はじめに~本連載をご活用いただくために
この連載では、看護師国家試験問題のなかでも長文で出題され、学生にとって難度の高い「Aさん問題」を題材とし、問題を解くにあたり何に着目させ、どう理解させ、そして正答へとたどりつかせるのかを、学生との対話をとおしてご紹介します。日々の指導のヒントとしてお役立てくだされば幸いです。
それでは、ぜひ本編をお楽しみください。
看護師国試「Aさん問題」とは:「Aさん問題」をとおして学べること
さくら:フラピエ先生、はじめまして。さくらです! 看護専門学校2年生です!
あおい:看護大学3年生のあおいです。今日からどうぞよろしくお願いいたします!
フラピエ:さくらさん、あおいさん、はじめまして、フラピエかおりです。こちらこそ、よろしくお願いしますね。
さくら、あおい:よ、よろしくお願いしますっっ!
フラピエ:ふふ、緊張しているかな。さっそくですが、2人とも国試の勉強は進んでいますか?
さくら:えっ…と、い、今は実習中で…事前学習、記録、復習でいっぱいいっぱいで…。
あおい:私も…実習中はなかなか余裕がなくて…。す、スミマセン…。
フラピエ:そんなに怯えないで(^^;) そうよね、みんな実習中は寝る間も惜しいくらい忙しいものよね。
あおい:でも、このまま4年生になって大丈夫かなって、不安になることはあります…。
さくら:私も来年になって焦る自分が目に浮かびます…(@_@)
あおい:そういえば先輩たちが、最近の国試は問題文の長い問題が多くなっているって言っていました。
フラピエ:あおいさん、それは大事な情報ですね! “問題文の長い問題”というと、従来の「状況設定問題」のほかにも、最近は一般問題のなかでも「(短い)状況設定を付した問題」が増えてきています。「長い状況文を付した単問の状況設定問題」が出題されることもあります。厚生労働省からは、「今後も短い状況設定を付した一般問題を出題する方針である。状況設定問題においては、長い状況文を付した単問を今後も出題していく方針である」1)と公表されているんです。
さくら:ええっ? そうなんですか? 私、文章読むのニガテなんです…。
フラピエ:あらら、さくらさんにとっては悲報だったかしら…。
さくら:( ;∀;)
あおい:先生、私もとても不安になってきました…(;_:)
フラピエ:ごめんなさい、弱気にさせてしまったようね。でも大丈夫!
さくら、あおい:せ、先生っっ!!(T_T)(T_T)
フラピエ:ところで、「状況設定問題」も一般問題の「状況設定を付した問題」も、目印として問題文の冒頭に「Aさん(○歳、男性or女性)」と患者さんの紹介が入ります。
さくら:だからこの連載は、“看護師国試「Aさん問題」”って言っているんですね!
フラピエ:ご明察!
さくら:わーい\(^o^)/
フラピエ:切り替えがはやい! この連載では、Aさん問題を解くコツをお伝えしていきます。そうそう、このAさん問題を勉強することで、実習や臨床に出たときにも役立つ大切な視点や考える力も身につくのですよ。
あおい:それ、めちゃくちゃうれしいです! でも、なぜですか?
フラピエ:実習のときには、事前学習で受け持ち患者さんの疾患について調べて、電子カルテや看護記録にも目をとおして、患者さんとのコミュニケーションを通じてさらにいろいろな情報を得て…、と、患者さんや疾患に関するたくさんの知識や情報を得ますよね?
さくら:はい! でも情報がたくさんありすぎて、いつもパニックになっちゃいます。
あおい:そうそう、何が重要なのかわからなくて…。
フラピエ:なるほど。たくさんの知識や情報を、どのように看護やケアにつなげていくか、整理が難しいという感じかしら。
さくら、あおい:そうなんです!
フラピエ:Aさん問題では、主人公である患者・Aさんに関する情報が詰まった文章が示されて、アセスメントをしたり、どんなケアが必要かが問われます。そのとき、みなさんの頭の中では、限られた試験時間内でどの情報に着目するのか、何が求められているのかと、様々な判断が行われます。これって、実は臨床の看護師さんたちも常に実践していることなんです。いわば、思考力や判断力を磨いていくということですね。
さくら:へぇ、そうなんですね(*’▽’)
フラピエ:ふふふ、まだピンときていないようですね。とにかく実際の過去問題で具体的にみていきましょう!
