はじめに:本連載をご活用いただくために
この連載では、看護師国家試験問題のなかでも長文で出題され、学生にとって難度の高い「A さん問題」を題材として、問題を解くにあたり何に着目させ、どう理解させ、そして正答へとたどりつかせるのかを、学生(看護専門学校2年生のさくらさん、看護大学3年生のあおいさん)との対話をとおしてご紹介します。日々の指導のヒントとしてお役立てくだされば幸いです。
さくら:先生、今回はどんな疾患ですか?
フラピエ:消化器のがんですよ。さっそく始めましょう!
あおい:よろしくお願いします!
次の文を読み問1、問2、問3に答えよ。
A さん(64歳、男性)。最近仕事上のストレスが続き、疲労感を訴えていた。1~2ヵ月前から食事のつかえ感があり、体重が2ヵ月で10kg減少したため受診した。検査の結果、胸部中部食道癌と診断され、手術目的で入院した。
問1 入院時の検査所見は、Hb9.5g/dL、血清総蛋白5.4g/dL、アルブミン2.5g/dL、AST〈GOT〉24IU /L、ALT〈GPT〉25IU/L、γ-GTP38IU/L、尿素窒素18mg/dL、クレアチニン0.7mg/dL、プロトロンビン活性82%(基準80~120)であった。
A さんの手術前の身体的リスクが最も高いのはどれか。
1.低栄養状態
2.肝機能障害
3.腎機能障害
4.出血傾向
問2 右開胸開腹胸部食道全摘術と、胸壁前経路での胃を用いた食道再建術が行われた。術後、人工呼吸器が装着され、術後2日目の朝に気管チューブを抜管した。創部痛のため痰の喀出が少なかった。その日の夕方、A さんは呼吸困難を訴え、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が93%に低下した。右下肺野で肺雑音を聴取したが、胸郭の動きに左右差はなかった。
A さんに起こっていると考えられるのはどれか。
1.右肺気胸
2.食道気管支瘻
3.無気肺
4.縦隔炎
問3 その後 A さんは順調に回復し、術後3日目に食事開始となった。
A さんへの指導で誤っているのはどれか。
1.微温湯摂取で誤嚥の有無を確認する。
2.口を閉じてゆっくりと嚥下する。
3.前胸部を手でなでおろす。
4.食後は右側臥位で過ごす。
[第101回(2012年)PM94・第95回(2006年)PM46~47・第93回(2004年)AM89、一部改変]
さくら:食道癌の患者さんですね。今回も検査データが盛りだくさん(*_*)
あおい:術後の合併症やケアも、たくさん覚えることがありますよね( ;∀;)
フラピエ:そうですね。解剖の知識の復習もできますよ(^_^) さっそく始めましょう!
この問題の評価領域分類(taxonomy)
【問1、問2】Ⅱ型:与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題
【問3】Ⅲ型:設問文の状況を理解・解釈した上で、各選択肢の持つ意味を解釈して具体的な問題解決を求める問題
この問題を指導する際のポイント
■消化管の全体像を復習する
■食道の構造と機能を確認する
◎食道の区分と生理的狭窄部を確認し、食道癌の特徴と結びつける
◎縦隔について理解し、食道の手術の煩雑さをイメージする
■食道癌の特徴をおさえる
■A さんの入院時のデータを読み解く
■A さんの術式を理解する
■食道再建術の経路について整理する
■術後合併症をアセスメントする
■食道癌の術後の食事時の留意点をおさえる
消化管の全体像を復習する
フラピエ:いきなりですが、口から摂取した食べ物がどんな経路を通るか、口腔から順に消化管の部位名を挙げていってください。
さくら:いきなりですね(;’∀’) ええっと、口腔の次はまず咽頭→食道→胃と続いて…。
フラピエ:いいですね。そのあとはどうですか?
あおい:小腸です! 小腸は、十二指腸→空腸→回腸の順です。
さくら:そして大腸から肛門に至ります! 大腸は、盲腸→上行結腸→横行結腸→下行結腸→ S 状結腸→直腸の順です。
フラピエ:すばらしい! 十二指腸までを上部消化管、空腸以降を下部消化管と大きく区分していましたね。では今回のテーマである食道について、もう少し詳しく復習しましょう。
あおい:お願いします!
