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