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第2回 万博サクヤヒメ会議/三方良しの女性活躍! だれもが主役の万博へ

第2回 万博サクヤヒメ会議/三方良しの女性活躍! だれもが主役の万博へ

2022.10.06NurSHARE編集部

 「万博サクヤヒメ会議」をご存じでしょうか? 来る2025年、“いのち”をテーマとした大阪・関西万博が開催されます。万博サクヤヒメ会議は、大阪・関西万博の開催に際し、後進のロールモデルとなる女性リーダーを表彰する「大阪サクヤヒメ表彰」の受賞メンバーらが立ち上げた、共に考え活動する場・コンソーシアムです。
 先ごろ本会議第2回が開催され、大阪サクヤヒメ表彰受賞者の一人として水方智子氏(パナソニック健康保険組合立松下看護専門学校 副学校長兼教務部長)がパネルディスカッションに登壇し、「だれもが平等に活躍できる社会とは」について、パネリストや参加者たちと語り合いました。このレポートでは、その模様をお届けすると共に、2025年のその先の未来を見つめてみたいと思います。

※本会議は2022年6月8日にオンラインで開催されました。

 

女性活躍推進に向け、女性リーダーらを応援

 大阪サクヤヒメ表彰 1) は大阪商工会議所が行う女性活躍推進事業で、企業活動や文化的活動、専門性の高い職業において活躍する女性リーダーを表彰するものだ。この事業をとおし、ロールモデルの発信や後進の人材育成などを行い、地域社会の発展に貢献することを趣旨としている。
 2016年度(第1回)から2020年度(第5回)の5年間で受賞者は計227名。歴代の受賞者には、商社やメーカー、金融系企業などで活躍する女性リーダーらが名を連ねる中、看護界からは水方氏(第4回)、大阪府看護協会の高橋弘枝会長(第5回)が受賞している。受賞者は、「万博サクヤヒメ会議」のほか、SDGsの理念のもと「働き方」「ジェンダー」「まちづくり」といった分野での有志活動を行っているそうだ。

 なお、こうした「女性活躍」という言葉は、2016年4月の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」の施行以降よく耳にするようになったものだが、今年4月には改正法が全面施行されたところである。

だれもが平等に活躍できる社会へ

 パネルディスカッションのテーマは「三方良しの女性活躍! だれもが主役の万博へ」。「三方良し」2,3)とは、江戸時代から明治時代に行商として活躍した近江商人が、商いの基本とした理念である。自らの利益のみを追求するのではなく、「買い手に良し/売り手に良し/世間に良し」と三方を大切にすることで、社会に大きく寄与したという。この理念を踏まえ、女性活躍が進むということは三方(家庭、職場、社会)が良くなることであり、それは大阪・関西万博がめざす「いのち輝く未来社会」に通じる、性別などさまざまな背景を超えてだれもが平等に活躍できる社会の到来につながるだろう、という期待のもと、パネルディスカッションが展開された。

パネルディスカッション登壇者(写真左から)

【司会進行】関 純子 氏:関西テレビ放送株式会社 アナウンサー(第4回大阪サクヤヒメ表彰受賞者)
【パネリスト】板橋 健児 氏:ミズノ株式会社 グローバルデジタル統括部 部長
【パネリスト】水方 智子 氏
【パネリスト】生駒 京子 氏:株式会社プロアシスト 代表取締役社長、2025日本国際博覧会協会 理事(第1回大阪サクヤヒメ表彰受賞者)

会場床面には、大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」を連想させるモチーフが映し出された
 

出産・育児と、女性のキャリア形成

 「女性活躍」について議論を進める中で、出産・育児と女性のキャリア形成について、パネリストそれぞれの視点から意見が述べられた。
 男女雇用機会均等法以前は、「たとえば同じ職場内で結婚するカップルがいる場合、異動を余儀なくされるのは女性で、男性は元の部署にとどまる。そしていざ妊娠したとなれば『会社を辞めますか? 家庭に入りますか?』と当然のように聞かれる時代だった」と生駒氏。バブル崩壊を受けて日本の将来に危機感を覚えた90年代初め、何か自分も力になれることがあるのではと一人で起業し、ソフトウェア開発を手がける現在の会社を設立した。そこへ結婚・出産で退職を選択した女性たちを招き入れ、活躍の場を生み出したという。
 水方氏は、「もともと女性中心の社会で、男女雇用機会均等法こそ、その施行前後であまり変化を感じることはなかった看護界だが、やはり出産や育児にまつわる退職というのは多く経験してきた。コロナ禍でそれが加速したデータもある」と言う。「自分自身、介護と育児のために仕事を離れた経験がある。仕事をしながら介護・育児をするなんて、とうてい自分にはできないと決断したことだったが、日に日に、社会から取り残されているような気持ちが募っていった」と振り返る。
 第2子誕生時に1年間の育児休業を取得したという板橋氏は、「たしかに、育児などでいったん会社を離れ、キャリアを中断させることに不安を感じると話す女性社員は多いようだ。実際、自分自身の育休時にも同じように感じることがあった。育休中にリーマンショックが起こったが、それをその年の重大ニュースを振り返るような番組で初めて知った。それほど社会と隔絶されていたのかもしれない」と話す。

