看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

「NurSHARE」オープン記念座談会:テーマ「知を共有する」(第1回)

「NurSHARE」オープン記念座談会:テーマ「知を共有する」(第1回)

2021.12.01NurSHARE編集部

「NurSHARE」ではサイトオープンを記念し、「知を共有する」をテーマに座談会を行いました。初回特集として、本座談会で伺った貴重なお話を3週にわたってお届けします。
※この座談会は、2021年10月18日に開催したものです。

参加者(写真左から)
片野裕美先生(東京警察病院看護専門学校 副校長)
佐々木陽子先生(JR東京総合病院高等看護学園 教頭)
野崎真奈美先生(順天堂大学 教授)
林 直子先生(聖路加国際大学 教授)

NurSHARE編集部(以下、編集部) 「NurSHARE」のサービス開始に伴い、長年、看護基礎教育に携わってこられた4名の先生がたにお話をお伺いすべくお集まりいただきました。看護教育の現状や、看護教員のみなさまが感じていらっしゃる悩みや課題、今後の看護教育のあり方などについてお聞かせいただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、「NurSHARE」の取り組みに関する率直な感想をお聞かせいただけますでしょうか。

片野裕美先生(以下、片野) 直接お会いしたことがない方、知らない方であっても、同じ看護教育に携わる方たちと教育の話題で気軽なやり取りができるという点で、「NurSHARE」がどう発展していくのかすごく楽しみにしています。大勢の方々が気軽に訪問して交流できる、看護教員の拠り所になると良いですね。

佐々木陽子先生(以下、佐々木) 学校の中で同じ教員たちとやり取りするだけでは、どうしてもいつも同じような考え方になってしまいますよね。学校を越えて自由に交流することで新鮮味のある刺激がもらえたり、わからないことを解決できたりすると、心強いのではないでしょうか。

野崎真奈美先生(以下、野崎) 「NurSHARE」のテーマのひとつは「つなぐ」ですから、色々な学校の教員同士がつながりやすいと良いですね。また、Webサービスは、紙面にはない音声や豊富なカラー写真、動画など、様々な形で情報発信できるところが面白いところですので、その特長を生かして先生方のニーズに応える頼りがいのあるサイトになると良いなと思います。

林直子先生(以下、林) 医師や医療職全体を対象としたサイトはたくさんありますが、看護教育に焦点を当てているという点で「NurSHARE」はオリジナリティが高いですよね。それだけではなく、看護基礎教育から継続教育、教職員に対する教育技術まで、幅広く看護教育を扱うこと、Webという媒体の性質上、即時性や相互性が高いことも相まって、看護教員のみなさんが手間暇をより削減した形で最新の情報にアクセスできる、メリットの大きなサービスだと考えています。


編集部 ありがとうございます。さて、これまでの看護教育において先生方がノウハウをどのような形で共有されてきたのかというところを、ご経験を踏まえてお聞かせください。

 学内では教員が互いのカリキュラムを評価したり、他の教員の講義を聞きその中でもっと発展させた方が良いと思ったことや自分自身が気づかされたことなどをピアレビューするシステムを導入しております。また、学内での講演など大学全体で共有する機会もあります。学外ですと、学会やセミナーなどの際に他大学の教員と情報を交流することが主です。

野崎 ファカルティ・ディベロップメント(FD、教育内容・方法の改善や、教員の教育能力向上のための組織的な取り組みのこと)や、学内の教員が集まり、各専門領域で行っている教育内容を発表する研究会や実習報告会などで、他の看護学領域の活動について聞くことがあります。ただ、大学は専門領域ごとの独立性が強いため、本学ではこういった機会でしかやり取りができず、知見の共有が限られていているように感じています。学外の教員と情報を共有する機会としては、やはり所属する学会への参加が多い印象があります。

佐々木 当校でも授業研究に取り組んではいますが、所属教員が少ないこともあり、知識の共有に割ける時間が多くありません。課題に感じています。

片野 当校では、できるだけ勉強会やミーティングをするようにはしています。時間的に授業研究がコンスタントにできないので、外部の研修を活用し、オンライン研修では個別参加ではなく、なるべく皆で参加するようにしています。また、日本看護学教育学会の交流セッションへの参加者を毎年出すようにしています。セッションに向けてまず自分たちで考えたことをまとめ、セッション本番で外部からの意見を頂いたうえで、学校に還元していきます。教員たちにとっても非常に良い刺激ですし、教員間のまとまりにもつながっています。


編集部 学校全体で一体感が生まれやすいように工夫されているのですね。そういうなかでも若手の先生方に学びの困難感はありますか?

