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今こそ改めて、学生とともにつくる看護教育を【日本看護学校協議会学校長会】

今こそ改めて、学生とともにつくる看護教育を【日本看護学校協議会学校長会】

2022.07.26NurSHARE編集部

 日本看護学校協議会(水方智子会長、松下看護専門学校 副学校長兼教務部長)は6月3日、東京都千代田区のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で「令和4年度学校長会」を開催した。当日は会場参加者35名に加え、250施設以上からのオンライン参加者が講演や実践報告に聞き入った。

 開会にあたり挨拶した水方会長は、2021年6月に会長に就任してからの1年間を「会員校のみなさまのご支援とご協力によって本会が運営されていることを改めて実感した日々であった」と振り返り、感謝の意を伝えた。
 そして、同協議会の2022年度の重点課題の一つである「学校自己点検・自己評価」に関連する取り組みとして、各校の特色のある教育を発表できる機会にと、新たに「わたしの学校自慢」を募ることを発表した。新カリキュラムの開始に伴い、現在各学校でバリエーション豊かな科目づくりや地域との連携等を進めている。教員の努力の結晶であるこれらのカリキュラムや授業、教育実践が多くの人の目に触れられるようにすることで、看護師養成所のさらなる活性化を図りたいとのねらいだ。応募された中から選ばれた学校の取り組みは、8月9~10日に開催予定の「第34回日本看護学校協議会学会」で表彰するとともに、同協議会のホームページ上でも公開される予定だという。
 続く来賓挨拶では、厚生労働省医政局看護課の習田由美子課長が登壇し、挨拶とともに看護行政の動向について概観した。
 

参加者に挨拶をする水方会長

同協議会が行った調査結果の報告

 その後、同協議会が実施した3つの調査に関する報告がなされた。

実態調査から明らかになった課題等を、いかに今後に活かすか

 同協議会は、厚生労働省の令和3年度看護職員確保対策特別事業として、「看護師等養成所の臨地実習実施に向けた取組等の実態把握調査」および「看護師養成2年課程(通信制)における学生調査」を実施した。

 「看護師等養成所の臨地実習実施に向けた取組等の実態把握調査」(2021年度実施)は、学生の臨地実習に際して実習施設や対象者からの理解(同意)を得るために各学校が行っている取り組みや必要な支援を把握するため、会員校からの協力を得てアンケートやインタビューを実施したもの。水方会長は、調査から得た「実習先の数が100を超えている学校が複数あり、そのような学校でも専任教員数が多いわけではない」という事実に対して「限られた教員数で100を超える実習施設との調整を行う教員の負担はいかほどか」とコメントした。
 また、「施設に学生の実習を受け入れてもらうための工夫や譲歩の内容」「臨地実習の新規及び継続受け入れに際しての課題」「臨地実習で、対象者の理解を得るうえでの課題(個別的な課題、国や都道府県等に求める支援等)」「臨地実習の質を高めるための工夫」「現在の臨地実習での経験について改善の余地があると考えること」の設問項目について、回答結果の分析を述べた。
 「看護師養成2年課程(通信制)における学生調査」(2021年度実施)は、2年課程(通信制)への入学要件である就業経験年数が10年以上から7年以上に短縮されて4年が経過したことを受け実施したもの。対象校の教員(教務主任、実習調整者)にアンケートを行い、入学者の背景・実態や、入学要件の変更を受けた教育上の工夫などを詳細に把握した。水方会長は「2年課程(通信制)の教育の質向上には、卒業率や国試合格率などの客観的な評価のみならず、『身についたと考える学生の力』『課題があると考える学生の力』や、卒業生の実態(卒後の離職や転職等)を把握することで、同課程が看護職全体の質向上にどう寄与しているのか、という議論につなげる必要があるだろう」と述べた。

コロナ禍の経験がもたらしたもの

 次に報告された「新型コロナウイルスの感染拡大による看護師等養成所への影響について」の調査は、2020年度から継続的に行っているものである。「対面授業や臨地実習の実施割合(2021年度)」「新型コロナウイルス感染症が学生に与えた影響」「卒業生の状況(2020年度)」「在校生の状況(2021年度)」「教職員の状況(2021年度)」など大きく分けて9項目についてアンケート調査を行った。2020年度と2021年度との比較を行うなど、継続調査を通して意義深い結果が見えてきている。
 コロナ禍における初の卒業生(2020年度の卒業生)の状況について、休職者数や離職者数が2019年度比で1.5倍以上になった学校(課程)が複数あった。休職・離職理由は「自分に自信がもてない」「先輩との関係がつくれない」「体調を崩した」が多かった。
 また、こういった卒業生の状況に対し積極的なフォローがなされていることも調査結果から読み取れる。中でも、多くの学校で「効果的であった」と見ているのは就職先の病院看護部との連携による状況把握であり、ほかにも、学校が所有する教材の使用を許可したり、ホームカミングデーや在校生との交流の場を設けたりと、慣れ親しんだ学校とのかかわりを通して卒業生を支える様子が明らかになった。

