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エピソード5 ゲームを通して母性看護を身近に(前編)― How to周産期ロールプレイングゲーム

エピソード5 ゲームを通して母性看護を身近に(前編)― How to周産期ロールプレイングゲーム

2022.02.25鈴木 紀子(順天堂大学医療看護学部 准教授)

周産期の実際的な流れを理解させるにはどうすればよいか

 看護を学ぶ学生にとって、母性看護は「興味はある」が「よくわからない」領域のようだ。少子化、核家族の多い日本では、妊婦や新生児に接することがないまま看護を学び始める学生が多い。そのため、妊娠から出産、育児までのイメージがないまま、母性看護学の学習が始まる。通常の看護系大学では、3年次もしくは4年次に母性看護学実習で臨床の学習がある。看護学生はそこで初めて妊産婦や新生児とかかわるわけだが、それまでにいかに学生に実際をイメージさせながら、周産期の一連の流れを理解させるか? 母性看護学領域の教員の大きな課題である。

「ゲーム」で学生の関心を引き寄せる

 本校ではこの課題を解決すべく、周産期のロールププレイングゲーム(RPG)を作成した。RPGは皆様ご存じだろうか? 東京オリンピックの開会式でテーマ曲が流れた「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」など、一般的に主人公が敵を倒しながら話が進んでいくゲームのことをいう。主人公は場面ごとに、よい結果となる選択肢を選びながら話を進め、ハッピーエンドを目指す。選択を間違えるとダメージを受けることもある。看護学生たちはゲームには慣れた世代である。スマホゲームは誰でも1度はやったことがあるだろう。このゲームというツールで、主人公の女性が妊娠し、出産、退院するまでをゴールとしたRPGの作成を試みたのである。これらの写真は周産期RPGの画面である。

 さらに詳しくゲームの様子を知りたい方のために、記事の最後に「体験版」RPGを用意した。ぜひ実際にゲームを行ってみてほしい。

 

ゲーム作成にかかった費用―アバターは無料のイラストでもOK

 ゲームの作成はお金もかかりとても大変なのでは? と思った方も多いのではないだろうか。まずは今回作成にかかった費用をみてほしい。

表 周産期RPGにかかった費用
項 目 費 用
①ティラノスクリプト(ノベルゲーム作成のための無料ツール)  0円
②ティラノスクリプトの解説本(TYRANOSCRIPTではじめるノベルゲーム制作―フリーで使える「アドベンチャー・ゲーム」制作ツール 、I・O BOOKS)  本体2,300円(2021年12月30日現在)
③アバターの作成(妊婦、夫、産科医、助産師、新生児の5種類。個人のクリエーターに依頼)  約52,000円
④背景(無料サイトからダウンロード)  0円 

 いちばん費用がかかったのは、アバター作成費であった(図1)。同じキャラクターが「笑う」「悩む」など違う表情にさせること、また「右向き」「左向き」など顔の向きを変えるために、業者に依頼した。また妊娠後期になって腹部が増大した妊婦になるなど、時間の変化がわかるように意識して作成してもらった。自分たちがイメージする無料のイラストがあれば、それを使用してもよいと思う。

図 作成した5種類のアバター(妊婦、夫、産科医、助産師、新生児)
 

具体的な作成手順―4つのSTEP

 では、具体的な作成手順に進む。

STEP1    ストーリーの流れを決め、妊娠から産褥までの各時期に必要な知識に関する問題を作成。領域内のメンバーで内容の整合性を確認。
 

STEP2    作成した問題に合わせて、シナリオを検討。シーン別の狙いにそったシナリオの作成。同時にアバター、背景は何を使用するか決定。
 

STEP3    作成したシナリオをもとに、プログラミングの実施。
 

STEP4    完成したRPGの動作・内容の確認。

■STEP1 ストーリーの流れを決め、必要な知識に関する問題を作成する

 STEP1は、難しくはない。母性看護学で必要となる知識について、各期で問題を作成すればよい。

■STEP2 シナリオを作成し、アバター・背景を決定する

 大事なことは、STEP2のシナリオ作成の場面で、主人公の立場になってストーリーを進めるようにすることである。たとえば、つわり時の食事に関する問題を作成したとする。このシーンでは、自宅にいる主人公の妊婦が、つわりがあるからあまり食欲がなく、赤ちゃんへの栄養が足りているのか不安だ、どうしたらいいんだろう? という場面を作る。そこに選択肢として「無理をしてでも3食きちんと食べて栄養を摂る」「食べたいときに食べられるものを食べるようにする」「病院に行って薬をもらう」の3つがでてきて、主人公としてどうするか選択する、という感じである。

