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目的別評価を組み込んだオンライン授業の実際

目的別評価を組み込んだオンライン授業の実際

2023.07.24北得 美佐子、納谷 和誠、山田 修平(東京医療保健大学和歌山看護学部)

 NurSHARE ではこれまでICTを活用した代替実習やオンライン授業などの実践報告を多数配信してきました。読者のみなさまからは、様々な実践報告が大変参考になるというお声をいただく一方で、オンライン授業やICTを活用した教育の評価方法について知りたいというお声もいただきました。そこで、2020年4月からオンライン授業をいち早く導入してきた東京医療保健大学和歌山看護学部成人看護学領域の先生方に、実際に行っているオンライン授業の評価方法について寄稿いただきました。(NurSHARE編集部)

 

はじめに

 みなさまは「評価」と聞いて何を連想するでしょうか。一般的には期末試験など科目の最終的な評価を連想することが多いかと思います。しかし、私たち教員は授業を設計する上で実は様々な「評価」を行いながら教育を行っています。本稿では、本学で取り組んでいるTBL(Team-Based Learning)方式を用いた授業デザインを紹介しつつ「評価」について解説します。

「教育評価」とは

 教育に関する評価を「教育評価」と呼びます。「教育評価」には、教員が学生の成績を決めるための成績評価や学生が授業について意見を伝える授業評価など、様々な評価が含まれます。
 「教育評価」を行うためには、評価目的、評価主体、評価対象、評価基準、評価方法などの5つの構成要素に注目するとよいと言われており、診断的評価や形成的評価・総括的評価などの目的別評価、相対評価や絶対評価・個人内評価などの基準別評価、他者評価や自己評価・相互評価などの主体別評価など、様々な種類の評価が学生の学習を評価する時期によっても使い分けられています。

 次に、評価を行う際に、適切な方法は何かを選択します。そのためには様々な評価方法を理解する必要があります。筆記テストによるもの、実技テストによるもの、成果物によるもの、観察によるもの、対話によるもの、ポートフォリオ評価などです。これらの評価方法を選ぶ際にも、教育性、妥当性、信頼性、公平性、実行可能性など様々な視点が必要となります1)
 評価が学習に影響を与えることをウォッシュバック効果と呼びます。評価は使い方次第で学習を促すことにもなるし妨げることにもなる2)ため、私たち教員は評価についての基礎知識を身に着けておくことが大切です。

 本稿ではよりよい教育のために「いつ」「どのような」評価を行う必要があるのか、ということについて実際に私達が実践している目的別評価(診断的評価・形成的評価・総括的評価)の具体例を挙げながら説明します。

3つの評価のタイミング:科目ではなく、コマ単位の単元ごとの目的別評価の実際
 

診断的評価

 診断的評価とは「教授者が、実際の教授活動に先立ち、学習者の現状、実態を把握し、適切な教授活動を準備するために行われる評価活動」3)です。
 これは私達が日常の教育の中で、授業科目や講義・演習を開始する前に行う評価で、参加者の学習準備状況(レディネス)を評価するものです。
 たとえば「循環器疾患を持つ患者の看護」というコマの授業設計をするとします。「看護を伝えるためにはどのような治療が必要になるか理解する必要があるな」「治療について理解するためには病態に関する知識が必要だ」「病態について理解するためには関連臓器の構造と機能について知る必要がある」と、一つのコマの中で学生の習得すべき知識は多岐に渡ります。しかし、看護の授業を展開する中で関連知識を毎回レクチャーするわけにはいきません。
 こんな時にカリキュラム全体を見直して既修単位を確認することが診断的評価の一つにあたります。その時に対象年次の成績なども加味できるとよいです。「心疾患に関わる病態生理を含む科目は履修済みだけど、全体的に成績が悪いな」と気づくことができれば、自身の授業設計に病態生理の復習を組み込んだり、事前学習課題を課したりといった対応が可能になります。

形成的評価

 形成的評価とは「教授者が授業の過程を通して、学習者の学習状況を把握し、その結果に基づき、教授活動の軌道を修正したり、確認したりするために行われる評価活動」3)を指し、ある教育単位、授業科目の進行途中で行われます。
 形成的評価を行うことにより、「その時点での達成状況」や「教育および学習上の問題点」などを明らかにし、学習者へとフィードバックすることができます。その結果、学習者は間違って理解している点や理解が不十分な点に気づき補うことができ、教員は講義内容を見直し、軌道修正することができます。
 安藤4)の報告でも、授業過程で行われる形成的評価を形成的アセスメントとして定義し、学習者にも効果があることを報告しています。この報告では、授業時間内で必要に応じて随時行われるアセスメントとしての形成的評価は、学習者の評価への意識を高めることが示唆されています。

