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第8回  糖尿病

第8回 糖尿病

2022.07.28フラピエ かおり(株式会社Nurse Style Biz 代表)

はじめに:本連載をご活用いただくために

 この連載では、看護師国家試験問題のなかでも長文で出題され、学生にとって難度の高い「A さん問題」を題材として、問題を解くにあたり何に着目させ、どう理解させ、そして正答へとたどりつかせるのかを、学生(看護専門学校2年生のさくらさん、看護大学3年生のあおいさん)との対話をとおしてご紹介します。日々の指導のヒントとしてお役立てくだされば幸いです。

 

フラピエ:今回は糖尿病について学習します。国試では頻出の疾患ですよ!
さくら:はい! しっかり勉強します。
あおい:よろしくお願いします!

次の文を読み問1、問2に答えよ。

Aちゃん(11歳、女児)は、両親と3人で暮らしている。3週前から疲労感を訴え昼寝をするようになった。そのころから夜間に尿意で起きてトイレに行くようになり、1日の尿の回数が増えた。2日前から食欲がなくヨーグルトや水分を摂取していたが、今朝から吐き気と嘔吐とがあり水分も摂れない状態になったため、母親とともに受診した。血液検査データは、赤血球 580万/μL、Hb 13.9 g/dL、Ht 44 %、白血球 9,500/μL、尿素窒素31 mg/dL、クレアチニン 0.7mg/dL、Na 141 mEq/L、K 4.8 mEq/L、Cl 94 mEq/L、随時血糖 900 mg/dL。動脈血ガス分析は、pH 7.21、PaO2 90Torr、PaCO2 40Torr、HCO3-10.9 mEq/L、BE -12.3。尿検査は、尿糖 2+、尿ケトン体 3+であった。Aちゃんは1型糖尿病の疑いで入院した。


問1 入院時のバイタルサインは、体温 37.3 ℃、呼吸数 20/分、脈拍 120/分、整、血圧 110/68 mmHg であり、点滴静脈内注射が開始された。
   入院時のAちゃんの状態で注意すべき所見はどれか。2つ選べ。

1.冷汗
2.浮腫
3.悪寒
4.意識障害
5.皮膚の弾力性の低下



問2 Aちゃんは、インスリンの持続的な注入を開始し、3日後、血糖値が安定した。1型糖尿病と診断が確定しインスリン自己注射を始めることになった。ペン型注入器を用いて、毎食前に超速効型インスリンの皮下注射、21時に持効型溶解インスリンの皮下注射を行うという指示が出ている。
   Aちゃんと両親に対するインスリン自己注射の指導で適切なのはどれか。

1.インスリンは毎回同じ部位に注射する。
2.食欲がないときは食後に超速効型インスリンを注射する。
3.血糖値が100 mg/dL以下のときは持効型溶解インスリンの注射を中止する。
4.インスリンの注射をした後は針を刺した場所をよくもむ。


[第105回(2016年)AM103~104、一部改変]

 

さくら:ううう、5肢択二の問題がある…。
あおい:問題の文章量も多いですね…。
フラピエ:あらあら、それはたくさん学習できるチャンスということですよ! まずは糖尿病の病態のおさらいから始めましょう。

この問題の評価領域分類(taxonomy)
【問1】Ⅱ型:与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題
【問2】Ⅲ型:設問文の状況を理解・解釈した上で、各選択肢の持つ意味を解釈して具体的な問題解決を求める問題
この問題を指導する際のポイント
糖尿病の分類と病態を復習する
糖尿病に特徴的な症状を理解する
検査データからAちゃんの状態を読み解く
 ◎赤血球等のデータと脱水とを結びつける
 ◎腎機能にも着目する
 ◎代謝性アシドーシスを見抜く
 ◎最も注視すべき病態「糖尿病性ケトアシドーシス」の理解を促す
 ◎BEとは何かをイメージする
「高血糖」「脱水」という状態を踏まえて重要な観察項目を絞る
インスリンの種類やシックデイの原則をおさえる
 