 「失われたことを嘆いているばかりではいけない」と話す水方会長は、「コロナ禍でも良かったことがあったか」という質問項目に関し「そう思う」「まあそう思う」と回答した教員が、2021年度には合計80.4%と、2020年度調査時の68.1%を上回ったことに着目した。具体的には「教員や学生のICTスキルが向上した」「教育方法が発展した」「都道府県外の講師や海外の講師に授業・講義をしてもらえるようになった」など、コロナ禍以前よりも教育の可能性が広がったことがうかがえる意見が挙がった。水方会長は現在の状況を前向きにとらえ、新型コロナウイルス感染症の一日も早い終息を願いつつも、コロナ禍だからこそ看護師養成所のさらなる教育の質の向上に取り組んでいきたいと抱負を語った。

東葛看護専門学校の実践報告:文字通り“学生とともに”行う学校づくり

 会員校における「学校自己点検・自己評価」の取り組みの一環として、勤医会東葛看護専門学校(千葉県流山市)が行った実践報告は、参加者の注目を集めた。山田かおる副校長(同協議会副会長)を中心に、窪倉みさ江校長や卒業生らが登壇し、学生や地域とともに行ってきた学校づくりの取り組みについて発表した。

“「学校評価」は何のために行うのか?”から始まった道のり

 山田副校長は「自己点検・自己評価、15年を振り返る」として、2006年から同校が取り組んできた学校評価のあゆみを発表した。

 同校では“何のため、誰のための学校自己点検・自己評価なのか”に焦点を当てて学びや検討を進め、その過程で自己点検や自己評価を「学校管理・評価のためでなく、管理運営や教育活動を見直しより良い学校づくりの一環とする」と位置付けた。これを受けて立ち上げたのが「学校評価懇話会」だ。
 この懇話会は、学生と学校との定期的な懇談会(年に1回行う学校評価アンケートの内容・結果について、学生自治会と学校とで定期的に協議を行う会)のまとめを行う場として機能し、3年に1回開催されている。学生自治会、教職員、地域・教育関係者らが参加し、第三者機関は介入しない。学生や教育環境に関する現状認識を参加者間で一致させたうえで、直接あるいは双方向的に意見交換を行い、協力関係を強めることで「開かれた学校づくり」につなげることが目的だ。
 懇話会の議論のベースとなる、年1回の学校評価アンケートからは、学生の率直な意見や気持ちが浮き彫りになる。アンケートの集約は学生自治会が行い、学校に提出される。その結果は臨床指導者会議や講師会議で共有し、実習指導者や外部講師にも学生の意見として報告している。山田副校長によると、時には胸が痛くなるような声が寄せられることもあるが、学生と学校との懇談会内では学生同士の意見交換が自然発生し、下級生からの訴えに対し3年生が助言をするような場面もみられるという。
 

山田副校長。「学生・保護者・地域の人々の力を得ながら、学生が主人公の教育を実践していきたい」と話す

学生らの行動によって実現した給付型奨学金制度

 「流山市看護師等修学資金貸付制度」(給付型奨学金制度)の実現も、始まりはこの自己点検・自己評価の取り組みの中で浮かび上がってきた問題からだった。
 ある年の懇話会の中で講師陣から居眠りや遅刻・欠席など学生の授業参加態度に関する意見が寄せられた。さっそく学生自治会が話し合い・調査を行ったところ、経済的事情からアルバイトをして収入を得なくては学業を継続することが難しく、学習に十分な時間を充てられない学生の存在が明るみに出た。そして、こうした現実は決して個人の問題ではなく、社会問題そのものなのだと学んだ学生らは、「社会を変えたい」という思いを抱くようになった。「学生が学生らしく安心して学ぶためにはどうすればいいのか」と葛藤する学生らに、流山市に給付型の奨学金制度を要望してはどうかと教員側から提案した。これを受け学生らは、市への陳情や署名活動をはじめとした様々な活動に地道に取り組み、その結果、市の給付型奨学金制度が新設されたのである。