次の文を読み問題に答えよ。
Aさん(64 歳、女性)は、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)で通院加療中である。1週前から感冒様症状があり市販薬を服用し経過をみていたが、呼吸困難を訴えた後、反応が鈍くなり救急車で搬送された。Aさんは肩呼吸をしており、発汗が著明で口唇は乾燥している。体温 38.3 ℃、呼吸数 35/分、脈拍 108/分、血圧 96/70 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉89% であった。ジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-30。動脈血液ガス分析では動脈血酸素分圧〈PaO2〉60 Torr、動脈血炭酸ガス分圧〈PaCO2〉68 Torr、pH 7.29 であった。
問題 この時点でのAさんのアセスメントで誤っているのはどれか。
1.脱水である。
2.意識障害がある。
3.アシドーシスである。
4.ショック状態である。
[第105回(2016年)AM91]
あおい:ふう。状況文を一文字ずつ追いかけるだけで疲れてしまいました…。
フラピエ:あらあら。
さくら:国試問題だと思うと、書いてあること全部がめちゃくちゃ重要なんだろうな、って思っちゃうのですが…。
フラピエ:たしかに、それも真理かもしれないですね。でもさきほども言ったとおり、どの情報に着目するのか、何が求められているのか判断していくのよ! 一緒に解いていきましょう。
さくら、あおい:お願いします!
この問題の評価領域分類(taxonomy)
Ⅱ型:与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題
この問題を指導する際のポイント
■COPDの病態を想起しながら、まずは選択肢を確認する
■閉塞性換気障害のイメージを深める
■Aさんが入院に至ったのはなぜ?
■意識レベルの低下を読み取る
■呼吸困難の程度を想像する
■基準値から逸脱しているバイタルサインはあるか?
■酸素飽和度と酸素分圧の相関を理解する
■呼吸状態の悪化とアシドーシスを結びつけて考える
COPDの病態を想起しながら、まずは選択肢を確認する
フラピエ:さて、これは64歳の慢性閉塞性肺疾患の女性患者さんの事例ですね。この問題の場合は、ひとまず選択肢にも目をとおしておいたほうがよさそうね。慢性閉塞性肺疾患の病態を思い出しながら、選択肢を見てみましょうか。
さくら:[脱水][意識障害][アシドーシス][ショック状態]。
あおい:慢性閉塞性肺疾患って、「COPD」って呼ばれる疾患でしたよね?
さくら:しーおーぴーでぃー…。シーオーピーディー…? COPDっ!!
フラピエ:あおいさん、そのとおり! さくらさんもその調子!
さくら:COPDって、呼吸が苦しくて、樽状胸郭になって、肺は炎症を起こしていて…。
あおい:喫煙が主な原因で、患者さんは苦しいから起坐呼吸をしていて、あと、たしか診断にはスパイロメトリーの数値をみるんでしたよね。
さくら:そうだ! 診断基準は1秒率が70%未満? 肺活量でしたっけ…? あれれ?
フラピエ:2人ともすばらしい! 大事な知識が挙がりましたね(病態のメカニズムまでは理解はできていなそうだけど…まあよしとしましょう)。ちなみにスパイロメトリーでの診断基準は1秒率(FEV1%)70%未満が正しいですね。
さくら:1秒率でしたか! わかりました。
閉塞性換気障害のイメージを深める
フラピエ:COPDは、「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す」2)と定義されています。
さくら:わかったような…。
あおい:わからないような…。
フラピエ:素直な気持ちね(笑)。定義にある「呼吸機能検査」というのが、スパイロメトリーのことを指しています。
あおい:ということは、1秒率が70%未満という状態が、イコール気流閉塞、ということですか?
フラピエ:そう! すばらしい!
あおい:ありがとうございます(*’▽’) でも、気流閉塞っていったい何ですか…?
