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第16回:自分の仕事に自信が持てず、教員を辞めたいと悩む私へ

第16回:自分の仕事に自信が持てず、教員を辞めたいと悩む私へ

2023.09.14山下 容子(千葉市青葉看護専門学校 副学科長)

 臨床で看護師として働いていたときから、実習指導者として学生とかかわる楽しさを感じる機会がたくさんありました。反面、「患者を思い、患者の意志や状況を汲んで援助する」ことが難しい学生など、様々な学生に出会いました。楽しさと難しさを感じながら、教育への興味がだんだん膨らんでいきました。
 実習指導者として数年経った頃、勤務先の病院が移譲されることが決まり、私は移譲先の病院に残るか新天地に行くか選択をすることになりました。そんな中で上司に勧められて教員養成講習会に参加し、翌年に新任教員として看護学校に赴任しました。この時「せっかくだから」との思いで飛び込んでみた看護基礎教育の世界で、私は今も教壇に立っています。しかし、現在に至るまでにはたくさんの苦悩がありました。
 今回は、かつて自分の仕事に自信を持てずに悩んでいた私に宛てて、メッセージを送りたいと思います。

 教員初年度に1年生を受け持った時のあなたは、とにかく無我夢中でしたね。そして彼らが3年生になり、再度担任として受け持つことになった時は、「この人たちの卒年次を見られるんだな」とさぞうれしい気持ちになったことでしょう。しかし、3年生の担任は大変ですね。実習や授業と並行しながら進路指導や国試の対策に取り組み、学生が奮起できるように導くことは難しく、誰かから注意されたわけではないのに「私ではダメなのでは」と考えてしまっているのではないでしょうか。自分と同じ勤続年数の同僚がテキパキと計画的に仕事を進めているのを見て、その劣等感からさらに身も細る思いになっていることでしょう。
 実際のところは、あなたが一人で全部抱えて苦しくなっているだけかもしれません。「努力は必要だけど、今完璧でなくても、学生と一緒に学んでいけばいい」と上司や指導教官からの助言にあったように、現時点で知らないことがあっても十分できなくても大丈夫なのです。とは言え、あなたはそんな自分を評価できずに退職まで考えましたね。

 しかし、この時あなたに思わぬ機会が訪れます。上司たちが「本当に看護教育が嫌だったら仕方がないけれど、そうではなさそうだから、別の所でもう一度挑戦してみたら」と、新たな環境で頑張ってみるように後押ししてくれます。そして、転勤して心機一転、看護教員として再スタートするのです。赴任した学校は前の学校と比べて規模が小さく、その分学生に目を向けやすくなると思います。また専任教員5人のうち3人が同じタイミングで他校から転入してきた、同程度のキャリアを積んできた人たちでしたから、互いに相談したり、切磋琢磨できる関係性を構築でき、気持ちにゆとりをもって学生と接することができると思います。
 この学校であなたは成長し、そして現在の看護学校に勤務します。そこでも、学生の成長をたくさん目の当たりにできるでしょう。未来にいる私から、すてきなエピソードをひとつご紹介します。

* * *

 ある年の小児看護学実習、慢性腎疾患の子どもが入院している小児科病棟で、ある学生が小学4年生の男の子を受け持ちました。彼は自分の病気を知って頑張って治療したいという気持ちが強く、学生もその様子にとても感動していました。
 しかし、そんな男の子が、医師から指示されているイソジンを用いた含嗽をしなかった日がありました。お昼ご飯にカレーが出る日です。朝から楽しみで仕方がなかった大好きなカレーを口にする前に、自分だけおいしくない薬でうがいをしなければならない。それが嫌で仕方がなかったのでしょう、特別支援学校から戻った時に「うがいはした?」と聞いても、「もうした」の一点張り。学生は「うがいしようよ」「うがいしないとダメでしょ」とあれこれ促すのですが、彼は受け入れてくれず、とうとう食堂に行ってしまい、学生は途方にくれた表情になりました。

