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【座談会】「新・学生支援」を考える(1): 他者と“つながっている”こと

【座談会】「新・学生支援」を考える(1): 他者と“つながっている”こと

2022.05.18NurSHARE編集部

本企画では、これまで5回にわたって、看護教員、教育学者、コミュニケーション・キャリアの専門家、それぞれの視点から学生支援について見つめ直し、課題を共有していただきました。それらを踏まえ、これからの学生支援として何が求められるのかをさらに掘り下げるべく、本企画プランナーである三森寧子先生(千葉大学教育学部)と3名の執筆者による座談会を開催しました。今回から4回にわたり、その様子をお届けします。
本座談会で示された考え方などをとおして、読者の皆さまの日々の学生支援につながる手がかりを得ていただければ幸いです。

※この座談会は2022年3月25日に開催しました(ただし、本文中の学年などは2022年度に合わせています)。

参加者(発言順)
三森 寧子 先生(千葉大学教育学部 准教授)プロフィールはこちらから 
池口 佳子 先生(文京学院大学看護学科 教授)プロフィールはこちらから
矢野 香  先生(長崎大学キャリアセンター 准教授)プロフィールはこちらから
川越 明日香 先生(熊本大学大学教育統括管理運営機構 准教授)プロフィールはこちらから

三森寧子先生(以下、三森):これまでこの企画では、「これからの学生支援」において何が課題なのか、どんな方策があるのかを、皆さんそれぞれの立場から整理していただきました。この座談会では、学生支援という大きなテーマの中で、学生の学びと成長にどう教員が携われるかというところを、池口先生・三森は看護教員の立場から、川越先生・矢野先生は大学の仕組みを構築していく立場から、それぞれ語り合い、これからの見通しや見据えるべき課題を見つけられればと思っています。

コロナ禍で直面した教育上の課題

三森:それではまず初めに、本テーマを語るにあたってどうしても無視はできないCOVID-19の影響について話題にしたいと思います。コロナ禍での生活も3年目に入ったところですが、先生方はこれまでにどんなことに直面し、どんなことを課題と捉えているのか、それぞれが実感されているところを共有できればと思います。

学生同士のつながりが乏しい

池口佳子先生(以下、池口):看護基礎教育においては何より、“実習に行けない”という状況がかつてないことだったんですね。実習に行けないという状況をどうやって乗り越えるか、これをひたすら考え続けた2年間でした。模擬患者さんに協力していただいてオンラインで画面越しにコミュニケーションをとってみるとか、学内実習としてできる限りのことにトライアルをしました。もちろんそのメリットを感じながらも、やはり生身の患者さんとの関係性を築くという経験を、学生たちにもたせてあげられなかったというのが、一番残念な点だと思っています。看護師がいかに患者さんに育てていただいているのかということを実感させられた2年間でもありました。看護以外の領域でもそうだとは思いますが、この2年間、講義も実習もオンライン中心となり、学生たちは今もなお横のつながりが本当に乏しいと言っていますから、その影響がこの先どう出るのかというのをすごく心配しています。

三森:看護の実習では、学生の人生を決めると言ってもいいくらいの経験をすることもありますから、そうした実習ができなかったというのは確かにとても大きなことかと思います。そしてやはり、横のつながりの乏しさを学生たちが実感しているというところでは、2020年に入学した現3年生の学生たちは、本当につらいことが多かっただろうなと、私も感じています。私は現所属では養護教諭の教育実習の指導に入っていますが、実習先の学校にはコロナ禍でも学生を受け入れていただけたので、期間は短縮したものの、まったくできなかったわけではありませんでした。それでも、昨年度担任をしていた学生(現3年生)と年度末に面談した際には、「自分がもう3年生になるのだという実感がない、このまま3年生になっていいのか」という声がたくさん聞かれました。いわゆる“withコロナ”の生活は続いていますから、どうしてもネガティブな気持ちのまま新年度を迎えた学生もいるかもしれませんね。

教員が感じた戸惑い

三森:矢野先生はコロナ禍での課題など、どのように捉えていらっしゃいますか。

矢野香先生(以下、矢野):私は心理学のコミュニケーションを専門としています。コミュニケーションの観点からいうと、2020年当時、世の中全体がいっきにオンラインにシフトしたことで、学生はもちろん、教員側もオンライン上でどうコミュニケーションをとっていいかわからないという状況でした。オンデマンド講義のための動画づくりでも、動画サイトやSNSなどでクオリティの高い動画に慣れ親しんでいる学生たちが、「あれ? 大学の先生の動画ってこんなにおもしろくないのか」とならないように試行錯誤が必要だった。学生は大学に入ってすぐ全面オンライン授業となり出鼻をくじかれたけれども、教員も同じくらいに戸惑っていたというのが実情だったのでないでしょうか。

