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「NurSHARE」オープン記念座談会:テーマ「知を共有する」(最終回)

「NurSHARE」オープン記念座談会:テーマ「知を共有する」(最終回)

2021.12.15NurSHARE編集部

「NurSHARE」ではサイトオープンを記念し、「知を共有する」をテーマに座談会を行いました。初回特集として、本座談会で伺った貴重なお話を3週にわたってお届けします。
※この座談会は、2021年10月18日に開催したものです。

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(第2回はこちら
 

編集部 ここまで若手教員が抱える困難や悩みについて、大学・専門学校の共通点や異なる点を伺ってきました。続いて、先生方の学校における授業のオンライン化、情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を用いた学びについての課題や意見、お考えをお聞かせください。

佐々木 当校ではコロナ禍で急遽環境を整備することになりました。ICTに対応するいい機会ではありましたが、学校の設置母体組織の関係上、情報通信ツールの使用について制約が多くて、授業をサーバーにアップしてオンデマンドで配信ということはどうしても難しいのが現状です。

片野 当校でも一部オンライン授業を行っていますが、まだまだアナログが主体ですね。設置母体の関係で、教務からの要望を出しても、安全性や効果などの面から導入のハードルが高くて。ICT環境整備に長けていらっしゃる学校もありますが、教育へのICT導入という点は、専門学校では苦慮されているケースが多いように思えます。

編集部 実際にICTを活用したから教育が変わったというご実感はいかがですか。

片野 様々な媒体を用いることで学習の様子はどう変わったか、学生たちにアンケートをその都度行い、「ここはよかった」「ここは改善しないといけない」というポイントは明らかになっています。アナログなりの工夫ですね。
 教材の作り方も変わりました。例えばある画像教材を使った時、実際には伝えたい点がその教材から十分に伝えられていなくても、対面の授業なら伝達の不十分さを学生たちの表情からすぐに察知して、口頭で補足できますよね。でも画面上のやり取りになると、学生たちの顔が映っていてもその反応が十分に読み取れない。これを払拭する工夫をもっとしないとねという声は教員からも聞こえてきました。

佐々木 ICT導入は取り組まないといけないことでしたから、いい機会でしたね。一番悩んだのは実習をどうするかでした。幸い当校はコロナ禍でも附属病院の協力もあり臨地実習の時間を確保できたほうでしたが、コロナ前に比べれば時間はかなり削減されてしまったので、補うためにはどうするか、臨地に出られないことの限界はすごく感じられました。患者さんの反応をどう捉えるか考えてこそ学生が育っていくことを考えると、今でも実践ありきかなと思う面は大きいですね。

野崎 片野先生、佐々木先生のお話を伺っていて、単科大学であっても大学は比較的組織が大きいのだとわかりました。本学は総合大学ですのでネットワーク管理室があり、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きた後も環境をすぐ整えてくれて、私たちはそれに乗って中身を考えればよかったんです。たぶん、専門学校だと、ネットワーク環境の整備から教員がやらなければいけないということですよね。環境というところでは大きく違うのかなと思います。

 たしかに、本学でもシステムは比較的整っていたほうだと思います。昨年は完全に臨床実習の期間がなくなり、今年度も前半はまだ出られていませんが、11月からは少しずつ実習にも出られるようになります。これまで講義、演習、実習ともにオンデマンド、オンラインを活用してきましたが、実習では,朝からほぼ一日教員が学生の実習指導をしているという点ではこれまでと変わりませんでした。病院に行くのは難しくても、病院のナースが患者役になって参加したり、カンファレンスに参加したり、オンライン上でも看護学生として学べるような授業の質には心がけました。
 講義では,学生の反応が逐一つかめる点はもちろん対面が良いのですが、オンライン講義によって学生が質問しやすくなり「やりやすくなった」という声も受けました。一方、今年に入ってから実際にある講義を対面にした際、学生のリアクションペーパーに「どうしてこの授業を対面にしようと思ったのか、先生の意図が伝わりました」と書いてあったのを見て、やはり対面の力を感じました。

