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第6回:IPE Playlist ~賢いIPE 生活〈season1〉

第6回:IPE Playlist ~賢いIPE 生活〈season1〉

2022.09.15酒井 郁子(千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター センター長・教授)

 みなさま、季節は秋に向かい日も短くなってきましたね。教員の方々は次年度のカリキュラム編成や後期の実習などに向けいろんな調整が重なっている時期、実践家の方々も夏の疲れがどっとでる時期ではないでしょうか。
 ですので今回は、気軽にIPEの話をしてみたいなと思います。ぶっちゃけIPEってどうよ、うまくやるコツって何? っていう話を書いてみます。カピバラおすすめのプレイリスト♪と共にどうぞ。

オープニングは、旅の仲間と出会うこと

プレイリスト#01 ♪ RPG/SEKAI NO OWARI

 IPEのスタートは、カウンターパートを探すことから。看護の学生だけで授業をしているのではIPEにならないのですから、まずはIPEという旅を共に進む仲間を探すことです。どこかにきっと、IPEを一緒にやる仲間がいるはず。「うちは単科だから、一緒にIPEをできる仲間がいないんです」という悩みをよく聞きます。だけど、探してみましょう。いろんな学校のホームページを見たり、口コミを頼りにしてもいいですし、学会に参加してみてもよい。日本の保健医療介護系の多くの領域で、IPEをやろうという機運が高まっています。仲間はいます。まだ出会っていないだけかもしれない。
 先日、とある看護学校の校長先生からこんな話を聞きました。「うちは単科の専門学校なので、IPEのカウンターパート*1を探すところから始めたんですけど、まず、ホームページを見て、IPEを一緒にできそうな、同じような規模で看護学科がないところの学校の先生に電話しました。一緒にやりませんかってお誘いして、一度会いましょうっていうことになったんですよね」。
 なんか、ワクワクしませんか? 相手と一度で意気投合するかもしれないし、しないかもしれない。だけど、アクションを取るのはまず IPEをやろうと思った自分たちからってとこ、すごくかっこいい。怖くても大丈夫。どこかに必ずいる仲間に出会う第一歩です。
 これまでやっていないことをやるのですから、オープニングに完全な失敗も完全な成功もありません。学生や他領域の教員と一緒の冒険に一歩踏み出すってだけです。

*1 カウンターパート:IPEを共に学ぶ相手(他領域の学生)のこと。

すると、前人未到のストーリーが始まるかもしれない

プレイリスト#02 ♪ 開幕宣言/Novelbright

 IPEは今まで行ったことのないところに行く旅です。前人未到のストーリーが待っている。
 IPEの仲間を見つけたら、一緒に計画を立てて、とりあえず開幕宣言をして、キックオフの笛を吹いてみましょう。IPEの授業が始まると、何かしらの化学反応(ケミ)が生まれます。看護の授業だけでは見られないものです。IPEの授業で学生たちは、少しハイテンションになったり、他学部を意識してシャキッとしたり、いつも強気なのに引っ込み思案になったりと、いつもと違うんですよね。この“いつもと違う感じ”を教員が察知できるとすごくおもしろいです。
 反応ですから肯定的なものも否定的なものもあるんですけど、学生たちの様子を受けて、ちょっと待てよと、そこで自分を振り返る。「私はこの学生たちの反応をこう思ったが、それは他領域の教員も同じように思うのかな」と、確認してみる。そうすると違う受け止め方の教員がいたりして、「あぁ、そうなんだぁ」と思う。もしくは同じ受け止めの教員がいると、「やっぱりそうだよねぇ」と思う。このやりとりで相互理解が深まりますね。
 それに加えて、舞台に立ったら演じ続けなければならない、授業ってそういうものですよね。実際にIPEを他領域の教員と行うことにより、授業中に起こる想定外のことに一緒に立ち向かって何とかやり遂げるっていうこともある。その場にいる教員たちが力を合わせることを体験する。まさに教員の凝集性が高まる瞬間です。
 そんなこんなで教員間にも何かしらのケミが生まれ、次の課題に対して、一緒にどうすればいいのかを考えられるようになります。共通体験がそうさせるのです。
 だけど、教員がいわゆる「やらされIPE」になっていると、「今は、次は、どうしたらいいのかな」と一緒に考えることが難しいですよね。「やれと言われたから協力してやっている」という感じだと、どんな授業でも楽しくない。IPEだから楽しくないんじゃなくて、自分がその授業にコミットしてない(協力してるだけ)ので楽しくないんですね。こういう状態だと、想定外のことが起きたら文句しか出ないことになります。このようなやらされ感満載の教員にとって、何か引っかかるフックがあるといいんですけど。それはたぶん、学生たちや教員の間に起こるケミかなと思います。こんなことがあったよ、あんなことがあったよ、と一緒にやっている教員同士でいろんな経験を共有できるといいですね。

