この連載では、子どもの頃からの人間の知的発達と精神保健に関することを扱っています。前回(第12回)は脳機能の成熟による情報の補正や、脳の高負荷状態がもたらす判断力の低下と抑うつ気分の関係について紹介してきました。大人になると脳機能そのものが成長するというよりは、誤差を補正したり判断力の低下へのケアを行ったりすることで、安定的に知的機能を発揮することができるようになるわけです。
さて、第13回では「感情の認知」をキーワードに、感情の種類と感情を知ることに焦点を当てます。
感情の構造と獲得過程
大人になると好みが変わることがよくあります。味の好み、趣味の好み、好きな人物像などなど……。これらの好みの変化には、快・不快をもたらしてきた経験から少し距離ができる場合があることや、知的成熟に伴って認知できる感情が多様になることと関係があります。
幼児期をあつかっていた第3回では、恐怖に基づくひとみしりの発生とその緩和の過程を紹介して、感情の認知とその対処の過程を紹介しました。第3回で感情を認知する過程で紹介した通り、感情を認知する(自分の感情に気づく)ためには冷静になった時に判断することが必要で、記憶の保持の機能が必要です。恐怖や不安などの負の感情にせよ、信頼や喜びといった正の感情にせよ、ヒトは経験したことを覚えておいて、後から冷静に分析して、その分析した内容を言語化することによって感情に気づく(認知する)ことができるのです。
ヒトは、ほかの生物に比べて豊かな感情を持っていることが特徴の1つですが、豊かな感情を持てるのは記憶力が高いことと、前頭前野によって複雑な情報を分析する機能があるためであり、これらのことがヒトに豊かな感情の認知をもたらしているのです。つまり、豊かな感情の認知は知的成熟の証ともいえるのです。