★NurSHAREよりお知らせとお願い★
本企画記事でご紹介しております「協働学習会」をテーマとした無料オンラインセミナーを開催いたします。こちらより詳細をご確認のうえ、ぜひお申込みください。
また、当日のセミナー内容の参考とさせていただきたく、「協働学習会」について知りたいこと、聞いてみたいことなどをこちらからぜひお聞かせください。(※アンケートは無記名です)
はじめに
今回は、「臨地実習における学生指導シミュレーション」をテーマとした第6回協働学習会について、臨床側からご紹介させていただきます。学習目的は、「実習目標の達成に向けた看護学生の良質な学習経験をもたらす教育実践について考え、教授活動を展開するために必要な基本的知識・スキルの実践的理解を深めること」です。
当院実習指導者会は、看護基礎教育側と協働し、臨床指導者が学内講義や演習に参加して看護基礎教育における教授内容を理解し、効果的な実習指導や新人看護師教育ができるように取り組んできました。このような取り組みを継続的に積み重ね、臨床指導者と看護教員が臨地実習における看護学生の良質な学びに向けた教育実践について学び合い、語り合いながら協働的に探究することをねらいとして、協働学習会が開始されました。このことは、互いを理解し、互いの有する力を活かし合い、補完し合いながら、看護について学ぶ最良な環境を提供し、看護観を育むことの支援につながっています。また、効果的な指導方法について教員の方々とディスカッションすることで、実習指導スキルの向上に加えて教員と臨床指導者との相互理解の深まり・関係性の醸成にもつながっています。
シミュレーション演習の概要は、次のとおりです。今回は、実際に筆者自身が体験した小児の事例(図1)についてお話しさせていただきたいと思います。
【シミュレーション演習の流れ】
1. オリエンテーション(全体・各グループテーマ)30分
2. ブリーフィング 10分
3. シミュレーション①ベッドサイド場面 15-20分
4. シミュレーション②学生との振り返り場面 15分
5. ショート・リフレクション 10分
6. デブリーフィング 45分
シミュレーション演習の実際
シミュレーション①・②
病室に入る前に、バイタルサイン測定時のポイントなどを臨床指導者が学生に確認します。ベッドサイド場面では、サークルベッド内にCくんが療養しており(図2)、母親が椅子に座ってそばで付き添いをしています。
Cくんは、サークルベッド内で動画を見ていましたが、学生が来ると「いやだ!」と連呼します。母親は看護師や学生に対応を委ねますが、子どもを心配するあまりヒステリックになることもあります。学生役は実際の学生で、看護学部の3年生です。教え手役、観察者役、母親役は教員と臨床指導者が分担しました。子ども役については、実際の子どもに参加をしてもらうのは難しいため、教員もしくは臨床指導者が人形を使って嫌がったり遊んだりする素振りを再現しました。リアリティを出すためにパソコンから子どもの泣き声の音声を流したところ、臨場感が増して学生が緊張して頭が真っ白になる様子も見られました。
教え手役の臨床指導者は、学生と初対面であることや、自身の指導を他人に見られていることなどから最初は緊張した様子でしたが、演習に入ると普段通りの指導を行い、学生がCくんのバイタルサインを測定しやすいようにトーマスのおもちゃで遊び、声掛けをしてサポートするなど工夫していました。観察者役の教員は、学生がどのように子どもや家族とかかわっているか観察していました。
バイタルサインの測定実施後は、学生との振り返り場面です。教え手役の臨床指導者が実施した内容を振り返り、発問から学生の考えを引き出し、質問をしやすいような声掛けをしていました。
その後、ショートリフレクションを行いました。
デブリーフィング
教え手役、観察者役、学生役が順番にショートリフレクションで振り返った内容を発表し、ディスカッションしていきます。図3は発表・ディスカッション内容を書き出したものです。
教え手役(臨床指導者)の振り返り
