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【インタビュー】看護系ICT教育チームの取り組み―つながり学び合う教員コミュニティ

【インタビュー】看護系ICT教育チームの取り組み―つながり学び合う教員コミュニティ

2022.06.01NurSHARE編集部

 2020年の春、コロナ禍により、看護基礎教育においても急きょオンラインでの授業・代替実習の必要に迫られました。多くの看護教員の先生方が、様々なネットワークやコミュニティを作り、協力し合って乗り越えてきたものと思います。今回は、そんなコミュニティの1つで、情報交換からメンバーによる教材開発にまで発展させてきた看護系ICT教育チームの代表である北得美佐子先生(東京医療保健大学和歌山看護学部 教授)にお話を伺いました。(NurSHARE編集部)
※この取材は2022年4月20日に行ったものです。

 

―看護系ICT教育チームの概要や、これまでの活動についてお聞かせください。

 看護系ICT教育チーム(以下、「ICTチーム」)は昨年、2021年の2月に発足しました。前年度の2020年度において、コロナ禍により急きょ多くの授業や実習がオンラインでの対応に迫られました。慣れないことで、どの大学・教員も苦労したと思いますが、私自身、情報を求めてさまざまな研修会に参加しました。当初は研修会もいろいろ開催されていましたが、半年ぐらい経つとそういった研修が少し減っていきました。加えて、大枠はわかるけれども、もっと些細な日常のことを知りたいという思いと、何でも相談できるこぢんまりとしたコミュニティが欲しいという思いが高まり、ICTチームをSlack*1で立ち上げました。現在は70名強の登録があり、大学の教員を中心として、専門学校の先生や臨床指導者、看護教育に関わる企業の方など、さまざまな職種・立場の方が参加されています。

看護系ICT教育チームのSlackの画面



 最初の頃は、オンラインで授業や実習をどのように行っているのかなど、ざっくばらんに井戸端会議のような感じで情報交換をしていたのですが、1、2ヵ月してくるとだんだんリーダーシップをとってくださる方も出てきて、勉強会を開くようになりました。自校のシラバスや実習のスケジュールを提示し、こういう順番でやっていくと学生からはこういう反応があったなど、具体例を発表し、ディスカッションする形です。教育学や教育工学がご専門の先生も参加されていましたので、授業の組み立てや学習方法、評価の方法などについての勉強会を開くこともありました。お互いのオンライン授業・実習を高めて行こうという気持ちでしたね。

 活動が深まるにつれ、個別性の高い検討テーマも増えていき、現在では、全員でディスカッションする実習や授業に関するチャンネル*2の他に、テーマごとにチャンネルを作って検討することが多くなっています。ICT教授方法や授業設計に関するグループ、研究グループ、また、教育用電子カルテ「Medi-EYE」のコンテンツ開発に関する領域ごとのグループやVR開発グループなどがあります。1つのチームとしての活動にとどまらず、関心事が同じ先生たちが集まって個別グループを作って検討していくことで、チーム全体の活動性が維持されていると感じています。

*1 ビジネス用のメッセージングアプリの1つ。
*2 Slack内でチャットを行う部屋のようなもの。プロジェクトやトピック、チーム別にチャンネルを作成し、チャンネルごとにメンバーを定めることができる 

 

―ICTチームのメンバーはどのように広がっていったのでしょうか。

 日本医療情報学会看護部会次世代研究者育成ワーキングの『看護×教育×ICT企画』の最後に少しご紹介させていただいたこともありますが、多くは口コミですね。
 参加は誰でもウェルカムですが、一方で、個人情報などに注意を払う必要がありますので、ある程度クローズな部分も持たないといけない。そのため、参加希望者に対しては、私が確認して、場合によってはお断りを入れることや、登録を削除させていただくこともあります。たとえば、参加を承認しても、全く反応がない方や、自己紹介をされない方は、削除させていただく方針を取っています。そのあたりは、コミュニティの入り口のところにも記載しています。