食道の構造と機能を確認する
食道の区分と生理的狭窄部を確認し、食道癌の特徴と結びつける
フラピエ:食道は、いま確認したとおり、咽頭と胃をつなぐ管です。成人では長さ25cmほどで、「頸部食道」「胸部食道」「腹部食道」の3つに区分されます。最も広範囲を占める胸部食道はさらに、「胸部上部食道」「胸部中部食道」「胸部下部食道」に区分されます。
さくら:A さんは[胸部中部食道癌と診断]されていますね。
フラピエ:胸部中部食道は食道がんの好発部位なので、覚えておきましょう!
さくら:わかりました!
フラピエ:食道は、ほかの消化管と違って、消化酵素を出したり栄養素や水分の吸収などを行っているわけではなく、食べ物を蠕動運動によって胃に送るというシンプルな機能を担っています。このように食べ物の通り道である食道ですが、食べ物が通りにくい部分がありましたよね?
あおい:たしか、もともと内腔が狭くなっている「生理的狭窄部」というのがありました!
フラピエ:そのとおり! 食道が始まる部分(食道起始部)、食道の前に位置する気管が分岐する高さに対応する部分(気管分岐部)、食道が横隔膜を貫く部分(横隔膜貫通部)の3ヵ所でしたね。
さくら:A さんは[食事のつかえ感]があったようですが、この生理的狭窄部が関係しているのですか?
フラピエ:生理的狭窄部によって、とくに病気がなくてもつかえ感がみられる場合がありますが、食道癌で腫瘍が大きくなると、食道内腔がさらに狭くなってつかえ感を自覚しやすくなると考えられますね。食道癌の患者さんでは、「食事がつかえる」「喉がつかえる」と訴えることがよくありますが、つかえ感を自覚する頃には、それなりに腫瘍が大きくなっていると言われています。
さくら:そうなんですね…。A さんが心配です。
フラピエ:そうですよね。では、A さんの状態についてより深くイメージするために、食道の位置も確認しておきましょう。「縦隔」という部分を覚えていますか?
縦隔について理解し、食道の手術の煩雑さをイメージする
あおい:じゅうかく…? 聞いたことはあるような…(*_*)
フラピエ:縦隔というのは、胸腔の中央の、左右の肺に挟まれた領域のことを言います。前方には胸骨、後方には胸椎が位置します。この領域には、心臓や、心臓を出入りする大きな血管、神経、気管・気管支などが存在していて、食道も通っています。縦隔は、上縦隔と下縦隔に区分され、下縦隔はさらに前縦隔、中縦隔、後縦隔に区分されます。このうち食道は後縦隔(心臓と胸椎に挟まれたエリア)を通ります。
さくら:ムズカシイ…(@_@)
フラピエ:ですね(^^;) 何が言いたいかというと、食道は胸骨や心臓の奥に存在するうえ、周囲には重要な臓器や大血管、神経などが通っているので、手術で食道にアプローチするのは大変だ、ということです。たとえば、同じ消化管でも胃の手術の場合は、開腹によって大きな困難なく胃にアプローチできますが、食道の場合は胸骨があるのでそうはいきません。開胸したらまずは胸骨を切開して縦隔に到達し、そこからさらに食道に到達しなければなりません。
あおい:つまり食道の手術をするということ自体、かなり大変なことなんですね。
さくら:なんとなくイメージできました!
食道癌の特徴をおさえる
フラピエ:それでは、食道癌についても少しおさらいしておきたいと思います。
あおい:お願いします。
フラピエ:食道癌は、がんが食道壁のどのくらいの深さまで達しているか(壁深達度)によって病型分類されます。食道壁の構造は、内側から粘膜層(粘膜上皮・粘膜固有層・粘膜筋板)→粘膜下層→固有筋層→外膜でしたね。がんの深達が粘膜下層までのものを「表在型食道癌」、固有筋層より深くに及んでいるものを「進行型食道癌」と分類します。表在型食道癌のうち、粘膜層内にとどまるものをとくに「早期食道癌」と言います。
さくら:A さんはどれに該当するのでしょうか?