三森:本当に戸惑いましたね。講義動画一つを作るにも、緊急事態宣言下の在宅勤務ではかなり限界がありました。

矢野:私は幸い前職の放送局での経験から、あまり抵抗感なく講義動画を作っていました。周囲の先生方に目を向けてみるとやはりとても困っていらっしゃって。本学のFDでは情報データ科学部などの教員が動画作成の方法について説明したり、私も動画ならではの話し方、伝え方についてレクチャーさせていただいたりしました。総合大学にはあらゆる領域の専門家がいますから、困った時には、教員それぞれの専門分野を活かして力を結集するという強みを感じました。

川越明日香先生(以下、川越):私は高等教育を専門としていて、大学の教育改善や先生方の授業設計の支援というのが主たる業務の一つです。コロナ禍初年度にオンラインで授業を行うことが決まった時に何が起きたかというと、矢野先生がおっしゃったように、新年度の授業準備を始めた多くの先生方が困っていました。そこで、毎日昼休みの時間にオンラインビデオ会議ツール(Zoom)を使ってLMS(learning management system:学習支援システム)の使い方やオンライン授業実践の事例報告会など、授業設計の情報を発信して支援をしていました。

三森:そうそう、私もあの頃、実は川越先生に何度もご連絡をして、オンライン授業についてあれこれ相談していましたよね。パワーポイントに音を入れるのはどうしたらいいのかとか、そういう本当に細かい部分から教えていただいて。

川越:そうでしたね。当時は私たち教員の多くが、そういう技術をもち合わせていなかったんでしょうね。だからパワーポイントのスライド1枚に音を入れることができたということに感動して、一歩前進したななんて喜び合ったりして。私たち教員のこの2年間は、これまで不可能と思われてきたオンライン授業や会議のノウハウが一気に蓄積され、FDや授業改善を過去にないスピードで積極的に取り組んだ期間だったなと思っています。
 

写真左上から時計周りに川越先生、三森先生、池口先生、矢野先生

不安の中でも他者を感じられることの大切さ

川越:一方、学生たちの様子はというと、当初はオンラインでの授業の際も、画面の向こう側の学生が何を感じ、考えているのかが見えにくく、とても心配でした。私が担当している教養科目の授業は受講生のほとんどが1年生で、入学とともに県外からやって来た学生も多くいます。そうした学生たちの授業後のコメントを見ていると、「熊本には来たけれど、緊急事態宣言で外に出られず道もわからない。買い物をする場所すらわからない」「1日中誰とも話していない」「自分で書いているレポートが正しいのかどうかがわからない」という声が散見され、これは何とかしなければと。できるだけ学生の声を吸い上げることを意識しました。
 また、本学は原則オンデマンド型授業だったので、その中でいかに双方向性を保てるかも考えました。これまでは対面授業の中で冗談まじりのことを言うと、その場でドッと笑いが起こっていたのに、オンデマンド授業では、動画撮影中におもしろいことをどれだけ言ってもシーンとするばかりで…。それでも、オンデマンド授業を受けた学生が「久しぶりに笑いました」とコメントをくれた時はうれしかったですね。とはいえ三森先生がおっしゃったように、とくに2020年度に入学した学生への支援は大きな課題だと認識しています。残り2年弱の大学生活をどう過ごすかという点と、就職後、社会に出てどうなるかという点で、しっかりとケアしていく必要があると思っています。

三森:私も大学から「すべて授業はオンデマンド」という指示が出ていましたが、1年生に対してはリアルタイムのオンラインで個別に面談したり、授業の合間に課題別のグループワークを組み込んでいました。そこで学生から「顔を見ながら話ができてホッとした」という感想をもらったのですが、私自身も学生の様子がわかってなんだかホッとできましたね。オンライン授業のあり方や、学生の様子などについて、池口先生のところはいかがでしたか。

