はじめに
筆者が所属する関西看護専門学校では、1年次に母性看護学概論、2年次に母性看護学各論の講義を実施し、3年次に領域実習を行っている。
本校の母性看護学実習では、妊産褥婦・新生児の特性をふまえ、知識の習得と対象のアセスメントに重きを置いている。母性看護学実習は展開が早く、それまでの問題思考型ではなく、ウェルネスの考え方でアセスメントを行う必要があるため、イメージがつきにくく学生は苦手意識が強い。臨地実習で褥婦や新生児を受け持ち、実際の看護やアセスメントを経験することで、知識と統合させ理解が深まるのである。
しかし、コロナ禍においては臨地実習に行く機会が減少し、学内実習やオンライン実習の実施を余儀なくされた。そのため、実習目標の到達に向けて、学内実習やオンライン実習の代替案を設計する必要があった。
今回は、臨地実習での経験に近づけるため、視覚教材を用いて設計したオンライン実習についてご紹介する。
実習目標について
本校の母性看護学領域にて定めている実習目標は、以下の通りである。
妊娠・分娩・産褥・新生児の生理的変化と経過を理解でき、対象と家族への保健指導の実際がわかる
(1)妊娠中の母体の変化と胎児の成長がわかる
(2)妊娠期のおける看護者の役割がわかる
(3)分娩各期の援助の必要性と実際がわかる
(4)復古現象を促進するための援助の方法がわかる
(5)乳汁分泌を促進し、母乳栄養を確立させるための援助の方法がわかる
(6)産褥の生活の再構築への援助の必要性がわかる
(7)母親役割獲得にむけての援助の必要性がわかる
(8)新生児の生理的特徴と必要な援助がわかる
オンライン実習の実施内容
今回のオンライン実習では、実習グループ分けに沿って2グループ11名の学生を教員2人で受け持った。オンライン実習のスケジュールについては、図1を参照されたい。なお、この実習スケジュール表は「教材シェア」からも詳細にご覧頂ける。
本校で導入している学習管理システム(LMS)の「LearningBOX」およびWeb会議ツール「Zoom」を駆使し、実習の目標や日々の目標・行動計画に関しては、時間内にLMS上にアップロードする形で提出させるようにして、学生の準備状況を確認した。
1~2日目:妊娠期の学習
妊娠期について、臨地実習では助産師外来の見学や妊婦健康診査の見学から学んでいる。オンラインでの学びにあたって、1日目には妊娠中の母体の変化と胎児の成長については、テキストやインターネットなどを用いて調べ学習を行った。また、妊婦の体験談のブログなどを読んでもらうことで、実際の妊婦の姿をイメージし、心理的変化への理解を深められるよう設定した。
実習2日目には、模擬妊婦(ペーパーペイシェント)の妊娠経過から妊婦の状態をアセスメントし、必要な保健指導を考える授業を設計した。
3日目:分娩期の学習
分娩の様子を撮影した、動画配信サービス「YouTube」上の動画を視聴し、分娩のイメージ化を図った。また、妊娠期の模擬妊婦が入院した場面を仮定し、分娩の経過をアセスメントさせた。模擬妊婦のアセスメントの際は、実際のパルトグラムや胎児心拍数陣痛図を用い、より臨床での学びに近づけるよう工夫した。
4~7日目:産褥期の学習
臨地実習では、学生1人につき1人の褥婦を受け持ち、情報収集、退行性や進行性変化の観察、授乳の場面の見学などを行っている。
オンライン実習では、臨地実習と同様に、学生が主体的に情報を選び取ることを目的として、妊娠経過表、パルトグラム、分娩記録、褥婦・新生児の経過表などのカルテを作成した。教員が褥婦役となり、Zoomを使用して、学生と模擬褥婦間の双方向で映像をまじえてコミュニケーションすることで情報収集する場面を設定した。これは実習でカルテから情報を収集しているように、オンライン実習でも学生がカルテをみて、自分たちで情報を選ぶとることを目的としている。コミュニケーション時間は、1人当たり10分程度に抑えるようあらかじめ伝え、褥婦の身体的負担を考慮してコミュニケーションを図るよう指導した。
保健指導についても、臨地実習では褥婦が保健指導を受けている場を見学しているが、オンライン実習では教員が助産師役・褥婦役となって保健指導の実際のようすを模した視聴覚教材を作成し、実習中で視聴した。また、学生に保健指導の実施を計画してもらい、Zoomで作成したパンフレットを共有しながら、その内容をもとに学生自ら保健指導のシミュレーションをすることもあった。
8~9日目:新生児期の学習
教員と学生が同時にZoomミーティングでつながり、オンラインでシミュレーター(新生児バイタルサインモデル)を使用して観察を行った。教員が学生役となって、学生にZoom上で指示をしてもらい、学生の観察したい項目・方法で観察を行い情報収集した。一人の教員が学生からどのように観察するのかを聞きながら指示に合わせて観察を進め、もう一人の教員が観察したシミュレーターの情報を写真に撮影し、リアルタイムでZoom上に共有して提示していった。学生の指示を聞くにあたっては、「なぜその観察が必要だと考えたのか」など、根拠を確認しながら進めた。一人の教員だけでは困難な方法であったと言える。
シミュレーターだけでは観察できるものに限界があるため、便の変化や皮膚の変化など生理的な変化の理解については、実際の胎便の写真や、皮膚の黄染、落屑などの写真を用いて理解を深めた。原始反射についてはその様子を撮影した動画の視聴を行った。
オンライン実習授業設計時に意識したポイント
臨地実習では指導者にアセスメントの報告を行っている。オンライン実習でも同様に、教員が指導者役となって学生全員の報告を聞き、その内容に対して発問することで、アセスメント力の強化を行った。
また臨地実習ではそれぞれ学生によって受け持ち対象の褥婦・新生児が異なる中でもグループの力が発揮できるが、オンライン実習では対象について一人で考えることが多く、学生の思考に広がりが得られにくい。そこで、Zoom上でのディスカッションや各グループ間の意見交換を行う機会を増やすことでグループダイナミクスを活用し、個人の思考を深められるようにした。他の人の意見を聞くことで、思考が広がりアセスメントを深めることができた。
オンライン実習を振り返って
今回は、臨地実習での学びに近づけるため、視聴覚教材を用いオンライン実習を行った。しかし、子宮底の触知や乳房の観察など、実際に触れないとイメージできないものや沐浴などの技術については限界があると思われた。
また、臨地実習では、状況を設定する必要がない。しかし、学内実習やオンライン実習では、場の設定をしなくてはいけない。学生がどのような反応を示すか分からない中、その時その場で対応していく必要があると感じた。
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