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手を取り合って新たな時代の看護教育を【日本看護学校協議会副学校長・教務主任会】

手を取り合って新たな時代の看護教育を【日本看護学校協議会副学校長・教務主任会】

2021.12.24NurSHARE編集部

少子化による受験者減、急速に導入が進むICT教育への対応、コロナ禍における学生らのケア。全国の看護教員のみなさまはこれらの課題に対応すべく日夜奮闘されていることと思います。2021年の最後に開催された「日本看護学校協議会副学校長・教務主任会」の取材レポートを通して、看護教育の現状や各所での取り組み等をご紹介します。

 日本看護学校協議会(水方智子会長、松下看護専門学校副学校長)は12月16日、東京都千代田区のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で「令和3年度副学校長・教務主任会」を開催した。新型コロナウイルスの影響で来場者数を抑え、対面とオンライン配信を両立させての実施となったが、当日は会場参加者約20名、オンライン参加者約250名が集まる盛況となった。水方会長が2021年6月に会長に就任して以降初めてとなる大規模な集まり。開会に先立ち、水方会長は「皆様に助けて頂きながらの半年が経った」と挨拶し、会員らに感謝を述べた。

1学年定員が減少傾向に転じたか

 会の始めには厚生労働省医政局看護課の菊地沙織看護教育係長が登壇。看護教育行政の動向として、「看護職員確保対策」「看護基礎教育」「看護師国家試験・准看護師試験」に関しての講話を行った。看護師および准看護師学校養成所の1学年定員の推移について、これまで上昇傾向で推移してきたが20年度には微減していること、3年課程における定員充足率について、2010年以降は100%前後を維持していたが近年は95%台まで下がっていることを指摘し、「現在看護職のニーズは高く就業者数も増えているが、ここにきて少子高齢化の影響が出てきているのではないか」と考察。来年以降も傾向を注視していくと述べた。

 また、21年度から始まった「新型コロナウイルスの影響に係る看護職員卒後フォローアップ研修事業」を22年度も継続することを案内。新型コロナウイルス感染症の影響で臨床実習での経験を十分に得られなかった卒業生に対し、入職後の研修を学校が主体で行う場合に補助を得られるというもの。「ぜひ積極的に制度を利用してほしい」と呼びかけた。

地域に貢献する養成所となることが求められる

 水方会長は「看護師等養成所のめざすべき方向性」と題し講演を行った。「未来のために養成所は何を目指しどのように社会に貢献するのか、そのためにどう運用していくのかを考えていきたい」という将来を見据えた言葉から始まった講演は、「看護師等養成所が直面する課題」「これからの看護師等養成所の方向性」「地域で働く看護職の職場拡大にむけた取り組み」の3点を主なトピックスとして展開した。18歳人口の減少に伴う定員充足率の低下が予想され、受験者確保の難しさから閉校を考える養成所も見込まれる中、水方会長は講演内で「大学・養成所を問わず自然淘汰の時代に突入する。施設の特色を出して学校の価値を高め、いかに地域に貢献するかが、今後ますます重要になる」と強調した。

日本看護学校協議会の水方智子会長

 同会が行った看護師等養成所の管理・運営等に関する実態調査によると、養成所卒業生の就職先について「養成所がある都道府県内の進路を選択した学生は70%以上いる」と回答した課程は約76%を占めるという(20年3月卒業生において)。また、新型コロナウイルスの感染拡大によってデジタルシフトが加速し、都市への一極集中から地域回帰が進んだことで学生の地元志向の強まりも予想される。これらの情勢から、「スキルを地元で活かせて定年退職後も長く地域に貢献できるという看護職の強みを地域の若者に訴求し、目指してもらう場として機能することが養成所の生き残る道である」(水方会長)とも考えられるだろう。

 水方会長は「地域包括ケアシステムの推進に必要な人材育成への支援を高められるようになった看護基礎教育によって、専門性を武器にしながら地域住民の「4つの助1)」を支援する人材を育てることで地域に貢献できる。さらに養成所そのものが看護職への継続支援の場となりつつ、地域のネットワークや災害対応など地域の健康づくりにも寄与できるのではないか」と述べた。

1)地域包括ケアシステムが効果的に機能するために必要とされる「自助」「互助」「共助」「公助」のこと

ICTを活用した新たな学びの促進事例

 関西看護専門学校の奥田尚美副校長(同会理事)は看護教育の現場における情報通信技術(ICT)の活用について、同校が取り組む実践を報告した。同校には、北海道から沖縄まで全国から学生が集まり、大半が学生寮で生活している。20年の新型コロナウイルス感染拡大時にはこの特色が影響し、入寮中かつ個人でインターネット回線の契約をしていない学生や、離島や山間部に帰省した学生は、通信環境が整っておらずオンライン授業の学びが円滑に進められないという問題が発生した。これを受けて同校では、一部の科目をオンライン授業から独自の動画教材を用いたオンデマンド授業に切り替えた。

オンデマンド動画教材を独自に作成

 動画教材は基礎看護技術を中心に、演者もナレーションもすべて教員が担当した。元々シミュレーション教育に力を入れており、シナリオづくりなどのノウハウがあったことが功を奏した。基礎看護学は教育内容が多いうえ、デモンストレーションを行う指導にも「本当に見てほしい点を見てくれているか」「間違った方法を覚えていないか」という点に不安がある。そのため同校では、特に見て欲しい点、学生が間違えがちな点に重点を置いて教材を作った。見知った先生が登場することから学生の興味も惹いた。