旅の途中で行き詰まったら、夜空を明るく照らそう

プレイリスト#03 ♪ ダイナマイト/BTS

 冒険が序盤を過ぎると、中ボスとの対決が待っています。
 医療系のIPEのクラスルーム学習では一度に大人数の学生をさばかなくてならない。たとえばカピバラのところの低学年のIPEは300人の学生のグループワークを仕切って、学習目標達成に着地させる必要がある。だから教員も多くの人数が必要となってしまいます。なので教員から「協力を得る」のが必要になっちゃうんですよね。
 そうすると、IPEってべつに国試に役立たないし時間がもったいない、専門教育や実習のほうが大切、だから部屋の確保はこっちが優先だよって言われたりします(IPEだって必修で、IPEのほうが部屋は多く必要なんですけど)。あまつさえ、他の領域の学生から悪い影響を受けるのではないか、といった反応が出てくることがあります。
 同僚がIPEを受け入れない、否定的、やる気ないといういわゆるIPE業界で有名な「教員の温度差問題」。これが学部(学科)単位で生じると「学部(学科)間の温度差問題」。これを放っておくと、「IPEなんて、どうせ臨床に出てからやる機会があるんだから基礎教育でやらなくてもいいんじゃないか」とか「自分の専門領域の勉強をしてないのにチーム医療の勉強してもしかたないんじゃないか」という論理展開になって、IPEはどんどん肩身が狭くなっちゃうんですよね。
 この温度差問題がきついところは、それだけ、教員や学部・学科がたこつぼ化している証拠です。IPEはこのようなたこつぼ(欧米ではサイロ)化された教育への批判から生まれてきたものですから、ここが頑張るポイントです。中ボス倒してレベルアップというところ。
 だけど、自分たちの同僚や学校がたこつぼ化しており、IPE温度差問題が強固にある場合どうしたらいいんでしょう。
 その答えは、ダイナマイトを夜空に打ち上げることです。夜空を明るく照らしましょう。まず自前でダイナマイトをつくる。物騒なたとえですけど。やる気のある教員が集ってトライアルで成功を収め、学生の反応を広く周知共有する(ここが明るく照らすダイナマイトね)。非協力的な教員はIPE創設期には入れない。形が定まってきたら目的・目標意義を提示し、具体的に何をやってほしいかを説明したうえでお願いするとけっこううまくいくし、それで学生の反応からIPEにコミットし強力な仲間になることも多いです。次の年度には、いろんないい意見をたくさんくれたりします。
 「指定規則にIPEが入りましたよね。コア・カリキュラムにも多くの領域で組み込まれています」「多職種連携って、国試でも出てますね」「うちの学校の卒業生だけがIPEをやらないまま臨床で働くことになってもいいんですかね」といったような相手に刺さるフックを見極めた発言も、ダイナマイトの一種(これらを言うときにはくれぐれも感じ良く)。先行して行っている教育機関の事例を話してもらうというのもダイナマイトです。見えないもの、やったことがないものを照らしてくれるのです。
 カピバラのところでは、IPEを始める前に、英国の大学の先生をお呼びして、カウンターパートとなる医学部、薬学部のステークホルダー*2の先生もお招きして、3学部そろってIPEの必要性、意義に関する講義を聞くというイベントを行いました。そのあとの懇親会で、その英国の先生方に「そちらは、これからIPEをやるんでしょ(だから私たちを呼んでくれたのよね?)」と言われ、その場にいたエライ先生方が思わず「あ、やります」と反射的に答え(笑)、これが亥鼻IPEのスタートとなりました。IPEダイナマイトが夜空に炸裂した瞬間でしたね。