フラピエ:状況文や設問文からは具体的には判断できませんが、問2にあるように、開胸・開腹による手術目的での入院なので、少なくとも早期食道癌よりは進行していると考えるのが妥当だと思われます。
あおい:そうなんですね…。
フラピエ:食道癌を切除するための治療法としては、手術治療のほか、比較的侵襲の低い内視鏡的治療(内視鏡的粘膜切除術〔EMR〕、内視鏡的粘膜下層剥離術〔ESD〕)がありますが、内視鏡的治療の適応になるのは表在型食道癌の中でもリンパ節転移がない場合などに限られます1)。食道壁には、ほかの消化管では最外層にみられる漿膜がないため、周囲のリンパ節などに浸潤、転移しやすいという特徴がありますから、表在型食道癌であっても、リンパ節転移の可能性があれば手術治療により食道とともにリンパ節も切除することになります。
さくら:内視鏡的治療の適応にならなかった A さんは、表在型食道癌でもリンパ節に転移があるか、進行型食道癌の状態になっているだろう、ということですね…。
フラピエ:A さんは残念ながら手術が必要な状態になってしまっていますが、近年では、がん検診などで早期発見ができ、早期癌のうちに内視鏡的治療を行えるケースも増えてきているんですよ(^ ^)
あおい:早期発見が本当に大事なのですね。
フラピエ:そのとおりですね。なお、食道癌の治療法には化学療法や放射線療法もあります。手術での切除ができないほどに進行してしまったケースに対して行われたり、内視鏡的治療や手術治療と合わせて実施されることがあります。さて、ここまで長くなりましたが、問1をみていきましょう。
A さんの入院時のデータを読み解く
さくら:入院時のデータの分析ですね。
フラピエ:そうです。[1~2ヵ月前から食事のつかえ感があり、体重が2ヵ月で10kg減少した]という情報も踏まえながら、一つずつデータをみていきましょう。
あおい:そっか、A さんは2ヵ月ほど食事をしっかり摂れずにいただろうから、栄養状態が悪くなっていそうですね。
さくら:まず、[Hb 9.5g/dL]はけっこう低い値だと思うので、貧血がありそうですね。
あおい:それに、[血清総蛋白5.4g/dL]も[アルブミン2.5g/dL]も低いように思います。やっぱり栄養状態が悪いのではないでしょうか?
フラピエ:2人ともしっかり分析できていますね。A さんのように、食道癌の手術が必要な患者さんでは、つかえ感や痛みなどで食事摂取量が減るので、入院の時点で低栄養や貧血、体重減少をきたしている場合がほとんどでしょう。
あおい:では、選択肢1[低栄養状態]が正解ですね! も、もちろん続きのデータもちゃんと確認しますよ(; ・`д・´)
フラピエ:はい、ぜひお願いします(^^)
さくら:[AST〈GOT〉24IU/L][ALT〈GPT〉25IU/L][γ-GTP 38IU/L]は、どれも基準値内です。だから選択肢2[肝機能障害]のリスクは高くはないと思います!
あおい:[尿素窒素18mg/dL][クレアチニン0.7mg/dL]も、基準値内です! 選択肢3[腎機能障害]のリスクも高いとは言えないと思います。
フラピエ:すばらしい!
さくら:先生、最後の[プロトロンビン活性82%]も基準値内のようですが、これは選択肢4[出血傾向]をみるデータと考えればよいのですか?
フラピエ:出血傾向の指標といえば「血小板」が真っ先に思い浮かぶと思いますが、プロトロンビンは血液凝固因子の一つですので止血に関与しています。検査データとしてはプロトロンビン時間(凝固時間)、プロトロンビン比、プロトロンビン活性、PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)などの種類があって、高い(長い)場合には、血液凝固・止血がしにくくなっている状態と考えられます。ほかには、重症肝障害、閉塞性黄疸、ビタミン K 欠乏などで高く(長く)なります。
あおい:では、プロトロンビン活性のデータも問題なさそうなので、選択肢4[出血傾向]のリスクも高くないと考えてよさそうですね!
フラピエ:そのようですね。では問2に移りましょう。
A さんの術式を理解する
フラピエ:まずは A さんの術式を確認しておきましょう。
さくら:[右開胸開腹胸部食道全摘術と、胸壁前経路での胃を用いた食道再建術が行われた]とあります。文字を見るだけでも複雑な手術のようですね…。
フラピエ:この術式では、胸部と腹部、そして頸部での手術操作を行います2, 3)。まずは体の右側から開胸し、胸部食道および腹部食道と、がんが転移している可能性のある食道周囲のリンパ節を切除します。次に開腹し、腹部のリンパ節を切除し、切除した食道の機能を補うための食道再建術に用いる胃にアプローチします。そして胃を胸骨の前面を通して、残存した頸部食道までぐっと持ち上げて、頸部の皮膚も切開し、持ち上げた胃と切除した食道の断端を吻合します。
あおい:大変な手術ですね…。A さんの体への負担もかなり大きそうです。
フラピエ:そのとおりですね。胸部、腹部、頸部に手術操作を加えるため、複数の術創ができるので、術後は人工呼吸器だけでなく、創部のドレーンも複数挿入した状態で、ICUなどに入室します。術後合併症にも細心の注意を払う必要がありますね。
さくら:問2は術後合併症をアセスメントする問題ということですね!