教育用電子カルテ「Medi-EYE」の開発に携わる

―教育用電子カルテである「Medi-EYE」のコンテンツ開発に携わるようになったのはどのような経緯からでしょうか。

 2020年の秋ごろにMedi-EYEが出てきた時、衝撃的でした。実際に近い電子カルテがオンラインで閲覧でき、アレンジもできる。オンライン教育でまさに必要としていたもので、すごくいいタイミングで出てきたなと。本学では、デモ版の時点で少し使わせてもらい、製品版も早期に導入しました。
 本チーム自体は、ICTに関する情報交換を目的にスタートしましたが、参加メンバーの中にMedi-EYEを導入している学校が多くあったことから、自ずとMedi-EYEの活用方法について話す機会もありました。であれば、開発者から直接アドバイスをいただきたいと、チーム発足の早い段階で、Medi-EYE開発元のMedi-LX社の池辺さんにお声をかけ、ご参加いただくことになりました。

 池辺さんには使用方法の説明会を開いていただいたり、SlackでMedi-EYEに関するチャンネルを立てて質問に答えていただいたり、要望をお伝えしたりもしました。たとえば、患者や家族データの入力・アレンジ方法といった細かい操作方法の質問や、患者サマリーがほしいという要望です。そうすると、池辺さんの方では質問に答えつつ、Medi-EYEのホームページに質問のあった使用方法を掲載したり、患者サマリーを作成しシステム改修して収載したりと、意見を反映していってくださいました。操作説明の動画も作成いただきました。このように、自然と、開発に関わるような形になっていきました。
 Medi-EYEを利用していない学校の方もいらっしゃいましたが、やりとりをみてMedi-EYEを導入したというケースもけっこうありましたね。
 

―ICTチーム内での意見交換として、Medi-EYEに関するものがもともと多くあったということですね。Medi-EYEの活用方法ではどういったことが話題になったのか少しお聞かせください。

 Medi-EYEを使ってどのように学生たちに情報を取らせているのか、看護過程はどのように展開しているのか、実践で補えない部分をどのように補っているのかなどが話題になりました。Medi-EYEには患者データがあっても実際の患者はいませんので。
 たとえば、本学の慢性期実習では地域住民の方達に来ていただいて、Medi-EYEの事例に合わせて、高血圧の患者、糖尿病の患者を演じていただき、学生たちに生活指導をしてもらうこともあります。また、急性期実習では実習病院の空き病棟をお借りして、患者シミュレータを用いたり、看護師さんたちにも参加してもらったりしています。
 あるメンバーの大学では、患者シミュレータを使ったり教員が患者役になって撮影し、それをリモート実習をしている学生たちが観察し、Zoom上でディスカッションを行っていました。学生が登校できなくても、実践場面をオンライン上で共有しあったり、グループに分かれて話し合ったりしていたわけですね。

 このような活用方法について共有していましたが、一方で、Medi-EYEの事例はリアルなデータが多い分、低学年や3年生でも取り組むには難しい疾患や重症の事例もたくさんありました。そこで、複雑な合併症はそぎ落とすなどの加工をして、それをメンバー間で共有するようになりました。そのうち、領域別に検討した方がいいのではないかという意見が出てきて、基礎、成人、小児、母性、精神、それから老年・在宅というように領域ごとのグループを作って事例開発をしていくようになりました。それがいまの事例開発グループになっています。領域グループによって濃淡ありますが、事例の開発・ブラッシュアップにかなり貢献できているかと思います。最近までは、事例に紐づいたVR教材の開発も行っていました。
 

