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エピソード7 ARを用いたオンライン解剖生理学演習(後編)―「Holoeyes Edu」を本格的に活用するには

エピソード7 ARを用いたオンライン解剖生理学演習(後編)―「Holoeyes Edu」を本格的に活用するには

2022.04.22本間 典子(国立看護大学校 教授)

「Holoeyes Edu」のこれまでとこれから

 前編で紹介したARアプリ「Holoeyes Edu」はお試しいただけたであろうか。このアプリの魅力は、2020年冬に発売されて以来、現場のニーズに合わせて次々と進化を遂げていることである。たとえば、発売当初にあった「ARマーカーが失われると立体視できない」問題に対しては、数ヵ月でマーカーレスの観察モードが開発され、「学生どうしの画面共有のしにくさ」に対しては、タブレットでの使用が可能となり解決された。また、学生が事前学習やオンデマンド学習ができるよう、教員が録画したオリジナル3次元記録解説教材(以下,解説教材)を提供できる動画モードも加わり、さらに、有料ではあるが、各学校で講義や目的に合わせてオリジナルの教材を作成することもできるようになった。
 そしていよいよ2022年には、スマートフォンやタブレットの枠をこえて、ワイヤレスVRゴーグル「Meta Quest2」(Meta社、旧Oculus Quest 2、図1)でも使用できる「Holoeyes Edu」がリリースされる。これは「メタバース」(同じ物理的空間にいない人々が共に創造し、探求することのできる仮想空間)での教育展開を期待させるものである。

図1 ワイヤレスVRゴーグル「Meta Quest2」(Meta社)

 さて、「『Holoeyes Edu』を本格的に活用するには」と題する後編では、まず、「オリジナル解説教材の作成」「オリジナルモデル作成」について紹介し、最後に未来について自由に語ろうと思う。

 

活用例1 事前学習・講義用オリジナル解説教材を作成する

 「Holoeyes Edu」は、基本的には正常人体の立体モデルがあるのみで、それぞれの臓器等の名称はあえて書かれていない。その理由は、そもそも実際にケアをする人体には、部位の名称など記されておらず、名称がないほうが、初学者の観察能力が上がる(「これは何だろう」と形や特徴をよく見る)からである。しかし、実践において、ただ「観察しなさい」では何をどう見ていいのか、路頭に迷う学生も多い。そこで事前学習用に、教員が使いたいモデルを使って3次元記録を行い、解説教材を作成することをお勧めしたい。3次元記録とは、解説者の指し示す手の動きや、VR空間での線の描画、解説の音声を記録することである。ユーザーは、後から好きな角度から解説教材を再生でき、あたかも解説者が目の前にいるかのような感覚で解説を体験できる。
 なお実際の動画の撮影には、初期投資として、前述のVRゴーグル「Meta Quest2」が1台と、録画機能を担う「Holoeyes XR」というソフトのインストールが必要である。逆にそれらさえあれば、教員は①目的の人体モデルデータを「Meta Quest2」へダウンロードし、②そのモデルを用いた解説録画データ「Holoeyes Edu」へ搭載する,という2点のみ行うことによって、解説教材を手軽に学生たちのスマホに搭載することができるのである。
 録画中にできることは、説明箇所の指差しはもちろんのこと、文字や線の書き/消し(図2a)、モデルのパーツの非表示/再表示(図2b)、人体モデルの拡大/縮小や、あるスライス面でのモデル切断(図2c)、など多様であり、伝えたいことを効果的に表現することが可能である。

図2 オリジナル動画撮影中にできること(例)
a.書き/消し、b.パーツの非表示/再表示、c.拡大/縮小・モデル切断
 

オリジナル解説教材の課題 

 しかし、オリジナル解説教材にも課題がある。たとえば、①解説教材をスマートフォンで録画者の視点で見ると、画像は録画者の動きとともにゆれること、また②操作パネルが画面上では見えていないゆえに、パネルを操作する録画者の指や目の動きが不可解に映ること、さらに③録画機能を担うアプリ「Holoeyes XR」の初期インストールや管理に手間がかかることなどである。
 3点目に関しては、本アプリは元々臨床での少人数による活用を前提としたものであり、その場合には有線であってもパソコンからインストールすべきVRゴーグルの数が多くはないためとくに問題とならないが、教育現場で学生用の数十台にインストールし設定する場合にはかなりの手間となる。なお、2022年度に提供される予定のバージョンでは、ワイヤレスでのインストールが可能となり、録音機能もついているとのことなので大いに期待したい。

