看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

第4回 循環器疾患②:心不全

第4回 循環器疾患②:心不全

2022.01.28フラピエ かおり(株式会社Nurse Style Biz 代表)

本連載をご活用いただくために

 この連載では、看護師国家試験問題のなかでも長文で出題され、学生にとって難度の高い「Aさん問題」を題材として、問題を解くにあたり何に着目させ、どう理解させ、そして正答へとたどりつかせるのかを、学生(看護専門学校2年生のさくらさん、看護大学3年生のあおいさん)との対話をとおしてご紹介します。日々の指導のヒントとしてお役立てくだされば幸いです。

フラピエ:さて2人とも、今回も元気に始めましょう!
さくらあおい:はーいっ !(^^)!

次の文を読み、問1、問2に答えよ。

Aさん(44歳、男性)は3年前に僧帽弁狭窄症・閉鎖不全と診断され、利尿薬とジギタリスを服用していた。趣味はテニスだったが、最近平らな道を歩いていても動悸や息切れがしてきたため入院した。身長162cm。体重58kg。心拍数100/分、脈拍数は橈骨動脈で86/分。血圧100/66mmHg。呼吸困難、下腿の浮腫、仰臥位で頸静脈の怒張が観察された。
 

問1 入院時の心電図はどれか。

 

問2 精密検査の結果、手術が必要と診断され、入院1週後、僧帽弁置換術を受けた。術後1日、脈拍数122/分、血圧80/56mmHg、中心静脈圧25cmH2O、動脈血酸素分圧(PaO2)96mmHg。尿量30mL/時。胸部エックス線撮影で心拡大の増強がみられた。
   考えられるものを2つ選べ。

1.無気肺
2.肺塞栓症
3.心タンポナーデ
4.低心拍出量症候群
5.気胸
 

[第90回(2001年)PM13、14 一部改変]

さくら:今回も循環器の問題ですね。難しい言葉がたくさん出てきたなあ…。
あおい:本当だ…。しかも問2は5肢択二になってる…(*_*)
フラピエ:あらあら、もう元気をなくしてしまいそう…? 今回の問題は、心不全について理解できるようになりますよ。ぜひ一緒にみていきましょう(^_^)
さくら:わかりました (;_;)
あおい:先生、よろしくお願いします!

この問題の評価領域分類(taxonomy)
【問1、問2】Ⅱ型:与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題
この問題を指導する際のポイント
僧帽弁が正常に機能していない状態を理解する
左右の心不全の特徴をおさえる
入院時のデータから、心房細動を見抜く
心房細動の波形の特徴をおさえる
弁置換術後のデータから、病態を読み解く
 

僧帽弁が正常に機能していない状態を理解する

フラピエ:では、まずはAさんの病状の確認からですね。状況文を読み解いていきましょう。
あおい:ええっと、Aさんは[3年前に僧帽弁狭窄症・閉鎖不全と診断]されています。
フラピエ:そうですね。僧帽弁狭窄症・閉鎖不全というのは、ざっくり言うと“僧帽弁がしっかり機能していない病態”ということですが、さて、僧帽弁はどこにあってどんな働きをしていましたか?
さくら:そ、僧帽弁は…たしか左心房と左心室の間にある弁だったような…。
フラピエ:そのとおり! 僧帽弁は「左房室弁」とも言いますが、この名前だと場所をイメージしやすいですね。
あおい:では、僧帽弁は左の心房と心室の間で、血液が逆流するのを防いでいるということですね!
フラピエ:すばらしい! Aさんは、僧帽弁(左房室弁)の狭窄、閉鎖不全のために、左心房から左心室へ血液がうまく流入しなかったり、流入しても逆流してしまって、左心房の圧が高まっている状態です。心臓のポンプ機能が低下している状態と考えられます。
さくら:左心房の圧が高くなると、どうなってしまうんですか?
フラピエ:左心房には、左右の肺静脈から血液が流入しますから、左心房の圧が上昇すると、左・右肺静脈の圧も上がります。
あおい:通常の血液の流れのルートを逆行するようなイメージですね。
フラピエ:そうですね。肺静脈の圧が上がると、肺に血液が貯留して肺うっ血の状態になってしまい、呼吸困難などの症状が現れます。Aさんは治療として、ポンプ機能が低下した心臓の負担を減らすために[利尿薬]で尿量を増やしたり、心拍数を減少させたり強心作用のある[ジギタリス](ジゴキシン)で治療をしていたのですね。
さくら:内服治療で経過していたけれど、[平らな道を歩いていても動悸や息切れがしてきた]ということは、やっぱり状態が悪化してしまったということですか?
フラピエ:そう考えられますね。心不全の重症度を4段階に分類する「NYHA(New York Heart Association)心機能分類」1)というものがありますが、この分類によると[平らな道を歩いていても動悸や息切れがしてきた]というのは、おおむねⅢ度(高度な身体活動の制限がある。安静時には無症状。日常的な身体活動以下の労作で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる)1)に該当します。
さくら:4段階のうちのⅢ度ならば、Aさんの状態はそんなによくはなさそうですね…。
フラピエ:そのようですね。