*2 ステークホルダー:学校経営者、理事会、実習先、就職先の多様な職員、地域住民、患者、行政、他校の教員など、IPEの実践と何らかのかかわりをもつ団体や個人のこと。

他者へ良い感情を表しインスパイアしながら、共に旅を続けてゆく

プレイリスト#04 ♪ アロハ/チョ・ジョンソク
(ドラマ『賢い医師生活』Original Sound Trackより)

 IPEの仲間は、それぞれ自分の専門という種族を背負っているわけで、つまり、エルフとドワーフと人間とホビットが一緒に旅をするわけですから、相手の文化と価値への配慮は大前提です。“看護天動説”は捨てなくてはいけません。何が言いたいかというと、自分たちの今のカリキュラムは変えない前提で互いに話し合うと対立が生まれるってことです。相手の都合とこちらの都合との両方を尊重したいです。
 教員は専門職です。他の専門職をコントロールすることは基本的にできません。できるのは、よい影響をお互いに与え、受け取り続けることだけです。また自分の学校(もしくは学部、学科)の学生を「うちの子」と、口が滑ったりすることありますね。カピバラも、10年以上前はよく口走ってました。しかしこれはたこつぼ発言に相当します。どうせたこつぼに入るなら、もっと大きなたこつぼに入りましょう。IPEでかかわるすべての学生が「うちの子」だ、究極的には、世界のみんなが同じたこつぼに入ってるんだぜ、くらいになるといいのかなと思います。
 さて、ハワイ州法では「アロハスピリット(Aloha Spirit)とは人々の心と精神の調和である。そしてアロハスピリットは人々を自分自身に立ち返らせる。人々は良い感情を考え、他者へ良い感情を表さねばならない」と定義づけられています。そしてALOHAの5つのアルファベットにはそれぞれ意味が込められています。A(akahai)は思いやり、優しさ、L(lōkahi)は調和、ハーモニー、O(ʻoluʻolu)は心地よさ、H(haʻahaʻa)は謙虚さ、A(ahonui)は忍耐強さ1)です。これらぜんぶ IPEに必要なことなんですよね。

 IPEはLearning to Fly 2)です。学生たちが現場でうまく飛べるようにする、すなわち新人の時から現場で即、専門職連携実践を行うことができるようにする教育がIPEです。そのためにIPE担当教員は誘導路をつくりましょう。そして滑走路や空港をつくるのは執行部や教授の仕事です。

引用・参考文献
1)ハワイ州観光局:学ぶハワイ,ALOHAが持つ意味,https://www.allhawaii.jp/article/4409/,アクセス日:2022年9月13日
2)Gilligan C, Outram S, Levett-Jones T:Recommendations from recent graduates in medicine, nursing and pharmacy on improving interprofessional education in university programs: a qualitative study. BMC Medical Education14:52-52, 2014.

 

酒井 郁子

千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター センター長・教授

さかい・いくこ/千葉大学看護学部卒業後、千葉県千葉リハビリテーションセンター看護師、千葉県立衛生短期大学助手を経て、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。川崎市立看護短期大学助教授から、2000年に千葉大学大学院看護学研究科助教授、2007年同独立専攻看護システム管理学教授、2015年専門職連携教育研究センター センター長、2021年より高度実践看護学・特定看護学プログラムの担当となる。日本看護系学会協議会理事、看保連理事、日本保健医療福祉連携教育学会副理事長などを兼務。著書は『看護学テキストNiCEリハビリテーション看護』[編集]など多数。趣味は、読書、韓流、ジェフ千葉の応援、料理。

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