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見学実習とシミュレーション演習を組み合わせたハイブリッド型実習

見学実習とシミュレーション演習を組み合わせたハイブリッド型実習

2022.10.19橋本 侑美(名古屋女子大学健康科学部看護学科 講師)

はじめに

 コロナにより、2020年度以降、従来の臨地実習を行うことが困難となり、臨地実習の多くが代替実習に切り替わりました。2022年度においても、臨地実習における制約は継続しており、「実習施設の状況」に合わせて、可能な限り本来の臨地実習での到達目標に近づくことができる、新しい実習方法の構築が求められています。
 小児看護学領域では、子どもとかかわる経験が少ない現代の学生にとって、従来の実習であっても、子どもの反応をイメージすること、健康障害のある子どもと家族に対する看護を考えることに苦慮する場面が多くみられました。筆者は、コロナ禍における初めての代替実習では、紙面事例を用いた看護過程の展開とシミュレーション演習を組み合わせた方法を用いました。紙面事例では、学生は時間をかけて対象を理解することができました。しかし、臨地実習で学生が経験する、電子カルテの情報から意図的に必要な情報を収集する力、対象の変化を時間的経過として理解する力を育成することが難しいという課題がありました。そこで、代替実習においても、臨地実習で得られる物理的環境を再現し、疾患や治療の経過から子どもが示す反応の意味を考え、対象との相互作用を経験する中で、看護を実践することができる実習方法を構築する必要があると考え、教育用電子カルテ『Medi-EYE』を導入することにしました。
 本稿では、小児看護学領域におけるMedi-EYEを用いたシミュレーション演習と見学実習を組み合わせたハイブリッド型実習の実際をご紹介します。なお、過去のMedi-EYEを用いた代替実習の工夫については参考文献をご覧ください。

 

小児看護学実習スケジュール

 筆者が所属する名古屋女子大学健康科学部看護学科の小児看護学実習は、3学年次後期に、10日間(2単位)の実習を行います。1グループの人数を4~5名で編成し、【病院・施設実習】と【幼稚園・保育園実習】を各5日間としています。
 【病院・施設実習】は、病院(小児科病棟)、医療型障害児入所施設等、4施設で実習を行っており、グループごとに実習する施設が異なります。医療型障害児入所施設では、入所児の感染リスクの観点から、現在も従来の受け持ち看護実習が難しく、その代替として、医療型児童発達支援センター(通園施設)での見学実習を2日間行うことになりました。そのため、見学実習と学内でのMedi-EYEを用いたシミュレーション演習を組み合わせたハイブリッド型実習を行い、受け持ち看護実習の代替としました。

 

ハイブリッド型実習の流れと実際

事前オリエンテーション(施設職員によるオリエンテーション)

 実習開始前に学内で、実習施設の臨地実習指導者による臨床講義を実施しました。臨地実習指導者から、障害のある子どもと家族に対する看護の実際について話をしてもらうことで、学生が、障害のある子どもの特徴や看護の実際、施設で生活している子どもの様子をイメージすることができるように支援しました。

実習1日目(Medi-EYE事例の情報収集)

 学生にMedi-EYEのID/PWを提示し、教員が作成しMedi-EYEに登録した模擬患者Aくん(5歳、脳性麻痺)を短期入所初日から受け持つ設定として、情報収集を行ってもらいました。情報収集を行う過程で「身体障害児のリハビリテーション看護」、「医療的ケア児の生活」、「てんかん発作の理解と看護」についてのDVDを視聴する時間を設け、学生がAくんの身体状況や、地域で生活している姿をイメージすることができるように支援しました。また、見学実習の学びを学内実習につなげることができるように、模擬患者Aくんは、通園施設に通いながら、外来で継続的にてんかん発作のコントロールとリハビリテーションを行っている子どもが、短期入所を利用する設定としました。

 

実習2日目・3日目(見学実習、事例のアセスメント)

 見学実習では、医療的ケア(気管内吸引、酸素吸入、胃ろう管理等)、保育場面での看護師や保育士のかかわり、家族支援の実際を見学することができました。また、親子で参加する保育場面の見学、家族の体験手記の閲覧を通して、家族の思いを考えることができる時間を設けました。
 学生は、見学実習で得た学びをもとに、シミュレーション演習に向けて、自宅でMedi-EYEを閲覧して、Aくんの「身体面、心理社会面、家族面」の3つの視点でアセスメントを行いました。自宅で自由に閲覧できるよう、Medi-EYEの閲覧時間、閲覧回数、同時アクセス数に制限を設けませんでした。学生にはアセスメントと並行して、実習4日目の朝までにAくんの全体像(関連図)の作成することを課題としました。
 

実習4日目(全体像の発表、シミュレーション演習の場面提示)

