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第3回:IPEのカリキュラム設計

第3回:IPEのカリキュラム設計

2022.03.16井出 成美(千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター 准教授)

日本の医療専門職の資格取得前教育に専門職連携教育(Interprofessional Education 以下IPE)必修化の流れが形作られています。しかし看護教員の方々からIPEの実施が難しいという声もよく耳にします。
そこでIPEを始めたい、始めて見たけどうまくいっている感じがしないという教員のみなさまに、考え方と方策をご紹介する5回の企画を考えました。ぜひトライしてみようと思っていただけたら嬉しいです。

企画:酒井 郁子
(千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター センター長・教授)

医療保健福祉介護に関わる専門職の基礎教育課程でのIPE

 第1回、第2回でも触れている通り、チーム医療や地域包括ケアシステムを推進する政策を背景に、保健・医療・福祉・介護に関わる多様な専門職に連携協働能力が求められています。看護学教育だけでなく医学教育、薬学教育においてもモデル・コア・カリキュラムに、基本的資質としての連携協働能力が位置づけられています1)2)3)
 WHO(世界保健機構)の示すIPEとIPCP: Interprofessional Collaborative Practice、専門職連携実践(IPC、IPWと同義)における活動フレームワーク4)は、IPCPの即戦力となる人材育成の必要性があることを提示しています。基礎教育課程を卒業した新人の専門職には、就業した現場で早速、患者やサービス利用者のニーズに沿った治療やケアのために、他の職種と協働的な行動や態度がとれる能力が求められるのです。

 看護学教育においては、チーム医療および多職種との協働能力の育成が位置付けられた新しい指定規則での教育が2022年度から開始されますが、それに先立って2017年に全国の看護師等学校養成所1284課程を対象に実施されたIPE実装の実態調査によると、回答のあった学校のうちIPEを実装していると回答があったのは、大学では58.7%、養成所では5.7%であり、特に養成所でのIPE実装への課題があることがうかがわれ、特に「カリキュラムマネジメント」に関わる課題が挙がっていました5)
 そこで本稿では、IPEのカリキュラム設計の上での基本的なポイントを提示したいと思います。

教育機関の教育理念に沿ったIPEのタイプを決める

 基礎教育課程でのIPEは、その教育機関の教育理念や、いわゆる3P(アドミッションポリシー、ディプロマポリシー、カリキュラムポリシー)に沿った学習内容や到達目標を整えることが重要です。その教育機関の学部・学科の構成、卒業生に期待される活躍の場や役割、現場からの要請など様々な条件を考慮しつつ、IPEで育成したい人材像を言語化します。これがIPEの教育目的を示すことになり、その教育機関でIPEを実施することへの教員間の共通理解を得られることになるのです。

 教育目的が明示されれば、それに沿って、IPEのタイプを決めます。例えば公立大学であれば、卒業生には設置主体の都道府県等の地域の医療保健福祉介護人材としての期待があるでしょう。そうであれば、地域の実情や課題の解決に貢献できる地域ベースで動けるIPEが必要になるでしょう。また、急性期病院附属の看護専門学校で、卒業生にはその病院で活躍することが期待されているなどの場合は、病院の理念に沿った医療にのっとったチームワーク行動の習得というように、臨床型のIPEが必要になるでしょう。

 IPEには、その定義6)にあるように、「お互いからお互いのことを学ぶ」という要素が求められます。つまり「看護学生に他の領域の講師を呼んで講義をしてもらう」など対象が看護学生だけの教育プログラムではなく、カウンターパートとなる他領域の学生との協働学習が必要となります。上記の教育目的に沿い、どのような領域間でのIPEにするか、同じ教育機関内のIPEとするか、外部機関の参加も視野に入れるか、全員必修の科目として設置するか選択科目とするかなど検討していくことになります。単科の養成校の場合、実習病院を同じにする他領域の教育機関と連携する、同じ地域にある教育機関と連携するなどの方法でIPEを行っている例があります。

実施者、協力者を巻き込み組織化する

 IPEは、単一の領域や教員では実施不可能であるし、実施すべきものでもありません。IPEはそれを実施する多領域の教員間の連携協働が問われます。言い方を変えれば、携わる教員の連携協働能力が試される機会でもあり、またその能力が訓練される機会でもあります。

 IPEを教育機関に取り込む際に、機関のトップや権限のある立場の人からの発言は重要です。IPEの推進には、実に様々な障壁が生じます。それは事実です。多領域の教員が協議するということは、多様な意見や価値が議論されるということであり、そこでの価値の対立はあって当然ですし、ある意味のカルチャーショックがあってこそ、より良い教育改革につながります。教育機関として教育理念に即して「IPEを重要視し実施する」という確固とした方針があることで、実際の推進における様々な対立も、障壁ではなく乗り越えるべき課題に昇華され推進力となります。