左右の心不全の特徴をおさえる

フラピエ:さて、ここまでの情報でAさんは心不全の状態にありそうだということがわかりましたね。入院時のAさんの具体的な症状としては、どんなことがありますか?
さくら:えっと、[呼吸困難][下腿の浮腫][頸静脈の怒張]というところですか?
フラピエ:そうです。これはすべて心不全の症状です。心不全の症状がなぜ起こるのかは、右心不全と左心不全とに分けて考えるとイメージしやすいですよ。図1を見てください。

図1 右心不全と左心不全

あおい:関連図みたいですね…( ;∀;)
フラピエ:難しそうに見えちゃうかな? 右心不全では右心房圧の上昇、左心不全では左心房圧の上昇による症状が現れる、とまずは大まかにとらえてみて。
さくら:それなら覚えやすいです!
フラピエ:よかった(^^) 心臓の4つの部屋と、それらにつながる血管(大静脈、肺静脈)の構造を想像しながら図をたどってみましょう。
あおい:そうか、右心房には上下の大静脈から血液が入ってきます!
さくら:左心房には左右の肺静脈から血液が入ってくる!
フラピエ:2人ともいいですよ! たとえば、上大静脈は胸部から頸部のほうへ分岐して頸静脈になりますよね?
あおい:だから上大静脈圧が上昇すると、頸静脈の圧も上がって怒張するんですね!
フラピエ:そう、頸静脈のあたりがボコボコしてきます。
さくら:なんだか、わかった気が…(=゚ω゚)ノノ すると、Aさんの[呼吸困難]は左心不全の症状で、[下腿の浮腫][頸静脈の怒張]は右心不全の症状ということですね。
フラピエ:そうですね。僧帽弁狭窄症・閉鎖不全の診断から3年の経過のなかで、左右両方の心不全の状態に進行してしまったと読み取れますね。

入院時のデータから、心房細動を見抜く

フラピエ:では、問1をみていきましょう。
あおい:心電図…ニガテです…。
フラピエ:たしかに難しいところですが、大事な知識なので一緒に確認しましょう(^^) この問題は、状況文の[心拍数100/分、脈拍数は橈骨動脈で86/分]というデータを読み解けるかがカギです。そもそも、心拍数と脈拍数の違いは説明できますか?
さくら:え、違いですか…? あんまりじっくり考えたことなかったけど…、心拍数は心臓の拍動の回数です!
あおい:脈拍数は、ええと、心臓から送り出された血液が体中のいろいろな動脈で拍動として触れる回数のことです!
フラピエ:すばらしい!
さくら:先生、“心拍数=脈拍数”ってなんとなく思い込んでいましたが、そうじゃないんですか?
フラピエ:必ずしも完全に一致するとは言い切れないけれど、ほとんどの場合、同じ数と考えて大丈夫ですよ。
あおい:あれ…? Aさんは100回と86回で、かなり差があります。心臓は100回動いているのに、脈拍としては86回しか触れないということは…。
さくら:心臓から橈骨動脈までしっかり血液が届いていない、ということですか?
フラピエ:そうです。しっかり気づきましたね。このように心拍数と脈拍数に差が出るのは、「心房細動」の特徴です。心房から心室へ送られる血液の量が安定せず、心房の動きの回数に対して、心室から全身に送り出される血液量が十分に得られない、という状態です。僧帽弁狭窄症・閉鎖不全による影響と考えらえますね。
あおい:では問1の4つの選択肢から「心房細動」の波形を選ぶんですね! ええと…。
さくら:心拍数が100回/分って考えると、一番心拍数が多そうな選択肢4っぽい気がするけど…。きっとそんなあやふやに選んではいけない…のですよね?(^^;
フラピエ:そうですね。その考え方も絶対にNGとは言いませんが、病態と結びつけて理解することが大事です。しっかり波形の特徴を確認しましょうね。
あおい:教えてください!

