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第4回:聖路加で育ち、新潟県立看護大学とともに歩んできたわたしへ

第4回:聖路加で育ち、新潟県立看護大学とともに歩んできたわたしへ

2022.04.05酒井 禎子(新潟県立看護大学 准教授)

私が勤務している新潟県立看護大学は、開学して20周年を迎えました。私の教員としての歩みは、まさに、本学が重ねてきた20年の成長とともにあったと思います。今までの教員生活の中で、さまざまな悩みや困難に直面しましたが、その時々に私を勇気づけてくださった先輩の先生方の「メッセージ」がありました。今回、このリレーエッセイを通して、それらのメッセージを振り返ってみたいと思います。

新潟県立看護大学

1通目: 聖路加国際大学に勤務した時

 父が教員・母が看護師の家庭で育ったからか、病院で看護師としての道を歩み始めた後も、いつか看護教員として働いてみたいという思いを持っていましたね。その後、母校の聖路加看護大学(現聖路加国際大学)の大学院修士課程に進み、修了後、助手として同大学に勤務する機会をいただいて、あなたの教育の道は始まりました。

 あなたは、学生に「教える」ということの楽しさを感じながらも、どこか自分の学生への関わりが本当に「教育」なのかと悩んでいることでしょう。実習指導を行っていても、これは病院にいた頃の自分が先輩として新人に業務を教えているのと同じなのではないか、教員として学生への「教育的な関わり」ができているのだろうかという疑問を持つとともに、ベテランの先生方が担当すればもっと良い「教育」が受けられるであろう学生たちに申し訳ないような気持ちを感じているのではないでしょうか。
 そんなあなたに、“新人だって、ベテランだって、その人だからこそ教えられることがあるよ”と、声をかけてくださる先生がいましたね。その言葉はきっと、今のありのままの自分でも学生に教えられることがあるのかもしれない-そんな風に思わせてくれる力を与えてくれるはずです。  
 

 “実習を通して学生に伝えたいこと、教えたいこととは何か?”を考えたとき、あなたは看護がもつ「楽しさ」や「喜び」、そして「厳しさ」を伝えたいと思うでしょう。看護の「楽しさ」や「喜び」が体験できれば、これから看護の道を歩んでいく学生の大きな力になる。でも、同時に、厳しく、辛いこともあるかもしれないけれど、その体験を乗り越えて、人の生命や人生に関わる責任の重さ、覚悟も持ってほしい。あなたが抱く思いは、その後の教員人生の中で、ずっと支えとなるものですよ。

2通目:新潟県立看護大学に勤務した時

 新潟県立看護大学の開学をきっかけに、故郷である新潟に帰ったあなた。講師として本格的に教員の道を歩き始めましたが、その頃のあなたはこのまま教員の道を歩むかどうか悩んでいましたね。臨床に戻ろうか、それともこのまま教員を続けるか…この時にもあなたは“看護師をやった年数分だけ、教員もやってみたらいいじゃない”というある先輩の言葉に背中を押され、それから20年-無我夢中で教員の道を進んでいきます。
 今にして思うと、聖路加で自分が受けた教育のように、愛情をもってこの学生たちを育てていきたいと奮闘する日々が、まさに教員としての成長の日々だったと思います。特に、学生や患者様1人1人と向き合う実習は、楽しさを感じる一方で人を育てる難しさを痛感するものでもありました。実習を終えて家に帰ると、「あの時何と学生に言えばよかったんだろう」という後悔をしたり、「明日、こういう風に話してみよう」とあれこれ考えながら眠りにつく日もありました。

 そんな毎日を過ごして数年たった頃、当時、上越教育大学長から本学の学長になられていた渡邉隆先生に「最近、良いケアをしている学生を見ていると、悔しいような思いになるんです    」と、学生の成長をそのまま「喜び」として受け止められない自分の感情に戸惑いを感じていることを打ち明けたことがありましたね。実習の場でケアを行う“主役”は常に学生であり、直接患者様にケアができない寂しさや、「教えている」はずの教員である自分が学生の成長に「追い越された」ような気持ちを感じているのでしょう。
 そんな私に渡邊先生は笑いながら、“酒井さん、それは教員として順調な成長過程を歩んでいるってことなんだよ”と言葉をかけてくださいました。教員が誰しもその成長過程で感じる思いなのだと知り、   少し安心したような気持ちになったことを覚えています。 今思うと、常に学生の前に立ってモデルとなり、引っ張っていく“教員”であらねばいけないと気負っていた自分が、学生が自分の力で歩いていく大きな可能性を信じて、後ろからそっと背中を押す“教員”の役割もあるのだということを新たに学んだ時期だったのかもしれません。

 あれから年数を重ねて、今の“私”の気持ちにはまた変化が生じているようです。実習で一生懸命退院指導をしている学生と、それを嬉しそうに聞いている患者様の姿をそばで見ていると、何だか感動して涙ぐんでしまうような自分に気づくことがあります。“私”の教員としての成長過程は、まだまだ次のステージに続いていくのかもしれませんね。

 こんな風に教員として歩む毎日にはいろんな思いを抱き、経験を積み重ねる中でその思いは変化していきます。また、そんな自分の思いを多くの先輩に相談しながら、その時々の自分に大切なメッセージをいただき、私は「今」を迎えることができています。これから教員としての道を歩もうとしている若い先生方も、多くの先輩の先生方のメッセージとその人だからこそ教えられる“自分らしい”教育を大切に、教員としてのキャリアを積み重ねていかれますことを応援しています。

 

酒井 禎子

新潟県立看護大学 准教授

聖路加看護大学(現聖路加国際大学)看護学部卒業後、新潟県新潟市にある新潟市民病院に就職し、5年間勤務。その後、聖路加看護大学(現聖路加国際大学)看護学研究科博士前期課程(修士課程)に進学。修了後、同大学看護学部成人看護学助手として勤務する。2001年新潟県福祉保健部福祉保健課県立看護大学設立準備室での勤務を経て、2002年4月に開学した新潟県立看護大学に着任、現在に至る。現在、臨床看護学領域成人看護学にて、主として慢性期看護やがん看護学、エンド・オブ・ライフ・ケアに関する教育を担当している。また、一般財団法人新潟県地域医療推進機構魚沼基幹病院において、2015年の開院より看護部特任教育コーディネーターとして新人教育等を担当している。

企画連載

リレー企画「あの頃の自分へ」

本連載では、看護教員のみなさまによる「過去の自分への手紙」をリレーエッセイでお届けします。それぞれの先生の、“経験を積んだ未来の自分”から“困難に直面した過去の自分”へ宛てたアドバイスやメッセージをとおし、明日からの看護教育実践へのヒントやエールを受け取っていただけるかもしれません 。

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