はじめに:本連載をご活用いただくために
この連載では、看護師国家試験問題のなかでも長文で出題され、学生にとって難度の高い「A さん問題」を題材として、問題を解くにあたり何に着目させ、どう理解させ、そして正答へとたどりつかせるのかを、学生(看護専門学校2年生のさくらさん、看護大学3年生のあおいさん)との対話をとおしてご紹介します。日々の指導のヒントとしてお役立てくだされば幸いです。
さくら:先生、今回もよろしくお願いします!
フラピエ:前回に引き続き、今回も消化器のがんを勉強しますよ。
あおい:はい、がんばります!
次の文を読み問1、問2、問3に答えよ。
Aさん(40歳、男性)。入院時体重65kg。既往歴に特記すべきことはなく、全身状態は良好である。幽門側胃癌(3型:潰瘍浸潤型)のため、ビルロートⅠ法による胃の部分切除術を受けた。術中の出血量は450 mLで輸血はされなかった。術後1日、体温37.5 ℃、呼吸数24/分、脈拍120/分、血圧162/90mmHg。RBC500万/μL、Hb14.8 g/dL。経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉92 %(酸素吸入3L/分)。尿量30 mL/時。創部のドレーンからは少量の淡血性排液がある。創痛が強いため呼吸が浅く、離床はできていない。
問1 術後1日のAさんのアセスメントで適切なのはどれか。
1.貧血傾向である。
2.腹腔内の出血が考えられる。
3.呼吸不全状態にある。
4.尿量が減少している。
問2 術後5日。前日から食事が開始されている。体温37.8℃、血液所見はWBC12,000/μL、CRP 6.8mg/dLであった。喀痰喀出困難はなく肺音は正常であった。PaO2 90Torr、PaCO2 40Torr、pH7.4。
このときの合併症で最も可能性が高いのはどれか。
1.輸入脚症候群
2.機能性イレウス(腸管麻痺)
3.縫合不全
4.無気肺
問3 術後1週。毎食後に下腹部痛を伴う下痢があった。その後、下痢の回数は減り、摂食も良好で、術後3週で退院が決定した。
Aさんへの退院指導で正しいのはどれか。
1.炭水化物を中心にした食事を勧める。
2.下痢は1か月程度でおさまると説明する。
3.食事は分割して少量ずつ摂取するよう勧める。
4.食後2時間頃に冷汗が出たら水分を摂るよう説明する。
[第94回(2005年)PM44・第102回(2013年)AM94~96、一部改変]
さくら:胃癌の手術を受けた患者さんの問題ですね。
あおい:食道癌と同じで、術後の合併症とか、覚えることがたくさんですよね( ;∀;)
フラピエ:術後ケアとして、やはり合併症予防はとても重要な観点です。では、術式を踏まえ、胃や消化管全体の構造もイメージしながら A さんの状況を考えてみましょう。
この問題の評価領域分類(taxonomy)
【問1、問2】Ⅱ型:与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題
【問3】Ⅲ型:設問文の状況を理解・解釈した上で、各選択肢の持つ意味を解釈して具体的な問題解決を求める問題
この問題を指導する際のポイント
■胃の構造と機能を確認する
■胃癌の病態と術式を復習する
◎胃癌の病態をおさらいする
◎術式を復習し、術後の消化管の状態をイメージする
■術後1日目の A さんの状態をアセスメントする
■術後5日目の合併症のリスクをアセスメントする
■ダンピング症候群について、早期症状と後期(晩期)症状を整理する
胃の構造と機能を確認する
フラピエ:前回の食道がんの時に消化管の全体像を復習しましたが、胃は食道から続く臓器でしたね。今回もまずは胃の構造と機能の確認から始めましょう。さっそくですが、胃の入口と出口は何と呼ばれるか覚えていますか?
さくら:入口と出口? …あっ、噴門と幽門、でしたっけ?