片野 もちろん、ハードルはあります。その要因は「こんなことを先輩に聞いていいのかな」という思いですね。私は公的な看護教員養成研修を担当していますが、新人の教育者が集まる研修で日ごろ困難に感じていることを聞くと、一番聞こえてくるのが教育方法の悩み解決に関する声です。先輩たちも忙しいため、授業方法の具体的な効果性やハウツーについて相談する時間がなかなかない。また、臨地実習評価の難しさやジレンマ、学生たちへの効果的なフィードバックについて迷っている参加者も多くいます。こういった意味でも、情報や困りごとの解決策を共有しやすい場として「NurSHARE」は活用されるのではないでしょうか。

佐々木 若手教員の学びの困難感には、学内の教員間の経験年数のばらつきもあると思います。経験年数の浅い教員が経験豊富な教員らと共に教育をしながら、知識を得て学び、ステップアップしていくのはなかなか大変なものです。本当は同じような経験レベル・状況の仲間同士で学び合えるような場があると良いのかなとは思うのですが、他校との情報共有が難しい部分もあり、若い教員たちには実践しながら見て学んでもらう部分が多くなってしまいます。先輩たちがわかりやすくフィードバックを行い、若い教員たちはそれをうまく活かし学んでいく。そういった環境・土壌づくりも必要なのかもしれません。

編集部 専門学校の若手教員の方々における困難感の理由の一面をうかがい知れました。大学の若手教員の方々においてはいかがでしょうか。

野崎 大学では看護教員養成コースはなく、修士課程で修士論文を1本書いたら教員になる、という例が多いのですが、みんな臨床の看護師から教員へと方向転換をするにあたってとても苦労しています。彼ら彼女らを迎え入れる側も苦労は同じです。例えばFDマザーマップのような、看護系大学教員としての成長における段階的に必要な能力を示すものはあるのですが、あくまでそれは目標であって、その到達点に達するための具体的な研修などは各学校で考えていくというシステムです。

看護学教育におけるFDマザーマップ®全体構成(上)と構造図(下)
(以上、千葉大学大学院看護学研究院附属看護実践・教育・研究共創センター:FDマザーマップ®支援データベース,〔https://fd.np-portal.com/fd/〕より許諾を得て転載)

 

 看護専門学校では教員向けの看護教員養成講習会が開催されており、多くの方が受講されているようですね。大学教員は必ずしも教育のトレーニングを受けず、基本的には各大学の人事の採用規定に則って教員になります。私が教員になった頃は、提出した授業案について教授が指導してくれたり、先輩の講義を見学したり、先輩教員たちも交えて自分の授業を振り返ったりといったプロセスを重ねて力をつけてきました。ですが、最近は大学の在り方や大学教員に求められるものの変化で様子が変わり、先輩の授業に入って勉強する時間的余裕もなくなってしまいました。先輩の講義は、一見雑談のような話が実は臨床実践における重要な学びへの伏線であっただとか、そういうものを今でいうOJTのようにダイレクトで学べるいい機会だと思っていたのですが……。

編集部 時間をとって若手教員を育てることが、大学でも難しい状況にあるということですね。

 はい。その分、新任教員の最初の授業の時、私個人としては必ず授業案などにしっかり目を通して指導するようにしています。自分が教員になったばかりの時に上の先生から「教員側としては、新任だから授業準備が十分に間に合わないところがあっても仕方ない、ということもあるかもしれないけれど、学生にとっては一生に一度の授業なのだから“間に合わなかった”は通用しない」と言われたことを今でもよく覚えています。

野崎 若手教員の苦悩に関して、何年か前まで大学や専門学校の看護教員たちが集まる勉強会を開催していまして、その時に出た話題で印象的だったことがあります。臨床では“できる”看護師だった人が、教育の場では経験を生かせずうまく行かないケースが、養成校の種別を問わずよくあるというのです。臨床経験を教材として生かす「経験の教材化」に慣れていない、授業準備のプロセスがわからない、自信がないし先輩教員に指導してもらう時間もないなど、様々な悩みを抱えているんですね。指導の際に受ける評価も、成長のための大事な指摘ではあるのですが、それを受け入れる土台が本人の中にできていない。「これでいいんだろうか」ととても不安に思っていることがわかりました。やっぱり新人看護師と同じで「何かあったら報告してね」というのでは難しくて、ベテラン教員が若手教員の立場を踏まえて「今困っている?」「そろそろ○○の時期だけど大丈夫?」といったように、自分たちから具体的に声をかけてあげるのがいいのでしょうね。

佐々木 当校では、系列の病院に就職した卒業生が、臨床経験を積んで教員として学校に戻ってくるというケースが多く、卒業生が学校教員の大半を占めています。臨床でも看護師としての仕事仲間だった関係性もありますので、若手教員はもっと気軽に先輩教員に質問してもよいと思うのですが、野崎先生もおっしゃっていたように、聞いていいのかな、という気持ちがあるんでしょうね。なので、私は年1回若手教員の話を聞く面談をしていますが、教務主任の先生にも協力してもらい、若手教員の様子が気になったときにはすぐに動けるよう心がけています。「経験の教材化」についても野崎先生のおっしゃる通りで、臨床経験を指導に使っていくことの難しさやハードルの高さに苦悩しているのが伝わってきます。

片野 私も若手教員と接していて、患者様とのやりとりなどの場面を切り取り教材にする、教材化する力の重要さを感じる場面が多いです。ですので、例えば同じ学生と患者様のやりとりを先輩教員と若手教員が一緒に見て「私はあのシーンのやりとりを教材化してやりとりしてみたらいいと思うよ」とアドバイスするような場も必要なのかもしれません。

次回につづく)

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。