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第18回:みんなで取り組んだ特別授業を通して、大切なことに気が付いた私へ

第18回:みんなで取り組んだ特別授業を通して、大切なことに気が付いた私へ

2024.01.18永重 英子(帝京平成大学助産別科 講師)

 かつて、臨床指導者として母性看護学実習にかかわる中で、母性看護学にとても強い関心を示してくれる学生がいる反面、苦手意識のある学生もいることを知りました。後者のような学生にも楽しく母性看護学を学んでほしいと思い取り組んでいくと、最初は戸惑っていた学生も次第に母性看護学に面白さを見出して実習に参加してくれるようになり、教えることの楽しさに気が付きました。のちに旧厚生省看護研究研修センターでの受講の機会をいただき、「教育方法を学ばずに見様見真似で教えていたけれど、センターでしっかり学んで学生を育てたい」と思い1年間看護教育について学んだのちに、私は看護教員になりました。
 看護専門学校で教員としてのキャリアを積んでいく中で、強く印象に残った忘れられないエピソードがあります。今回は、その出来事を通して自分の軸を見つけ、看護教育の道を進み続けようとしている私に向けて、今の私から手紙を贈りたいと思います。

仲間たちと協働して合同デモンストレーションに取り組んだ

 教員になって14,5年ほどたった時、あなたは先輩教員から、「卒業式が近くなった3年生に学んでもらえるような、なにか役立つ演習をみんなでやりませんか」と提案されましたね。教員数名で話し合い、統合分野の特別授業として、チーム医療の実際を学んでもらうため、エマージェンシーコールがあった時の対応を協働して実演することになりました。患者の急変を想定し、救急対応のためすみやかに患者を個室に移し、適切な報告連絡の後に救急蘇生を行う場面を設定して、学生に一連の動きを見てもらったのです。
 それ以前にも、基礎看護技術の授業などで実践しながら指導するような機会はありましたが、領域をまたいだ本格的な合同デモンストレーションを実施したことが当時はなく、これが初めての機会でした。カリキュラムの一環というより、臨床のリアリティを想像できるようにと願い、統合実習の中で学んだこととリンクする内容をみんなで考えました。3年間の学びの集大成として、そして臨床1年生の看護師としてデビューしていく学生たちにエールを送るつもりで、懸命に準備しましたね。

あの出来事が心に残り続けているわけは

 みんなで集まって打合せ、患者役や新人看護師役、プリセプター役、リーダー看護師役、看護師長役、医師役と教員が役割を受け持ってそれぞれの動きを確認し、一生懸命練習を重ねました。そして当日、無事にデモンストレーションを終えた後の学生たちの反応といったら! 先生たちすごい、すごいと拍手喝采で感激してくれたようすに、あなたはこみ上げるものを感じましたね。学生たちに伝えたかった「臨床の場に入ったばかりの新人がどういった立場で動くのか」ということが伝わった、という手ごたえが感じられました。そして、医療はひとりでやるものではない、みんなで協力してそれぞれの力を発揮することが必要だ、と学び取ってくれたことがわかる感想も貰いました。「先生たちが自分たちのために練習を重ねてくれてありがたいと思った」という言葉を学生から聞くこともでき、心から「教員をしてきてよかったな」という気持ちになりました。
 たまに「私はほめられると伸びるタイプなんです」と言うような学生もいますが、私たち教員もまた、学生たちからのうれしい言葉に頑張ろうという勇気をもらえるのだと強く感じさせてくれる体験ができましたね。教員が一方的に学生へと教えるという関係だけではなく、教員の私たちも学生からさまざまなものをもらっていて、学生と教員はお互いに作用しあって成長していけるのだと、改めて気付かされたことでしょう。

