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第6回 観察研究はこう教えている―ランダム化比較試験が使えない時は

第6回 観察研究はこう教えている―ランダム化比較試験が使えない時は

2023.05.31宮下 光令(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 教授)

はじめに

 6回目の講義は観察研究です。最初の導入は、以前に話した「飲酒は肺がんの発症要因になるか」という研究です。このように患者にとって不利益があるエンドポイントを調べる研究は、ランダム化比較試験をすることができません。では、そのような場合にどのような研究デザインを考えればいいか、ということから入ります。

追跡型の研究―集団を“追って”調査する

 エビデンスの信頼度のピラミッドに沿って、まずは図1のように曝露とアウトカムの因果関係の推測を目的とした前向きコホート研究、後ろ向きコホート研究、ケースコントロール研究から話します。

図1

 この図では、矢印はデータ収集の向きを示しています。これらの追跡型の研究では、曝露がアウトカムより前に取られており、Hillの因果性の判断基準のうち時間的先行性が満たされていることが強みです。

前向きコホート研究について

 ご存知のようにコホートとは古代ローマの歩兵隊に由来する集団のことです。前向きコホート研究は研究開始時に曝露情報を収集し、集団の追跡により死亡や罹患などのアウトカムを測定します。この研究の例はフラミンガム研究を簡単に説明しています(図2)1)

図2

 フラミンガム研究はとても有名な研究なので名前くらい知っておいたほうがいいでしょう。日本で行われているコホート研究についても一覧を出して少し話しますが、東北大学では震災後に東北メディカルメガバンクという事業が始まり、宮城県と岩手県で地域住民コホート調査(8万人)と三世代コホート調査(7万人)というプロジェクトが動いているのでそれもほんの少し触れます。

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宮下 光令

東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野 教授

みやした・みつのり/東京大学医学部保健学科卒業、看護師として臨床経験を経て、東京大学にて修士・博士を取得。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻助手、講師を経て、2009年10月より現職。日本緩和医療学会理事、日本看護科学学会理事、日本ホスピス緩和ケア協会副理事長。専門は緩和ケアの質の評価。主な編著書は「ナーシング・グラフィカ 成人看護学6 緩和ケア」(メディカ出版)、「緩和ケア・がん看護臨床評価ツール大全」( 青海社)など。

企画連載

宮下光令の看護研究講座「私はこう教えている」

 この連載は、私が担当している学部2年生の「看護研究」の講義の流れに沿って進めていきます。私の講義では、“判断の根拠となる本質的な点は何か”ということを中心に伝えています。あくまで私の経験に基づく、私はこう考えている、ということを解説していますので、読者の皆様には「個人の独断と偏見に基づくもの」と思っていただき、“学部生にわかりやすく伝えるにはどうすればよいか”を重視した結果としてお許しいただければと思います。自由気ままに看護研究を語り、そのことが何かしら皆様の看護研究を教える際のヒントになるのであれば、これ以上嬉しいことはありません。

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