看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

第6回:学ぶことの楽しさを伝えたいと思いはじめる私へ

第6回:学ぶことの楽しさを伝えたいと思いはじめる私へ

2022.06.03飯田 智恵(北里大学看護学部 講師)

はじめに

 学生時代、「看護の大学に通っているということは先生になるの?」と聞かれることがありましたが、その度に「自分に教員が務まるはずはない」と答えていました。看護師として働いているときにもその思いは変わらず、大学院に入っても、修士課程2年生の秋まで、自分が教員の道を選ぶなどとはまったく思っていませんでした。今回は、そんな私が教員の道を選んだ経緯や自分が感じてきたことを振り返ってみたいと思います。

1通目:大学院生活を過ごす私へ

 のんびりしすぎる面もあるあなたですが、今は大学院で、学ぶことの楽しさを満喫していますね。それは、修士論文の作成過程で、自分が関心のあることを調べて、知らなかったことを知り、理解していなかったことを理解し、できなかったことが少しずつでもできるようになることに喜びを感じているからです。
指導教授は肝心なことやあなたが困っているとき以外、細かいことには口を出しません。あなたなりの学び方を見守り、結果を待ってくださっています。研究データについて教員と話す中で、「この方向でいいんだ」「ここは考え直す必要があるな」というように進むべき道が少し見えてくるのもありがたいですよね。うまくいかず落ち込むときもありますが、のびのびと学んでいることと思います。

 大学院を修了した後は、体が弱ってきた父の近くに戻ろうかと思っているけれど、就職活動は4月以降でもいいかというように、相変わらずのんきですね。そんな風に過ごしていた10月のある日、知人から、「新潟県内の看護系大学で助手を探しているようだから審査を受けてみてはどうか」と声をかけていただきます。今まで頭に浮かんでも来なかった教員の道について、あなたが「考えてみようかな」という気になれるのは、大学院で学ぶことの楽しさを経験し、漠然とではありますが「自分も学生にそんな手助けができたら」と思ったからなのではないでしょうか。

2通目:教員生活のスタートを迎えた私へ

 4月に大学に着任したと思ったら、2週間後にはいきなり慢性期看護学実習が始まります。病棟で2日ほど患者へのケアを研修したり、実習指導者との打ち合わせを行ったとはいえ、初めての実習の場、初めて会う学生の中で、初めて取り組む仕事は不安だったと思います。教員経験はもちろんのこと、実習指導者の経験もなく、学生に看護過程や看護技術の指導が十分できるのか心配で、実習開始前日の晩はなかなか寝付けなかったうえに、夜明け前に目覚めてしまいましたね。

 ところが実習中の今は、患者や学生達と関わることで、たくさんの元気をいただいていることでしょう。学生と患者との関わりの場面に立ち会ったり、学生が書く実習記録を読んで、学生の目を通して患者のこれまでの人生の片鱗や、病気に向き合いながら懸命に生きている今現在の思い、患者を支える家族の様子など、あなた自身も患者への理解を深めていることと思います。同時に、学生が患者のことで戸惑ったり、患者の回復を喜んだりしながら、患者との距離を縮めていく姿、患者への看護を考え実行していく学生の様子を目の当たりにして、彼らの力をとても頼もしく感じるでしょう。
 その反面、患者との関係性の主体は学生であって、自分ではないことが寂しいような、学生は成長するのに自分は取り残されていくような気持ちが心の片隅にありますよね。日に日に育っていく彼らを見ていると、教員がいてもいなくても、学生たちは同じように前に進んでいくのではないかとも感じます。

3通目:少しずつ経験を積んだ教員2~3年目の私へ

 実習指導における教員の役割や行動を自分なりに整理しはじめるようになって、実習記録に目を通しコメントを入れること、学生がベッドサイドケアを実施する際の指導をこなすことで目一杯になりがちな自分に疑問を感じているところでしょう。学びは学習者本人のものであるはずなのに、ついつい「学生が、あれができるようにならないと。ここまでできないと」と、学生よりもあなたが焦っていませんか。

 その焦りは、2年目の慢性期看護学実習の際、幸か不幸か腰を痛めたことで少しずつ変わっていきますよ。学生一人ではケアを実施できない場面、万全の状態で動くことができないあなたは、ほぼ病棟の看護師に学生のご指導をお願いすることになります。学生がケアを行う場面を観察することもできないことが多くなり、ケアの実施状況を把握するために、必然的に学生と話をする時間が増えるでしょう。その時間を有効に使ってみてください。その日のある一つのケアについて話し合うこともあれば、話題が患者の情報やアセスメントにまで広がることもあります。
 少しだけ時間をかけて学生一人一人と直接話すことで、学生が思考を巡らせていること、あるいは思考を整理できずに迷っていることなどがわかってきます。学生にとって取り組むべき学習上の課題が複数ある中で、何を優先していけば患者への看護につながるのかなど、実行する事柄を整理できるよう手伝い、そこから先は見守ってください。これまでの日常生活や気持ちを患者本人に聞いてきたり、看護師に相談したり、図書館で調べてきたりと、学生が自ら学びを発展させていきます。

 中には、話し合いがあまり得意ではない学生、あなたが伝えたいことを飲み込めない学生もいるでしょう。彼らをどう導けばよいか分からなくなってしまうこともあるかもしれません。しかし、教員が正解を出す必要はなく、学生がその時点で導いた考えが大切です。そのためには、あまり身構えずに、患者を理解し、看護の方向性や方法を学生や看護師達と一緒に導くプロセスをあなた自身が楽しむとよいと思います。看護のことを話し合うことは、難しいこともありますが、本当に楽しいものです。まずは、学生たちに「教員とは安心して話すことができる」ということだけでもわかってもらえるとよいですね。

おわりに

 本稿では実習指導を中心に振り返ってみました。暗中模索の中、続けられたのは、落ち込んだ時に話を聞いてくれる同僚がいたからです。学生との関わりで困っていることを話すと、「個人個人、理解力や許容量も違うから、今は伝わらなくても、別のタイミングで生かされることもある。同じようなことが、別の実習でも起こるだろうから、その時の教員や指導者も伝えてくれる」というように、先輩や上司が私を励ましてくれたおかげです。何よりも、学生たちの朗らかさや一生懸命な姿が私の背中を押してくれましたし、実習指導者をはじめとした臨床の看護師さん達が助けてくれました。
 今後もたくさんの方に助けてもらいながら、学生と一緒に学び、学ぶことの楽しさを少しずつでも伝えていきたいと思います。

飯田 智恵

北里大学看護学部 講師

いいだ・ちえ/北里大学看護学部卒業後、北里大学病院にて6年間勤務。北里大学大学院看護学研究科修士課程に進学、修了後、2003年4月に新潟県立看護大学助手として勤務。2017年4月より北里大学看護学部に着任し、現在に至る。現在は、看護学原論、基礎看護技術、基礎看護学実習を担当している。

企画連載

リレー企画「あの頃の自分へ」

本連載では、看護教員のみなさまによる「過去の自分への手紙」をリレーエッセイでお届けします。それぞれの先生の、“経験を積んだ未来の自分”から“困難に直面した過去の自分”へ宛てたアドバイスやメッセージをとおし、明日からの看護教育実践へのヒントやエールを受け取っていただけるかもしれません 。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。