 正解は「食べたいときに食べられるものを食べるようにする」であり、この選択肢を選ぶと、少しずつ食事をとることができ、つわりもいずれ軽減していくという流れになるようにする。仮に「無理をしてでも3食きちんと食べて栄養を摂る」を選択すると、無理に食事をして吐いてしまい、つらいという場面につながる。そして再度残りの選択肢である「食べたいときに食べられるものを食べるようにする」「病院に行って薬をもらう」が画面に出てくる。

 学生は、自分の選択が間違っていたことに気づく。間違った選択をしても、最終的には正常な経過に戻ってこられるようにシナリオを作成していくのである。

■STEP3 プログラミングを実施する

 STEP3のプログラミングに関しては、本を読みながら作成すればできる*。シナリオに沿って、どの場面でキャラクターが右からでて、セリフがこれで、場面が切り替わって、選択肢が出る、などをプログラムしていく作業である。ある程度まとまった作業時間が必要となる。

*筆者は無料のゲーム開発ツール「ティラノスクリプト」を利用している。市販のガイドブックもいくつかあり、筆者も1冊購入して周産期RPGを作成した。
■STEP4 RPGの動作・内容の確認

 STEP4では完成した周産期RPGを最初から最後まで動かし、動作確認と一連の内容の整合性を確認する。

作成にかかった期間

 ここまでの作業はSTEP1で1ヵ月、STEP2で1ヵ月、STEP3・4で2ヵ月程度かかった。初めてのプログラミングではあったが、本を参考に作成していくことが可能であった。どの程度の問題を盛り込むかで、ストーリーの長さが変わり、作業時間も前後する。今回は周産期のRPGであったが、どの領域、内容でも作成できると考える。学生の学習意欲を高め、イメージ化を図るための1つのツールとして、RPGも選択肢に入れてはいかがだろうか。
 次回・後編では、周産期RPGを実際どのように運用しているかについて報告したい。

体験版について

 実際の周産期RPGの体験版を下記よりプレイしていただける。導入部分から、妊娠期のストーリーの一部分を体験できる仕様となっている。実際に画面がどのように進み、どのように操作するのか―ゲームを行ってみていただくことで、少しでもイメージをもっていただくことができればと願っている。
 (※ログインユーザーのみ体験版を閲覧・実施することができます)


 

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鈴木 紀子

順天堂大学医療看護学部 准教授

すずき・のりこ/北里大学看護学部卒業、北里大学大学院看護学研究科修士課程、博士課程修了。博士(看護学)。臨床経験後、藤田保健衛生大学医療科学部看護学科(現藤田医科大学保健衛生学部看護学科)で教育者としての楽しさとやりがいを感じ、現在、順天堂大学医療看護学部 母性看護学・助産学の教員として教育に携わっている。好きな言葉「しあわせはいつもじぶんのこころがきめる(相田みつを)」

企画連載

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デジタルネイティブ世代が高等教育へと進学し、コロナ禍による学習形態の変更も受けて、いま看護教育においてもデジタルテクノロジーを活用した教育のイノベーション―“EdTech”が求められています。 本連載では「共に知をひろげる」を合言葉に、皆さんとともに「EdTech×看護教育」に関する情報交換や悩みの解決の場となるコミュニティづくりを目指します。一緒に新しい教育に挑戦してみましょう! まずシーズン1では、ICT利用による看護教育の将来像をイメージしていただくために、「看護教育の未来がみえる」と題し、先進的な取り組みを行う方々や施設を紹介します。(本連載プランナー/野崎 真奈美)

フリーイラスト

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