―どのようなVR教材を開発されているのですか。

 各領域、事例から学びたい・深めたい場面を3シーンぐらい選んで、実際に学生が患者さんをイメージできるようVR教材を作っています。たとえば成人の慢性期では、肝がんの末期の患者さんの事例について、昏睡の状態になっている時に声かけや観察をする場面、腹水でお腹が張っている患者さんへのケア場面、状態が悪く家に帰りたいという思いを露出している患者さんに対して医療・看護サポートや社会資源の活用を考える場面などです。
 他にも、成人の急性期では術直後の観察や術後1日目の第一離床の場面、老年では認知症のある対象者とのコミュニケーションの場面、母性では出産前後の妊婦・褥婦への支援の場面などを取り上げています。事例の中でもポイントとなるところ、本来であれば、学生たちが実習でしっかり関わってほしいと思うところを映像化しています。こういった場面はいろんな対応の方法があると思うので、幅広く自由に討議してもらえたらいいなと思って教材を作っています。

 実際の作成では、まず役者の方に演じていただき、それを基にVR化していきます。足浴では、看護師目線で足元から映して、自分が手を動かしながら触ったり、浮腫を確かめたりするところをイメージできるようにしていますし、病状説明のシーンでは、同席して医師から説明を聞きながら患者さんや家族の反応を見つめているというような臨場感のあるシーンに仕上がっていると思います。

VRコンテンツの映像例(足浴の場面)

 

看護系ICT教育チームによるWEB合同カンファレンス

―看護系ICT教育チームがあったからこそできたICT教育はありますか。

 オンライン実習において、Medi-EYEの同じ事例を用いて他校との合同カンファレンスを行っています。他校の同じ3年生が同じ事例に関してどのようにアセスメントし、どのような看護計画を立てたか、今後どういう方向で看護が必要と思っているかということを共有します。様々な学校の学生が集まり検討し合うことで、多様な見方・考え方を学ぶことができます。
 合同カンファレンスを行うには、もちろん使用する教材が同じ必要もありますが、実習のスケジュールやテーマ・目標が合致する必要があります。どの時期にどのテーマであったら同じ事例の分析を目標にできそうか、というところをチーム内ですり合わせ、最終的には、日程の合う学校の先生たちが参加するという流れです。
 各校のカリキュラム作成段階で合同実習を計画しておく必要があるのでは? と思われるかと思いますが、意外と学期中に思い立ったところでも微調整しながら実施することができました。

 たとえば、成人の実習期間は本学が3週間のところ、他校は2週間ということもありましたが、開始時期が近かったため、初期のアセスメントを一緒に実施することで、合同実習が実現できました。
 また、次のようなケースもありました。チームメンバーの中に、「手術室でのシミュレーション演習をしますが、ライブ配信で見ませんか?」と授業参観の案内を出してくださった先生がいました。そこで、演習の様子を本学の学生に視聴させてもらい、グループワークには本学の学生も参加させてもらうという形で、合同演習を実施しました。

 こういった合同カンファレンスの実施は、当初は全然イメージしていなかったのですが、やってみたらできたというのが実際です。もちろん、大学に許可をとったうえで、学生たちのプライバシーにも配慮したうえでのことです。学生たちの画面への露出加減も相談しながら行いました。

チームの活動を継続することが大切

―今後のICTチームの活動については、どのように考えていらっしゃいますか。

 私自身はそんなに大きなことはできないと思うのですが、今までのチームの活動による情報の共有によってとても視野が広がり、自身の授業の実践方法にとっても勉強になりました。ですので、まずは継続していくことを大事にしたいと思っています。
 実際、続けていくのは大変なことで、難しさを感じているところでもあります。メンバーからは、もともと入っていたコミュニティの活動がすぐに停止してしまったということを聞いたこともあります。そもそも看護教員はとても忙しいところに、コロナ禍により以前にも増して業務が煩雑化した中で、いろいろコメントする余裕がないというのはありますよね。もちろん、私も余裕があるわけではないのですが、同じようにメンバーの先生たちもすごく大変な日々を過ごしていると思いますので、必要な時期に必要な情報を小まめに発信しながらコミュニティを継続していけたらなと思っています。