教え手役の臨床指導者はバイタルサイン測定の順番を学生と一緒に考え、学生が苦戦している様子を見て測定しやすいようにさりげなくサポートしました。モデリングの意味を込めて、Cくんの好きなトーマスのおもちゃを使ってディストラクション(医療行為を受ける子どもたちの五感を刺激し、気を紛らわせる技法)を行いながら、Cくんにその効果があるのかを見たいという思いも持っていました。また、泣いて嫌がるCくんを母親に抱っこしてもらうことで少しでも安心感が得られると考えサポートを行いました。さらに、想定外な展開から、やるべきことに抜けがないかを気にかけ、気づいたことを伝えながら実施事項の優先順位を変えるなど工夫をしていました。その中で、指導者のかかわりが「学生にどこまで伝わっているかな?」という思いを持っていました。
それに対して学生からは、「あいさつや測定の時に指導者さんがリードしてくださった」「測定後すぐに部屋を出ないと、と思ってしまいますが、『コミュニケーションをとることで私がCくんと遊んでいる間にお母さんに休んでもらえると思うんです』と、母親の休息や子どもの遊びについても提案できた」と発言がありました。そして、バイタルサイン測定時に臨床指導者がディストラクションを実施していたことに関して、「測定に精一杯で、子どもの気をそらせて下さってありがたい」という気持ちを持っていたことがわかりました。
このように、ベッドサイドの演習の中で、臨床指導者と学生が相互に影響し合っていることが分かりました(図4)。
観察者役(教員)の振り返り
観察者役の教員からは、臨床指導者があいさつなど細かなところから関係性を築き、瞬時に判断して母親に協力を得ることや、ディストラクションをモデリングで示し、必要以上に口や手を出していなかったことなどを「良かったこと」として挙げていました。このことは、臨床指導者が自然なかかわりの中で黒子に徹しながらも、実は色々と動いていることを明らかにしました。
学生に対しては、臨床指導者への事前の行動発表で測定の順番など大事なポイントを伝えることができていたこと、泣いている子どもに対しての測定方法など事前準備を考え、実施後は今後に向けた提案ができていたことを「良かったこと」として挙げました(図5)。
さらに、観察者役の教員と臨床指導者にて、ポジティブフィードバックや発問のスキルなどの指導方法について意見を出し合いました。伝えたいことが多くあるなら小出しにすればよかった、測定後すぐに伝えられるとよかった、臨床指導者の意図を学生がどう捉えたのかを聞いてみてもよかったなどの課題を共有しました(図6)。
学生役(学生)の振り返り
学生は、ほめられると次もがんばろうと思える一方で、「落ち込んだ時はそっとしてほしい」という思いも持っていました。また、「時間が経ってからではなく直後に言ってもらいたい」という気持ちもありました。さらには、「報告前は頭に入らない。でも、報告前に知識を深めておきたい気持ちもある」など、学生が実習中にさまざまな思いを抱いていることが分かりました(図7)。
先の観察者役の振り返りを通して、臨床指導者は伝えたいことがたくさんあるが情報量が多いと学生に難しいのではと考えていたことがわかりましたが、一方で、学生はたくさん情報がある方がそこからさらに質問できるのでうれしいと前向きに捉えていました。
また、具体性ではなく、考えるきっかけが欲しい、たとえば「なぜ泣いていると思う?」と問いかけられることで、自分たちで「なぜか」を考えることができ、より話すことができるという発言もありました。この発言から、学生は臨床指導者の問いかけによって自分たちの看護を考えたり深めたりしていく力を持っていることが分かりました。
学生指導シミュレーションの成果
学生の気づきを通して臨床指導者が得た看護の実感・指導の楽しさ
この学生指導シミュレーションにおいて、実習指導を通して臨床指導者が学生と子どもの状態や様子を共有し、臨床指導者がサポートすることで学生自身に気づきが生まれました。そして、「私がCくんと遊んでいる間にお母さんに休んでもらえると思うんです」という発言から、母親とコミュニケーションをとり、Cくんの体調を考慮しながら遊びを行うことは母親の休息へとつながることを、学生と共に臨床指導者も実感できました。