フラピエ:ご明察! でもその前に、食道再建術について補足をさせてください。
食道再建術の経路について整理する
フラピエ:食道再建術には、A さんに実施された「胸壁前経路」のほか、「胸骨後経路」「後縦隔経路」という経路があります。表にそれぞれの特徴をまとめました。
表 食道再建術の経路
あおい:あ、「後縦隔経路」の「後縦隔」はさきほど教わったやつですね!
フラピエ:そのとおりです。しっかり知識がつながりましたね! 後縦隔経路だと、もとの生理的な食道の位置に近い経路になるので食べ物も通過しやすいのですが、縫合不全が起きてしまったときに、本来は無菌状態にある縦隔内に感染が生じて敗血症になってしまったりと、かなり重篤な状態になって再手術が必要になるケースもあります。でも A さんのように胸壁前経路だと、頸部に術創があってそこにドレーンが挿入されているので、たとえば食べ物を飲み込んだ時に頸部ドレーンに唾液が漏れ出てきた、となれば、吻合部から唾液が漏れ出ている、つまり縫合不全だ! と気づきやすいのです。縫合不全の対応も、頸部の術創から処置できるので、オペ室での再手術という大がかりな事態は免れるというメリットがあります。
さくら:そうなんですね。
フラピエ:その一方で、胸壁前経路では再建した食道が胸骨の前を通ることになるので、食べ物が通過するときに胸のところがボコッと膨らんで、整容上の難点を伴います。それでも、縫合不全に伴う再手術という事態を招くリスクを最小限にするために、胸壁前経路が選択されるケースが多いのです。
あおい:どの術式の場合でも、患者さんには術前に十分な説明をすることが大切ですね。
術後合併症をアセスメントする
フラピエ:それでは、A さんに起きているかもしれない術後合併症についてみていきましょう。食道癌の合併症は、さきほどの縫合不全のほか、肺炎や無気肺、気胸などの呼吸器合併症や、反回神経麻痺、感染など多岐にわたります。A さんは、[創部痛のため痰の喀出が少ない][呼吸困難]という情報から、呼吸器合併症を起こしているのかもしれません。[経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が93%に低下]というデータはどう分析しますか?
さくら:SpO2は95%以上が正常なので、93%は低いです。換気が十分にできていないのでしょうか。
フラピエ:そのとおり。A さんはおそらく、手術の際の全身麻酔による呼吸抑制や、術後の挿管やベッド上安静の影響もあって気道の分泌物(痰)が増えていて、でも創部痛があるから痰をうまく出せなくて貯留している。だから[右下肺野で肺雑音を聴取した]、と考えてみましょう。やはり呼吸器合併症を起こしていそうですね。
あおい:呼吸器合併症なら、選択肢のなかでは選択肢1[右肺気胸]と選択肢3[無気肺]でしょうか?
フラピエ:そうですね。
さくら:気胸と無気肺、A さんに起きているのはどっちかな…。
フラピエ:それぞれ、どんな病態でしたか?
あおい:気胸は、肺に穴が開いて空気が漏れ出てしまって、肺がしぼんでしまう状態だったと思います。無気肺は…。
さくら:あれ? 無気肺って、何でしたっけ…? 気胸とごっちゃになってたかも…。
フラピエ:無気肺は、さまざまな原因によって気管支の末梢の肺胞に空気が入らずに、肺が縮んでしまう状態です。気胸のように肺に穴が開くわけではなく、分泌物の貯留などによる気道の閉塞や、胸水や腫瘍などによる肺の圧排などによって空気が入らない状態です。
あおい:分泌物の貯留が原因の一つなんですね。ということは、A さんは痰が貯留しているので、無気肺が起こっているのですか?
フラピエ:そのように考えてよいでしょう。痰の貯留によって閉塞している部位から末梢にかけて、空気量が減少してしまっていると考えられます。無気肺の状態が続くと、肺炎などを招く可能性もあるので、痰を喀出させるケアが必要です。
さくら:では、問2は選択肢3[無気肺]が正解ということですね!
あおい:先生、選択肢1[右肺気胸]の可能性は考えなくてよいのでしょうか?
フラピエ:よいところに着目しましたね。気胸では、肺から胸腔内に空気が漏れ出るので、胸郭の動きが悪くなります。もし A さんの右肺に気胸が生じていたら、右側の胸郭は動きが悪くなるはずです。
さくら:でも A さんは[胸郭の動きに左右差はなかった]から、右肺気胸は否定できる、ということですね! すっきりしました(‘ω’)ノ
フラピエ:よかった(^_^) 選択肢2[食道気管支瘻]は、どんな病態か想像がつきますか?