糖尿病の分類と病態を復習する

フラピエ:初めに、糖尿病の分類(種類)の確認をしておきましょう。A ちゃんは[1型糖尿病の疑い]とありますが、糖尿病にはほかにどのような種類があったか覚えていますか? 
さくら:2型糖尿病です!
フラピエ:そう、一般的に「糖尿病」といえば2型糖尿病を指すことがほとんどですね。ほかにはどうですか?
あおい:へ…? ほかにもありましたっけ…(@_@)
フラピエ:あら、では改めて。糖尿病は「1型糖尿病」「2型糖尿病」、それから「その他の特定の機序、疾患によるもの」「妊娠糖尿病」の、大きく4つに分類されています1)
さくら:妊娠糖尿病は聞いたことがあったような気がします。
フラピエ:妊婦さんの糖代謝異常は、赤ちゃんの発育や、出産後の糖尿病発症に影響すると言われているから、妊娠経過中の重要な観察ポイントの一つですね。
さくら:勉強し直します!
フラピエ:「その他の特定の機序、疾患によるもの」は、1型糖尿病でも2型糖尿病でも妊娠糖尿病でもない、その他の糖尿病ということなので、説明は省略させていただきますね。では、1型糖尿病と2型糖尿病の病態をおさえたいと思いますが、そもそも、糖尿病とはどんな病気でしたか?
あおい:ええと、インスリンがうまく働かなくて、高血糖の状態が続く病気です!
フラピエ:すばらしい! ではインスリンとは?
さくら:血糖を下げるホルモンです。
あおい:膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されます。
フラピエ:2人ともよく勉強していますね! インスリンは血糖を下げる唯一のホルモンでしたね。では1型糖尿病と2型糖尿病は、どう違いますか?
さくら:たしか、2型糖尿病ではインスリンの分泌が低下するのに対して、1型糖尿病だとインスリンが分泌しない、という違いがあったと思います。
フラピエ:そのとおり! 2型糖尿病では、「インスリン分泌低下」や「インスリン抵抗性」に、過食や運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子が加わってインスリンの作用不足が生じます。一方、1型糖尿病では、自己免疫異常などによってβ細胞が破壊されることで「インスリンの絶対的欠乏」が生じます。つまり、インスリンが分泌されない状態ですね。
あおい:事例の A ちゃんは1型糖尿病が疑われているから、インスリンを投与しないと高血糖状態がこのまま続いてしまうかもしれない、ということなんですね。
フラピエ:そうですね。では、高血糖状態が続くとどのような症状や所見が表れるのか、状況文を読み解いていきましょう。

糖尿病に特徴的な症状を理解する

フラピエ:糖尿病の初期には無症状のことがほとんどで、高血糖状態が続くことで特徴的な症状がみられるようになります。どんな症状がありましたか?
さくら:自信あります! 「口渇」「多飲」「多尿」です。コウカツタインタニョウって、呪文のように唱えていたら覚えたので(^^;
フラピエ:えらい! 忘れないように、症状が表れるメカニズムまで理解しておきましょう。
さくら:はいっ!
フラピエ:高血糖状態では、血液中の余分な糖を腎臓が尿中に取り込んで体外に排出しようとするので尿量が増え(多尿)、すると体は脱水状態になるので喉が渇き(口渇)、水分を多量に摂取する(多飲)。するとやはり尿量が増えて…ということです。
あおい:A ちゃんは、[夜間に尿意で起きてトイレに行くようになり、1日の尿の回数が増えた]とありますね。
フラピエ:それに、糖が尿と一緒に排出されてしまうので、食事から糖を摂取してもエネルギー源としてうまく取り込めないなどの影響から、エネルギーが不足し、倦怠感や易疲労感、体重減少などにもつながります。
さくら:A ちゃんは多尿の症状が出始めた[3週前から疲労感を訴え昼寝をするようになった]ので、疲労感は高血糖の影響と考えればいいんですね。
フラピエ:そうですね。では少し難しくなりますが、検査データから受診時の A ちゃんの状況を詳しく見ていきましょう。