 また、多領域の教員でIPEを検討する教員組織を形成することが、IPEを推進する重要なポイントとなります。IPEに参画する領域の教員が対等に話し合い、各領域の教員が納得する教育プログラムを策定する場が必要となります。
また、IPEを実際に実施していくと、教育プログラム企画に関わるコアとなる教員だけでなく、グループワークのファシリテーター等、実際のプログラム上で協力する立場の教員が必要となります。そのためにもIPEへの関心を組織全体で高めていく必要があります。IPEへの教員の関心を高める戦略としては、連携協働能力をテーマとするFaculty Development研修を実施する、IPEプログラム実施に伴う丁寧な説明、IPE協力者へのインセンティブ(IPEアワード、共同研究のプロジェクト、勉強会や研究会の実施など)のある企画の計画、などが考えられます。

IPEに入れ込むべき学習内容と段階的な学習

 保健医療福祉介護にかかわる専門職の養成は、IPEに限らず、教育する側が何を教えたかではなく、学習する側がどのような能力を身につけられたかが重要であると考えます。実際、英国のIPE推進機関CAIPEが2017年に更新したIPEガイドラインでは、IPEの学習成果としてコンピテンシーベースの教育を実施することを重要視しています7)。すなわち、IPEプログラムによってどのような能力を身につけさせたいかを明らかにすることが重要、という考えです。

 第2回で述べたように、WHOは6つの学習目標①チームワーク②役割と責任③コミュニケーション④学習とリフレクション⑤患者とそのニーズの理解への関与⑥協働するメンバーへの倫理的実践を提示しています。
 またIPEの先進大学であるカナダのトロント大学によるIPE開発のためのフレームワークには、以下が含まれています。

①価値と倫理
(関係性を基軸に置く、多様性に鋭敏になる、お互いを頼ること、創造性/革新性)
②コミュニケーション
(傾聴、フィードバック、効果的な情報共有、共通言語、対立への対応)
③協働
(ヘルスケアシステムの文脈と文化、実践における役割・責任・説明責任・業務範囲、意思決定/クリティカルシンキング、内省、改革)

 トロント大学では、上記の3つの能力が[導入][発展][実践への入り口]の学習段階を経て培われるようカリキュラム構築されています。例えば、コミュニケーションの学習目標を一部分ご紹介しましょう。

[導入]の学習目標:【知識】
「多職種間チーム内の権力や階層を含む、自職種の特徴が、どのように効果的なコミュニケーションそして/あるいは多職種間の緊張に貢献するかを認識し理解できる」

[発展]の学習目標:【技能】
「フィードバック、対立への対処、内省を含む効果的な多職種間コミュニケーションに貢献できる」

[実践への入り口]の学習目標:【技能】
「効果的な対立への対処を通じて多職種間グループの機能を促進できる」

 以上のように、段階的に発展できるような目標設定がなされています。各期とも学習目標に合わせて、座学・演習・実習等、適切な学習方法を組み合わせて実施していくことになります。

 連携協働の能力は、自然に生まれてくるものではなくトレーニングによって身につけられます。すなわち、段階的な教育プログラムにより計画的に積み上げていくことが適する性質を持っています。可能な限り段階的な積み上げ式の教育プログラムを組み込めることが理想です。

引用文献
1)    文部科学省:看護学教育モデル・コア・カリキュラム~「学士課程においてコアとなる看護実践能力」の習得を目指した学習目標~,2017年10月31日,〔https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/31/1217788_3.pdf〕(最終確認:2022年1月28日)
2)    文部科学省:医学教育モデル・コア・カリキュラム,2017年6月28日,〔https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/28/1325989_28.pdf〕(最終確認:2022年1月28日)
3)    文部科学省:薬学教育・モデル・コア・カリキュラム,2014年11月10日,〔https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/058/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/11/10/1352956_2.pdf〕(最終確認:2022年1月28日)
4)    WHO:Framework for Action on Interprofessional Education & Collaborative Practice,Health Professions Networks Nursing & Midwifery Human Resources for Health:2010
5)    伊藤裕佳ほか:看護師等学校養成所における専門職連携教育の実装状況と課題,保健医療福祉連携15(1):in printing、2022
6)    Barr H et al:INTERPROFESSIONAL EDUCATION GUIDELINES 2017. CAIPE, 2017
7)    同6)

井出 成美

千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター 准教授

いで・なるみ/千葉大学看護学部卒業後、千葉県内で市町村保健師、千葉大学看護学部助手を経て、千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。ポストドクターとして千葉大学COEフェローを経て後、特任研究員として千葉大学のIPEの創成期にかかわる。その後、山梨県立大学看護学部准教授、群馬大学大学院保健学研究科准教授を経て、2016年から千葉大学大学院看護学研究科附属専門職連携教育研究センターに特任准教授として着任し、現在に至る。

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