看護教育のための情報サイト NurSHARE つながる・はじまる・ひろがる

  • トップ
  • 記事・コラム
  • 投稿
  • 第4回:統合分野(看護の統合と実践)の実践報告 ―シミュレーションやロールプレイなどを活用した学内実習
第4回:統合分野(看護の統合と実践)の実践報告 ―シミュレーションやロールプレイなどを活用した学内実習

第4回:統合分野(看護の統合と実践)の実践報告 ―シミュレーションやロールプレイなどを活用した学内実習

2023.09.20百々 直子(社会福祉法人枚方療育園 関西看護専門学校 教務副主任)

はじめに

 統合実習の目的は、臨床実務に即したチーム医療、看護管理、医療の安全を踏まえ、統合した看護実践のための基礎的能力を養うことである。本校では、「最終的な職業人としての自己の課題」や「理想の看護師像」など、自己の看護観を育む視点を含む下記の目標を定めて統合実習を構築している。

≪実習目標≫
(1)複数の受け持ち利用者の状態を把握し、優先順位を考えて行動できる
(2)看護チームのメンバー及びリーダーの役割を理解する
(3)病棟の看護管理の実際を知る
(4)夜間における看護師の役割を理解する
(5)医療チームの一員としての看護師の役割を理解する
(6)専門職者として責任をもって実践できる

 代替実習として行った12日間の学内実習は、連続性を意識した内容とした。12日間の学内実習計画を表1に示す。学生は複数患者を受け持つと同時に、突発事象に対応しながら優先順位と時間配分を考え、その状況に応じた看護を実践していく。そして、その後の振り返りをする中で学習を深めている。また、リーダー、メンバーの役割、病棟管理者の役割や夜間の看護師の役割を理解することによって、組織の中の一員としての協働やマネジメント能力の重要性を学ぶ内容としている。

表1 統合領域の学内実習進度表

代替実習の実施内容

 今回の代替実習では、①主にシミュレーション演習、②看護実践の場面をイメージしやすくするためのプレゼンテーション学習、③多職種連携を模擬的に体験するロールプレイなどと合同カンファレンスを通して学ぶこととした。ここからは、授業の設計やそれぞれの場面で活用した教材の詳細について述べる。

突発事象に対応するためのシミュレーション演習

 シミュレーション演習は、①複数患者のバイタルサインを測定する場面、②ある患者の対応中に急遽別の患者へ優先順位の高い援助を行う必要性が生じた場面、③夜間勤務の看護師が患者への対応を求められる場面、④患者のアナフィラキシー対応を行う場面を取り上げた。図1はアナフィラキシー対応についてのシミュレーションを行った際の板書である。学生は実習グループ(5~6名)でシミュレーションを実施し、その後に各チームでデブリーフィングを実施して自分たちの行動や言動を振り返る。

図1 デブリーフィングをしながら学生がメモを取った板書

 シミュレーション演習のねらいは、突発事象をどのように解釈・判断し、行動できるか、報告のタイミング・内容をSBAR(状況・背景・評価・提案の頭文字をとったコミュニケーション技法。通称エスバー)を踏まえて行えるか、応援要請ができるか、チームを意識できるかといった実践的な力を、シミュレーションやその後のデブリーフィングにより、学生がチームとして深めていくことである。

視野を広げるプレゼンテーション学習

 課題について考え、まとめた内容を各自発表するプレゼンテーションも代替実習の中に取り入れた。
プレゼンテーションの内容としては、①病棟業務における1日のタイムスケジュールを考えてみよう、②チームリーダーやメンバーの役割を考えよう、勤務表を作ってみよう、③管理者の立場になって病棟を作ろう、という3つのテーマで行った。
 実施にあたっては、それぞれのテーマに対してねらいを設けている。テーマ①のねらいは、代替実習だと1日の中の「一場面」を切り取った形の実習になりがちなため、患者の1日の生活をイメージすることによって、業務に取り組む時間がズレ込むと患者の生活にどのような影響があるのかを可視化することである。テーマ②のねらいは、勤務表の作成を通して看護体制や勤務体制、スタッフ配置など、全体のバランスを考えることによって、視野を広げることである。また、管理能力やリスクマネジメント、調整力などが管理者に求められることを知り、自分が組織の中の一員であることを意識することも期待している。図2、図3は、テーマ②の内容について学生が発表した板書である。 