検査データから A ちゃんの状態を読み解く

赤血球等のデータと脱水とを結びつける

フラピエ:血液検査の結果で注目したいのは、赤血球系のデータが高いということです。とくに[赤血球 580万/μL](基準値407万~510万/μL)や[Ht 44 %](基準値35.0~43.0%)は、成人男性並みの値に上昇しています。多血の状態になっていると考えられます。
さくら:どうして A ちゃんはそのような状態になっているのですか?
フラピエ:多血は、体内の循環血液量が減少して起こることがあります(相対的赤血球増多症)。A ちゃんは脱水状態になっているから、循環血液量が減少し、血が濃くなっていると考えてみてください。
あおい:A ちゃんは高血糖状態が続いていてもともと脱水だったのに、[今朝から吐き気と嘔吐とがあり水分も摂れない状態になった]ので、脱水の状態も悪くなっていそうですね…。
フラピエ:そうですね、とても心配な状態です。では次は腎機能に着目してみましょう。

腎機能にも着目する

さくら:腎機能だと、[尿素窒素31 mg/dL][クレアチニン 0.7mg/dL]でしょうか?
フラピエ:そうです。尿素窒素(基準値6.8~19.2mg/dL)は高値、クレアチニン(基準値0.39~0.69mg/dL)も若干高めの値を示しています。高血糖が、少なからず腎臓の代謝機能に影響を及ぼしているのかもしれませんね。それを踏まえて、次は動脈血ガス分析の値を確認しましょう。

代謝性アシドーシスを見抜く

あおい:あ! PaO2、PaCO2、pHはCOPDの回(第1回)で勉強しました!
さくら:この値から「アシドーシス」なのか「アルカローシス」なのかを見抜けばいいのですね、先生(‘ω’)
あおい:[PaO2 90Torr][PaCO2 40Torr]は、基準値内だと思います。でも[pH 7.21]は低い気がします。
さくら:pHが低いからアシドーシス、ですよね? あれ? でもアシドーシスなのになんでPaO2もPaCO2も基準値内なんだろう…。COPDの時には、アシドーシスではPaCO2は高くなるって教わったと思うのですが…。
フラピエ:アシドーシス/アルカローシスについて、しっかり覚えていましたね! さくらさんがあげてくれたとおり、pHのデータから A ちゃんはアシドーシスの状態と読み取れます。なぜPaO2やPaCO2に問題がないのか、というのもよい視点ですね。それはCOPDの患者さんの時と違って、A ちゃんの呼吸機能にはとくに問題がないからです。つまり A ちゃんのアシドーシスは別の要因によるものということです。
あおい:思い出しました! アシドーシス/アルカローシスには、呼吸が影響する「呼吸性」と、その他のはたらきが影響する「代謝性」があるのでした!
フラピエ:いいですね。ではデータの続きを見ていきましょう。
さくら:[HCO3-10.9 mEq/L]というデータがあがっています。
フラピエ:HCO3-(重炭酸イオン)は、代謝性のアシドーシス/アルカローシスを考える時に着目すべきデータです。代謝によって産生された酸が、尿から体外へと排出されているかどうかの指標と考えてください。代謝性アシドーシスではHCO3-が減少し、代謝性アルカローシスではHCO3-は上昇します。基準値は24 mEq/Lです。
あおい:つまり A ちゃんはHCO3-が低くなっているから、アシドーシスの中でも代謝性のアルカローシスということだったのですね!
フラピエ:そのとおりです! アシドーシス/アルカローシスはやはり難しいところなので、まずはカギになるデータを暗記してしまってから、今説明した内容をもう一度おさらいするといいかもしれませんね。表にポイントをまとめておきましたので、しっかり復習をしてくださいね。
さくら:ありがとうございますっ!
 