チームで教育を作り上げる意義と喜び

 あなたはこれまで、看護教育について「それぞれの教員が持ち場で自分の仕事をこなすもの」というイメージを抱くことがあったでしょう。しかし、チームワークを高めて仲間と一緒になって教育を作り上げた経験から、やりがいや喜びもひとり分だったものをみんなと共有できるようになりました。そして、このことは看護教員であり続けたいという大きなモチベーションに直結するのだ、と気付けたのではないでしょうか。
 でもよくよく考えれば、合同デモンストレーションのような特別な場に限らず、授業づくりや学校運営の中で他者と協働する場面はたくさんありますね。たとえばあなたの所属する学校では、基礎看護技術の講義や演習、技術試験は専門領域を問わず皆で担当するでしょう。採血の試験であれば、教員が集まって評価のポイントを決めますね。対象者確認の仕方はどうか、穿刺後の声掛けなど配慮の仕方はどうかと共通理解を進め、ときに意見が合致しないことがあっても、とことん議論してどの考えが望ましいか突き詰めながら、試験のマニュアルや採点基準などをみんなで作り上げます。授業に限らず会議の場なども含め、教員みんなでお互いにそれぞれの考えを出し合う機会を持つからこそ、たくさんの知見が集まってよい教育ができ、学生の教育へと知が還元されていく。それもまた、ひとつのチームワークなのではないでしょうか。

コミュニケーションの大切さ

 こうしたチームワークの土台となる関係性を固めるためには、これまでのコミュニケーションの積み重ねが重要だと思うのです。教員になって1年目、2年目で看護基礎教育に携わる自信をなくしてしまい、早く臨床に戻りたいと考え教育から離れていく人たちのことを、あなたも見聞きしたことがありますね。教員としての経験を積んできたあなたにできるのは、彼らの言葉を傾聴しながら自分の経験を踏まえて助言をしたり、がんばりを認めてコミュニケーションを重ねながら、一緒になって看護教育を作り上げていくことです。若手教員の彼らは、長く教育に携わってきた教員にはない視点を持っています。若手が研修で学んできた、最新の知見を基にした知識や新しい価値観などが役に立つこともたくさんあるのです。コミュニケーションを通してこういった相互関係を築き上げ、その中で教育をよりよいものにしていくことが、あなたにはできるはずです。
 そして、コミュニケーションが大切なのは、教員同士だけではありません。教員と学生というのもまた、適切なコミュニケーションが求められる関係性です。学生にとって近づきやすい存在になれるよう、看護に限らず話題を提供したり、授業だけでなく日頃から声掛けをするよう心がけましょう。彼らの個別性を“アセスメント”しながら、「この学生は今なにを考えているのかな」「今は少し待って、このタイミングで声をかけたほうがいいな」と、考えながら動くのです。これは特別なことではありませんが、とても大切なことだと思います。

どんな場でもみんなで知を持ち寄って、学生への教育に還元する

 近い未来、あなたは専門学校から大学の助産別科へと、看護教育に携わる場を移します。雰囲気も教員間の関係性も、きっとこれまでとはガラッと変わったように感じることでしょう。しかし、あなたのやるべきことは変わりません。自分の役割をこなしながら周囲の仲間たちとのコミュニケーションを密にし、話し合いの中で考え方を分かち合いながら授業を作っていくのです。みんなで力を合わせれば、自分だけではかなわない色々なことができます。これからも、コミュニケーションとチームワークというあなたの二本軸を大切に、あなたらしく新たな課題に挑戦し続けてくださいね。

永重 英子

帝京平成大学助産別科 講師

ながしげ・えいこ/国立王子病院附属看護学校卒業後、都立公衆衛生看護専門学校助産学科へ進学。放送大学大学院修士課程卒業。国立病院で助産師、副看護師長として勤務したのち、旧厚生省看護研究研修センターを修了し国立の看護専門学校に専任教員として着任。以降関東信越内の看護学校に転勤し、教育主事、教員を務める。千葉県柏市の看護専門学校で 1 年勤務した後、現職。認定看護管理者研修ファーストクラス修了、ベビーマッサージ資格取得。地域小学生いのちの教育活動経験。趣味は料理。

企画連載

リレー企画「あの頃の自分へ」

本連載では、看護教員のみなさまによる「過去の自分への手紙」をリレーエッセイでお届けします。それぞれの先生の、“経験を積んだ未来の自分”から“困難に直面した過去の自分”へ宛てたアドバイスやメッセージをとおし、明日からの看護教育実践へのヒントやエールを受け取っていただけるかもしれません 。

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