総括的評価

 総括的評価は「学校教育において単元終了時、学期末、学年末など人、目的、目標の達成度を総括的に明らかにしようとする評価活動」3)を示し、学生個々人の達成状況を評価するものですが、別の活用の仕方として、学生全体の平均点を算出して年度ごとに推移を把握し、カリキュラム評価に用いることもあります5)

 ここからは、筆者が所属する東京医療保健大学和歌山看護学部の急性期看護援助論(2年次前期)の1コマに焦点をあて、実践例をご紹介します。

急性期看護援助論における目的別評価の実践例

 急性期看護援助論は、2年次前期に開講される2単位30時間の必修科目です。対象の学習者は、1年次に解剖生理学を修了しています。しかし、疾病治療については1年次後期に総論を修了したのみであり、各論は2年前期から急性期看護援助論と並行して開始されていました。
 よって、看護を行う上で重要となる対象の状態を捉えるための「疾病治療に関する知識」は不足している状態でした。その中で担当した、「第6回講義:脳神経系疾患患者の看護」の実践例をご紹介します。
 なお、本科目においては、「事前学習動画+講義=1コマの講義内容」という形式になっているため、目的別評価の時間軸は以下のようになっています。


目的別評価の時間軸
 

1.診断的評価に基づいた事前学習の設定

 前述したように、急性期看護援助論と並行して疾病治療論が開講されています。さらに、「第6回講義:脳神経系疾患患者の看護」受講までに、脳神経系の疾病治療の講義は受講しておらず、脳神経系疾患に関する知識はない状態でした。
 そこで、学習目標に到達するために、講義開始時に到達しておくべき知識レベル(事前学習の到達目標)を以下のように設定しました。

 そして、目標1は1年次の解剖生理学の講義の復習を事前学習とし、目標2の疾病と症状に関する知識については、教員が作成した事前学習動画の視聴を事前学習としました。

教員が作成した事前学習動画

 

2.形成的評価に基づいた講義の進行

1)    講義開始時の形成的評価

 講義開始前に5分間の確認テストを行い、事前学習による知識の定着度を確認します。形成的評価による評価の結果は、原則的には成績評価に用いないことになっていますが、本科目では事前学習に取り組むための外的動機づけとして、成績評価に加点しています。

【確認テストの方法】
(1) テストは事前学習動画の内容から出題します。
(2) 本学のLMS(Learning Management System)であるWebClassのテスト機能を使ってテストを実施します。


(3) テストの結果はリアルタイムで見ることができるため、設問毎の正答率や解答の詳細を確認します。

(4) 正答率だけではなく、解答の詳細も確認することで「学習者が間違えて理解している点」や「理解が不十分な点」を把握し、講義の進行に反映させます。
 

2)    講義進行中の形成的評価

 本学では、学習者の主体的な学びを引き出し、これを支え促進することを目的にインタラクティブ・ティーチング(学習者相互および学習者-教授者間での双方向のコミュニケーション)を積極的に取り入れています。本科目においても積極的に取り入れており、それらの一つ一つが形成的評価の機会となっています。

【実践例】
(1) 講義開始前の確認テストによる形成的評価の結果に基づき、「学習者が間違えて理解している点」や「理解が不十分な点」を修正・補強できるように講義を展開していきます。
(2) 講義中は、インタラクションツールのslido®を活用し、学習者が自由に質問を書き込んだり、教授者からの質問に回答したりします。

講義中の学生からの質問
 
教員からの問に対する学生の回答
 

(3) 学習者の反応を基に理解度を確認し、講義の進行を修正していきます。また、slido®上には無記名で全ての学習者の反応が表示されるため、「間違えて理解している部分、理解が不十分な部分」を学習者自身が気づく機会にもなります。