 オンデマンド教材の強みは、時間や場所にとらわれないことだ。イメージトレーニングがあらゆる場所で行えるようになっただけではなく、実習室へのスマートフォンの持ち込みも許可したことで、練習の質が向上した。自主練習やリフレクションへの教材の活用や、正しい技術と自分の技術を比較ができるようになったためだ。しかし、学習者が自分の好きなタイミングで動画を再生するオンデマンド授業には、集中できる環境で真面目に学習しているか、知識として定着できているか分かりにくいという欠点もある。出席も取りづらいことから、オンデマンドでの効果的な授業のためには適切な改善策が求められた。奥田副校長らはレポート・課題の提出や問題に解答しないと次の動画を視聴できないシステムによって、知識の定着や他事と同時並行する「ながら授業」の阻止を図ったという。

奥田副校長の実践報告を聞く会場参加者ら

 臨地実習のシミュレーションでは、リアリティを持たせるために教員が患者役や学生役を演じる動画も制作し、学生たちが患者の姿を想像しやすい内容を目指した。臨床では無意識に感じ取ってしまう患者からのプレッシャーがないためか、学生はゆっくり思考でき、自分の意見が言いやすいことから、コミュニケーションが苦手な学生もシミュレーションに参加しやすくなったという。なお、同校では上記のオンデマンド動画やオンラインでの課題・学習管理を効率的に行うため、学習管理システム(LMS)も導入したそうである。

ICTを活用した看護教育の進歩は必須

 奥田副校長は終わりに「既存の対面授業がアフターコロナにおいてもできるかはわからない。ICT教育の進歩は必須と考えている。若い教員の力も借りて、これから先もよりよい教育ができるよう努めたい」と結んだ。その後に設けた質疑応答の時間では、来場者やオンライン聴講者から「ICT活用促進は働き方改革に関して何か変化をもたらしたか」「どう評価をしているか」など多くの質問が寄せられた。「対面でしか得られない経験について、シミュレーションでどのように補っているか」という問いに対して、奥田副校長は「現場に勝るものはない。しかし、実践に近い環境に慣れることで自信を付けてもらうことはできる。教員も学生も見慣れた人ばかりなので『この場面ではこんな声掛けをしたらいいのかな』などと考えやすくなり、実際の臨地実習にもうまく入っていきやすくなる」と答えた。

協議会と共同開発のeラーニング教材

 昼休憩を挟み午後の部のスタートを切ったのは、医療・福祉・保健における教育研修業務などを担うヴェクソンインターナショナルの兼久隆史社長による講演。看護師特定行為などに関するオンラインセミナーやeラーニング教材などを提供・活用する同社は、22年度からの看護基礎教育の新カリキュラムに備え、日本看護学校協議会と共同で看護基礎教育の教材として活用できるeラーニング教材の開発を進めている。参加者らは臨床推論や病態生理学、先輩や同僚とのコミュニケーションに関する教材動画などを視聴した。

コロナ禍が看護教育や学生に与えた影響

 同会からは実施事項に関する報告がなされた。山田かおる副会長(東葛看護専門学校副校長)は、看護師等養成所に新型コロナウイルス感染症が与えた影響について把握することを目的に20年度と21年度前半の2回に分けて会員校を対象に行った調査について発表した。聞き取り項目は大別して「ICT環境の整備について」「臨地実習の実施状況及び学生に与えた影響について」など6点。いずれも興味深い結果が明らかになったが、中でも山田副会長が「教員として受け止めなければならない」と捉えるのは、制限下での学びが学生らに与えた影響だ。学生らの学習に対する不安や様々な面からの負担感、臨地実習を十分に行えなかったことによる能力の低下などにどう取り組んでいくかが今後の課題(山田副会長)となりそうだ。

 続いて、石橋佳子副会長(東京医薬専門学校副校長)が21年度の同会が行う教務主任養成講習会実施状況に関する中間報告や22年度の同講習会実施要項について、百瀬栄美子常任理事(専門学校麻生看護大学校顧問)が「同会技術・実習教育教材開発プロジェクト委員会」の中間報告についてそれぞれ発表した。

手と手を取り合ってつながり看護教育を広げていくために

 すべての講演・報告終了後は質疑や参加者からの問いかけ、感想が集まった。「看護教員のなり手がおらず、教員確保が困難」という参加者の現状に対して、水方会長は「私たち自らが看護教員になってよかったと思ったこと、プラスのことを発信する必要がある」と回答。また、関西看護専門学校が作成した独自のオンデマンド教材について「素晴らしいと思った。他の学校でも使えるよう、横展開での共有が出来ればうれしいと強く思うが、どうか」という意見が寄せられ、奥田副校長は「ご紹介できる機会があればぜひ」とコメントした。

 「ICT利用に長けた学生への教育と自分が受けてきた看護教育のギャップに非常に戸惑いを感じている」と話した参加者は、「今回の講演を受けて、新しい教育と既存の教育がそれぞれ持つ良さをうまく生かしながら今後の看護教育を考えたい」と述べ、教材をいかに使いこなすか、自らの教育力も求められていると現状を考察した。その後も講演の感想や自分たちの取り組みの紹介などが集まり、地域・学校を越えて意見や情報を交換できる貴重な場となった。
 閉会にあたっては山田副会長が挨拶。「今後の養成所の在り方を模索する1日になった。コロナ禍で学びを頑張る学生らは私たちの希望。彼らのためにも、困難な時だからこそ既存の概念から脱却し、養成所が手と手を取り合ってつながり取り組みを共有して看護教育を広げていけるよう努めたい」として、会を締めくくった。

和やかな空気ながらも活発に意見が飛び交った

 

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