 当時の学生自治会長を務めた同校卒業生の鄭輝樹氏、宮田裕二氏は、同制度制定までの取り組みについて振り返った。鄭氏は「当初は話の規模があまりに大きいと感じたが、自分たちのクラスや自治会の仲間にも困っている学生が多く、そのままにすることはできないと活動を始めた」と回顧。陳情書作成など、楽な道のりではなかったが、多くの後輩が奨学金申請をしていると聞き、とてもうれしいと語った。鄭氏の後を継ぎ、学内外から8,960筆の署名を集めた宮田氏は、「看護の学びを通して、日本の教育費が諸外国と比べて高いことを知った。自分自身もアルバイトで生活費を賄っていた一人として署名を求め街頭に立ったが、多くの方々から署名とともに応援のメッセージをもらうことがあり、とても励みになった」と、一歩踏み出す勇気の大切さを学んだと話す。

 行政や地域住民の立場から同校の学生を応援してきた関係者も、次のように振り返る。
 同市健康福祉部の伊原里香部長は動画にて「行政と看護学生は、立場こそ違えど地域住民の命を守っていく仲間。制度によって支え合い、地域で一緒に活躍していく仲間が増えることがうれしく頼もしい」とメッセージを寄せた。また同校の母体施設である東葛病院の協力組織(医療住民運動組織)「東葛健康友の会」の江口正博会長は、学生らが行った署名活動において、会員への協力を積極的に呼びかけたことについて「地域医療の充実を願う住民にとって、将来それを担う学生は希望の星。そんな学生自身が自らの要求を発信し社会に働きかけていく姿に、私たちは揺り動かされた」と語った。

学生の人権や学びの権利を、教員や学校が保障する

 窪倉校長は同校の教育活動や教え子たちの学びについて事例を交えながら紹介したのち、「本校には特別な学生が選ばれて入学してくるわけではないし、経済的事情など様々な困難を抱えていることもまれではない。しかしどの学生も、変化や成長を生み出すことはできる。彼らの成長は信頼できるものである」と話し、自分たち看護教員には社会や教育の状況を見極めながら学生を励まし、学びを保障する役割があると総括した。
 

左から鄭氏、窪倉校長、宮田氏。「社会人として立派に成長した卒業生たちの姿に感激した」と窪倉校長。久々の再会に喜びを見せた

 最後に、同校の学校評価委員である勝野正章教授(東京大学大学院教育学研究科)が登壇し、一連の実践の意義について人権教育的観点からコメントを述べた。勝野教授は同校の給付型奨学金制度制定の実現への取り組みに対して、「学校評価懇話会での講師からの意見が始まりだったが、ただ『居眠りや遅刻はだめだ』と否定し切り捨てるだけでは、奥に潜んだ厳しい事情には気付きえなかった」と指摘。「学生らの声を聴き、権利が尊重されている学校だからこそ、学生もつらい状況にある仲間・他者の声を聴き権利を尊重するための行動をとれたのではないだろうか。教育の場はこのように、人権尊重の場でなければならない」と論じた。

学生を中心に据えた学校運営の意義が共有された

 質疑応答の時間には、東葛看護専門学校の取り組みに対する質問や感想が集まった。「学生から実現が難しい意見が寄せられた場合、どのように対応するのか」という質問に対し、山田副校長は自家用車で通学する学生の「毎月の駐車場費がかさむ」という意見を受けて母体施設にかけ合い、2年かけて職員用駐車場の一隅に学生も駐車させてもらえるようになった事例を挙げ、「学校側が無理かもしれないと思おうと、どんな意見もとにかくまずは聴く。その後、職員会議などで議論して、必要ならば実現できる手立てがないか考え、可能な限り改善して学習環境の充実につなげている」と説明した。
 また、「学生の自治組織を育てることに難しさを感じている。過密なカリキュラムで学ぶ学生たちに、何かをしてもらうとなると躊躇してしまう。どのような支援を行っているのか」という質問には、「学生の自治組織を育てることも教職員の役割の一つではないかという考えがある。だから学生自治会の担当教員を置き、学生と教員とが常に二人三脚でという感覚を大切に支援している」と回答した。

 このほか、同協議会からの報告事項に関する質問等を含め、参加者から多くの声が寄せられた。自校が抱える課題・問題に関した情報を得て運営に活かそうという参加者も多く、終了時刻間際まで様々な意見や質問が活発に飛び交った。教育の主体は学生である、ということが、改めて共有された会となった。

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