心房細動の波形の特徴をおさえる

フラピエ:図2に心房細動の波形の特徴をまとめました。

図2 心房細動に特徴的な心電図波形

さくら:おや? 先生、これは選択肢4の波形ですよね…?(*’▽’)
フラピエ:そう、結論から言ってしまうと、正解は選択肢4です。まず、心房の脱分極を示すP波が確認できない一方で、f 波という小さな波が細かく不規則に出ています。これは、心房の動きが無秩序に乱れていて、心房内のあちこちで電気的興奮が起こっていることを表しています。
あおい:「R-R間隔が不整」というのは、どう考えればいいのですか?
フラピエ:R-R間隔は、心室の興奮から次の心室の興奮までの時間を反映しますから、それが不整(一定ではない)ということです。心房での興奮が乱れているので、心室への興奮の伝導も不規則になっている、というふうに考えられますね。
あおい:わかりました!
フラピエ:念のため、ほかの選択肢も簡単に特徴をみていきますね。まず選択肢1は、少し徐脈傾向のようですがおおむね正常と考えていい波形です。
さくら:選択肢2は何の波形なのですか?
フラピエ:これは2度房室ブロック(モビッツⅡ型)の波形です。房室ブロックは、PQ間隔(房室伝導時間)が延長し、その後、途絶えてしまう不整脈で、1度から3度まであります。選択肢2の波形(図3)を見ると、正常波形の後、P波が出ていますが、その後、QRS波が脱落して確認できません。そしてまた正常波形が来ます。これが、2度房室ブロックの特徴です。
 

図3 2度房室ブロックの心電図波形の特徴

フラピエ:そして選択肢3ですが、これはST上昇がみられますね?
あおい:あ! 「ST上昇」は、前回勉強しました! 心筋梗塞(ST上昇型心筋梗塞)の波形ですよね?!
フラピエ:しっかり覚えていましたね(^^)

弁置換術後のデータから、病態を読み解く

さくら:次は問2ですね!
フラピエ:Aさんは[手術が必要と診断され]、[僧帽弁置換術]が行われています。僧帽弁置換術によって、それまで十分に働けていなかった僧帽弁の機能を取り戻したと思われますが、設問文の術後1日の所見を見ると心配な状況です。
あおい:もしかして、手術を行った僧帽弁がうまく機能していないのですか?
フラピエ:そうかもしれませんね。そのことを念頭に、データを詳しく見ながら選択肢もチェックしていきましょう。
さくら:先生、選択肢のなかに、どんな病態か想像がつかないものがありまして…(;_;)
フラピエ:はい、選択肢3の[心タンポナーデ]ですね(^_-)-☆ 心臓には、心膜腔(心臓と心嚢の間)という領域がありますが、ここには少量の心嚢液が入っています。この心嚢液が、何らかの原因で急激に増加することで、心房・心室が圧迫され、拡張できなくなってしまう病態です。「ベックの三微」といって、「血圧低下(ショック)」「頸静脈怒張」「心音減弱」という典型的な所見がみられます。原因は心筋梗塞後の心破裂や胸部外傷、医療行為の合併症など様々ですが、意識障害をきたして心停止に至る危険性があります。心タンポナーデの診断=重症と考える必要があるんです。
さくら:難しい…、でもとにかく危険な状態なんですね!
フラピエ:そのとおりです。心嚢液の貯留によって心房・心室が拡張できなくなるので、心臓のポンプ機能が低下して心臓からの血液の拍出量(心拍出量)が減少します。これに伴って、血圧低下や頻脈が現れます。さきほど原因として挙げたような要因が考えられ、急激な血圧低下やショック状態に陥った場合には心タンポナーデを疑います。
あおい:Aさんは僧帽弁置換術を受けています。まさかその合併症で心タンポナーデを起こしているのでしょうか…?
さくら:[血圧80/56mmHg]は、入院時のデータと比べるとかなり低下していると思います。ショックの診断基準(収縮期血圧90mmHg以下の低下を指標とすることが多い2))よりも低い値ですよね?
フラピエ:そうですね。脈拍はどうですか?
あおい:[脈拍数122/分]でかなり頻脈です!
フラピエ:心タンポナーデの可能性が高そうですね。データの分析を進めましょう。
さくら:先生、[中心静脈圧25cmH2O]はどう考えればいいのですか?
フラピエ:25cmH2Oは基準値より高い値ですが、これも心タンポナーデの影響と考えられます。心タンポナーデによって心臓の拡張が阻害され、右心房に血液が流入しづらくなる(右心房圧が上がる)ことから、中心静脈圧(上下の大静脈内圧)は上昇します。
あおい:ここまでの分析だと、選択肢3の[心タンポナーデ]と、選択肢4の[低心拍出量症候群]が正解だと思います。あ、でもまだデータが残っていました! [尿量30mL/時]はどう考えるのでしょうか? 尿量は循環血液量に影響しそうです。
フラピエ:そうですね。[尿量30mL/時]というデータは、Aさんの入院時の体重から算出した必要量(58mL/時)よりも低い値です。これも、心拍出量の減少を示唆します。
さくら:先生、[動脈血酸素分圧(PaO2]は、呼吸器疾患の回でたくさん勉強しました! [96mmHg]は、ちょっと低いかなと思いますが、まだなんとか正常範囲内と言えますよね?
フラピエ:すばらしい! こんなふうにして少しずつ知識を増やしていきましょうね!(^^)! さくらさんの言うとおりPaO2は正常範囲内なので、呼吸状態はまだそこまで悪くはなっていなそうですね。また、[胸部エックス線撮影]では[心拡大の増強がみられた]という情報のみで、左右差の有無に関する情報はありません。これらから、選択肢1[無気肺]や選択肢2[肺塞栓症]、選択肢5[気胸]といった呼吸器系の病態は、今のところは否定できそうですね。
あおい:そうすると、やっぱり選択肢3の[心タンポナーデ]と選択肢4の[低心拍出量症候群]が正解ということですね!
フラピエ:そうですね! 今回は心不全の病態の学習ということで、おそらくこれまでよりも難しく感じるところが多かったと思います。でも、とても重要な病態ですので、しっかり復習してくださいね(^^)/
さくらあおい:はい、わかりました!

