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第8回:進撃のIPE~専門用語の壁を越えよう

第8回:進撃のIPE~専門用語の壁を越えよう

2022.11.17酒井 郁子(千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター センター長・教授)

 韓国語と英語の練習の日々で、はっと正気にかえったら、街がクリスマスムードになってました。違う国の言語ってもどかしいですよね。今回は、専門用語、いわゆるタームと呼ばれる言葉にフォーカスして話してみたいと思います。専門用語を操る専門職者、なんか、かっこいいですよね。わたしがグッとくるのはやはり航空関係ですね(今回のお話の内容はIPEですが)。

千葉大学亥鼻IPEのグランド・ルール

 千葉大学の亥鼻IPEでは、グランド・ルールをもっています。これはIPEにかかわる学生、教職員全員が守るべきルールです。こんな感じです(下表)。

亥鼻IPEでは、患者・サービス利用者中心という理念のもと、お互いの能力を発揮し、学び合うという姿勢をもち、お互いの行動や役割に関心を注いで、目標到達に向けて協力し合う。

チームの目標を明確にし、関連する情報を共有する
チームメンバーそれぞれの専門性や長所を活かし、補い合って、あきらめずに取り組む
一人ひとりが積極的に発言・行動し、チームに貢献する
自分たちにしかわからない専門用語は避けるか、説明する
お互いの発言をよく聴き、感じ良く話し合う
対立や葛藤を回避せず、お互いの考えを確認しながらチームの合意を形成する

[千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター:亥鼻IPEの原則「グランド・ルール」,https://www.n.chiba-u.jp/iperc/inohana-ipe/aboutinohanaipe/groundrules.html,アクセス日:2022年11月14日より引用]

 ここに「自分たちにしかわからない専門用語は避けるか、説明する」というルールが明記されていますが、このルールは、専門性が高まるほどに実際に遵守することが難しくなります(このルールを破ってしまいがちなのは、実は教職員だったりします)。知識が増えるということは使いこなせる概念が増え、それに伴って専門用語が増えるということ。一度知ってしまったら過去には戻れません。“わからない”ということがわからなくなっていくのです。そうして一人前の専門職に近づいていくんです。

 さてこれからのお話は、千葉大学で行われている、「クリニカルIPE」という亥鼻IPEを受けた学生さんたちが選択で受講する診療ケア参加型のIPEでのエピソードです。医学部と薬学部の5年生と、看護学部の4年生という高学年のみなさんがチームとして病棟実習で一人の患者さんを受け持ち、共同で一つの診療ケア計画を立案し、患者さんに説明し、実施できる部分を実施するというものです。これまで6年間にわたって行ってきましたが、数々の名言、名シーンが生まれています。もちろん、迷言、珍場面もたくさんあります。
 そんな中から、個人が特定されないように修正したりぼやかしたりしつつ、少しご紹介しましょう。

実際に患者さんを受け持って実習する時に直面する専門用語の壁

とある看護学部の学生のつぶやき

 わたしたちは、解剖も病態生理も薬理もひととおり学びますよね。だから学生同士で診療ケア計画を話し合っている時も、他学部の学生さんの話はなんとなくわかるんですよ。だけどね、医学部や薬学部の学生は、看護学を学ばないでしょ? そうすると、セルフケアはADLとは違うんだよ、って言っても、「セルフケア」って彼らにとってはなじみのない言葉だし、すぐには伝わらないんですよ。診療ケア計画立案するにあたって看護としてはそれははずせないから、頑張って説明するんだけど、相手の理解を確認しながらだから話が長くなっちゃう。なおかつマズいのは、こっちも説明しているうちに自分の理解が曖昧だと実感しちゃったりすることなんです。彼らは一生懸命聞いてくれるけど、実習中はそれぞれのタスクもあり、時間のない中でミーテイングしてるから、なんかもっと自分、看護の説明力をつけねばと思います。それとこういう基本的な看護の考え方や用語は、解剖とか病態生理とかと同じように、医学部、薬学部の学生も学ぶ機会があるといいかなと思います。