表1 アシドーシス/アルカローシスを見極めるポイント
  アシドーシス アルカローシス

呼吸性
PaCO2(基準値34~45Torr)に
 着目する

・PaCO2:上昇
・pH:低下  

・PaCO2:低下
・pH:上昇
代謝性
HCO3-(基準値24 mEq/L)に
 着目する
・HCO3-:低下
(・H+:上昇)
・BE:低下 
・HCO3-:上昇
(・H+:低下)
・BE:上昇

あおい:ところで先生、なぜ A ちゃんはHCO3-が低くなっているのでしょうか?
フラピエ:大事な質問ですね。それでは、残りのデータを確認しながら、その原因を探っていきましょう。
さくら:お願いします!

最も注視すべき病態「糖尿病性ケトアシドーシス」の理解を促す

フラピエ:[1型糖尿病の疑いで入院した]現在の A ちゃんにとって、最も重要といえるデータは[随時血糖 900 mg/dL][尿糖 2+][尿ケトン体 3+]と考えてよいでしょう。随時血糖は、糖尿病の診断基準に用いられる200mg/dL以上という値を優に超えています。尿糖も基準値は(-)ですから高い値です。血糖がここまで高くなっているので、尿糖も高くなっているのでしょう。
あおい:A ちゃんはこんなに血糖値が高かったんですね…。
さくら:先生…、尿ケトン体とは…?
フラピエ:尿中に出たケトン体のことですが、ケトン体というのは、脂肪の分解によって肝臓でつくられ血液中に放出される酸性の物質です。エネルギー源として利用されます。さきほど、糖尿病では尿と一緒に糖が排出されてしまうので、食事から糖を摂取してもエネルギー源としてうまく取り込めない、と説明しましたが、このため糖尿病の患者さんでは糖の代わりにエネルギー源として脂肪が利用される割合が高くなります。
さくら:ということは、血液中に酸性の物質が増えているということですか?
あおい:だから A ちゃんは、HCO3-が低くなってアシドーシスの状態になってしまったということですね!
フラピエ:そうです。[尿ケトン体 3+]なので、尿中にケトン体が出るくらいたくさん、血液中にはすでにケトン体が蓄積していると考えられますね。ケトン体の蓄積によって血液のpHが酸性に傾くことを「ケトアシドーシス」といいますが、糖尿病の急性合併症として「糖尿病性ケトアシドーシス」という病態があります。意識障害をきたして、重度の場合は昏睡状態に陥る危険性のある病態です。
さくら:A ちゃんは大丈夫でしょうか…。
フラピエ:ただちに十分な輸液などの治療が必要な状況といえるでしょう。状況文の検査データに戻りますが、[Na 141 mEq/L](基準値138~144mEq/L)、[K 4.8 mEq/L](基準値3.6~4.7mEq/L)、[Cl 94 mEq/L](基準値102~109mEq/L)のほか、ここまで見てきた[随時血糖 900 mg/dL][尿ケトン体 3+][HCO3-10.9 mEq/L][pH 7.21][尿素窒素31 mg/dL][クレアチニン 0.7mg/dL]はすべて糖尿病性ケトアシドーシスでみられる検査所見(表2)と合致しています。[Cl 94 mEq/L]と低下しているのは、嘔吐の影響も考えられますね。
 

表2 糖尿病性ケトアシドーシスの鑑別(検査所見)
血糖 250~1,000mg/dL
ケトン体(尿中) + ~ 3+
HCO3- 18mEq/L以下
pH 7.3以下
Na 正常~軽度低下
K 軽度上昇、治療後低下
Cl 95mEq/L未満のことが多い
尿素窒素/クレアチニン 増加
[日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド2022-2023,p.83,2022より引用]