あおい:そうだ、噴門と幽門! どっちがどっちだったかな…。
フラピエ:入口、つまり食道から続く部分が噴門で、出口、つまり十二指腸につながる部分が幽門です。この2つの門の間は、噴門側から「胃底部(膨隆部)」「胃体」「前庭部」あるいは「上部」「中部」「下部」という部位に区分されます。また、胃壁は粘膜層、粘膜筋板、粘膜下組織、固有筋層、漿膜下組織からなり、最外層には漿膜が存在します。では、胃の機能にはどんなものがありましたか?
さくら:食道から送り込まれた食べ物を貯めておいたり、食べ物と胃液を混ぜて粥状にして十二指腸に送っています。
フラピエ:いいですね。胃液は、胃粘膜の表面の胃腺から分泌されますが、この胃腺には胃の部位によって「噴門腺」「胃底腺(胃腺)」「幽門腺」の3種類があります。噴門腺と幽門腺は主に粘液を分泌しますが、大部分を占める胃底腺からは粘液のほか、ペプシノゲンや塩酸も分泌されています。胃底腺にはこれらの物質を分泌する細胞がそれぞれに存在していて、粘液は副細胞から、ペプシノゲンは主細胞から、塩酸は壁細胞から分泌されます。
あおい:胃液が強い酸性なのは、塩酸が含まれるからなんですね。
フラピエ:そうですね。その強い酸性から胃粘膜を守っているのが粘液です。
さくら:ペプシノゲンや塩酸にはどんな働きがあるんですか?
フラピエ:ペプシノゲンは塩酸によってペプシンという物質になり、このペプシンはタンパク質の分解酵素として働きます。塩酸は、殺菌作用も担っています。なお、これらの胃液の分泌を促すのはガストリンという消化管ホルモンで、ガストリンは幽門腺の G 細胞から放出されますよ。
あおい:いろんな名前が出てきて、ぐるぐるしてきました(@_@)
フラピエ:あらら。ではぐるぐるついでにもう一つ! 胃癌の術後合併症に関連する大事な知識をお話ししておきます(^_-)-☆
さくら:ぜひ! きっと覚えられる、はず…。
フラピエ:胃底腺の壁細胞からは「内因子」と呼ばれる物質も分泌されていますが、この内因子はビタミンB12の吸収に欠かせません。ビタミンB12は造血に必要な物質ですので、胃癌でたとえば胃全摘術などを行うと、内因子が分泌されなくなるのでのビタミンB12の吸収もできなくなり、貧血が起こります。やがてビタミンB12欠乏となり、巨赤芽球性貧血が起こってしまいます。
あおい:巨赤芽球性貧血は、貧血の勉強をした回(第5回)にも出てきましたよね! 復習しておきます。
胃癌の病態と術式を復習する
フラピエ:それでは事例文をみていきましょう。A さんは40歳で、とくに既往歴のない患者さんですね。[幽門側胃癌]のため手術を行ったようです。
さくら:幽門は胃の出口側でした! 出口側に癌がある、ということですね。
フラピエ:そうです。その調子で A さんの胃の状況を思い浮かべながらみていきましょう。
胃癌の病態をおさらいする
あおい:先生、[3型:潰瘍浸潤型]というのはどういうことですか?
フラピエ:これは胃癌の肉眼型分類を示しています。肉眼型分類は大きく、0型(表在型)、1型(腫瘤型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型)、5型(分類不能)の6つに分かれていて、0型はさらに5つに分かれています。A さんが該当する3型は、「潰瘍を形成し、潰瘍をとりまく胃壁が肥厚し周囲粘膜との境界が不明瞭な周堤を形成する」1) 状態と定義されています。がんが粘膜下組織までにとどまっている0型(表在型)を「早期胃癌」と言うのに対し、固有筋層より深くまで及んでいる1~4型は「進行胃癌」と言われます。
さくら:A さんは3型なので、進行胃癌ということですか?