とある薬学部の学生のつぶやき

 アゴニストという言葉をなにげなく使ってたんですけど、投薬計画のすべてをみんなに説明し終わったら、看護学部の学生さんに「アゴニスト」ってなんですか? って聞かれてしまい、配慮が不十分だったと反省しました。自分もドレナージとか抜管とかという言葉に慣れずに苦戦して、チームのメンバーにいろいろ教えてもらってたんですよね。相手に遠慮させないで、わからないことはすぐに確認してもらえるようにしなくてはならなかったけど、それができてなかった。だけどその後、みんなで話すうちに、お互いが使う用語はいろいろ違うし、わかんないことも多いけど、患者さんにとっての良い診療ケアという目標は同じだと思ったので、わからないことにめげずにたくさん話し合うことが重要だと思いました。

とある医学部の学生のつぶやき

 患者さんには末梢の感覚障害はないんじゃないか、って話し合いの時言ったんですよ。だってご本人に末梢のしびれはありますか? って聞いたら、「ない」っておっしゃったから。そしたら、看護学部の学生さんが、「いや、この患者さんは手指の感覚障害はあるんじゃないかと思う。だって、パジャマのボタンをかける時にすごく手間取っていたし、マグカップを持つときも両手でぎゅっと持ってたし」って言われて、あぁ自分、なんかわかってなかったな、出直しだなって思って。なので、看護って深いよねって言ったんですよ。看護学部の学生さんは、そんなことないよ、普通だよって言ってたけど。

A 病棟での出来事

 ある時、学生さんチームがとある診療科の医師たちのカンファレンスに3人そろって参加しました。その診療科は複雑な症状の方が入院しがちな診療科。わたしも細かい話は半分くらいよくわからない難易度の高いカンファレンスです。緊張の面持ちの医学部・看護学部・薬学部学生さんたちに、指導医は、それぞれ研修医を一人ずつ付き添わせ、研修医たちはカンファレンスの間じゅう、学生たちに話されている内容をずっとウィスパーで解説し続けてくれました。完全に同時通訳状態。
 ってことがあったんですよね、と、看護学研究科の「専門職連携教育論」という授業で話したら、院生が「それは看護学部の学生に配慮してくれたってことですよね、素晴らしいです」とおっしゃったんだけど、それはちょっと違うのです。この指導医はどこか特定の学部の特有の学習準備状態に配慮したわけではなく、自部署に実習に来た学生全員を“医療系の学生”として同じように扱いました。すなわち、とある専門職が自分と違う専門の学生への対応の際に生じがちな専門職間の壁を取り払い、皆を等しく医療者というくくりで扱かったということなんです。そして研修医がそれに応え学生一人ひとりに解説をし続けたこと、これらは「自分たちにしかわからない専門用語は避けるか説明すること」がこの部署に浸透していたことを表していると思うんです。

B 病棟での出来事

 看護師のケアに別の学生さんチームがついていた時にも、壁を越えていくということが生じました。
 指導看護師は、なぜこの患者さんの趣味の話を聞くのか、なぜ清潔ケアの習慣を聞くのか、患者さんの前で学生さんたちに説明しながらケアを続けました。患者さんもニコニコしてケアを受けていました。そのあと看護学部の学生はこの時の情報をもとに医学部と薬学部の学生に、看護からの提案ということで診療ケア計画に特別な清潔ケアを提示し、学生チームはそれを共有しました。医学部と薬学部の学生さんは、「これまで看護師の仕事というものをわかってなかったです。世間話してコミュニケーションとってるのかなって思ってたけど、そうじゃないんですね」「患者にとって良いケアは何かなって、ケアをしながら選び出しているっていう意味があるんだと思いました」と言いました。
 もし、この看護師が学生チームに対して、自分がやっているケアの意味を解説することなく、ケアを見せるだけの対応をしたら、たぶん学生たちは、なんか患者さんと世間話してるな、としか思わなかったかもしれません。そして看護学部の学生が清潔ケアの方法を提案しても、それが患者にとってどのような意味があるのかについて気づくことがなかったかもしれません。