 作成した全体像(関連図)をもとに、Aくんの身体面、心理社会面、家族面の3側面を統合し、看護問題を明確にできるように助言し、個々の学生が考えた全体像の発表と意見交換の場を設けました。
 その後、教員から、シミュレーション演習の説明を行いました。シミュレーション演習の場面は、「入所直後の全身状態の観察(外来・母親あり)」と「昼食後の全身状態の観察(居室・てんかん発作あり)」の2場面としました。ただし、「てんかん発作」が起こることは、学生には提示していません。学生が病棟の環境やそこで生活する受け持ち児の様子をイメージ可能なように、演習で使用する病棟(病室)の様子、シミュレーター(SimJunior®)について、説明を行っています。
 説明後、学生らは、グループで看護ケア計画の立案を行いました。

 

実習5日目(シミュレーション演習)

 4日目に立案した学生の看護ケア計画に基づき、看護者(看護学生)役の学生は2名1組となり、看護者役を交代しながら3回のシミュレーション演習を行いました。看護者以外の学生にも、母親、記録、観察者の役割を設定しました。母親役の学生には、看護者からの問いに対する回答集を提示して、実際に母親の気持ちになりきって質問に回答することを、観察者の学生には、看護者の言動や看護実践場面を観察し、記録係が詳細に記録した内容と合わせて、振り返りで発表することを依頼しました。
 受け持ち児のバイタルサイン測定値や観察項目は、シミュレーターから聴取可能な項目について、事前説明し、それ以外の観察項目や患児の反応は教員が口頭で示しました。また、教員が指導者役を担い、学生が看護実践を行うことを支援しました。
 シミュレーターを用いた看護実践の中で、学生は、目の前のAくんと必死にコミュニケーションをとり、2人で協力して、Aくんの全身状態の観察を行っていました。
 デブリーフィングでは「できていたこと」、「もっとできそうなこと」、「次回に向けた課題」について学生主体で話し合ってもらいました。学生は、それぞれの立場から意見を出し合い、「Aくんの全身状態を把握するために必要な観察項目」、「安全・安楽なバイタルサイン測定の方法」、「Aくんの看護を行う上で留意すること」について、考えることができていました。

 

おわりに

 今回、見学実習と学内シミュレーション演習を併用したハイブリッド型実習を試みて、制限がある中でも、臨地実習に近い環境を提供することが、学生の学びを保証する上で重要であると感じました。実習初日、学生は、本来の臨地実習と異なる実習方法に対して、学習意欲が低下している様子が見られました。しかし、実習2日目と3日目に、見学実習ではあるが臨床の場を体験したことで、学習意欲が向上し、積極的にMedi-EYE事例のアセスメントやシミュレーション演習に臨むことができていました。
 子どもとかかわる機会が少ない現代の学生にとって、見学実習を通して、子どもが示す反応の意味を考えることができた経験は、学内実習で提示したMedi-EYE事例のAくんをイメージすることにつながり、学習意欲を向上させるきっかけになったと考えます。また、コロナ禍で、臨地実習経験が少ない学生にとって、Medi-EYEを用いたシミュレーション演習を実施したことは、学生が臨地実習で経験する電子カルテの情報から必要な情報を収集することを支援しただけでなく、電子カルテの詳細な時間経過があることによって、より臨地実習に近い形で看護実践を行うことにつながったと考えます。 



[参考文献]
橋本侑美,田前英代,加藤千明:教育用電子カルテ教材を用いた小児看護学領域代替実習の実践報告ー臨地と遠隔で協働した状況設定シミュレーションー.一宮研伸大学紀要 1:27-32,2022,https://ikc.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=21&item_no=1&page_id=13&block_id=21,アクセス日:2022年10月19日

橋本 侑美

名古屋女子大学健康科学部看護学科 講師

はしもと・ゆみ/三重県出身。名古屋大学大学院医学系研究科博士前期課程修了(看護学修士)。看護師、保健師、呼吸療法認定士、介護支援専門員。AHA BLSヘルスケアプロバイダーインストラクター、日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法(NCPR)インストラクターとして活動中。研究テーマは『小学生を対象とした心肺蘇生教育』、『NICUを持たない施設に特化したNCPR学習プログラムの開発』。ICTを活用した学習支援を経験して、『ICTを活用した学習における学生の特性的自己効力感と学習意欲との関連』についても探求している。

企画連載

ICTを活用した講義・演習・代替実習-教育用電子カルテ『Medi-EYE』を用いて

看護系ICT教育チームのメンバーの方々に、ICTを活用した講義や演習、代替実習の具体的な実施方法について解説していただきます。また、連載の中で「教材シェア」に登録されたさまざまなスライドや資料もご紹介していきます。看護系ICT教育チームにご興味をお持ちの方はこちらの掲示板(www.nurshare.jp/board/detail/10013)をご覧ください。

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