フラピエかおりの、国試指導ワンポイントアドバイス!

■第3回に引き続き、今回も少し古い国試から問題を取り上げました。この問題は知識を駆使して患者さんの状態を分析していくことで、心不全の病態や心タンポナーデ、心電図の読み方といった重要な知識をおさらいすることができます。少し前の国試問題は、治療にかかわる情報などが古くなってしまうという側面はありますが、考える力を養うトレーニングの題材として有用なものも多いので、参考にしていただければ幸いです。

■問1に関しては、各選択肢の心電図波形の心拍数を概算することで、入院時のAさんの心拍数100回/分に該当するものは選択肢4しかない、と判断ができてしまいます。しかしそれでは病態の理解という点ではやはり不十分になってしまいますので、今回ご紹介したようにデータから心房細動を読み解くというアプローチでぜひ教授いただきたいと思います。また心電図波形については、正常波形をおさえたうえで心房細動と合わせて心房粗動の波形を見たり、心筋梗塞やブロックの波形についても詳しく解説するとよいと思います。

 
引用文献
1)日本循環器学会,日本心不全学会,日本胸部外科学会ほか:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版),p.13,https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf,アクセス日:2022年1月26日)
2)日本救急医学会:医学用語解説集 ショック,https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0823.html,アクセス日:2022年1月26日

フラピエ かおり

株式会社Nurse Style Biz 代表

看護師として13年間、臨床で経験を積む。その後、看護教育の道へ。全国の看護大学・看護専門学校において、国家試験対策講座や解剖生理学・形態機能学、病理学、各看護学の講義を担当。また総合病院看護部の教育顧問として、臨床看護師を対象とした看護研究やフィジカルアセスメント、臨床推論の指導にも携わっている。 教育のかたわら、国立大学大学院(臨床人間科学専攻)を修了。在学中には、海外における看護師制度や看護師国家試験制度についての研究に勤しんだ。 学ぶこと、知ること、わかるようになること、そのよろこびを多くの看護学生・看護師に伝えている。 著書に『看護学生のための重要疾患ドリル』(メヂカルフレンド社)、『看護学生のための重要症状ドリル』(メヂカルフレンド社)など。

企画連載

フラピエかおりの 看護師国試「Aさん問題」はこう読み解く!

これからの看護師国試に求められる臨床判断能力のカギは「Aさん問題」にあり! 看護師国試合格請負人・フラピエかおりが、状況設定問題や長文で出題される「Aさん問題」の読み解き方を解説します。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。