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第10回:“共同体感覚”の中で自らの強みを活かし、みんなで後輩を育てること

第10回:“共同体感覚”の中で自らの強みを活かし、みんなで後輩を育てること

2024.03.14渡辺 美保子(ポラリス保健看護学院 副学院長)

今につながる、自分の強みの発見

 病院に入職して2年目に取り組んだ看護研究によって、得た情報が整理されていくことの楽しさや、学会発表の機会を通して伝えることの面白さを知り、教育に関心を抱いた。だからだろうか。5年目になり、当時の上司から病院の教育委員会に加わるようご指名を受けたときも、喜んで承諾した。それを経て今から約25年前、ポラリス保健看護学院への異動をきっかけに看護基礎教育の道へ進んだ。
 病院内での看護研究の実践や教育委員会での経験は、教育の世界に踏み込む原点である。のちの多職種連携の企画につながる、“他の人たちとともに何かに取り組む魅力”を知ったのもこのときだ。年齢や臨床経験は関係なく、おたがいに疑問や現状を自由に発言して共有する。仲間意識を持ち、自分とは異なる背景の人たちと一緒になって活動する楽しさがそこにはあった。看護師同士だけではなく、職種が違ってもみんなで一丸となる楽しさは同じだった。さまざまな人たちが交わって面白いことを実現していくことに喜びを感じ、「こんなふうに考えてみたらどうですか」と自分から提案したことに良い反応をもらえると手応えを感じた。かつて、人前で話すことが苦手だった自分が、こんな風に人を巻き込む力があるんだと気が付き、見える世界が広がっていった。こうして自分の奥に眠る強みを発見できたことが、私の看護教育者としてのアイデンティティの確立につながったように思う。

学生の体験入院を実習施設へ掛け合った

 教育に携わるようになり、それまでの経験を通して見つけた楽しさを糧に、自身の強みをとことん活かして、さまざまなことに取り組んだ。20年ほど前、学生に体験入院してもらう実習を企画したことがあった。なかなか患者目線でヒト・モノ・コトが見えない学生たちをもどかしく思い、もっと看護の視点を対象のニーズに当てられるようになってほしいと考えて当時の実習施設の事務長や総看護師長に相談した。
 体験入院では、学生は夏休みを利用して患者と同じ大部屋に一泊二日で入院し、実際に看護師にバイタルサインを測定してもらったり、入院中は利き手が麻痺している想定で過ごし、病院食を食べたりもする。守秘義務を厳守したうえで患者とコミュニケーションを取り、入院中に困っていることを聞く課題も設定する。すると、看護師に遠慮してナースコールを押せないだとか、利き手と反対の手がうまく使えず結果として食欲がなくなるだとか、手術費用の心配だとか、患者がどのようなことを経験し、考えながら入院生活を送っているかが理解できてくる。学生は患者の入院生活を目の当たりにし、体験しているので、この時の経験を看護技術演習や実習で思い出し、患者のニーズに気づいてくれるようになっているのがよくわかる。

 元気な学生が入院することについて、臨床では抵抗感があったかもしれない。だが当時の事務長らは「学生に病気で入院する患者さんのことを知ってもらいたい」との私の提案を「ぜひ力を貸しましょう」と承認してくれた。学生が普段と全く異なる環境に緊張したり、同室の患者が急変してしまってショックを受けたりした時は、臨床の看護師が教員に知らせてくれたり、その場で学生をフォローしてくれたりした。この取り組みは今でも続いているが、快く協力してくれる看護師の姿を見ていると、看護師のたまごをともに育てているような思いがして、感謝の気持ちがこみ上げる。

「とにかくやってみよう!」と挑戦した多職種連携教育

 13年看護基礎教育に携わったのち、医療安全管理者として臨床に戻った。当時、多職種が参加する研修を企画したことがあった。インシデント分析や事故への対応をテーマとし、看護基礎教育では盛んながら臨床現場での知名度が低かったシミュレーション演習も取り入れた。私が講師を務め、集まってくれたさまざまな職種の人たちに気が付いた点をフィードバックすると、「こういう視点があったんですね」「こう考えることができて、面白いですし勉強になりました」とうれしい言葉をもらうことができた。自分と異なる職種の視点がプラスのフィードバックとなって質のいい看護や医療につながること、そのために尊重しあったり思いを表現しあってともに学び合うのが大切なのだと実感できたことで、私自身の学びも大きなものになった。

 この経験を活かし、看護基礎教育の現場に戻ってから多職種連携教育を試みた。薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、臨床工学技士、臨床検査技師、医療事務……。学校の母体病院に実習に来てそれぞれ医療職になることを目指す学生たちを巻き込み、合同で模擬カンファレンスや救急シミュレーション演習を実施した。この取り組みも恒例のものとなり、2023年度で7年目を迎えた。企画の立ち上げ時は私たち専任教員が中心となって学びの組み立てを行ったが、現在は母体病院内の教育研修センターの主催で進めており、教員は模擬カンファレンスのファシリテーターなどサポートを担っている。
 立ち上げ当時は多職種連携教育はまだ浸透しておらず、周囲には「何をするのか全くイメージがつかない」と後ろ向きな発言や不安を口にする他校の教員もいた。しかし、なぜか私にはそういったマイナスな感情がいっさいなかった。「何をすればよいのか正解はわからないけれど、とりあえずやってみれば何とかなるんじゃないか、皆で知恵を絞ればやれる」と思っていたため、ためらいもなく挑戦できたのだろう。こういった点も、看護や看護基礎教育に携わる中で見つけた自分の強みのひとつだ。

