はじめに
新型コロナウイルスの流行により教育へのICTの利活用が急速に進みました。便利なサービスについてはwithコロナとなってからもどんどん活用していきたいところですよね。
その「今後も活用していきたい便利な機能」の代表としてオンラインアンケートサービスがあります。これについてはGoogleフォームでのテストの作成方法がNurSHAREの別の記事(髙梨 あさき:エピソード9 意外に簡単! Google Formsで小テストを作成しオンラインで配信する方法、2022.9.22公開)で解説されています。他にも似たサービスはいくつかありますがおおよそ同じ感覚で使用することができます。
従来の小テストや期末試験の運用とオンラインアンケートサービスを用いた運用
さて、従来の小テストや期末試験の運用を考えてみます。おおよそ以下の6つの行程が必要だったのではないでしょうか。
- 試験を作成する
- 紙に印刷する
- 学生を教室に集めて配布する
- 回収する(この時多くの場合学籍番号順に並べる作業もある)
- 採点する
- テストの点数を集計する
これまでテストの運営は紙ベースで行う以外の選択肢がなかったので、それほど気にならなかったかもしれませんが、オンラインアンケートサービスを使えば多くの行程を省略もしくは簡略化することができ、おおよそ以下の3つの行程に集約されます。
- サービス上に試験問題を作成する
- 学生にQRコードを配布あるいはURLを配信する
- 採点し集計する(必要であれば手動採点も併用する)
ここまでやればあとは自動で回収、採点、集計が行われます。記述式の問題であればテストの設定に工夫が必要になりますが、多肢選択などの問題であれば回収して集計までほとんど自動で行ってくれます。
集計結果はcsvファイルやExcelなどのデータの形で出力することができるので成績判定の際にも困ることはありません。もう授業が終わるたびに回収した小テストを学籍番号順に並べて、採点した結果をExcelに手入力する必要はないんです。
そこで本連載では2回に分けて、オンラインアンケートサービスの活用・運用の実際について紹介していきます。
その前に、記述式の問題の設定について少し紹介します。
記述式の問題で自動採点にする方法例
例えば・・・
Aさん(59歳、女性)は、午前2時ごろにバットで殴られたような激しい頭痛を自覚し、嘔吐した。午前4時、Aさんは、頭痛を我慢できなくなったために、家族に付き添われて救急搬送され、緊急入院した。入院時、ジャパン・コーマ・スケール<JCS>Ⅰ-1、四肢の麻痺を認めない。疑わしい疾患を答えよ。
上記のような患者状態を示して想起される疾患名を問うような問題を出題するとします。出題者の想定する回答は「クモ膜下出血」です。それであれば、
のように記述の模範解答を設定して、「その他の回答をすべて不正解にする」をチェックしておけば「クモ膜下出血」以外の回答を入力した人は誤答となって自動採点することが可能です。
ただし、「くも膜下出血」と若干表記が変わるだけで全て誤答となってしまいますので
と許容する範囲を想定して全て設定しておくことで「どれかと一致すれば正答」と設定することができます。この場合でも「くもまくか出血」「くもまっかしゅっけつ」は全て誤答になるので、心優しい先生はかなり色々な想定をして正答の設定をする必要があります。
それでは次の問題はいかがでしょうか。
56歳の男性。健康診断で肺がんと診断され、胸腔鏡下左肺部分切除術を受けることとなった。手術後は胸腔ドレーンが挿入され、水封式装置につないでドレナージ管理が行われている。順調に経過し患者は離床が可能となった。胸腔ドレーンは留置されたままで術後の痛みに対して硬膜外チューブから持続的に鎮痛薬が投与されている。患者は「傷が痛いし、チューブの部分もかなり痛む。今日は歩けそうにありません」と話す。この時の適切な対応を記載しなさい。
上記のような設問だと事態はさらに複雑化します。上記の問題で適切な対応として挙げられるものは文章表現も含めると無数にあります。このような問題では自動採点を設定するのは現実的ではありません。
授業の中での小テストの運用
さて、本題に入ります。知識伝達型の講義を行なった後に学生の理解度を確認するための小テストを実施する、というのは多くの教員が実践している教育手法かと思います。紙を配布する形の小テストでは一旦回収して授業終了後に採点して学生に返すという形になるのでタイムリーにやり取りすることができません。
「提出された瞬間に採点が終了する」
「その結果を集計してグラフ化する」
という2つの特徴を活かせば、小テストが終わったら「すぐに」「その場で」テストの結果について学生と視覚的に共有することができます。
このように問題の形式によって自動でグラフ化されますので、どの問題の正答率が高かったか、低かったかを瞬時に共有できます。学生から見ると「みんな正解できているのに間違えてしまった」「自分が間違えた問題はみんなわからなかったんだな」といったことを振り返ることもできます。
Peer Instruction based Learning(PIL)により学生の主体的な学びにつなげる
この設計はハーバード大学の物理学教授 Eric Mazur 氏が提唱したConcepTest という「知識を問いながら概念を学ぶ多肢選択問題のシステム」を応用したPeer Instruction based Learning(PIL)の形に近いものとなります。
教員から見ても、正答率の高い問題は事前の知識伝達型の講義が十分に理解されたことが分かるので、「補足の説明やディスカッションは不要だな」と考えることができます。正答率の低い問題は知識伝達型の講義がしっかり伝わっていない可能性があるので、「補足の説明を加えたほうが良いな」と考えて授業時間内に学生とやりとりすることができます。
このように結果を学生と共有して授業の展開を柔軟に変化させることが可能となることがオンラインアンケートサービスを用いる大きなメリットになります。
PILではこの正答率の高低の判断は
「正答率70%以上→高い」
「正答率30%以下→低い」
というのを目安とします。そして正答率が30%〜70%のものについてはそれに関するグループディスカッションを行います。
上記の例でいくと「NaとClの値から予想されることは?」という問題(正解は赤色で示された選択肢)は正答率が50%と高くも低くもない正答率でした。事前の講義の内容が全体では理解されなかったようですが正答できている学生もそれなりにいたということになります。
この問題について小グループでのディスカッションを行い「どの選択肢が正解で、それ以外の選択肢の何が誤りなのか」ということを調べながら話し合ってもらいます。
この設計では学生の回答結果を学生からのメッセージとして捉え、それを受けて授業の展開を適宜変更していくという双方向性が生まれますし、難しい問題について学生同士で話し合いながら正解を導いていくというアクティブ・ラーニングあるいはピア・インストラクションの要素も生まれます。
その結果ディープ・ラーニングが達成されるという設計になっています。
次回は
今回は授業の中で行う⼩テストとしての運⽤について紹介しました。授業の設計を大きく変えることは手間がかかりますが、最初の一歩が踏み出せれば小テストの配布・回収あるいは採点の手間が省け、学生との共有も楽になります。PILの設計も事前学習の出し方に工夫が必要になりますが、走り出せば授業時間内には学生との双方向のコミュニケーションが生まれ、学生同士での学び合いが生じるので教員としても楽しい授業が展開されると思います。
次回は、総括的評価としての定期試験における利⽤⽅法や、オンタイム・オンラインでの運⽤⽅法などをご紹介したいと思います。