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第5回:実習記録のデジタル化において押さえておきたい情報モラル・倫理

第5回:実習記録のデジタル化において押さえておきたい情報モラル・倫理

2024.06.06相撲 佐希子(修文大学看護学部 教授)、石井 成郎(一宮研伸大学看護学部 教授)

はじめに

 第4回では、実習記録のデジタル化における個人情報や機密情報の漏洩の危険性とその対策について解説しました。今回は、実習記録のデジタル化を進める上で、学生や教員が注意すべき情報モラル・倫理について解説します。

学生に求められる情報モラル・倫理  

 実習記録のデジタル化によって、デジタル特有の情報漏洩のリスクが生じます。情報が漏洩した場合は、複製・拡散が容易なことから、手書きのとき以上に多大な損失が発生します。さらに、患者や病院からの信頼を失うだけでなく、患者や実習施設に損害を与え、学生や教育施設への損害賠償などの法的問題を引き起こす可能性があります。デジタル化された情報を取り扱う際には以下の点を注意しましょう。

①情報を慎重に取り扱う

 デジタル化された実習記録の操作や管理は、学生自身が行います。実習記録の管理責任者としての認識が低いと、実習記録のデータを紛失・漏洩する可能性があります。実習記録には病院のカルテと同じくらいの重みがあることを認識し、未資格であってもプロフェッショナルな態度で臨むことが必要です。方法として、第4回を参考にセキュリティ対策を行うことをお薦めします。

②指定された場所以外では記録しない

 デジタル化された実習記録は患者の個人情報だけではなく、学生自身の個人情報、実習施設の機密情報なども含まれる場合があります。紙への記録と同様に、パソコンで記録する際も指定された場所以外では記録しないことが原則となります。
 自宅で実習記録を記録する際は、家族の共有のパソコンを使用することは原則禁止です。また、家族が集まっている場所などでの実習記録の記録も原則禁止です。
 短時間であってもパソコンから離れる場合は、必ずログアウト(サインアウト)をすることが重要です。

③教員や実習指導者以外に共有しない

 学生は実習記録を適切な範囲で共有する責任があります。原則、実習記録は教員や実習指導者との共有のみとします。たとえ同じグループの学生であっても、実習記録を電子的に共有することは避けるべきです。しかし、カンファレンス等で共有が必要な場合は、オンライン上のシステム等を活用しながら、教員からの指示に従って対応するようにしましょう。

④個人のパソコンに保存しない

 実習記録を個人のパソコンに保存することはやってはなりません。盗難・紛失による情報漏洩や故障によるデータ消失のリスクがあります。所属する教育施設のガイドラインに沿った場所に保存することを原則とします。一時的に保存をした場合は必ずゴミ箱に入れ、ゴミ箱からも削除しましょう。
 一時的に保存をする場合は、クラウドストレージサービスを利用する方法もありますが、所属する教育施設のガイドラインに沿った場所に保存することを原則とします。このように、一時的に保存した場合は必ずゴミ箱に入れ、ゴミ箱からも削除することを忘れないようにしましょう。

⑤著作権や知的財産権を侵害しない

 実習記録は実習の成果物です。先輩やクラスメイトなどの記録を利用することは許可を得たとしても、患者の個人情報漏洩が問題となり、処罰の対象になります。また、学修過程の学生の立場を自覚し、モラルとしても避けなければなりません。
 レポートや課題を記載する際にインターネット上の情報を無断で利用することは避けなければなりません。使用した際には、引用や出典を必ず明示しましょう。

⑥商業利用しない

 自分の実習記録を商業利用してはなりません。教育目的に限定して患者・実習施設から記録を取ることが許可されています。また、商業利用によって個人情報や機密情報が漏洩すれば、患者や実習施設に不当な損害を与えることになります。

⑦録音・録画しない

 実習の際には、患者のプライバシーや機密性を守るため、情報機器を使って録画や撮影、録音をすることは、個人で使用するとしても厳禁です。まして共有することは医療者を目指す者の倫理が問われる行為です。患者のプライバシーや権利を尊重し、倫理的な姿勢が学生の責任となります。
 まずは、スマートフォン等は実習時間中には持たないことが原則です。白衣に着替えると同時にスマートフォンはロッカーなどに保管し、実習が終了するまでスマートフォンの電源をオフにすると良いでしょう。また、施設に持ち込むデジタルデバイスのカメラや録音機能については、物理的に無効にする方法などを取り入れることも必要でしょう。

⑧提出時間に気をつける

 実習記録のデジタル化によって、学生がいつでも記録を提出できるようになると、教員の負担が増える問題が生じます。また、夜中に実習記録を提出することは、学生自身の健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。教員の勤務時間を尊重し、指定された時間内に提出することが求められます。

教員に求められる情報モラル・倫理

 次に、実習記録のデジタル化において、教員が注意すべき情報モラル・倫理について説明します。ただし、以下の内容は学生にも関連するため、学生と教員の双方がこれらの問題を理解しておくことが望ましいです。

①情報漏洩に関するセキュリティ対策

 デジタル化された実習記録はクラウドストレージサービスなどを利用してオンライン上に保存し、教員や実習指導者と共有することになります。その際、適切な共有設定をしていないと他の人が誤ってアクセスしてしまうリスクが発生します。また、ハッキングやデータ漏洩のリスク対策として、必要な情報のみをサーバ上に置き、定期的に不要なファイルを特定し、削除するか適切な場所に移動するなど、ファイルの内容を確認し整理することが必要です。

②利用に関するルールの周知徹底

 学生に対して実習記録の作成や提出に関するルールや倫理的な基準などを明確に説明し、周知することが重要です。たとえば、施設内でのインターネット接続や、記録の保存の可否に関することは曖昧にしないことが重要であり、教員同士でも共通認識しておく必要があります。
 また、実習記録の重要性や倫理的責任についても理解できるよう繰り返し説明・指導することが求められます。場合によっては、面談や対話を通じて、理解しているかどうかを確認することも必要です。

③仕事のオンオフの切り替え

 実習記録のデジタル化が実現すると、時間外に実習記録を確認することが可能になります。教員は実習以外の業務に費やす時間が多いため、オンラインで記録の確認やフィードバックが可能になると、つい時間外に作業をしたくなります。しかし、仕事のオンオフの切り替えを意識することが、教員だけでなく学生の健康にもつながります。

おわりに

 実習記録をデジタル化することによって、デジタル特有の情報漏洩のリスクが生じます。実習記録には患者や学生自身、実習施設の情報なども含まれていることが多いです。実習記録の取り扱いの基本は、紙による記録の時と同様ですが、詰まるところは取り扱う人のモラルや倫理に左右されます。
 第5回ではデジタル化に伴うモラルや倫理に関する問題を解説しましたが、第4回で紹介したセキュリティ対策が有効な項目もあります。第4、5回の内容が、実習記録のデジタル化にかかわる問題の改善策になることを期待しています。

相撲 佐希子(修文大学看護学部 教授)、石井 成郎(一宮研伸大学看護学部 教授)

相撲 佐希子(すまい・さきこ)/修文大学看護学部 学部長・教授。修士(看護学)、博士(学術)。技術教育にeラーニングを導入した研究から、ICTを活用した教育にいたる。現在は、教材のeテキスト化に積極的に取り組む。また、急速に発展した情報化社会と学生のモラル教育が追い付いていないことの懸念から情報モラル教育にも力を注ぐ。関連著書には『ICTを使った看護教育・実習ハウツーBook』(金芳堂,2022)や情報モラルに関する書籍、DVDがある。趣味は30年続けている茶華道。

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