3.講義受講後の総括的評価

 本学の成人看護学領域で採用している総括的評価は、単元ごとではIdeas Connection Extensions-Rubric(ICE-R)評価表を用いたポートフォリオ評価を活用しています。 Ideas、Connection、Extensionsには、それぞれ「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」に関する目標を設定し、講義終了後に学習者が自己評価を行います。ICE-R評価表に入力された評価は、教授者間にも共有されるため、学習者個々人の到達度や学年全体の到達度を確認し、総括的評価に活用することができます。

急性期看護援助論のICE-R評価表
 

 また、評価表内に自由コメントの記載欄が設けられており、学習者自身が感じた自己の課題や講義の中で解決されなかった疑問、講義の感想などが記載できます。講義の内容や進行などについてのコメント・感想などは、次回以降の講義の進行に反映させます。とくに、「講義の中で解決されなかった疑問」については、次回講義までに解決できるように、補足動画(以下の事後学習動画例を参照)や補足資料などを追加で配信しています。講義内での疑問を解決することは、次回講義以降の学習の準備状況を整えることに繋がると考えています。

事後学習動画の例
  

 それに加え、科目全体では筆記テストや成果物などを総合して評価しています。これらの成績評価の方法については、科目開講時の1回目の授業で授業予定一覧とともに学生に示し、計画的に学習に取り組めるようにすることで、教育性や公平性を保つようにしています。  

急性期看護援助論の講義スケジュール(一部抜粋して掲載)

 

オンライン授業の効果と課題

 以上、東京医療保健大学和歌山看護学部の急性期看護学領域の授業デザインをもとに評価の仕組みについて説明しましたが、いかがでしたか? コロナ禍によって教育のICT活用が加速しオンライン授業が普及しましたが、オンラインを使った授業を行うために、学生達は必然的にコンピューターを使用する機会が増加しました。
 ジョン・ハッティ氏がまとめた書籍6)では、ウェブによって配信される就学前から高校までを対象とした遠隔プログラムの効果に関するメタ分析の研究結果が紹介されています(Cavanaugh、2001)7)。この研究では、遠隔教育と伝統的な対面授業との効果は同程度(d=0.15)であり、学習内容や学年段階、学校種別、遠隔授業が行われる回数、学修進度、授業時間、教師の遠隔授業実践経験、学習者の状況といった変数による効果の違いも見られなかった。そして、遠隔通信を用いた学習であっても、教室の学習であっても、学習者は同じくらいのレベルに到達できると結論づけています。すなわち、授業デザインや適切な時期・方法による評価を行うことによって、オンライン授業でも十分な教育効果が得られるということです。
 実際、本学でもコロナ禍以降はオンライン授業が増えましたが、従来と同レベルの試験を行っても成績は低下していません。すなわち、東京医療保健大学和歌山看護学部の急性期看護学では、効果的なオンライン授業ができたということです。ただ、コンピューターの長時間の使用による様々な身体症状の報告8)もありますので、オンライン授業を進めていくうえでの身体面への影響も検討していくことが課題であると考えます。 

●引用文献
1)中井俊樹,服部律子:≪看護教育実践シリーズ≫2 授業設計と授業評価,p.73-76,医学書院,2020
2)上掲書,p.68
4)安藤輝次:形成的アセスメントの実際~中学社会科・高校地歴科を例にして~.奈良教育大学教育実践開発研究センター研究紀要 21:55,2012
5)野崎真奈美,水戸優子,渡辺かづみ:計画・実施・評価を循環させる授業設計 看護教育における講義・演習・実習のつくり方,p.124,医学書院,2016
3)舟島なをみ:看護学教育における授業展開,第2版,p.51-52,医学書院,2020
6)ジョン・ハッティ著,山森光陽監訳:教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化,p.247,図書文化,2021
7)Cavanaugh CS: The effectiveness of interactive distance education technologies in K-12 learning: A meta-analysis. International journal of Educational Telecommunications 7(1): 73-88, 2001
8)北得美佐子, 前田由紀,畑下博世:COVID-19の影響下による看護学部生のリモート講義3か月目の実態調査.日本看護学教育学会誌 31(3):71-79,2022
 
本寄稿へのご意見・ご感想等はこちらよりお寄せください。 

北得 美佐子、納谷 和誠、山田 修平

東京医療保健大学和歌山看護学部

きたえ・みさこ(東京医療保健大学和歌山看護学部 教授)/なや・かずあき(同 講師)/やまだ・しゅうへい(同 助教)

フリーイラスト

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