朝食を抜く子どもは虫歯になりやすい
子どものころから「早寝、早起き、朝ごはん」を習慣づけましょう、という話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。それが健康と歯にとっていかに重要であるかが、データと根拠をもって、裏付けられたお話を今回はしたいと思います。
◎エビデンス
2017年、富山大学の関根道和教授らの研究グループは、さまざまな生活習慣と虫歯の発症との関係性について調査報告しました1)。
同研究では富山大学地域連携推進機構が高岡市内の小学校に通う1~6年生の全児童2,109人(有効回答数1,651人)を対象として、文部科学省スーパー食育スクール事業の一環としてアンケートを行いました。
その結果、メディアの利用時間が短い子ども(2時間未満)の虫歯発症率は8.6%でしたが、利用時間が長い子ども(4時間以上)では15.4%に達しました。また、虫歯のなりやすさを表すオッズ比は1.3の値を示し、虫歯になりやすい傾向にあることが判明しました(図1)。
同様に、睡眠時間が長い子ども(9時間以上)に対する短い子ども(8時間未満)の虫歯発症率のオッズ比は2.8、朝食を食べる子どもに対する食べない子どものオッズ比は3.9となり、このような生活習慣が虫歯の発症を助長する可能性が示唆されました(図1)。

とくに朝食を食べない子どもの虫歯発症率は27.3%に及び、虫歯予防に対する朝食摂取の重要性がクローズアップされました。
これらの結果より、代表の関根道和教授は長時間のメディア利用による精神的興奮の持続や睡眠不足・朝食欠食によるストレスなどにより自律神経である、交感神経が活発化して唾液分泌が減少し、虫歯リスクが上昇した可能性を指摘しています。
唾液減少により虫歯菌を洗い流す自浄作用が弱まるだけでなく、分泌型IgA、ラクトフェリンなどの抗菌物質による抗菌作用も弱まり、歯を構成するカルシウムの再石灰化作用が働きにくくなるなどの結果、虫歯になりやすくなります。
また、生活習慣の乱れから歯磨き習慣は不規則になりがちです。朝食をきちんと食べてしっかり歯を磨き、メリハリのあるメディア活用で夜はぐっすり寝るという規則正しい生活リズムが、虫歯予防に大切だと考えられます。
夜型生活の子どもは虫歯になりやすい
◎エビデンス
2019年、北海道大学の八若保孝教授と北海道医療大学の西出真也講師らの研究グループは、16歳以下の小児の虫歯(治療済みも含む)の本数と就寝時刻・夕食時刻などの生活習慣との関連について調査しました2)。
その結果、乳歯列期(2~7歳)の子ども38人に対して行った調査では、就寝時刻や夕食の時刻が遅い子ども、夕食を決まった時刻に食べない子ども、間食の回数が多い子どもに虫歯が多い傾向となりました(図2)。
また、重回帰分析により就寝時刻、夕食時刻および間食回数は互いに独立した因子であることがわかり、夜型の生活習慣そのものが虫歯リスクを高めることも判明しました。
一方、永久歯列期(11~16歳)の子ども33人に対して行った調査では、夕食を決まった時刻に食べていない子どものみ虫歯が多い傾向となりました(図2)。

これらの結果から、夜型の生活習慣が虫歯発生に及ぼす影響は、永久歯列より乳歯列をもつ小児に大きいことが示唆されました。
同グループの考察では、年少児ほど睡眠や食事などの生活習慣の乱れが体のサーカディアンリズム(血圧や体温など生命維持に必要な身体機能に認められる約24時間周期のリズム)に及ぼす影響が大きいことが原因と推測しています。
夕食の時刻が遅いと、空腹感をまぎらわせるために間食(おやつ)を食べたくなります。しかも、夜型の生活習慣があれば夜遅くに夜食や間食を食べてしまいがちで、歯磨きも疎かになりやすいと考えられます。
唾液が減少する夜の時間帯に乱れた食習慣があると、虫歯リスクを高める大きな原因になるのです。
「早寝、早起き」は健康維持のための生活リズムとして大切な習慣であると古くから言われますが、虫歯予防の観点からも望ましい習慣だと言えるでしょう。
歯にとって健康的な生活スタイルとは?
これらの研究報告は子どもが対象ですが、大人にとっても参考にしたい内容です。歯にとって健康的なライフスタイルをいくつか提案してみましょう。
<健康的な歯を保つ生活スタイル>
・早起きして時間に余裕をもって、朝食をきちんと食べる。もちろん食後は、しっかり歯磨きしましょう。
・昼食後も歯磨きを習慣付けましょう。
・スマホやメディアの利用はほどほどに。過度の緊張感やストレスを感じない程度に楽しみましょう。
・間食(おやつ)は時間を決めて、だらだらと食べ続けないようにしましょう。
・夕食後は、とくに念入りな歯磨きを心がけましょう。夜や就寝時は唾液分泌が減少して虫歯リスクが上がるからです。
・夕食後の夜食はできる限り控えて。もし食べてしまったら、歯磨きを忘れずに。
・早めに寝て、明日の早起きに備えましょう。
以上のような規則正しい生活習慣を改めて見直し、歯にも健康的なライフスタイルを身に付けるようにしてくださいね。
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M君(11歳、男児)は虫歯の痛みで、お母さんと一緒に当院を受診。X線写真などで診断した結果、右上奥の虫歯が進行して化膿していることがわかりました。
口の中は痛みがある歯だけでなく、全体的に虫歯が多数あり、口腔管理がきちんとできていないこともうかがえました。
詳しく聞くと、母子家庭でお母さんは仕事のため帰宅時間が遅く、M君はおやつのだらだら食べが習慣化しているとのこと。
虫歯治療と並行してM君とお母さんに歯磨き習慣の大切さなどを改めて説明・指導しましたが、痛みが治まると治療途中ながら来院されなくなりました。
やむを得ない家庭の事情もありますが、M君の歯の将来が懸念されます。
[引用文献]
1)関根道和,山田正明、浅香有希子ほか:長時間メディア利用,睡眠不足,朝食欠食の子供は虫歯になりやすいと判明.第55回日本小児歯科学会(2017年5月発表)
2)Nishide S, Yoshihara T, Hongou H et al: Daily life habits associated with eveningness lead to a higher prevalence of dental caries in children.Journal of Dental Sciences14:302-308, 2019