“共同体感覚”を得てたどり着いた自分

 かつて『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』1)を読んだ時、同書に登場する“共同体感覚”の概念に非常に感銘を受けた。共同体感覚とは「”他者に対する貢献”により形成される」もので、「人は他者に対して貢献することにより感謝され、他者からもお返しとして支援され、社会の中に居場所をつくっていく」のだという。そして、共同体感覚は「周囲の人は私を援助してくれる、という“他者信頼”、私は周囲の人へ貢献できる、という“自己信頼”、その結果として私は共同体に居場所がある、と思える“所属感”の3つによって構成されている」そうだ。
 これはまさしく私のこれまでの歩みと合致していた。さまざまな企画を提案すると周囲の人たちが賛同し助けてくれて、他者信頼が得られる。同時に、自分が周囲の人たちの学びに貢献できたのだという自己信頼が生まれる。そして、ともに教育を高め合う仲間たちの中で所属感を得て、教育に携わる仕事が自分にとって豊かな時間であると認識することにつながる。こうして自分には強みやできることがあるのだと気づけると、自信がついてさらにできることが増える。時には誰かに何かを頼まれることもあるが、断らず自分にできることに取り組むと、それがたくさんの人に広がり、結果としてさらに自分のできることが増えていく。書籍を通じてこれまで得てきた“共同体感覚”が言語化され、こうやって今の自分にたどり着いたのだと改めて感じた。

 実際のところ、看護教育には難しい場面もあり、やってみたことが常に成功しているわけではない。クラス運営やカリキュラム作成に四苦八苦したり、他の先生の悩みをきいたり、打ち明けたり、「どうしたらうまくいくのか」と悩む時もあるだろう。しかし、力を100%出しきれなかったとしても、どこかで自分の中に眠る強みを見つけて他者の役に立つことができれば、それが教育の楽しさや次の成功、達成感につながるのではないかと思っている。
 身近に悩んでいる先生がいたら、このことに気が付いてほしいとの願いを込めて、私はこの本をお貸しするようにしている。たくさんの先生に読み込まれた本はボロボロで、今では表紙の赤色も少しくすんできた。

 

『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(小倉広,ダイヤモンド社,2014)

自分の強みを見つけ、ブラッシュアップしてやりたいことに取り組んで

 何かに取り組む前から「大変そう、難しそう」「失敗してはいけないんじゃないか」と感じて後ろ向きになってしまうことが、とくに若い教員たちには少なからずあるような気がする。「教員はなんでもこなせて、なんでも分かっていないといけない」と思っているのかもしれない。しかし、そんなことはない。みんなで取り組めば、あなたの苦手なことは周りの誰かが補ってくれる。肩に力を入れず、頑張りすぎず、みんなで看護師の後輩を育てるんだ、くらいに考えてくれればいい。信頼できる人たちの中で自分の強みや得意なことを見つけたり発揮したり、それをどんどんブラッシュアップしていきながら、まずは取り組んでほしい。そして、もしやってみたいことがあるなら、ひとりで悶々と考えるよりも、実現を目指してみんなで一緒に考え取り組むため、ぜひあなたから声に出してほしい。

 看護職として、節目節目に「今後は何をしようかな」と考えることがある。看護管理者か、臨床現場の実践者か、それとも看護教育者かと迷った時期もあるけれど、今にして思うと私はやはり看護教育者なのだと思う。私には、まだまだ看護教育者としてやりたいことがたくさんある。もちろんポラリス保健看護学院の教員、星総合病院という法人の中の一職員ではあるが、同じ組織の中の人たち、その枠を取り払った先にあるたくさんの人たちに、教育の楽しさを伝えたり、悩んでいるのであればぜひお手伝いをして、時には私の話で笑顔になってもらえれば、と思っている。

引用文献
1)小倉広:アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉,ダイヤモンド社,2014

渡辺 美保子

ポラリス保健看護学院 副学院長

わたなべ・みほこ/財団法人星総合病院附属高等看護学院(現ポラリス保健看護学院)卒業後、1991年に星総合病院へ入職。同院および系列病院で勤務し、1998年にポラリス保健看護学院へ異動。実習調整者、教務主任としてキャリアを積む傍ら、2010年に産業能率大学情報マネジメント学部現代マネジメント学科卒業。2011年に星ヶ丘病院へ医療安全管理者として異動、その後2015年に教務主任としてポラリス保健看護学院へ異動、2018年に副学院長就任。2019年、医政局看護課研修生として厚生労働省へ出向。2020年に教育研修センター付として星総合病院へ復帰、同院法人総務人事部を経て、2023年4月より現職。趣味はドライブ、本屋めぐり、バレーボール、音楽鑑賞、温泉に行くこと。

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