フラピエ:そうですね。実際には、進行度(ステージ)はがんの壁深達度や転移の有無を踏まえて診断されるので、事例文では情報が不足していますが、主として早期胃癌に対して行われる内視鏡治療ではなく、胃切除術が行われていることからも、ある程度、進行したがんであると言えると思います。
あおい:A さんは[全身状態は良好]のようですが、普通、胃癌ではどんな症状がみられるのでしょうか?
フラピエ:早期胃癌では多くが無症状で、進行胃癌では上腹部痛や胃の不快感、胸やけ、悪心・嘔吐、食欲不振などの症状から始まり、進行とともにこれらの症状の悪化や、体重減少、貧血などがみられることがあります。
術式を復習し、術後の消化管の状態をイメージする
フラピエ:さて、A さんは[ビルロートⅠ法による胃の部分切除術を受け]ています。この術式はどのようなものか、説明できますか?
さくら:たしか、がんのある幽門側の胃を部分的に切除してから、残った胃に十二指腸をつなぐのだったと思います!
あおい:残った胃と空腸をつなぐビルロートⅡ法もありますよね!
フラピエ:2人ともすばらしい! 幽門側胃切除術では多くの場合、胃の2/3以上を切除しますので、消化管(胃管)の再建が必要です。ビルロートⅠ法やビルロートⅡ法は、再建の方法(ルート)のことでしたね。ビルロートⅠ法はルートとしてはシンプルなのでイメージしやすいと思いますが、食べ物の流れは、胃を切除する前のような生理的な状態が保たれます。一方、ビルロートⅡ法では、空腸を元々の生理的な位置から持ち上げるようにして残った胃につなぎますので、生理的な状態ではなくなってしまいます。
さくら:どちらの術式でも、胃が2/3以上もなくなってしまうとなると、いろいろなトラブルが起こりそうですね。
フラピエ:そうですね。そんなふうに想像力を働かせると、どんなアセスメントやケアが必要か、考えやすくなると思いますよ。では事例文の続きをみながら、問1に進みましょう。
術後1日目の A さんの状態をアセスメントする
フラピエ:問1は術後1日目の A さんの状態をアセスメントする問題です。事例文にある術後1日目の情報を一つずつ確認していきましょう。まずはバイタルサインからですね。
あおい:[体温37.5 ℃]も[呼吸数24/分]も[脈拍120/分]も[血圧162/90mmHg]も、どれも基準値よりは高くなっています。これは、手術の影響だと考えればよいのでしょうか?
フラピエ:いい考え方ですね。開腹して胃を切除するという手術操作による身体的侵襲は、A さんの体にとって大きなダメージとなっています。そこから体が回復しようとする過程が順調に進むように、術後のケアでは合併症予防がとても重要なのです。この術後の回復過程は4相に分類されています(表)。
さくら:表によると、第1相の主な症状に発熱や頻脈があります。発熱や頻脈が、呼吸数の増加や血圧上昇に影響を及ぼしているだろうということは想像できます。
フラピエ:そうですね。それに A さんの場合は、[創痛が強いため呼吸が浅く]なっている分、呼吸数が増えていると考えられるでしょう。創痛は術後のアセスメントの重要ポイントです! では続いて血液検査の値はどうですか?
あおい:[RBC500万/μL]も[Hb14.8 g/dL]も基準値内です。[術中の出血量は450mLで輸血はされなかった]とありますし、選択肢1の[貧血傾向である]は不正解でよさそうです。
フラピエ:そのとおり! 次の[経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉92 %(酸素吸入3L/分)]はどう分析しますか? 選択肢3[呼吸不全状態にある]も踏まえて考えてみましょう。
さくら:SpO2 92%は基準値より低いと思います。創痛で呼吸が浅くなっているせいなのかな?
あおい:でも、呼吸不全状態にはギリギリ至っていない…? 呼吸不全は酸素分圧(PaO2)が 60Torr まで低下した状態で、その時のSpO2 はたしか90%でしたよね?