野崎 コロナ禍によって「実習や現場でしか学べないことは何か」が明らかになったと思うのですよね。私たちはオンラインでの基礎看護学実習に挑戦しました。臨床の方々の協力も得て、病棟を撮影した映像を見せたり、実習指導者にオンライン上のカンファレンスに入ってもらったりしましたが、映像では、現場にいたら素通りしてしまう部分を意図的に映したり、患者さんの目線と同じように天井を映すなど工夫したことで、学生の気づきを促せることを発見しました。また、模擬患者と学生の対話の様子を録画して振り返ることで、学生が「できているつもりだったがそうではなかった」と気付く機会にもなりました。基本を教えてから試してみる従来の形式ではなく、オンデマンドで自己学習して、そのうえで考えたこと、疑問に思ったことを実習室で試してみよう、解決しようというふうに展開を変えていったらうまくいったように思います。
 一方で、医療現場、チームの中に入る緊張感や、生身の患者さんと接して学びとることは現場でないと経験できないと感じました。もう一つ、ICTを活用するためには、やはり交通整理してくれるLMS(学習管理システム)を使いこなすことが望ましいと感じています。ICTを使うと個別学習になりがちなので、学びをコントロールしたり、把握・指導したりするためにも、ICTに対応した教育の仕組み作りが課題になるのかもしれませんね。

通常では体感することができない患者目線の映像
(​病室ベッド上、仰臥位の患者さんからの見え方を撮影した動画画面より)


編集部 アフターコロナにおいても、ICTの活用は進むと思われます。看護教育に使われるデジタルツールと「NurSHARE」が連動していければ、何か新しい展開を創造できそうです。最後に、「NurSHARE」によってWeb上で先生方や情報がつながることについて、ご期待いただくことをお聞かせください。

片野 これまで「看護教員間の情報共有」は、機会やタイミングを設けないと難しいものでした。自分の都合のいい時間にサイトを訪問して相談したり、すでに指摘された例があることを確認したりできる、自分の時間に制約をつけなくても課題を解決していけるというところで、改めて「NurSHARE」の取り組みは非常に良いものだと思います。違うものだと捉えていた大学と専門学校には共通の部分もあって、それを共有しながら問題を解決し看護教育の質を向上できるという新たな可能性も、こういう場でないとわからないのではないでしょうか。目に見えない、あると思い込んでいた垣根を払拭できるのもうれしいサービスです。

佐々木 経験や立場、所属組織を問わず、困りごとや悩んでいることをその時に解決していけることはもちろん、自分と同じような疑問を抱いている別の人がいることを知れること、それらの情報をすぐに自分の教育活動に役立てられるところが、とても良いのではないかなと思います。

野崎 授業設計や教材化のスキルが高まるような情報を発信していきたいですね。セミナーなどに参加して一斉に教育を受け、一方的に知識をもらっても、やっぱり日々の教材化や授業設計のステップといった細かいところで困りごとは発生します。そんな個別のニーズに対応した情報に手が届くような場であったら良いですね。経済的にも環境的にも大変な教育現場はたくさんあるので、汎用性のあるツールを使い、具体的なテーマを扱ったコンテンツと、具体的な実践例がいつでも得られる、素朴だけれども教員たちを勇気づける「サポーター」のようなページになってくれたらと思います。

 大学の看護教員は、専門学校の教員と比べて数こそ多いと思うのですが、意外と閉鎖的で領域単位でやっているため孤立しているかもしれません。入職同期がいても、専門や状況が違う中でそれぞれの状況を理解してもらうのは非常に難しいです。結局、自分と全く同じ環境の人は意外に近くにいないものですよね。こういった媒体を通じて、自分と立場が似ている人たちから少しでもヒントを得てほしいと思います。自分の色々な情報発信がだれかに引っかかるかもしれない、100人いたら90人には引っかからなくても5人が助かる、そういうような場になると良いですね。新たな知の扉を開く機会として活用してほしいです。

編集部 本日はどうもありがとうございました。

(終わり)

(番外編はこちら

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