図2 リーダー・メンバーの役割について学生が考え、発表した板書
図3 学生が作成した勤務表

多職種連携をロールプレイや合同カンファで体験する

 ロールプレイでは、事例患者の退院指導に向けた多職種連携の場面において、学生それぞれが他の職種になりきりロールプレイすることによって、各々の職種の専門性を理解し尊重することや折り合いをつけることなどを体感することがねらいである。また、他校理学療法学科の学生にも参加してもらい、異なる職種間での合同カンファレンスも行っている。これは、ロールプレイ体験からの学びの強化につながることをねらいとしている。

図4 多職種連携ロールプレイを通して得られたことを学生がまとめた板書

実践報告:病棟を作ろう

 テーマ③のねらいは、学生自身が実習要綱の学習内容をふまえチームで自分たちが理想とする病棟運営を考えることである。
 本課題では、自分たちの理想の病棟運営が現実的に可能なのか、人や物・お金、情報の管理の制約の中で調整をつけ、創造力が発揮できるように工夫活用した。また、理想と現実の乖離の意味を考えるだけでなく、学生自身が管理にまつわるさまざまな要素を「意識できる」ことにポイントを置いた。そのために、学生自身が作成した理想の病棟についてプレゼンテーションしてもらうことで、自分たちが医療チームの一員であることや安全管理、看護管理が意識できるように留意した。
 学生は興味関心を持ち取り組んでいたが、チームの中の一員を意識した視点を波及させることが、統合実習の中核となるねらいを押さえる上で有効であった。 

 図5 学生が作成した病棟の間取り

実践報告:合同カンファレンス

 合同カンファレンスについては、本校の設置母体施設である重症心身障害児・者施設に実習に来ている大阪保健医療大学保健医療学部リハビリテーション学部の学生1名(事前調整済)に、本校に来てもらい、30分間の合同カンファレンスを行った。理学療法学科の学生は1名の参加であるため、教員が司会をすることによって、環境作りに配慮した。 
カンファレンスのテーマは「①重症心身障害児・者とのコミュニケーション」「②重症心身障害児・者とのかかわりについて」である。両者ともがイメージできる、共通したカンファレンステーマとした。
 進め方としては、緊張をほぐすため最初に学生たちに自己紹介と学校紹介や学校での過ごし方について1分話をしてから、本題に入ってもらった。他校の学生がカンファレンスに入りやすいよう、司会は教員が行った。最後の「まとめ」の10分は席を離れ、学生だけで自由に学びの共有が図れるように調整した。
 発言の一言一言から、お互いの職種の違いによる視点がうかがえるので、その時は「なぜそう発言したのか」「なぜそう思ったのか」の理由を追求するように関連づけた。理学療法士は筋肉や関節、運動の面に視点を、看護師は日常生活の面に視点を当てるため、お互いの立場を尊重し協働し合うためには、どのような調整が必要なのかを考えられるように留意した。

全体のまとめと課題

 学内実習で用いた事例患者は、国家試験によく出る疾患を選択し、検査データや治療、発達段階を意識して8事例の患者を設定したことで、幅広い学習につながった。しかし、継続的に日々患者の変化を捉えて実習展開をするのが難しく課題を残した。
 1日の時間軸(縦断)と12日間と時間の経過(横断)の中で、リアルに患者像や医療チームの中の一員であることが意識でき学びが深化できる工夫がより必要であると考える。
 なお、今回紹介した進度表および合同カンファレンスの資料については、こちらからダウンロードいただける。

 

NurSHAREでは、みなさまからの実践報告をお待ちしております。ご興味をお持ちの方は、こちらのフォームをご覧ください。

また本投稿連載についてご感想やご質問等ございましたら、こちらよりぜひお寄せください。

百々 直子

社会福祉法人枚方療育園 関西看護専門学校 教務副主任

どど・なおこ/関西看護専門学校卒業後、関連である枚方療育園 枚方総合発達医療センターに入職し、重症心身障害児・者の看護を実践する。 2002年に母校である関西看護専門学校に異動となり、看護基礎領域や統合領域を担当。看護教育ではシミュレーション、メタ認知、リフレクションに興味を持ち、現在は教務副主任として学生の教育に携わっている。2023年星槎大学大学院 教育学研究科 教育学専攻 修士課程修了(教育学)。趣味は旅行。

企画投稿

ここまでできる!関西看護専門学校のコロナ禍代替実習

コロナ禍において自作の動画教材やWeb会議サービスなどを活用して実施した代替実習について、関西看護専門学校の先生がたよりお寄せ頂いた実践報告を4回にわたってお届けします。活用した教材は「教材シェア」機能でもご共有頂きますので、ぜひ併せてご覧下さい。

フリーイラスト

登録可能数の上限を超えたため、お気に入りを登録できません。
他のコンテンツのお気に入りを解除した後、再度お試しください。