フラピエ:あらら。空気の通り道である気道が閉塞してしまって、うまく吐き出せない状態ね。イメージできますか?
さくら:空気の通り道が狭くなるって、とても苦しそうです。うまく吐き出せないと、呼吸するのも時間がかかって消耗しちゃいそう…。
フラピエ:そのとおり。息を吐きだすのに時間がかかる(呼気延長)のは、COPDの特徴の一つです。このように気流閉塞を起こして、1秒率が70%未満に低下している状態のことを「閉塞性換気障害」と言います。
あおい:だからCOPDは日本語で「慢性閉塞性肺疾患」と言うんですね。
フラピエ:そう、つまり疾患名がすでに特徴を語ってくれているわね。①慢性の、②“閉塞性”換気障害をきたす、③肺の疾患、ということですね。
Aさんが入院に至ったのはなぜ?
フラピエ:さてさて本題はここからよ。4つの選択肢とCOPDの病態や症状に関連はありますか?
あおい:どれも直接関係するのかどうか…。
フラピエ:一見するだけでは判断は難しいですよね。では状況文に戻ってみましょう。まずAさんは通院加療をしていたのですね。それで今回、あるきっかけで入院になっていますよね。
さくら:きっかけは、[1週前から感冒様症状があった]ことですか?
フラピエ:そう、何かしらの気道感染が起こっていたことが考えられるわね。健康な人だったら、かぜを引いても薬を飲んで休養すれば数日で治るもの、という認識だけれど、COPDの患者さんにとってはそうでないことがわかりますよね。ところで、Aさんのように通院加療中のCOPDの患者さんの症状が急激に悪化するという状況をなんと呼んだかしら?
あおい:うーんと、ええと、あ! 「急性増悪」ですね。
フラピエ:大正解! ただしCOPDの患者さんに限定して使われるわけではないので注意してね。
さくら:ところで先生、[市販薬を服用し経過をみていた]ってところはどう考えればいいんですか? もしかして市販薬が合わなかったから呼吸器症状が悪化してしまったとか…。
フラピエ:いいところに気づきましたね。ここ、気になりますね。でも残念だけど、この状況文の情報だけではなんとも判断できないと思います。かぜ薬の種類とか、服用量や回数とか、はっきり書かれていないので、この場合、問題を解くうえではあまりこだわりすぎないほうが得策ですね。この問題の場合は、とにかくAさんはCOPDの急性増悪をきたしている、という状況を読み取れることが重要です。
さくら:わかりました!
意識レベルの低下を読み取る
フラピエ:さて、搬送直前のAさんの[呼吸困難を訴えた後、反応が鈍くなり]という様子からは、どんなことが読み取れますか?
あおい:呼吸困難で苦しかったのに、苦しさを訴えることすらできなくなった、ということですか…?
フラピエ:そうですね。反応が鈍くなるというのは、“意識レベルが低下したよ”というサインです。
さくら:意識レベルの低下か…。あっ、搬送後の[ジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-30]という情報も、意識レベルの把握のための大事な情報ですよね?
フラピエ:すばらしい! JCSⅡ-30はどういう状況?
あおい:たしか、「痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する」という状態だったかと…。
フラピエ:よく勉強していますね!
あおい:ありがとうございます!
フラピエ:JCSによる意識レベルのアセスメントは、国試でよく問われるので覚えておいてくださいね! Aさんは入院前の[反応が鈍くなり]という様子から、[JCSⅡ-30]という状態まで意識レベルが低下している状況が読み取れますね。
さくら:そうしたら選択肢2の[意識障害がある]は、正しいということですか?
フラピエ:そのとおり! ちなみに、同じく意識障害の指標の「グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)」についても合わせて押さえておくと、もっといいですよ!
さくら、あおい:わかりました!
~第1回(後編)につづく~
1) 医道審議会保健師助産師看護師分科会:保健師助産師看護師国家試験制度改善検討部会 報告書,2021年3月31日,p.3,〔https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/000763772.pdf〕(最終確認:2021年11月30日)
2)日本呼吸器学会COPDガイドライン第5版作成委員会編:COPD診断と治療のためのガイドライン2018,第5版,p.10,2018