歯がしみる症状は幅広い年代で認められる
春を迎え、気温の高まりとともに冷たいドリンクを飲む機会が増えると思います。そんなとき「キーン!」と歯がしみる症状があるかもしれません。では、どれくらいの割合の人にしみる症状があるのでしょうか?
◎エビデンス
厚生労働省の令和4年歯科疾患実態調査1)では、国民生活基礎調査から抽出された2,704人を対象に調査が行われています。歯の症状で「冷たいものや熱いものがしみる」と回答した人の割合は「25~29歳」の28.9%がピークで、「20~24歳」から「60~64歳」までのすべての年齢階級でそれぞれ10%以上を示しました。つまり、幅広い年齢層で認められる症状であることがわかりました(図1)。
全体では8.5%の割合でしたが、「歯が痛い」と回答した人(3.6%)と比較すると2倍以上という結果でした。
歯がしみるのは知覚過敏かも
虫歯ではないのに冷たい水や風がしみたり、歯ブラシを当てたときにピリッとした痛みを感じたりする状態が「知覚過敏」です。
さらに、そのような物理的な刺激に限らず、強い甘味や酸味などの化学的な刺激も知覚過敏を誘発する要因になります。
通常であれば、知覚過敏で感じる痛みは一過性で持続時間が短く、刺激がなくなると消失しますが、症状が強い場合は飲食や歯磨きに支障をきたすこともあります。
知覚過敏はどうして起こるのか
知覚過敏が起きやすい所(好発部位)は、歯ぐきがやせた歯の歯根部や歯頸部(歯と歯ぐきの境界付近)です。歯の見える部分(歯冠部)は硬いエナメル質で覆われているため、温度や歯ブラシなどの摩擦刺激を遮断します。
しかし、歯周病の進行や誤った歯磨き、加齢による歯周組織の萎縮などで歯ぐきが下がる(歯肉退縮)とエナメル質のない象牙質(第4回の図1参照)が露出してしまうため、さまざまな刺激に対して敏感に反応するようになります(図2)。
その他、噛み合わせの異常(歯ぎしりや食いしばり=ブラキシズム)で歯頸部の歯質が欠けて楔(くさび)状の凹みができる楔状欠損(図3左)や、薬剤の化学的作用で歯を白くするホワイトニングでも知覚過敏の症状が出ることがあります。
また、転倒したり顔をぶつけたりして歯が欠けた場合や、噛み合わせが強く歯面が過度に擦り減った咬耗(こうもう)(図3右)、飲食物の酸などで歯面が浸食された酸蝕歯(さんしょくし)でも、外界と歯の神経の距離が近づくため、しみやすくなります。
知覚過敏の悪影響
知覚過敏があるからといって、痛みを感じない側で噛むことが習慣になると、噛み合わせが悪化して肩こりや頭痛などの症状が出る可能性もあります。
「できれば歯医者に行きたくない」という気持ちも理解できますが、知覚過敏はストレスにもなりますし、別のところにも悪影響が出る前に、早めの受診をおすすめします。
歯科医院での処置・治療法
歯科医院で行う知覚過敏に対する処置や治療法は、以下のようなものがあります。
1.歯への刺激を弱める処置をする
・露出した象牙質の表面にしみ止め薬(コーティング剤など)を塗布する
・歯と類似色のレジン樹脂を充填して刺激を遮断する
・その他、歯科用レーザーで歯の表面性状を改善する場合もある
2.原因となる悪い噛み合わせを改善する
・噛み合わせのバランスを整えるために歯の一部を削ることがある
・軟らかいシリコン製マウスピースを装着して、歯に対する力の負担を和らげることもある
3.神経を取り除く
・日常生活に支障が出る激しい症状があれば、最終手段として麻酔して抜髄(歯の中の神経を取り除く治療法)することもある
知覚過敏のセルフケア
自分でできるセルフケアとして、歯磨きのときは以下のことに注意してください。
1.力を入れ過ぎない
・歯ブラシをグーで握ると力の微調節がしにくく、過度の力が歯にかかる可能性がある
・ペンを持つように歯ブラシを握り、力の加減をうまく調節する
2.歯ブラシを大きく動かさない
・大きく動かすと余計な力がかかるうえ、歯ブラシの毛先が開いて清掃効率が低下する
・小刻みに動かして口の中の刺激を極力少なくする
3.毛が硬い歯ブラシは使わない
・エナメル質に比べて軟らかい象牙質は、硬い歯ブラシの摩擦で擦り減ることがあるため、知覚過敏が起こるリスクが上がる
・歯ブラシは毛先が細くて軟らかめの歯ブラシを使うようにする
4.知覚過敏の症状を抑える歯磨剤を使う
・薬用成分として、乳酸アルミニウムや硝酸カリウムなどが知られている
水がしみたら、虫歯のサインのことも
「冷たいジュースで一瞬歯がしみるけど、歯は黒くないから大丈夫」と、気になるけれども放置する人が多いのではないでしょうか。ところが、「知覚過敏があって…」と受診される患者の多くに虫歯が見つかることを、私は日常的に経験しています。
視診で即座に判別できる虫歯もありますし、X線撮影で確認したら歯間に虫歯があったケースもあります。虫歯は必ずしも黒くはなく、とくに進行の早い場合は黒くないことも決して珍しくありません。
一般的に冷たいものでしみる、いわゆる冷水痛は知覚過敏だけでなく、初期~中期の虫歯でも認められる症状です。
それに対して、熱いものでしみる温熱痛は進行した虫歯でよく見られる症状ですので、注意が必要です。“歯がしみる=知覚過敏で虫歯じゃない”と自分自身で決めつけるのではなく、“歯がしみる=虫歯かもしれない”と危機感をもつようにして、早めに歯医者を受診してくださいね。
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Uさん(50歳代、女性)は「先週から右下奥歯が歯磨きのとき、急にしみるようになって…」という理由で当院歯科を受診されました。
視診では虫歯はなく、X線撮影でも虫歯はありません。しかし、歯周病で歯ぐきがやせて歯根が一部露出しており、歯ブラシの刺激による知覚過敏が疑われました。
よく話を聞いてみると、毛が硬めの歯ブラシを使っているとのことで、ブラシによる歯の摩耗も原因として考えられました。
そこで露出した歯根にしみ止め薬を塗布するとともに、毛先の細い軟らかめの歯ブラシを使うように指導しました。
翌週、経過をうかがうと「すっかりしみなくなりました。歯磨きも気をつけてます」と笑顔のUさん。
早めの受診によって、処置とセルフケアの効果がすぐに出た好例でした。
1)厚生労働省:令和4年歯科疾患実態調査の結果の概要,p.28,2023