 各グループの活動については、それぞれリーダーシップを取ってくれる方々がいらっしゃいますので、そういった方々と綿密に連絡を取りながら、方向性を決めてやっていけたらなと思っています。
 Slackで話していることがきっかけで学術集会でのシンポジウムでお話したということも昨年は2例ほどありました。今年はICTチームでのつながりをきっかけに学術集会の交流セッションの企画にもチャレンジしています。このように、若手の先生たちがつながり活躍の場を広げるという役割も果たせているのかなと思います。
 あと、現在はオンラインを駆使してお互いに授業参観など行っていますが、コロナ感染対策が緩和されてきたら、実際に学校を行き来できればと思っています。昨年も本学の周術期看護のシミュレーション演習に他校の先生にお手伝いにきていただいたのですが、他校の授業を実際に見ることは教育力のアップにつながると思います。本ICTチームは有志でお互いに学び合うところがすごくよいところだと思っていますので、今後も学びの機会を増やせたらと思っています。

 今回、NurSHAREの取材をお引き受けしたのも、NurSHAREが無料でプラットフォームを提供し、看護教育をよくしていこうとしているところにとても共感ができたからです。今後、NurSHAREのプラットフォームをICTチームでも活用させてもらいたいと思っています。

看護系ICT教育チームのロゴマーク
チームの有志メンバーが作成。「ネットワークとつながり」
「いろんな困難の中でもつながっていること」をイメージして描かれている。



―お話を伺ってきて、看護系ICT教育チームの活動は、北得先生の情熱があってこそ続いているように感じます。そのモチベーションはどこから来ているのでしょうか。

 私が所属する東京医療保健大学は5つの看護学部があり、全体の規模は大きいのですが、本学自体は和歌山にあるこぢんまりとした単科の大学です。その中で仕事をしていてもどうしても視野が狭くなりますし、綺麗にまとめられた情報誌を読んでもよくわからないところや、伝わってこないものがあったりもします。ですので、いろんな先生たちとやりとりをする中でリアルな情報や熱意に触れることが大事だと思っています。私自身、成人看護学を長く教えていますが、毎年新しい発見や学びがたくさんあります。そういう部分を刺激し合える仲間が欲しいというのが一番なのかなと思います。

 チーム発足のきっかけはコロナ禍でしたが、それ以前から、どうしたらもっと授業がうまくできるのか、学生たちにどんなふうに学んでもらえたらいいのかということをいつも考えていましたし、現在の教育方法に対して思っているところ、たとえば、教員が張り付きで行っている実習のやり方はちょっとおかしいのではないかといったことなども、様々な経験をしている教員同士でと話し合うことで、何かアプローチの糸口が見つかってくるのではないかと思っています。
 実際、昨年、一昨年に比べて、私自身の業務、学生への課題の出し方や、講義、実習のやり方など、スマートに効果的になってきている、いい教育ができるようになってきているという実感があります。それはICTチームのみなさんの1つ1つの意見が自分の糧になっているからだと思っています。
 論文やエビデンスだけでなく、人対人のかかわりの中にもいろいろな発見や学びがある。ですから、私はこの活動を続けていくのだろうと思います。

(おわり)

北得 美佐子(きたえ・みさこ)
東京医療保健大学和歌山看護学部看護学科 成人看護学/大学院和歌山看護学研究科 包括ケア教育学 教授

大阪府出身。大阪市立大学大学院看護学研究科前期博士課程修了〈看護学修士〉。臨床勤務15年を経て、2007年より堺市医師会堺看護専門学校の専任教員に着任。2012年関西医療大学講師、2016年同准教授、2019年東京医療保健大学和歌山看護学部看護学科准教授を経て2022年より現職。和歌山県立医科大学大学院医学研究科 地域医療総合医学緩和医療専門医養成コース博士課程在学中。研究テーマは『がん患者の遺族に対する緩和ケアの質の評価』。近年は、『インストラクショナルデザインを用いた授業の評価』についても探求している。

 

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