これは、実習指導や看護のプロセスが可視化され、臨床指導者自身が、子どもの看護ができていることを実感し、また実習指導をすることの楽しさを感じることができたと考えます(図8)。そして、このことを看護教員と実習指導者が学び合えるということは、大きな成果であったと考えます。
シミュレーション演習実施前後の臨床指導者の変化
学生指導シミュレーションを実施する前は、臨床指導者は一方向的な指導をしてしまいがちでしたが、学生指導シミュレーション実施後は、学生が「考えるきっかけがほしい」と思っているのだと分かったことで、臨床指導者は「具体的に指導するだけではなく、発問などから思考を深められるようにしたらいいんだ」という、双方向的なかかわりへと変化していきました(図9)。
学生指導シミュレーション演習に参加した他の実習指導者の声
最後に、学生指導シミュレーション演習に参加した他の実習指導者の感想を紹介します。
【学生指導シミュレーションでの学び】
・看護ケアの振り返りを担当して、学生にできていることをフィードバックすることや緊張感をほぐすことはできたが、不足していることを伝えるうえで学生がマイナスの印象を持たずに前向きに捉えることができるようにするにはどのようにしたらよいのか、改めて難しいと感じた
・実際にケアを行った後の振り返りの場面で、学生と実施したことやその根拠などを整理し、学生自身に考えさせるような発問を行うことで、実習での学びが深まり、より良い実習になるのだと感じた
・自分自身が今まで学生指導の際に何気なくとっていた行動の意味を考え直す良い機会になった
【教育側と臨床側が協働でシミュレーションを行うことで得られた学び】
・なかなか学生本人から自分自身の指導内容をどう感じたのか聞くことができる機会はないので、自分の実習指導がどうであるか、客観的に聞けて良かった
・実際の学生とシミュレーションを行うことで緊張した。学生がどういう行動をするか予測がつかないため、実際に普段通り指導をしているような環境で行えた。観察者役から指導した内容を評価してもらい、意見をもらえた事により普段の指導方法を考え直すことができた
・自分が思っていた以上に学生は緊張状態で実習をしていることが分かった。緊張状態にあると普段できることができなくなったりするため、安心感を与える声かけが必要であると感じた
【1年間の協働学習会で得られた学び】
・Z世代という新たな学生の傾向を知ることで、最新の知識・指導方法を吸収することができた(第1回)。とくに学生の行動の裏を確認すること、タイムリーにフィードバックする重要さについては早速病棟の指導につなげることができ、自己課題の明確化もできた
・学習会で学んだ教材化(第2回)や学習環境を整えること(第4回)、発問(第3回)などのスキルを実際の指導を通して学習会と結びつけることができた。学習会だけではすべて理解しづらいこともあったが、シミュレーションを行うことで、学習会の内容が自分の行動と結びつき、より知識として深めることにつながった
・講義を受けた後、教員とともに具体的な事例を振り返り、ディスカッションをすることで学生視点・教員視点・指導者視点といった様々な視点からどのような指導が望まれるのかを考えることができ、深く学ぶことができた
シミュレーションを協働して行うことで指導の練習ができることのみならず、よりタイムリーでより詳細にそれぞれの立場の視点から振り返りをすることができました。この気づきや学び、指導スキルは、実習指導者会で行っている事例検討を行う中でより深められており、日々の実習指導、そして新人教育にもつながっています。今後も継続的に協働学習を行うことで、実習指導の質の担保や向上ができ、協働学習会によって教員の先生方との連携を強化することで、学生にとっても良い影響が生まれ、より良い実習指導、組織の人材育成、そして患者さんへの看護へとつながっていくのだと考えています。