はじめに
本稿では、代替実習として行った『他学部合同カンファレンス』についてご紹介します。
こちらの記事でも述べたように、筆者が所属する東京医療保健大学和歌山看護学部では、2021年度の臨地実習においても、実習施設の受け入れが中止となり代替実習を余儀なくされた期間がありました。その中で、「他学部との合同カンファレンス」を企画することにしました。
なぜ合同カンファレンスを企画したか?
安全で質の高い医療を提供するためには、看護職種間のみならず、医師や理学療法士、薬剤師などの他職種との連携が重要となります。そのためには、看護師としての専門知識に加え、プレゼンテーション力や対人関係スキルが必要であり、臨地実習はそれらの能力を養ううえで重要な機会となります。
代替実習においても、シミュレーション演習やグループディスカッションを設けることで、それらの能力を養う機会としています。しかし、対象となる患者や臨床指導者をはじめとする学部外の方と関わる機会がないことに、代替実習の限界を感じていました。さらに、学生の学修意欲の維持にも課題がありました。そこで、他学部との合同カンファレンスを通して、様々な視点に触れてもらうとともに、他学部の学生から刺激を受けることで、学修意欲の維持・向上を意図しました。
合同カンファレンスを企画できた本学の強み
本学は、東京(医療保健学部、東が丘・立川看護学部)・千葉看護学部・和歌山看護学部の5学部7学科からなる医療系大学です。また、入学時に学生全員にノートPCが貸与され、学内LANも整備されていたこと、他学部でも教育用電子カルテ『Medi-EYE』を活用したオンライン実習が行われていたことから、同一の教材を活用し、学部間で合同カンファレンスを行える環境にありました。
今回の報告は、本学部と東が丘・立川看護学部の2学部による合同カンファレンスです。
合同カンファンレンスの準備
(1)レディネスの確認
・両学部ともに以下の点は同一であり、レディネスに差はありませんでした。
①領域実習に必要なすべての講義を3年次前期までに履修し、3年次後期~4年次前期に渡って領域実習が行われるカリキュラム構成
②1グループ5~6名で構成したグループ単位で全領域の実習を実施
(2)実習目標や実習内容の確認
・両学部で実習目標は異なります。また、実習期間が異なるため、実習内容・実習日程を事前に共有しました。
(3)合同カンファレンス内容の検討
・両学部の教員間で、カンファレンスの目的・到達目標を検討のうえ、目標達成に向けた、カンファレンスの実施方法や時期を決定しました。
・実習期間が異なるため、実習内容を確認のうえカンファレンス日程を決定しました。
⇒ 患者事例の術後1日目(東が丘・立川看護学部)および術後3日目(和歌山看護学部)の看護問題・優先順位を共有し合い、学びにつなげることとした。
・代替実習に活用するMedi-EYE事例を選択し準備を行いました。
⇒ 到達目標に応じた患者情報の追加・修正を行い、両学部で同一事例で看護過程を展開し、看護問題の抽出・看護計画の立案をすることとした。
合同カンファンレンスの実施
合同カンファレンスでは、直腸がん患者の事例を取り上げました。各自、前日までにMedi-EYEから事例患者の情報を収集し、看護問題の抽出・看護計画の立案を行いました。
当日は、まず各自が抽出した看護問題・看護計画をもとに、実習グループ内でディスカッションを行い、合同カンファレンスの発表資料を作成しました。その後、両グループ2学部による合同カンファレンスを実施しました。各学部の教員はチャットツールを用いて連絡を取り合いながら、学生の事前準備状況やカンファレンス中の進行確認などを行いました。
(1)カンファレンスの構成
・カンファレンスは以下の内容で行いました。
発表時間:1グループ10分
発表資料:パワーポイント8枚程度
発表内容
①患者概要
②身体的側面、心理的側面、社会的側面の情報と分析内容
③抽出された看護問題
④必要な看護支援(看護計画)
(2)カンファレンスの進め方
・司会、タイムキーパーなど全ての運営は学生が主体的に行いました。
・2学部で同一患者事例の異なる時期を分析対象としたため、「術後1日目の問題と看護を発表(東が丘・立川看護学部)・全体で質疑応答」➡「術後3日目の問題と看護を発表(和歌山)・全体で質疑応答」の流れで実施しました。
(3)患者事例の発表
・パワーポイント資料に沿って発表を行いました。以下は、発表スライドの一部です。
・発表後の質疑応答内容の一部です。異なる時期における看護問題や時間経過に伴う優先順位の変化などについて活発な意見交換が行われました。
他学部合同カンファレンスを振り返って
今回行ったカンファレンスでは、同じ対象患者の中でも異なる時期の看護についてカンファレンスを行ったことにより、「患者を捉えるための新たな視点や知識の獲得」「対象患者の時期による看護の違いの学び」を得る、重要な機会となりました。さらに、学部間で学生主導のカンファレンスを行うことが学びを促進し、各自が立案した看護を振り返る機会となりました。
今回の合同カンファレンスの方法を応用することで、患者を中心としたチーム医療を考える機会として、他学科との多職種カンファレンスなども行うことができると考えています。