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第1回(後編) 呼吸器疾患①:慢性閉塞性肺疾患(COPD)

第1回(後編) 呼吸器疾患①:慢性閉塞性肺疾患(COPD)

2021.12.03フラピエ かおり(株式会社Nurse Style Biz 代表)

第1回(前編)からのつづき~

呼吸困難の程度を想像する

フラピエ:では続けていきましょう。次は搬送後のAさんの呼吸の状態に着目してみます。
さくら:[肩呼吸]という部分ですか?
フラピエ:そうですね。肩で呼吸をするというのは、通常の呼吸時に使用する呼吸筋だけでは換気をまかないきれず、呼吸筋という呼吸筋を総動員してなんとか呼吸している状態です。つまり、呼吸困難がかなり高度であることがイメージできますよね。
あおい:全速力で走ったあとに苦しくてゼーゼーするあの感じですか? 単に走って息切れしているんだったら、しばらくすれば落ち着くけど、それが続いているんですよね…。
フラピエ:それに一生懸命呼吸をしているから[発汗が著明]で[口唇は乾燥]するほどなので、脱水も心配ですね。
さくら:想像しただけでとてもつらそうです…。

基準値から逸脱しているバイタルサインはあるか?

フラピエ:そうよね。では、“とてもつらそう”の程度は、どういう情報から読み取れますか?
あおい:ええと、まずはやっぱりバイタルサインですか?
フラピエ:そのとおり。バイタルサインを正しく評価することは、基本中の基本ですね。Aさんのバイタルサインで、基準値から逸脱しているデータはありますか?
あおい:Aさんの平熱はわからないけれど、[発汗が著明]だし、[体温38.3℃]はいずれにしても発熱と言えると思います。熱が高いから、呼吸数も脈拍も増えているのかな…?
さくら:でも血圧は高くはないような…。
フラピエ:いいですね。[体温38.3℃]は高熱、[呼吸数35/分]は頻呼吸、[脈拍108/分]は頻脈の状態で、どれもかなり心配な状況と言えるわ。[血圧96/70mmHg]もショックの診断基準(収縮期血圧90mmHg以下の低下を指標とすることが多い3))よりはギリギリ高い、という程度なので、決して軽視できない数値ですね。
さくら:バイタルサインって、いつもなんとなく測定していたけれど、患者さんの状況を教えてくれる大事な情報だって、改めて感じています!
フラピエ:すばらしい気づきですね。それをしっかり活かすには、成人のバイタルサインの基準値は必ずおさえておきましょう! 2人とも、まだあやふやですね…?
あおい:ご、ご明察…!
フラピエ:覚えたての言葉を使ったわね(笑) 基準値もしっかり覚えてね!
さくらあおい:ハイっ…! バレバレでしたね (^^;

酸素飽和度と酸素分圧の相関を理解する

さくら:先生! そうすると、選択肢1の[脱水である]は正しくて、選択肢4の[ショック状態である]は誤りでよいのですか?
フラピエ:そうなりそうですね。では続きもしっかり検討していきましょう。
さくら:はい!
あおい:あれ? 先生、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)をお忘れでは…?
さくら:SpO2も低いような気がするのですが…。はっ、お察しのとおり基準値はうろ覚えです…!
フラピエ:そう、あえて飛ばしたの。よく見逃さなかったわね。
あおい:あえて、って、どういうことでしょうか?
フラピエ:それは、動脈血酸素飽和度(SaO2、SpO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)は、まとめて整理したほうが大事な知識が身につくからよ。
さくらあおい:知りたいですっ!
フラピエ:その前に念のため。動脈血酸素飽和度の「SaO2」「SpO2」の違いは説明できますか?
あおい:動脈血を採取して酸素飽和度を測定するのが「SaO2」で、指先にパルスオキシメーターを着けて皮膚を介して測定するのが「SpO2」です!
フラピエ:すばらしい! 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で自宅療養中の患者さんの重症化への移行のサインとして、SpO2が活用されていたことを覚えていますか? SaO2とSpO2の値は必ずしも一致するわけではないけれど、簡易的に測定できるSpO2はとても有用ですね。それじゃあ2人とも、「酸素解離曲線」は覚えている?
さくら:ええと、SaO2とPaO2のグラフだったような…。
フラピエ:そう、こんなグラフでしたね()。赤血球中のヘモグロビンと酸素の離れやすさを表したグラフですが、これを見るとSaO2が90%のときでも、PaO2は60Torrになっていることがわかりますね。実は「動脈血酸素分圧60Torr以下=呼吸不全」と定義されます。

図 酸素解離曲線

あおい:え、そうなんですか…! 90%って十分高い値だと思ってしまいました。
フラピエ:PaO2は80~100Torrが正常だから、SaO2はだいたい95%以上に相当します。90%というとなんとなく高い値に思えるけれど、危険な状態と判断しなければなりません。
さくら:じゃあAさんは、[経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉89%][動脈血酸素分圧〈PaO2〉60 Torr]なので呼吸不全状態ということですよね?