 学生の頭の中は感染予防のことでいっぱいだったのでしょう。男の子の病状は、管理に気を付けないと将来的に透析の可能性があったため、感染予防は大切でした。しかし、学生は男の子の気持ちをどこまで考えられていたでしょうか。それを掘り下げるために、学生と対話を始めました。するとイソジンがおいしくないから嫌だったかも、カレーを早く食べたかったのかも、と学生は男の子の気持ちを考え始めました。その後、食堂にいる男の子を外から学生とふたりで見ていると、彼は大好きなカレーを食べずに涙目で座っていました。隣の席は空いていましたが、学生は行くにも勇気が出ません。
 「今日のカレー、あなただったらさ、押し問答した後に美味しく食べられるかな」。学生はうつむいて考えていました。「医師の指示を守るのは大切だし、あなたも促すのはつらかったでしょう。嫌なことには理由があるだろうから、なんでうがいしたくないのか先に聞いてもよかったね。彼が今日、朝からどんな気持ちだったか考えたうえで『うがいをして』と促す道を選べたかな」。「そうではない私もいたと思います」と学生は言いました。「そうだね。でも、あなたが言うようにうがいをしなくていいわけでもないね。それなら、うがいは本当はイソジンでしなきゃいけないけれど、どこまでだったら譲ってもいいかなって考えてみることもできたかもしれないね」。「それは考えられていませんでした。感染予防が大事だと思っていたけれど、それだけじゃないですよね。ちょっとあの子の隣に行って、話してみます」。学生は気付けたようでした。

 男の子の気持ちに気づき、逃げずに彼の隣に座った学生が「さっきはごめんね、言い過ぎちゃったね、嫌だったよね」と自分の気持ちをまっすぐに伝えて謝り、男の子が「カレーを美味しく食べたかったんだ」と本当の自分の気持ちを打ち明けてくれました。そんなやりとりを見て、その場で患者の気持ちを汲めなかったことを振り返って、患者を理解しどう支援するか、学生自身で答えを導き出せたことをうれしく思いました。そして、教員と学生とのかかわり方についても同じで、まずは学生の気持ちを聞き、その気持ちを汲んだ上で彼らを信じてどこまで彼らに委ねられるかをはかることで、ともに成長していけるのではないかと感じました。

* * *

 こんな経験ができたのも、あの時看護教員を辞めずに続けてきたからです。気負い過ぎずにできることからやってみましょう。責任感は大事だけれど、全てを抱え込むことは難しいものです。つらい時や限界を感じた時は、声を出して助けを求めてみましょう。些細なことを他の教員に相談したりお願いしたりするのは申し訳ない、そう思うこともあるかもしれません。しかし先輩や上司、同僚に相談したり、彼らの力を適切に借りることは、結果論として学生も教員もよい方向に進むことにつながるはずです。
 しかし、そう自分に言い聞かせて冷静になることもできないほど、あなたは不安や焦燥感に苛まれるときもあるでしょう。そんな時は、上司に気持ちを伝えてみると良いと思います。きっと、あなたを導く言葉をかけてくれるでしょう。

 あなたはかつて、ご縁とチャンスに導かれて看護教員になる道を選択しました。当時と同じように、川を流れる落ち葉のごとく、身を任せてみてもよいのではないでしょうか。周囲の方々とともに学生を信じて取り組むことで、未来につながることは、看護教員であり続けている私が保証しますよ。

山下 容子

千葉市青葉看護専門学校 副学科長

やました・ようこ/国立大蔵病院附属看護助産学校卒業。国立習志野病院で勤務したのち、国立西埼玉中央病院附属看護学校、国立千葉病院附属看護学校で専任教員として勤務し、2010年より千葉市青葉看護専門学校に小児看護学専任教員として勤める。2019年より現職。放送大学を修了。趣味は歴史や鉄道を含めた旅行。

企画連載

リレー企画「あの頃の自分へ」

本連載では、看護教員のみなさまによる「過去の自分への手紙」をリレーエッセイでお届けします。それぞれの先生の、“経験を積んだ未来の自分”から“困難に直面した過去の自分”へ宛てたアドバイスやメッセージをとおし、明日からの看護教育実践へのヒントやエールを受け取っていただけるかもしれません 。

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