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エピソード1 デジタルテクノロジーを活用して看護教育にイノベーションを起こそう

エピソード1 デジタルテクノロジーを活用して看護教育にイノベーションを起こそう

2021.12.10野崎 真奈美(順天堂大学医療看護学部 教授)

いまなぜ“EdTech”なのか―デジタルネイティブの学生がやってくる!

 EdTechは教育(Education)と技術(Technology)を組み合わせた造語です。デジタルテクノロジーを活用した新しい教育や学び、それを提供するアプリやサービスをいいます。さらに本質的に、デジタルテクノロジーを活用した教育のイノベーションを起こそうという意味を含みます1)。ここでのデジタルテクノロジーとは、主に情報通信技術(Information Communication Technology、以後ICT)をさします。今、私たちのいる看護教育の場にもEdTechが求められており、コロナ禍によってその流れはいっそう加速しています。 
 一方で、ICTと聞いただけで苦手意識を持つ人も少なくないようです。確かに未知のツールを使うときは、慣れないためにトラブルが起きることも多く、これまでの経験が通用しないため自信がなくなりがちです。だからといって、紙とペンによる教育が王道でありデジタルは信頼できないという従来の価値観にとらわれすぎると、根拠なく新しい技術を敬遠することにつながりかねません。どうやらこれは看護学教員に限ったことではなく、日本のあらゆる教育現場にみられる傾向のようです。実際に、経済協力開発機構(OECD)の2018年の調査では、公教育における学校の授業中にデジタル機器を「利用しない」と答えた生徒の割合は国語や理科で8割に及び、加盟国でもっとも高い割合であったことが報告されています2)。しかし、2019年に政府が掲げたGIGAスクール構想やコロナ禍を受けて、日本でもようやくデジタル機器の利用を進展させようとする機運が盛り上がってきました。

 たとえコロナ禍が完全に終息したとしても、ICTの大きな流れは逆戻りしないように思われます。今後、デジタル機器を利用して初等・中等教育を受けた学生を受け入れる高等教育機関として、看護師養成校もICTを活用した教育を推進することが望まれます。
 また、日本は未来社会Society 5.0(ソサエティ5.0)を目指しています。Society 5.0とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と内閣府の『第5期科学技術基本計画』にて定義されています3)。できれば紙とペンのみの教育に逆戻りするのではなくICT教育にも十分馴染んでおく必要があると思います。

筆者の360度動画を撮影中!
(株式会社 Jストリーム 六本木スタジオにて)
 

デジタルの力を味方につける 

 とはいっても、実はICTは既に皆さんにとって身近な存在でもあります。たとえば、パワーポイントのプロジェクタでの映写、調べ学習でのインターネットの活用、動画コンテンツの活用、自己学習用のデジタル教材の活用などです。本連載は、すでに馴染みのあるこれらのICT利用方法を前提に、その幅をさらに広げていただくことも目的にしています。新しいICTを活用すれば、国内外を問わず遠方とつながり移動なしでの討議ができたり(これはすでに皆さんZOOM等で行っていますね)、動画や音声を使った臨場感あふれる教材を作成し演習に活用できたり、課題を提示して自己学習を促進できたりなどの利点があります。さらに、教員の業務短縮や効率化につながります。

 本連載ではまずシーズン1として、「看護教育の未来がみえる―ICT教育 最新のとりくみ」と題してICT教育の最新のとりくみの例を紹介します。看護教育において「あんなこといいな、できたらいいな」と思えるようなイノベーションに取り組んでいらっしゃる先生方の例を紹介します。デジタルテクノロジーの発展は、これまでは「無理だ」と思っていたようなことを実現に導いてくれます。しかも年々デジタルテクノロジーはインターフェースが改良され、万人に使いやすいように進化しています。近い将来もっと身近になり、先生方の発想や夢を叶えてくれることと思います。今回はやや先進的な取り組みを紹介するため、すぐに取り入れることが難しい場合もあるかもしれませんが、ICTの可能性や将来像を探るうえで、さまざまなヒントを得ていただけるものと思います。
 新しい学びをともに楽しみましょう。Let’s Enjoy! 

VR内で筋肉注射を体験中!
(2021年10月28日 第1回XR総合展 秋、幕張メッセにて)
引用文献
1)佐藤昌宏:EdTechが変える教育の未来,p30,インプレス,2018
2)日本経済新聞:教育岩盤変化を嫌う②黒板と紙を「信仰」,2021年10月26日朝刊
3)内閣府:Sciety5.0,https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0,アクセス日:2021年11月15日

野崎 真奈美

順天堂大学医療看護学部 教授

のざき・まなみ/自衛隊中央病院高等看護学院(現・防衛医科大学校)卒業後、同病院に勤務。聖路加看護大学(現・聖路加国際大学)、埼玉県立大学短期大学部、東邦大学を経て、2017年より現職。青山学院大学卒業、教員免許取得。聖路加看護大学大学院看護学研究科修士課程修了、修士(看護学)。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。厚労省看護教員養成講習会eラーニングコンテンツ、放送大学ラジオ講座コンテンツなど教材作成を数多く手掛ける。著書は『NiCE成人看護技術 改訂第2版』(2017、南江堂)[編集]、『NiCE成人看護学概論』(2019、同)[分担執筆]、『NiCE基礎看護技術』(2018、同)[分担執筆]など多数。趣味は飛行機旅。

企画連載

ひろがる“EdTech × 看護教育” シーズン1 看護教育の未来がみえる―ICT教育 最新のとりくみ

デジタルネイティブ世代が高等教育へと進学し、コロナ禍による学習形態の変更も受けて、いま看護教育においてもデジタルテクノロジーを活用した教育のイノベーション―“EdTech”が求められています。 本連載では「共に知をひろげる」を合言葉に、皆さんとともに「EdTech×看護教育」に関する情報交換や悩みの解決の場となるコミュニティづくりを目指します。一緒に新しい教育に挑戦してみましょう! まずシーズン1では、ICT利用による看護教育の将来像をイメージしていただくために、「看護教育の未来がみえる」と題し、先進的な取り組みを行う方々や施設を紹介します。(本連載プランナー/野崎 真奈美)

フリーイラスト

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