呼吸状態の悪化とアシドーシスを結びつけて考える

フラピエ:そうですね。すぐに呼吸状態を助ける処置が必要ですね。ここまで呼吸状態が悪くなっているから換気も不十分で、呼吸による血液のpHのバランスも崩れてしまっています。状況文の最後、[動脈血炭酸ガス分圧〈PaCO2〉68 Torr][pH 7.29]という情報がそれを表しています。
あおい:これが選択肢3の[アシドーシスである]かどうかの判断のための情報ということですね?
フラピエ:そのとおり!
さくらアシドーシスアルカローシス…いつも理解ができないところでした…。
フラピエ:そうね、難しく感じる学生さんが多いところですね。
あおい:血液(体液)が酸性に傾く場合がアシドーシス、アルカリ性に傾く場合がアルカローシスですよね。ここまではなんとか…。
フラピエ:なるほど、データから判断するのが難しいということですね? まず、アシドーシスかアルカローシスかの判断にはpHをみるといいですよ。pHは7を中性として、7より小さければ酸性、大きければアルカリ性に向かっている、とざっくり覚えてね。ヒトの血液(体液)は通常pH7.35~7.45(ややアルカリ性)に保たれているのだけれど、この値より小さければアシドーシス、大きければアルカローシスに向かっていると判定できます。「pH7.35~7.45」というこの数値は必ず覚えておいてくださいね!
さくら:Aさんは[pH7.29]だから、アシドーシスということですね! 選択肢3[アシドーシスである]は正しいんですね!
フラピエ:そう、そのとおり!
あおい:じゃあやっぱり正解は、選択肢4の[ショック状態である]ですね!
フラピエ:大正解! でもちょっと待って、[動脈血炭酸ガス分圧〈PaCO2〉68 Torr]のことを忘れていませんか?
さくらあおい:…(; ・`д・´)
フラピエ:アシドーシス/アルカローシスは、呼吸が影響する場合(呼吸性)と、腎臓などのはたらきが影響する場合(代謝性)がありましたね。今回はそこまでは問われていないけれど、というよりCOPDの患者さんだから呼吸性であろうことは予測がつくけれど、大事なポイントだからこの機会に説明しますね。
さくらあおい:お願いしますっ!
フラピエ:呼吸性の場合はCO2(肺からのCO2の排出の程度)に着目します。換気が不十分で体内にCO2が増えれば血液は酸性に(pHは低下)、反対に過呼吸になってCO2が減れば血液はアルカリ性に(pHは上昇)傾きます。つまり、呼吸性アシドーシスではPaCO2は高くなり、呼吸性アルカローシスではPaCO2は低くなる。ちなみにPaCO2の基準値は34~45Torrですから、AさんのPaCO2の値は…?
さくら:基準値より高い!
あおい:やっぱりアシドーシスだっ!
フラピエ:ふふふ、大正解ね。
さくらあおい:やったー!! 私たち、めっちゃ賢くなってる!
フラピエ:情報をていねいに読み解くことの大切さが伝わりましたか? こうしてトレーニングを重ねると、たくさんある情報が、一つひとつ意味をもった情報に見えてくるはずです。これからも一緒にがんばりましょうね! 次回も呼吸器の問題を見ていくから、今回の復習をお忘れなく!
さくらあおい:はいっ!!!

フラピエかおりの、国試指導ワンポイントアドバイス!

■COPDは国試に頻出の疾患です。COPDを学習させる際は、閉塞性換気障害のみならず、換気障害のその他の型(拘束性、混合性)の定義や特徴も合わせておさえておくことをお勧めします。このときには、スパイロメトリーの数値を評価させる第102回(2013年)PM48の問題が役立ちます。

■CO2ナルコーシスは、COPD患者の酸素投与の際に注意すべき状態です。国試にも頻出ですが、メカニズムを理解できていない学生さんが多いと思います。病態の特徴を踏まえて理解できるように、COPDの学習時に一緒に説明することをお勧めします。


引用文献
3) 日本救急医学会:医学用語解説集 ショック,〔https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0823.html〕(最終確認2021年11月30日)

フラピエ かおり

株式会社Nurse Style Biz 代表

看護師として13年間、臨床で経験を積む。その後、看護教育の道へ。全国の看護大学・看護専門学校において、国家試験対策講座や解剖生理学・形態機能学、病理学、各看護学の講義を担当。また総合病院看護部の教育顧問として、臨床看護師を対象とした看護研究やフィジカルアセスメント、臨床推論の指導にも携わっている。 教育のかたわら、国立大学大学院(臨床人間科学専攻)を修了。在学中には、海外における看護師制度や看護師国家試験制度についての研究に勤しんだ。 学ぶこと、知ること、わかるようになること、そのよろこびを多くの看護学生・看護師に伝えている。 著書に『看護学生のための重要疾患ドリル』(メヂカルフレンド社)、『看護学生のための重要症状ドリル』(メヂカルフレンド社)など。

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