BEとは何かをイメージする

あおい:先生、[BE -12.3]というデータもありますが、BEっていったいなんでしょうか…( ;∀;) 
フラピエ:BE(base excess、塩基過剰)は、とくに代謝性のアシドーシス/アルカローシスを見る時に役立つデータです。酸性またはアルカリ性に傾いてしまった血液のpHを正常に戻す(中性に戻す、中和する)ためには、どのくらいの量の酸を減らす/増やす必要があるのか、ということを示しています。-2~2(mEq/L)が基準値です。
さくら:む、むずかしい…(+_+)
フラピエ:あらら、ごめんなさい(^^;) では、「塩基過剰」の名のとおり、塩基(HCO3-)が過剰なのか不足しているのか、というふうに考えてみるとどうでしょう? BEが低ければ、塩基(HCO3-)も低くなっている、つまり不足しているということです。
あおい:ええっと、A ちゃんのBEは-12.3でけっこう低くなっているから、HCO3-も低いと考えるのですね!
フラピエ:そうです。BEが低い(マイナス)というのは、酸はもうこれ以上いらないよ、という意味です。
さくら:だからアシドーシスなのか!
フラピエ:そういうことですね。反対に、BEが高い(プラス)というのは、酸がもっと必要だよ、という意味ですので、アルカローシスであるとわかります。

あおい:ふう…。Aちゃんのことが心配だし、理解することも盛りだくさんで…。
フラピエ:やっぱり、長いうえに難しかったかな…?(^^;
さくら:「そんなことありません」と言ったらウソになりますね(´・ω・`)
フラピエ:正直さも大事ね(^_-)-☆ でもきっと、知識は広がっていきますよ! というわけで、問1に進みましょう。

「高血糖」「脱水」という状態を踏まえて重要な観察項目を絞る

フラピエ:設問文にある入院時の A ちゃんのバイタルサインは、[脈拍120/分]が少し高くて気になりますが、学童期の基準値から考えると全体的に大きな問題はなさそうですね。脱水や糖尿病性ケトアシドーシスを考慮して[点滴静脈内注射が開始された]のだと考えられます。では、選択肢をみてみましょう。
あおい:A ちゃんは糖尿病性ケトアシドーシスで、意識状態をきたす可能性があるということでしたので、選択肢4[意識状態]はかなり重要な所見だと思います!
フラピエ:そのとおり! ほかの選択肢はどうですか? 「高血糖」「脱水」が現在の A ちゃんの状態のポイントですよ。
さくら:選択肢1[冷汗]は、どう捉えればよいのでしょう?
フラピエ:糖尿病の患者さんで「冷汗」というと、低血糖時の症状が想起されます。A ちゃんは高血糖状態なので、否定してよいでしょう。
あおい:選択肢2[浮腫]は、うーんと…。
フラピエ:体重増加などの浮腫を示唆する情報はありませんし、腎機能はやや低下傾向にありそうですが、浮腫が出るほどまでには低下していないと、ここでは考えてよいでしょう。選択肢3[悪寒]はどうですか?
さくら:A ちゃんの入院時は[体温37.3℃]なので、悪寒が出るほどではないと思います。
フラピエ:そうですね。では残った選択肢5[皮膚の弾力性の低下]はどうでしょう? 
あおい:ええと、皮膚の弾力性って、たしか脱水のアセスメント項目にあったように思います。
フラピエ:そう、脱水によって皮膚の張りが弱くなってしまうので、指でつまむと子どもの皮膚でもシワが見られます。これが皮膚の弾力性(緊張度)の低下という状態ですね。
さくら:では選択肢5も〇ということですね!
フラピエ:そのとおりです! では続けて問2を見ていきましょう。

インスリンの種類やシックデイの原則をおさえる

フラピエ:A ちゃんは[1型糖尿病と診断が確定し]て、[超速効型インスリン]と[持効型溶解インスリン]の皮下注射を使うことになりましたね。ここでインスリン製剤の種類を確認しておきましょう。表3に6つの種類とそれぞれの特徴をまとめました。
さくらあおい:確認しておきます!