 板橋氏のように、育児休業を取得する男性の割合は13.97%(令和3年度雇用均等基本調査 4) より)で、前年比+1.32%となったものの、政府が掲げる「2025年までに30%」という目標とは解離がある。そのような中、男女とも仕事と育児の両立がしやすくなるようにと、2021年6月に育児・介護休業法が改正され、今年の10月からは新しく「産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)」が開始されている 5) 。これにより、母親と父親とで調整して育休を取得しやすくなるなど、より柔軟な育児休業制度の運用が可能になることが想定される。

「どのようになれば、女性活躍が進んだと言えると思うか?」

 中盤、パネリストと参加者にこのような質問が投げかけられた。読者の皆さんは、どのように答えるだろうか。

 「女性役員30%以上」「女性の総理大臣が誕生したら」「男性の育休が取りざたされなくなった時」「男女の役割分担のバイアスが、すべての人からなくなった時」「“女性”という言葉が頭に付かなくなったら」など、さまざまな意見が挙がった。水方氏は「女性活躍という言葉が死語になること」と答え、「社会のさまざまな場面で、自分は何のためにここにいるのか、どういう役割を果たせるのかということが明確であれば、本来男性も女性も関係ないはずなのではないか」と述べた。
 生駒氏は、万博協会(2025年日本国際博覧会協会)理事に選出された立場から、「選んでいただいたということ、発言できる環境を整えていただいたことに感謝している。きっかけは“女性だから”だったとしても、もし自分の考えを発信できる場や機会を得たら、『あなただから選ばれた』と捉えて、最大限に活用し楽しんでほしいと思う」と参加者にエールを送った。

「いのち輝く未来社会」の実現に向けて:万博のその先にある未来を想像する

 2015年の国連サミットにおいて、SDGsが盛り込まれた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されて以降、世界中に「持続可能であること(sustainability)」が最優先の課題であるという認識が広がっている。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる大阪・関西万博は、宇宙・地球という自然環境に生きる私たち人類が、「自然界に存在するさまざまないのちの共通性と相違性を認識し、他者への共感を育み、また多様な文化や考えを尊重しあうことによって、ともにこの世界を生きていく。そうすることによって、地球規模でのさまざまな課題に対して新たな価値観を生み出し、持続可能な未来を構築することができるに違いない」6)と謳っている。

 こうした万博が見据える未来社会における「新たな価値観」や多様性を考えるにあたって水方氏は、看護職として社会が抱えるいのちの問題を見過ごすことはできないのだと述べた。「子どもの貧困、医療的ケア児、ヤングケアラー、発達障害…と、向き合うべきさまざまな課題が浮き彫りになっている。こうした世の中を生きる私たちが、だれもが活躍できる社会を実現するには、多様性を真に受け止められるような価値観の変容が必要なのだろう。そのために、これまでの自分の枠組みや固定観念を“上手に”崩すことができればと思う。」
 

画面の向こうの参加者に語りかける水方氏

 パネルディスカッションの最後は、各パネリストが参加者へメッセージを送った。水方氏は、「いのちは自分だけのものではない。私たちは周囲に生かされていて、自分自身が周囲の人を生かしていることもある。そうやって生きている存在なのだ」と語りかけた。「私は自分の学生たちに、いのちは奇跡なんだと教えている。その奇跡が、学生たちの中で輝きをもって生きるように、私には何ができるのだろうかと、今日を機に改めて考えてみたい」と締めくくった。

* * *

 産業界に先がけ、自立した女性像を確立してきた看護職にとって、性別や年齢などを超えて、だれもが平等に活躍できる未来社会とは、どのようなものだろうか。
 地域包括ケアシステム構築の必要性の議論が始まった当時、「2025年」はそれなりに遠い未来のことのような気がしていたかもしれない。しかし今年度からは、さらにその先を見据えた新しいカリキュラムでの教育がスタートしている。これからの看護界を担う学生たちに、それぞれの特性を生かしながら活躍できる、輝く未来が広がっていることを願う。

引用・参考文献
1)大阪商工会議所:大阪サクヤヒメ表彰,https://www.osaka.cci.or.jp/osakasakuyahime/,アクセス日:2022年9月30日
2)近江八幡観光物産協会:近江商人について,https://www.omi8.com/omihachiman/local-history/goroku/,アクセス日:2022年9月30日
3)伊藤忠商事:近江商人と三方よし,https://www.itochu.co.jp/ja/about/history/oumi.html,アクセス日:2022年9月30日
4)厚生労働省:令和3年版雇用機会均等調査(概要 全体版),p.21,https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/07.pdf,アクセス日:2022年9月30日
5)厚生労働省:報道発表資料(令和4年8月22日),https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27491.html,アクセス日:2022年9月30日
6)2025年日本国際博覧会協会:万博を知る;理念とテーマの考え方,https://www.expo2025.or.jp/overview/philosophy/,アクセス日:2022年9月30日
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