池口:本学で当初用いていたオンラインツールは、当時はまだ画面表示可能な人数が限られていて、授業中の全員の表情がわからず、グループワークをしたり何か意見を述べてもらおうと思っても、オンライン上で学生を指名するのは難しいし、学生が挙手するのを待っていると反応が乏しくなってしまう。ウェブ上でディスカッションさせる難しさは感じました。その後、別のオンラインツールを用いたところ、学生全員の表情がわかり、グループワーク中も学生同士で互いに顔が見えるので、こちらが意図的にこそっと画面から抜けてみると、一生懸命意見を交わしていて。その姿に、画面越しだとしても、やはり相手の顔を見ながら自分が発言するとか、そういう体験は大切なのだなあと感じていました。
 また、昨年度は個人面接をオンラインでも対面でもかなり行いましたが、学生それぞれの背景に基づいたサポートが求められたケースが多くありました。コロナ禍以前から集団の中で捉える学生像と、個別に面談した時に語られる本人の思いの間にギャップがあるというのはすごく感じています。個に対する手厚い支援には限界があるとはわかりながら、やはり学生が他者と、特定の誰かとのかかわりを求めていることを感じます。

他者とのかかわりを求める学生たち

三森:実は最近、教員との1対1のかかわりを望んでいる学生がもしかしたら一定数いるのではないかなと感じています。ある学生から、「大学に入ったけれど、私はどこにいればいいかわらないんです」という相談を受けたことがあります。つらいときに逃げ込める保健室のような場はあるのか、何かあったときに相談できる人や場所はあるのか、安心して頼れる存在を見つけられない中で自分はどうしたらいいんだろうとすごく戸惑ったのだそうです。このように、私が大学教育の世界に入った10年ほど前と比べると、個人のかかわりをかなり求められるようになってきたという実感があります。
 さきほど矢野先生から、学生たちは動画サイトなどでクオリティの高い動画に慣れ親しんでいるとご発言がありましたが、なるほどそうだなと思いました。学生は一人で動画を視聴することには慣れている、つまり個人の作業は比較的得意なのかもしれません。しかし、そう考えたときに浮かび上がってくることはやはり他者とかかわり、学び合う経験の乏しさ、つまり“他者とつながっていく”ということがさらに難しくなっているのではないかなと危惧しています。

学生同士で学び合う:ラーニング・アシスタント(LA)

池口:学生同士のつながりという点では、本企画第3回 で少し書かせていただきましたが、以前、三森先生と聖路加国際大学でご一緒だった際にラーニング・アシスタント(LA)制度を立ち上げました。実習を終えた学生がいっきに看護師らしくなっていく姿を間近で見てきましたが、学生たちから、実習に行ったから看護の考え方やどこでつまずくかがわかるんだということを言われて、なるほどそれならその視点で後輩たちを導いてもらうことができるのではないかと。私たち教員がこう考えなさいと伝えてもなかなか伝わり切らないことも、同じように迷って悩んできた上級生の言葉ならば、すっと届くのではないかと思ったんです。そこで、LA制度を導入していたある大学の先生と学生さんにご協力いただいて、実際にLAの実践の様子を拝見する機会があったのですが、本当にすばらしかったんですね。教員の指示などないなかで、LAの学生さんがのびのびと後輩に指導をしていて、堂々とした姿にショックすら覚えました。私たちの学生にもこういう力はあるはずなのに、私たち教員がその可能性を奪ってきたのではないかと。
 実際に導入してみると、教わる側の下級生たちは教員には質問しづらいこともLAの上級生になら積極的に聞けるし、LAを担う上級生も生き生きと指導しながら成長しました。LA制度は、学生の力を信じて自ら考えさせ、主体性を引き出すということ、そして上級生と下級生とのつながりづくりというところに寄与できたのかなと、取り組んですごくよかったと思っています。そしてこれを教育改革の一つと位置付け、大学全体の後押しを受けながら組織として構築できたということが、教員としては財産になったと振り返っています。

三森:そうですね。我々に見せる顔とまったく違う、先輩の支援の下で安心感をもって学生たちが演習しているのを見ると、ああよかったなと感じましたよね。

池口:LAは、ボランティアにしてしまうと学生の負担感が強いだろうと、大学が雇用するという形をとっていて、実のところ学生にとってはどちらのほうがいいのかなと迷いながらでした。でも、ほかのアルバイトをするのなら看護師になる学生の教育力が育つようなシステムとして定着させたい、ということに大学が理解を示してくれたのはとてもよかったと思っています。本当はもっと広めたいという思いがありながら、なかなか実現できずにいます。

川越:そうですよね。LA制度って、受講生にとっても、授業担当教員にとっても、そしてLAを担う上級生にとっても役立つ素敵な仕組みですが、教員が個別の授業ごとにその制度を運用していくには限界がありますよね。

次回 (2)  へ続く>

NurSHARE編集部

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