表3 インスリン製剤の種類と特徴
種類 特徴
超速効型インスリン製剤 ・作用発現時間が速く、最大作用時間が短い(約2時間)
・食直前に投与する
速効型インスリン製剤 ・皮下注射の場合、作用発現まで約30分、最大効果は約2時間後、作用持続時間は約5~8時間
・食前に投与する
中間型インスリン製剤 ・作用発現時間は約1~3時間、作用持続時間は18~24時間
混合型インスリン製剤 ・超速効型または速効型インスリンと、中間型インスリンを混合したもの
・混合したそれぞれの製剤の作用発現時間に効果が発現する。作用持続時間は中間型インスリンとほぼ同じ
配合溶解インスリン製剤

・超速効型インスリンと持効型溶解インスリンを混合したもの
・混合したそれぞれの製剤の作用発現時間に効果が発現する。作用持続時間は持効型溶解インスリンとほぼ同じ

持効型溶解インスリン製剤 ・作用発現時間が遅い(約1~2時間)。作用持続時間はほぼ1日
[日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド2022-2023,p.76,2022を参考に作成]

フラピエ:では、インスリン自己注射の指導を A ちゃんとご両親にするのだと思って、各選択肢を見てみましょう。まずは選択肢1[インスリンは毎回同じ部位に注射する]はどうでしょう?
さくら:これは誤りだと思います! 毎食前と21時の計4回、毎日注射をするので、同じ部位ばかりに針を刺すと皮膚がもたないのではないでしょうか?
フラピエ:すばらしい! 同じ部位に繰り返し注射すると、皮膚が変色してしまったり硬結ができたり、インスリンの吸収が悪くなったりすることがあります。毎回、2~3cmずらしたところに注射するように指導します。
あおい: 選択肢2[食欲がないときは食後に超速効型インスリンを注射する]はどう考えるのでしょう?
フラピエ:[食欲がないとき]というのは、いわゆるシックデイを想定した問いですね。シックデイとは、糖尿病の患者さんが治療中に発熱や下痢、嘔吐をきたしたり、食欲不振のために食事ができない時のことを言います。こういう時にどのような対応が必要かというルールが定められています2)。主なものは以下のとおりです。
 

インスリン治療中は、食事がとれなくても自己判断でインスリン注射を中断してはならない。
十分な水分の摂取により脱水を防ぐ。
食欲のない時は、口当たりがよく消化のよい食物を選び、とくに炭水化物と水分を優先してできるだけ摂取できるようにする。
血糖値の動きを3~4時間ごとに自己測定して確認する。血糖値200mg/dLを超えてさらに上昇の傾向がみられたら、都度、超速効型または速効型インスリンを2~4単位追加する。

フラピエ:上記のように、[食欲がないとき]もインスリン注射は継続します。とくに1型糖尿病の A ちゃんはインスリンが絶対的に欠乏していますから、中断はありえません。ただ、超速効型インスリンは、注射後すぐ(5分程度)作用が現れるので、食欲がなくてあまりたくさん食べられなそうなときに食直前に通常どおり注射すると、食事摂取量が少なく血糖値が上がり切らないのに、インスリンが作用してしまって低血糖を招く危険性があります。ですからこのような場合は、食事摂取量に合わせて単位数を調整し、食後に注射するという対応をするとよいですね。
さくら:では、選択肢2は〇ですね!
フラピエ:そうですね! では選択肢3[血糖値が100 mg/dL以下のときは持効型溶解インスリンの注射を中止する]はどうですか?
あおい:これはさきほどのシックデイの対応で考えると、注射の中止はNGということですよね?
フラピエ:そのとおりです。このような場合もインスリン注射は行い、低血糖が起こらないように次の食事までの時間に合わせて補食をします。では最後、選択肢4[インスリンの注射をした後は針を刺した場所をよくもむ]はどうでしょう?
さくら:ええと…、皮下注射の時は針を抜いた後にマッサージをするのだったような…。
フラピエ:薬剤によっては吸収を促すためにマッサージを行うこともありますが、インスリン製剤の場合は、薬剤が急速に吸収されると低血糖を招く危険性があるので、ゆっくり吸収されるようにマッサージは行いません。抜針後は刺入部をアルコール綿で軽く押さえる程度にしましょう。覚えておいてね!