フラピエ:そうです。酸素飽和度と酸素分圧の関係について、しっかり覚えていましたね! A さんは呼吸不全状態とは言い切れない状況ですので、選択肢3は不正解と考えてよいでしょう。たださきほども言ったとおり、A さんは[創痛が強いため呼吸が浅く]なっていて、呼吸数も増えていますから、呼吸器合併症には注意が必要です。
さくら:先生、[尿量30 mL/時]はどのように考えればよいのでしょうか?
あおい:さきほどの表の第1相のところに「尿量減少」と書いてあります。
フラピエ:そう、術後数日は尿量が減少します。尿量は術後の重要な観察項目です。ショックなどの重篤な状態になるのを防ぐために、循環血液量が減少していないかどうかを尿量から推測します。その目安として、術後の尿量は一般的に、1時間あたり、体重1kgにつき0.5mLという量を維持する必要があるとされています。A さんは体重65kgですので、1時間あたり65kg×0.5mL=32.5mLは最低でも必要ということになります。
さくら:A さんの尿量は[30mL/時]なので、十分確保できていなないということですね。
フラピエ:そう、慎重な観察が必要です。
あおい:では正解は選択肢4ということですね!
フラピエ:そのとおり。残った選択肢2[腹腔内の出血が考えられる]も確認しておきましょう。事例文の続き、[創部のドレーンからは少量の淡血性排液がある]はどう解釈しますか?
さくら:術後1日目の創部からの排液は淡血性で問題なかったと思います!
あおい:だから選択肢2は不正解ということでよいのですよね?
フラピエ:そうです。もし術後1日目の段階で淡血性ではなく、濃い赤色の血性の排液がみられた場合には術後出血を疑いますが、A さんは大丈夫そうですね。そのあとも問題なく経過すれば、術後2~3日頃には排液量は少なくなっていき、性状も漿液性に変わっていきます。
術後5日目の合併症のリスクをアセスメントする
フラピエ:では、問2に進みましょう。
さくら:術後5日目の状態からどんな合併症が起こる可能性があるかを考えるんですね。
あおい:設問文のデータでは、まず[体温37.8℃]から気になります。術後1日目よりもほんの少しですが高くなっています。
さくら:ほんとだ! さきほどの術後の回復過程の表だと、術後5日目(第2相)には「体温正常」って書いてあるのに…。
あおい:それに[WBC12,000/μL]も[CRP6.8mg/dL]も、明らかに基準値を上回っています。感染の徴候…?
さくら:体温が高いのもそのせいなのかも!
フラピエ:すばらしい! 血液所見から、感染や炎症反応を疑ったほうがよさそうですね。それを念頭に、選択肢をみていきましょう。
あおい:いきなりですが先生…、選択肢1の[輸入脚症候群]とはいったいなんでしょう…。
フラピエ:「輸入脚」というのは、胃切除術後の胃管の再建として、空腸を持ち上げて残った胃に吻合する術式の場合の、持ち上げた空腸の部分を指して言います。この輸入脚には胆嚢からの胆汁や膵臓からの膵液が流入しますが、これらが胃のほうへ逆流してしまうことで嘔吐などの症状を引き起こす病態を、輸入脚症候群と言います。
さくら:空腸を持ち上げて胃と吻合する術式、ということは、A さんはビルロートⅠ法なので当てはまらないですよね?
フラピエ:そのとおりです。輸入脚症候群は、ビルロートⅡ法の場合に注意が必要な病態だと考えておけばよいでしょう。では選択肢2の[機能性イレウス(腸管麻痺)]はどうでしょう?
あおい:イレウスでは、腹部膨満感や排ガスの停止、腹痛、悪心・嘔吐などの症状がみられると思いますが、設問文にはその情報がないので判断できないように思います。
フラピエ:そうですね。では選択肢3[縫合不全]に進みましょう。縫合不全とはどんなものでしたか?