あおい:(・o・)
さくら:(´・_・`)
フラピエ:はい(^^;) 食道気管支瘻というのは、本来つながっていない食道と気管とが、何らかの原因でできた穴(瘻孔)によってつながってしまう状態です。先天性と後天性のものがあります。後天性としては、進行した食道癌が食道壁を突き破って気管に浸潤して瘻孔を形成するケースが主で、瘻孔が形成されるときの痛みや、発熱といった肺炎の症状などがみられます。A さんにこれらの症状はありませんし、A さんは胸部・腹部食道を切除しているので、食道気管支瘻の可能性は低いと考えてよいでしょう。
あおい:選択肢4[縦隔炎]はどんな病態ですか?
フラピエ:縦隔炎は、その名のとおり縦隔に起きる炎症で、胸部の手術や胸骨切開、食道の裂傷(食道穿孔)などによって生じます。症状としては食道穿孔時の強い胸痛、息切れ、発熱などがみられます。さきほど説明した後縦隔経路での食道再建で縫合不全が起こると縦隔炎を招いて再手術の原因にもなります。
さくら:でも A さんは[胸壁前経路]での食道再建術を行ったから、縦隔炎の可能性は低いと考えればよいのでしょうか?
フラピエ:縦隔内で手術操作をしているので、リスクがないとは言い切れないと思いますが、発熱しているかどうかの情報もないので、ここでは選択肢3[無気肺]を優先するという判断でよいでしょう。では問3です。あと少しです!
食道癌の術後の食事時の留意点をおさえる
フラピエ:消化管の手術後の食事の指導では、縫合不全を起こさないように吻合部の負担を少なくすること、誤嚥を予防することがとても重要です。
あおい:選択肢1[微温湯摂取で誤嚥の有無を確認する]は必要だと思います!
フラピエ:そうですね。食事開始時にはとても重要ですね。
さくら:選択肢2[口を閉じてゆっくりと嚥下する]ことも必要な気がします。
フラピエ:焦らずゆっくりですね。口を開けて嚥下するのはそもそも難しいですからね。
あおい:選択肢3[前胸部を手でなでおろす]というのは、どういうことですか?
フラピエ:さきほど説明したように、A さんに実施された胸壁前経路の食道再建術では、再建した食道(胃管)が胸骨の前を通るので、食べ物が通過するときに胸がボコッと膨らみます。食べ物がスムーズに胃管を通過するように、膨らみ(食べ物)を手でなでおろすようにしてサポートする必要があるのです。
あおい:その都度なでおろすとなると、大変そうですね…。では選択肢3も正しいということですね。
さくら:それなら選択肢4[食後は右側臥位で過ごす]が誤りということですね。
あおい:手でなでおろして食べ物を送るというような状態で、食後すぐに横になってしまうと、たしかにダメな気がします。
フラピエ:そうですね。食べ物や胃液の逆流のおそれもあるので、食後は起坐位やファーラー位で過ごすほうがよいですね。
さくら:ふう、今日もたくさん勉強した気がします。
フラピエ:次回も同じ消化管の癌について学習しますので、しっかり復習しておいてくださいね!
あおい:はい! ありがとうございました!
フラピエかおりの、国試指導ワンポイントアドバイス!
■今回は、過去に出題された状況設定問題と一般問題とを組み合わせて3連問に組み立て直しました。95回の患者の設定は101回と酷似していて、問題をとおしておさえるべきポイントも重なっています。過去問のていねいな学習がいかに大切か、ということを改めて感じられると思います。
■手術に際して食道へのアプローチの難しさをイメージしてもらうために、縦隔について説明していますが、縦隔は令和5年版の看護師国試出題基準において新たに項目立て(中項目)されています。食道再建術の経路やそれぞれのメリット・デメリットを理解できるよう、縦隔内の臓器・器官の位置関係も合わせて確認できるとよいと思います。
■問1の検査データに外因系の指標となるプロトロンビン活性がありますが、近年の国試では内因系の指標となる「活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)」が登場するようになっています(106回PM78、107回PM103-105)。プロトロンビン活性について確認する際に、出血傾向の指標の一つとして合わせて説明するとよいかもしれません。
1)日本食道学会:食道癌診療ガイドライン2017年版,p.40,2017
2)前掲1),p.50
3)日本食道学会:胸部食道がんの手術治療,https://www.esophagus.jp/public/cancer/chest_surgical_treatment.html,アクセス日:2022年8月18日