* * *

あおい:ふう、今回もめちゃくちゃ勉強した気分です(*´ω`*)
フラピエ:では最後におまけの知識を! 
さくら:えっ…(;´・ω・) 
フラピエ:まだ続けるの? という表情ね(^^;) でも続けちゃいます♪ 問2で出てきたインスリン注射のペン型吸入器の針のゲージについて補足です。インスリン注射は主として皮下注射で実施しますが、基礎看護技術では皮下注射の針は22~25Gと学んだと思います。でもインスリン自己注射の場合は、30Gよりも細い針が使用されますので、実習で患者さんの自己注射の場面に出合った時には、ぜひ注目してみてくださいね。
さくら:わかりました!
フラピエ:では、これにて終了です。おつかれさまでした(^_^)
さくらあおい:ありがとうございました!
 

フラピエかおりの、国試指導ワンポイントアドバイス!

■ご存じのように、糖尿病は国試には頻出の疾患です。「疾病」や「成人」の領域で、2型糖尿病について問われることがほとんどですが、今回は状況文にデータ分析のための情報が盛りだくさんの小児の1型糖尿病の問題を取り上げました。ところが実のところ、今回の問題を解くうえでは各データを細かく掘り下げて分析する必要はありません。しかし習熟度に応じてあえてそれを行うことで、知識を広げる助けにしてもらいたいと思っています。


■「BE」について少し触れましたが、理解していない/あまり認識していない学生が多いかもしれません。臨床でのBEの値は、酸塩基平衡における代謝性(非呼吸性)因子を定量化する術となりますので、将来ICUなどで働く際には重要な知識です。そこで、「PaCO2とpHの両方が正常であればBEはゼロ、または少なくとも基準範囲内である」、といった感じで、ある程度の説明をするようにしています。

 
引用文献
1)日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド2022-2023,p.18,2022
2)前掲1),p.100-101
3)奥山虎之:小児臨床検査基準値(国立成育医療研究センター),https://sogo-igaku.co.jp/lec_in_ped/0302.html,アクセス日:2022年7月15日
4)日本予防医学協会:検査結果の見方,https://www.jpm1960.org/exam/exam06.html,アクセス日:2022年7月15日

フラピエ かおり

株式会社Nurse Style Biz 代表

看護師として13年間、臨床で経験を積む。その後、看護教育の道へ。全国の看護大学・看護専門学校において、国家試験対策講座や解剖生理学・形態機能学、病理学、各看護学の講義を担当。また総合病院看護部の教育顧問として、臨床看護師を対象とした看護研究やフィジカルアセスメント、臨床推論の指導にも携わっている。 教育のかたわら、国立大学大学院(臨床人間科学専攻)を修了。在学中には、海外における看護師制度や看護師国家試験制度についての研究に勤しんだ。 学ぶこと、知ること、わかるようになること、そのよろこびを多くの看護学生・看護師に伝えている。 著書に『看護学生のための重要疾患ドリル』(メヂカルフレンド社)、『看護学生のための重要症状ドリル』(メヂカルフレンド社)など。

企画連載

フラピエかおりの 看護師国試「Aさん問題」はこう読み解く!

これからの看護師国試に求められる臨床判断能力のカギは「Aさん問題」にあり! 看護師国試合格請負人・フラピエかおりが、状況設定問題や長文で出題される「Aさん問題」の読み解き方を解説します。

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