さくら:えっと、手術で縫合・吻合した部位が開いてしまうこと、でしょうか?
フラピエ:そうですね。手術で縫合・吻合した部位というのは、切ったり縫ったりしていますので、損傷を受けています。損傷を受けた組織というのは、修復する過程をたどります。「創傷の治癒過程」という言葉を聞いたことがあると思いますが、炎症、細胞の増殖、組織の再構築という過程を経て修復に至ります。この過程が何らかの原因によって阻害されることで、縫合不全が起こる場合があります。術後に体温やWBC値、CPR値の上昇といった炎症反応を疑う所見や、疼痛、ドレーンの排液の異常などがみられれば、縫合不全を疑います。A さんが行った手術の場合は、とくに食事開始の時期に吻合部に負担がかかるので、縫合不全を引き起こす危険性が高まるため要注意です。
あおい:A さんは炎症反応を疑う血液所見がありますし、[前日から食事が開始]していますので、縫合不全を疑う状況に当てはまると思います!
さくら:でも、念のため選択肢4[無気肺]も確認するんですよね(^_-)
フラピエ:はい(^^)
あおい:無気肺は前回も勉強しました! 気管支の末梢の肺胞に空気が入らずに、肺が縮んでしまう状態ですよね。気道内に分泌物が貯留することなどが原因だったと思います。
さくら:A さんは[喀痰喀出困難はなく肺音は正常であった]ので、気道の分泌物の貯留はないように思います。
フラピエ:すばらしい! 復習もばっちりね(^^) [PaO2 90Torr、PaCo2 40Torr、pH7.4]という血液ガス分析のデータもすべて異常なしですので、呼吸器の機能に問題はないと考えてよいでしょう。
あおい:そうすると、問2の答えはやっぱり選択肢3の[縫合不全]ということですね!
フラピエ:そのとおり! 造影検査を行って縫合不全が確認されたら、しばらくは禁飲食となって輸液による栄養管理などが行われます。その後、A さんはどんな経過をたどったのか、問3を続けてみていきましょう。
ダンピング症候群について、早期症状と後期(晩期)症状を整理する
フラピエ:A さんはおそらく術後1週には食事が再開していて、[毎食後に下腹部痛を伴う下痢があった]ようですが、現在は[下痢の回数は減り、摂食も良好]となり、[術後3週で退院が決定した]ということですね。退院指導を問う設問ですが、どの選択肢も食事が関係していそうですね。というわけで、まずは「食後の下痢」という症状について考えてみましょう。A さんは胃の部分切除術を受けている、という事実を、いま一度よく思い出してみてください。
さくら:下痢は、もしかしてダンピング症候群の症状ではないしょうか?
フラピエ:すばらしい! 胃癌の術後合併症として、必ず押さえておかなければならない病態ですね。食後30分以内に出現する早期ダンピングと、食後2~3時間に出現する後期(晩期)ダンピングがありますが、下痢はどちらの症状に該当するでしょう?
あおい:たしか早期ダンピングだったと思います! そもそもなぜダンピング症候群が起こるのでしょうか?
フラピエ:胃を部分切除したことで、胃の本来の働きが十分に発揮されないという状況を想像してみてください。摂取した食べ物を胃に貯めておくことができにくくなりますし、食べ物を粥状にして小腸(十二指腸、もしくは空腸)へ送るという機能も十分に果たせなくなりますよね。そうすると、摂取した食べ物(浸透圧が高い)が急速に小腸に送り込まれてしまいますので、小腸内の浸透圧が上がって体液がいっきに腸管内へ移動することで、全身の循環血液量の減少に伴う血圧低下から「冷汗」「動悸」「めまい」「倦怠感」などが現れます。それから、血管作動性液性因子という物質や消化管ホルモンの分泌などから「腹痛」「下痢」「悪心」などの症状が現れます。これらが早期ダンピングの症状です。
さくら:後期ダンピングについても教えてください!
