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エピソード5 ゲームを通して母性看護を身近に(後編)― なるほど! 運用も難しくないんだ!

エピソード5 ゲームを通して母性看護を身近に(後編)― なるほど! 運用も難しくないんだ!

2022.03.11鈴木 紀子(順天堂大学医療看護学部 准教授)

周産期ロールプレイングゲーム運用のノウハウ

 前編では、周産期ロールプレイングゲーム(RPG)の作成方法について書かせていただいた。

 今回は、実際の運用と学生の反応について、以下の4つの点を具体的に述べていきたいと思う。

①作成した周産期RPGはどこに保存するの?
②どのように管理しているの?
③どのように活用しているの?
④学生の反応はどうなの?

①作成した周産期RPGはどこに保存するの?

 まず保存場所についてであるが、これは方法が2つある。学生個々にゲームが入ったUSB等を配布し実施させるやり方と、ネットワーク上に保存しておき学生にアクセスしてもらうやり方である。
 個々に配布することのメリットは、ネットワーク環境がないところでも実施できる点である。しかし、学生の人数が多くなればそれだけ準備が大変になるのがデメリットである。そこで本学ではネットワーク上に保存することにした。本学は大学のホームページ上に学生専用のホームページがある。そこに保存し、学生がいつでもアクセスできる環境を提供した。

②どのように管理しているの?

 管理については、実はとくに行っていない。作成段階で動作確認をしているので、動作の不備などの連絡もとくになかった。複雑なゲームではないので、いわゆる「バグ」も発生していない。複数のメンバーで事前に動作確認(さまざまな選択肢を選んだ後の画面の変化、キャラクターの表情と文章との整合性など)を何度も行うことで、エラーを防ぐことができる。そうしておくことで、実際に公開した後の管理はほとんどいらなくなる。

③どのように活用しているの?

 活用については、色々とやり方があるだろう。周産期RPGには、学生の興味・関心をひきつけられる、土台となる基礎知識を習得できる、バラバラにある知識のかけらを一連の流れのなかで構成された知識として把握することができる、といった特徴がある。そのため講義中、予習・復習時、実習前の確認時など、幅広く活用することができる。

講義中・講義後に活用する

 講義と並行して周産期RPGを実演することで、講義中の簡単な予習・復習になる。またすべての講義終了後に周産期RPGを実施することで、妊娠から産後までの正常な初産婦の流れを自分自身が理解しているかどうかを復習することができる。
 また本学では、2年後期に講義がある一方で、臨地実習は3年後期から4年前期であり、両者の間に1年以上のブランクがある。そのため実習のころには、すっかり講義で得た知識が抜け落ちてしまっている学生が多い。そのため、臨地実習の前には必ず周産期RPGを実施してもらっている。いずれも学生が気軽にとりくむことができること、また教員も気軽に課題を課すことができることがポイントである。

実習中に活用する―バラバラの体験・知識が1つにつながる

 臨地実習では、産後の母子を数日受け持つことや、産科外来で妊婦健康診査の場面を見学するなどの実習が多いだろう。学生が受け持つのは別々の時期の対象者であるため、1人の女性が妊娠、出産、産後を経験しているという繋がりをもって考えることが難しい。
 その点、周産期RPGは、1人の女性が妊娠して、出産し、母児ともに元気に退院するまでのゲームである。この周産期RPGを実施することで、学生は1人の女性の妊娠から退院までの経過を追体験できる。このゲーム上の体験が、臨地実習にも大きく役立つと考える。

④学生の反応はどうなの?

 以下の図は、周産期RPGを作成した際の学生の反応である(第44回日本看護研究学会で発表)。周産期RPGについて「操作方法がわかりやすい」「画面がみやすい」という回答が大半である。

学生からの評判も上々!

 また、学生からは以下のような声が聞かれ、周産期RPGの作成の目的が学生にも伝わっている様子がわかる。

学生の声

「ストーリーになっていてよい」
「本当に赤ちゃんに寄り添っているような感覚で行うことができた」
「絵や背景があるのでイメージがつきやすい」
「流れを確認しながら行えてよい」
「教科書やレジュメに書いてあったことを思い出しながら、流れに沿って行うことができた」
「ゲーム感覚で学習できる」
「妊娠期、分娩期、産褥期、新生児期の項目に分けて、少しずつ行うと取り組みやすい」
「実習の後に行うと効果的」

 これら学生の反応から、勉強が好きでなくても、ゲームならとりあえずやってみようかな、と感じている状況がみてとれる。管理も運用も難しくはない。学生にとって、周産期RPGが母性看護学を楽しく学ぶきっかけになることを期待している。

英語版も作成―医療英語になじんでもらうために

 実はこの周産期RPGは、英語版も作成している。ストーリーも選択肢もすべて同じものでの英語バージョンである。おもな目的は学生に医療英語になじんでもらうことにある。これからは日本に住んでいても、看護の対象者は日本人だけでなく、多様な国の方々が対象となる時代である。医療英語はその基本となるものである。
 母性の医療英語を改めて学習するのではなく、日本語の周産期RPGを実施した後に、この英語版をすることで、知らない単語でもなんとなく意味がわかるのである。一石二鳥で周産期の英語も覚えてしまおうという作戦である。「英語の勉強にもなる」と意欲ある学生には好評である。なかには最初から英語版で実施する学生も少なからずいる。

英語版は医療英語の入門に最適!
左:日本語版,右:英語版

 英語に強い教員がいれば、日本語版をそのまま英語でプログラミングすればよい。私の場合はそこまで英語に強くないので、業者に依頼し英語のシナリオを作成した。それをもとに、日本語で作ったティラノスクリプトのプログラムを英語に置き換えたのである。すでに日本語版のベースはできているので、英語版作成の手間はそこまでかからなかった。英語だけでなく色々な言語で作成するのもよいかもしれない。

鈴木 紀子

順天堂大学医療看護学部 准教授

すずき・のりこ/北里大学看護学部卒業、北里大学大学院看護学研究科修士課程、博士課程修了。博士(看護学)。臨床経験後、藤田保健衛生大学医療科学部看護学科(現藤田医科大学保健衛生学部看護学科)で教育者としての楽しさとやりがいを感じ、現在、順天堂大学医療看護学部 母性看護学・助産学の教員として教育に携わっている。好きな言葉「しあわせはいつもじぶんのこころがきめる(相田みつを)」

企画連載

ひろがる“EdTech × 看護教育” シーズン1 看護教育の未来がみえる―ICT教育 最新のとりくみ

デジタルネイティブ世代が高等教育へと進学し、コロナ禍による学習形態の変更も受けて、いま看護教育においてもデジタルテクノロジーを活用した教育のイノベーション―“EdTech”が求められています。 本連載では「共に知をひろげる」を合言葉に、皆さんとともに「EdTech×看護教育」に関する情報交換や悩みの解決の場となるコミュニティづくりを目指します。一緒に新しい教育に挑戦してみましょう! まずシーズン1では、ICT利用による看護教育の将来像をイメージしていただくために、「看護教育の未来がみえる」と題し、先進的な取り組みを行う方々や施設を紹介します。(本連載プランナー/野崎 真奈美)

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