 

活用例2 オリジナル静止モデルをアプリに加える

 続いての例は、オリジナルモデルを作成し、アプリに加えていく活用法である。オリジナルモデルでは、使う臓器の種類や大きさ、色や透明度まで自由に設定することが可能である。また、Unityというゲーム開発ソフトで作成できることから、教員に限らず学生たちでも、目的意識をもった人体の構造と機能の教材を作成可能であることが魅力である。実際に、本学の卒業研究で学生が作成した例が、現在「Holoeyes Edu」のサンプル教材の中に入っている。静止モデル(人体/基礎解剖)の3つのモデル(injection01〜03、図3)である。これらのモデルは、看護基礎教育において、静脈内注射法の特徴に応じた安全な部位や角度・長さの根拠の理解の必要性を感じた4年生が、1年生むけに開発研究したものであり、「Holoeyes Edu」のアクティブラーニングへの応用を示唆するものである。 具体的な作成方法や課題についての詳細は、項末の参考文献にまとめているので1)、興味のある方はぜひ参照していただきたい。

図3 学生が作成した3つのオリジナル「人体/基礎解剖」静止モデル
 

Holoeyes Eduの未来を展望する―デジタルミュージアムパークの創設

 「Holoeyes Edu」の進化は柔軟で速い。しかも、その進化を瞬時に学生たちの手元に届けられる。このアプリを今後どう進化させていくかは、ユーザーでありクリエーターでもある私たちによるところが大きい。別の言い方をすると、「Holoeyes Edu」は「タネ」であり、ユーザーが「どう育てるか」を楽しむ余地がたくさん残されている。私の望む未来は、ユーザーが協力しあってコンテンツを作り、成長し続けるデジタルミュージアムパークのような場所が創設されることである。「ライブラリー」ではなく「ミュージアム」なのは、「Holoeyes Edu」のコンテンツが「文字」ではなく「形」の情報を強みとするからであり、また、「パーク」としたのは、人体を観察し学ぶ楽しさを、医療従事者だけでなく、人体に興味をもつすべての人に知ってほしいと願っているからである。参加者は、見たいミュージアムを選び、コンテンツの解説教材を音声ガイドとして個人で楽しんでもよいし、「展覧会」のようにメタバースの空間にモデルを複数置いて、複数人で鑑賞するのも素晴らしいと思う。
 「看護」ミュージアムに「あったらいいな」と思うコンテンツは枚挙にいとまがないが、ぜひリクエストしたいのは、本物の医療画像データを有するHoloeyes社の強みを生かした「3D疾病病態学習コンテンツ」「術式理解を深めるコンテンツ」である。そして自分も、「VR/ARを用いた日常的な治療がヘルスケアトレンドとなっていくだろう」未来にむけて2)、できることなら、「Holoeyes Edu」が「あってもいい」ものから「なくては困る」魅力的なものになるように、教育現場での活用に挑戦し続けたいと思っている。

引用文献
1) 本間典子ほか:拡張現実(AR)技術を用いた,人体構造の理解を深めるための三次元教材の開発とその有効性.東京学芸大学紀要, 自然科学系(73):239-254,2021
2) Healthcare Information and Management Systems Society(HIMSS):2019 Healthcare Trends Forecast:The Beginning of a Consumer-Driven Reformation.2019,https://www.himss.org/sites/hde/files/d7/u397813/2019_HIMSSPreviewandPredictions.pdf,アクセス日:2022年2月12日

本間 典子

国立看護大学校 教授

ほんま・のりこ/国立看護大学 生命科学教授。東京大学薬学部薬学科卒業、同大学院薬学系研究科修士課程修了(薬学修士)、同大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。専門は細胞生物学・解剖学。東京大学医学部助教・講師として細胞生物学研究と解剖学教育に携わった後、2017年より現所属准教授、2020年より現職。2021年より同大学図書館長併任。主に人体の構造と機能、薬理学の教育に携わり、XR技術を用いた教育研究を行なっている。

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