フラピエ:早期と同じく食べ物が急速に小腸へ送り込まれることで、ブドウ糖が急速に吸収されて血糖値が一時的に急上昇します。すると血糖値を下げようとしてインスリンの分泌が増えるので、血糖値が下がりすぎて低血糖状態になってしまいます。そこで、低血糖の症状として「冷汗」「悪心」「めまい」「空腹感」「手指振戦」などが現れます。
あおい:早期ダンピングと後期ダンピングで重なる症状もあるんですね。
フラピエ:よく気づきましたね。同じ症状でも機序は違いますので、症状出現のタイミングによって対応も変わってきます。
さくら:食事のたびにこんな症状が出てしまうと、とてもつらいですよね…。
フラピエ:本当にそのとおりですね。だからこそ、退院後に A さん自身でダンピングの症状が出ないように気をつけることができるように、退院指導としてわかりやすく留意点を伝えることがとても大切です。どんなことを伝えるべきか、選択肢をみながら考えてみましょう。
あおい:選択肢1[炭水化物を中心にした食事を勧める]と、炭水化物は血糖値を上昇させやすいので、高血糖を招いて後期ダンピングの症状が出てしまうと思います。
フラピエ:いいですね。選択肢2はどうですか?
さくら:[下痢は1か月程度でおさまると説明する]かぁ。まず、断言はできないと思いますし、なんとなく1か月ではおさまらないような気がします。根拠はありませんが…(^_^;)
フラピエ:その“なんとなく”の感覚のとおりです。普通食が食べられるようになって胃の消化酵素が安定する半年頃までは、下痢や軟便が続く患者さんが多いと言われています。胃切除術後は、少量の水分から摂取を開始して、流動食、三分粥、五分粥、七分粥、全粥、普通食と段階的に進めていきます。消化管への負担を軽減するために1回の食事量は少なくして、その分、食事の回数を増やし、消化管がいつも緩やかに運動しているような状況をつくります。そうすることで、急激な刺激を与えないようにします。
あおい:そうすると、選択肢3[食事は分割して少量ずつ摂取するよう勧める]が正解だと思います!
フラピエ:そのとおりですね。1回の食事量は少なくして、よく噛んで時間をかけてゆっくりと摂取し、食事回数を増やす、というのが胃切除術後の食事の原則です。
さくら:選択肢4[食後2時間頃に冷汗が出たら水分を摂るよう説明する]は、「冷汗」がポイントということですね? 食後2時間頃の冷汗は後期ダンピングの低血糖症状です!
あおい:水分ではなくて糖分を摂取したほうがいいと思います!
フラピエ:パーフェクト! 二人ともしっかり理解できたようですね(^^) 今回も3問をとおしてたっぷり学べたと思います。おつかれさまでした!
さくら、あおい:ありがとうございました!
フラピエかおりの、国試指導ワンポイントアドバイス!
■今回も、過去に出題された状況設定問題と一般問題とを組み合わせて3連問に組み立て直してみました。胃癌患者の周術期看護のポイントを押さえられるよう、設定も調整しています。
■解剖生理の知識をベースに、胃のどの部分を切除し、どのように胃管を再建するのか、再建後の胃管はどのような状況になるのか、術後はどんなことに留意すべきか、といったことを関連づけて想起できるよう、学生の頭の中にぼんやりと散在している知識をつなぎ合わせるイメージで、一つひとつ一緒に確認してあげられるとよいと思います。
■周術期看護としては、術後合併症に関して学習すべきことがたくさんありますが、胃癌の場合はダンピング症候群を押さえておくとよいと思います。早期の症状と後期(晩期)の症状とで区別して整理でき、食事指導の留意点と合わせて理解できているかがポイントです。
1)日本胃癌学会(編):胃癌取扱い規約,第15版,p.10,金原出版,2017