進撃のIPE:壁を越えると診療ケアがどう変わるのか

 このクリニカルIPEの現場とIPEのその後の医療者たちの話から、個人的に心に残るシーンをいくつか紹介します。

 「必要最低限の治療で、患者さんの希望どおり自宅に帰る」と、学生チームが診療ケア計画の患者目標として言い切りました。そして知恵を出し合い怒涛の薬剤整理をみんなで行い、「半分まで減らせます!」「こうすれば一包化できます」「それで自宅で安全に暮らせます」と提案し、それを聞いた専門職チームが「それ、やりましょう」と受け入れたことがありました。実際の診療ケアの改善に大きく貢献しました。
 医学部の学生が毎日患者のそばでお話を聞き、看護学部の学生が嚥下の評価をして飲み込みが難しい薬を発見し、それで学生チームが立案した患者目標は、「内服薬服用に関する不安が軽減し、希望どおりに食べたいものを食べること」、それを受けた薬学部の学生が薬剤の形状変更と服用頻度の変更、それに合わせた生活リズムの微調整を患者に提案し、包括的な服薬指導、かつ栄養士に食事指導を依頼という診療ケアを実施できました。それぞれの職種役割のオーバーラップが起きていました。
 こんな体験を積み重ねると、新人医療者になった時に、壁を越えて他の専門職に接近する姿勢がちゃんと備わるみたいです。

 「仕事相手がIPE受けたかどうかとか一人ひとりに確認できないし、わかんないけど、そんなこと気にしないで、がつがつ看護師や医師に患者の状態を聞きに行くようにしてます。わからないことはそのままにしないってことは実習で身に染みてる」「どうしていきなり排泄の方法をトイレって医師が変更したがったのかを確認したら、下肢筋力をつけたいっていうことがわかって、だったら、いきなりではなく、理学療法士と相談し、看護師が歩行の練習に付き添って徐々に歩ける距離を伸ばそうって提案返しをしました。なんかちょっと気になることを提案されたら、相手がなんでそういうふうに提案するのかなって、提案の意図っていうか理由を確認するのが大切だと思う」「関連病院に研修医として行ってたんですけど、そこの病棟、身体拘束を普通にやってて、なんでかなって思って、師長さんになんで縛っちゃうんですか、身体拘束しなくていいじゃないですか、って言ったんですよ。そしたら師長さんに、先生は夜病棟で勤務してるわけじゃないでしょ? って言われて玉砕しました。ははは。でもそのあと、この患者さんの治療適応についてスタッフみんなで話し合ってご本人の希望どおりになりました」。

 最後は、4年目になる医師の言葉です。
 「IPEを受けて、まあ、国試に役に立つかっていうと自分たちの時はそんな問題出ませんでしたから微妙ですが、大事なのは国試に受かった後ですからね。卒業生は良い医療者になろうとみんな頑張っていると思う。IPEはそういうところに役立っていると思う」。
 良い医師ではなく「良い医療者」という言葉の選び方にインタープロフェッショナルな社会化、そして二重のアイデンティティの発達を感じました。

多様であるからこそ、手に手を取り合って一緒に壁を越えよう

 国が違えば言葉も違う。言語の壁を感じるということは異国の文化と出会ったということです。それと同じように職種が違えば用語も違う。その用語の理解に壁を感じるということは、違う文化や価値と出会ったということです。でもその用語を使う意図と意味がわかれば、自分たちがもっている知識と重ね合わせて相手の知識をシェアできます。知恵を得るための知識は多いほうがいい。

 専門用語はツールです。でも教育背景の違いなどでそのツールを使いこなせない状態の人がチームにいたら、チームのパフォーマンスが落ち、患者さんへのケアに穴が開いてしまいます。だからこそ、わからないことはわからないと自ら発信する、相手がわからないことに対して相手の理解に合わせて説明する、この往還的コミュニケーションで専門職間の壁を越えること、これが専門職連携実践の基盤にあると思います。

 

酒井 郁子

千葉大学大学院看護学研究院附属専門職連携教育研究センター センター長・教授

さかい・いくこ/千葉大学看護学部卒業後、千葉県千葉リハビリテーションセンター看護師、千葉県立衛生短期大学助手を経て、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。川崎市立看護短期大学助教授から、2000年に千葉大学大学院看護学研究科助教授、2007年同独立専攻看護システム管理学教授、2015年専門職連携教育研究センター センター長、2021年より高度実践看護学・特定看護学プログラムの担当となる。日本看護系学会協議会理事、看保連理事、日本保健医療福祉連携教育学会副理事長などを兼務。著書は『看護学テキストNiCEリハビリテーション看護』[編集]など多数。趣味は、読書、韓流、ジェフ千葉の応援、料理。

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